fliwghさんのレビュー
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宇宙のダークエネルギー~「未知なる力」の謎を解く~
土居守, 松原隆彦 / 光文社新書
宇宙のダークエネルギー~「未知なる力」の謎を解く~
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ソニーが電子書籍販促のために期限付きポイントをくれたので、購入した。
著者等は現役の天体物理学者で、ダークエネルギー観測に関する地道で実務的な手法を具体的なデータを示しながら解説してくれる。実…際にエポックメイキングな論文からの図版をそのまま引いているのは、いかにも現役の研究者という感じで臨場感が感じられる。
例えば、遠方の銀河との距離の測定に用いられる、Ia型超新星(明るさやスペクトルがほぼ一定している)を利用した測定方法には多数の超新星の光度の時間依存性のグラフを示しており、実際にどの程度一致しているのか素人にもよく実感できる。
ダークエネルギーとは?
近年宇宙が加速膨張していることが発見された。それまでは宇宙はビッグバン以降膨張を続けているが内包する重力・エネルギーにより膨張速度は徐々に低下しているはずと考えられていた。しかし、幾つかの観測(※)により宇宙の膨張は逆に加速していることが確かめられた。(※ その具体的な内容が本書で詳しく解説されている)
宇宙の膨張を加速させている「正体不明のもの」につけられた名前がダークエネルギーである。
ダークエネルギーは空間に働く斥力を持つエネルギーであり、かつてアインシュタインが一般相対論の方程式に加えた正の宇宙項として表しうるが、定数とは限らないので、宇宙項よりダークエネルギーと呼ばれるようになった。
ダークエネルギーの正体として量子論から生じる真空エネルギー、スカラー場など幾つかの候補が挙げられているが、何れも桁違いに大きくなりすぎて、観測から求められる非常に小さなダークエネルギーを説明しきれない。多次元宇宙論の一つである「ブレーン宇宙論」により、高次元の中に浮かぶ我々の宇宙を載せたブレーンの近隣にある他のブレーンからの影響という説も真面目に論じられている。
本書では、上記の様なSFチックでもあり、コーフンするような内容もサラリと事務的に説明している。このあたりを掘り下げたい時は他の本を読むと良いだろう。
本書はダークエネルギーという、最先端で興味深い対象を研究・観測する活動を正確に伝えている。
それは、コツコツと沢山のデータを積み上げ解析する地道な活動である。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族”
クリストファー・マクドゥーガル, 近藤隆文 / NHK出版
「BORN TO RUN」 Christopher McDougall
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盆に帰省する前から読み始め、劔岳から降りてきた翌日に読み終えた本。自分の中でこの間の経験が渾然一体となった感じがする。
以下は、訳者あとがきより引用。
「この本は三つの物語をひとつに融合させたものだ。…ひとつは、足を痛めた冴えないランナーである筆者がメキシコの銅峡谷でカバーヨ・ブランコと呼ばれる幽霊を見つけ出し、史上最強の、”走る民族”、タラウマラ族の秘術を探る話。
もうひとつは、多くのランニングシューズが人間の足に悪影響を及ぼしていることや、人間の身体がもともと走るようにできていることを、バイオメカニクスや人類学などの科学的な説明をいまじえて解き明かす話。
そして三つ目は、タラウマラ族と世界最速のウルトラランナー、スコット・ジュレクをはじめとする七人のアメリカ人がメキシコの荒野で激突するレースの話だ。」・・・・引用おわり。
久しぶりに、ハマった。
最初は話があっち行ったり、こっち行ったりし、表現も(アメリカ人らしく)大袈裟じゃね〜?と思っていたが、最終的には、人生観にまで影響を受けた(気がする)。
走る人、走ろうかと思っている人は読んでみてはいかがでしょうか。
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昨晩たまたま見たNHKの番組で、タラウラマ族のアルヌルフォが出ていた。
http://xn--nhk-o01e731gw20d.com/622.html
ベストセラー『BORN TO RUN』のヒーローである彼がその後メディアに
全く露出していないことを不思議に思っていた。
(WEBで調べてみたが、殆どこの本の事で彼自身の事についての情報は
見つからなかった。)
あの本に出て有名になったあとも、それまでと同様の生活を続けているようだ。
毎朝晩、崖下の水場にポリタンを持って行き、20Kgの水を担いで持ち上げてくる。
食事は一日二回、トウモロコシで作ったトルティーヤとレンズ豆。
お金は、ない。
お金を稼ぐために、毎年メキシコで開かれる100Kmマラソンに出るのだという。
(番組で今年の様子を撮っていた。
100Km、1000m以上の高低差の山道を下って登る過酷なコースでスタートから
3分/Kmというスピードで走るのをみて驚いた。
彼は交通費節約のため前日会場まで70Kmを歩いてきたことが祟って足が痛くなり、
10位でゴールした。賞金は得られなかった。)
あの本が出たあと、商業主義的な誘いや提案がかなりあったであろうと想像する。
それらを拒否してそれまでの生活を続けることを選んだに違いない。
彼の居るメキシコ コッパーキャニオンで流れる時間を思う。
自分の居る日常の時間の流れと比較してみる。
自分が山へ行っている時の時間はどうだ?
