fliwghさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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大栗先生の超弦理論入門
大栗