普通の人ならば、ほとんどが商業主義にながされるのではないだろうか?
何故彼がそうしなかったのか、わからないが嬉しい気持ちになった。 続きを読む投稿日:2013.10.18
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ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く
リサ・ランドール, 向山信治, 塩原通緒 / NHK出版
ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く、リサ・ランドール著, 向山信治 (監訳), 塩原通緒 (訳) / NHK出版 / 2013.11
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著者はハーバード大学物理学教授。プリンストン大学物理学部で終身在職権をもつ最初の女性教授。容姿端麗。趣味はロッククライミング。…「天は二物を与えず」はウソで、この人には三物ぐらい与えているようだ。…
本書は「ワープした余剰次元」という学説に関する提唱者本人による解説書である。「余剰次元」は階層性問題を解決することを目的に提案されているモデルだ。本書の書名である「ワープする宇宙」とは高次元宇宙の幾何が余剰次元(エネルギーを有する)に向かって歪曲している様子を表す。
前半分ぐらいはニュートン力学、相対性理論、素粒子物理学、ひも理論等のまとまった説明になっている。他の方の書評では、この部分に関しても「解りやすい」と評価が高い。私自身は他の本で読み知っている内容だったのであまり印象に残っていないが、よくまとまっているのでいろいろな本で得た知識を整理する上でよいと思う。本書の構成上一般読者を対象に考えると、主題に移る前に前提となる知識でもあるので、ひと通りの解説が必要だったのだろう。
その後シームレスに主題である「余剰次元宇宙の提案」へと繋がっていく。
階層性問題とは、ウィークエネルギーとプランクエネルギーのスケールの違いが何故これほどまでに大きいのか(すなわち重力が電磁気力や弱い力と比べて何故これほど小さいのか)という問題。これを説明する説に余剰次元説がある。4つの力のうち重力だけが余剰次元に広がるとすれば、力は多次元に発散して急速に小さくなり、三次元空間に住む我々に検知される重力は極端に小さくなる、というわけである。
ところが、それではなぜ余剰次元が認識されないのか、という疑問につながる。重力がここまで弱くなるには、余剰次元にある程度の大きさが必要になる。そこで著者らが提唱したのが「ワープした余剰次元」。
宇宙の余剰次元の中に我々の住むウィークブレーンと重力ブレーンが浮かんでおり、重力だけが余剰次元を伝わることができる。重力を伝える素粒子であるグラビトンの確率関数が重力ブレーン側に偏っており、ウィークブレーン近傍では著しく弱くなっている、というモデル。このモデルでは、余剰次元は非常に小さく(プランクスケールよりわずかに大きいだけ)てもよい、という主張である。通読すると定性的には解ったような気になれる。(ちなみに本書の表題の理由は、グラビトンの確率関数の偏り=重力の偏り=空間の歪み=曲がった時空=ワープした時空 ということ。)
さて、科学とは検証可能なものでなければならない。プランクスケールなど検出することは到底不可能。検証不可能なこの説は科学ではないのではないか、と思える。
しかし、グラビトンの超対称性パートナー粒子がKK粒子として、パワーアップされるLHCで検出可能かもしれないというのである。KK粒子(カルツァークライン粒子)とは、余剰次元を旅する粒子が我々に認識される時の状態を示す。(このとき余剰次元の運動量は3次元空間では質量として現れる。)KK粒子がLHCで検出されれば、余剰次元が存在する証明となり、KK粒子の性質を詳しく調べれば、余剰次元の形状・性質が解るという。
間もなく検証できるかもしれないと考えると、本書の内容も現実味を帯びてきて、価値もぐっと上がってくる気がする。
本書は一般の人にも解りやすくする工夫が凝らされている。数式を使わず、たとえ話を多用して平易に説明することを試みている。冒頭には『不思議の国のアリス』やギリシャ神話をモチーフにしたストーリーがあり、各章の最後に要旨をまとめ次に繋げるようにしている。
また、本文中では数式を使っていないが、巻末に高校〜大学教養課程レベルの数式を用いた解説も加えている。
ひとつ難を言えば、『宇宙の扉をノックする』のときにも述べたが、語り口がややくどくて読みにくいと感じる。一般の人に解るように、非常に丁寧に説明し、たとえ話が多いことがそのように感じさせるのだと思う。(著者の熱意なのだろう。)
結論として、内容的にとても読み応えがあり、価値のある本だと思う。
電子版には「特別付録 ヒッグスの発見」86ページがついていて、更にお得!
この書評も長くくどくなってしまいました。では! 続きを読む投稿日:2014.09.06
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EAT&RUN 100マイルを走る僕の旅
スコット・ジュレク, スティーヴ・フリードマン, 小原久典, 北村ポーリン / NHK出版
『EAT&RUN』 Scott Jurek
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私も「走ること」は ダイエット、健康のため、以上のもの、少なくとも「生き方」に大きく影響すること、であると思っているが、本書を読み始めてウルトラランナーと言われている人々は(精神的にも)全然レベルが…違うと思った。
"Pain Only Hurts"つまり「痛みは痛いだけ」だそうだ。幻覚、嘔吐を乗り越え、高山病の頭痛、身体の痙攣も構わず、足のマメが爪に当たって痛ければ、爪を引き剥がすのだそうだ。何が彼らをそこまでさせるのだろうか?続きを読み進めた。
最終章でスコット・ジュレクは24時間走世界選手権に参加するが、「自分を忘れて、それによって自分の新しい限界を知り、それを超えたかった」とある。また、走ることは孤独だと感じるが、ランニングを通じて多彩な人びとと出合い、多くの影響を受け自分を作ってきた、とも言っている。走る理由はこれだけだはなく沢山あると思うが、これらは少なくともその中の大きな二つだと思う。
この本を読み始めてから、自転車通勤していたのを、可能な日には走っていくことにした。会社では、ちょっと疲れを感じたり空腹を感じることがあるが、なんとも良い気分になる。
また、本書ではスコット・ジュレク自身が沢山のヴィーガン料理を紹介してくれている。実際に作ってみるのも楽しそうだ。材料を揃えるのはちょっと大変だけども。 続きを読む投稿日:2014.02.15
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真空のからくり 質量を生み出した空間の謎
山田克哉 / ブルーバックス
真空のからくり 質量を生み出した空間の謎
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とても読みやすい素粒子論の本。
素粒子論の基本から最新理論まで、平易にバランスよく記述されている。
過去の知見から最新理論までを頭の中を整理して見なおしてみたい、という人には最適の本である。
内容的に…は、
・真空中では多数の粒子が出没している。短時間であれば、エネルギー保存則は破られている(仮想粒子)。
・真空中に発生する仮想粒子(真空のエネルギー)が暗黒エネルギーの正体かもしれない!?(これは未だなんとも言えない。)
・粒子加速器と素粒子の生成、
・ボゾンと力の働く理由、
・電磁気力と弱い力の統一、
・場の量子論、ゲージ理論、
・標準模型、素粒子の3世代(二重項)、
・ヒッグス粒子と質量の起源
等をテンポよく解説していく。
朝永振一郎の「くりこみ理論」、小柴さんが観測し、梶田さんが質量があること(それによって飛行中にその種類が入れ替わる)を証明した「ニュートリノ」、南部洋一郎、小林・益川両博士による「対称性の自発的破れ」(それによって、物質が量的に反物質を圧倒するようになった)など、日本人の貢献については、少し詳しく語られている。
個人的にはクォークの質量獲得メカニズムはヒッグス機構から2%弱、「カイラル対称性の破れ」からが98%強であるという事を再認識して満足できた。
続きを読む投稿日:2016.01.09
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好奇心の赴くままに ドーキンス自伝I
リチャード・ドーキンス, 垂水雄二 / 単行本
好奇心の赴くままに ドーキンス自伝I
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『利己的な遺伝子』等数々の著作で有名な進化生物学者 リチャード・ドーキンスの自伝。
筆者は第二次世界大戦前のイギリスの貴族に連なる家系に生まれ、幼少期をアフリカで自由快活に過ごし、8歳でイギリスへ帰国…、パブリックスクールを経てオックスフォード大学へ進学し、研究者への道を辿ることになる。『Ⅰ』は 本人誕生前の一族の人々の紹介に始まり、母親の日記から紐解いた両親のアフリカでの冒険、本人が生まれ育って研究者となり、『利己的な遺伝子』を完成させるまでの物語。
ドーキンスは科学者らしく、事実を誇張することなく率直に語っているように思える。パブリックスクールの現実(イジメに対して黙っていることしかできなかったことへの後悔や寒さなどの厳しい生活、一方で休日には我が子の様に接してくれる先生がいたり)や祖父母宅での厳格な躾のストレスから(本を読む限りはその雄弁さから意外なことに)吃音に悩まされたことなど。
もう一つ意外だったのは、黎明期のコンピューターにハマっていて、自らプログラムを書いていたのみならず、言語を開発までしていたということ。
筆者のキリスト教教義への批判・反発は常に鋭いが、本書でも若い頃から宗教(この場合はキリスト教)に対する忌避感情を抱き、反発したことが節々に描かれている。
当代で最も著名な進化生物学者がどのように成長し、何を感じ考えながら生きてきたのかを感じ、知ることができる一冊である。
続きを読む投稿日:2016.01.31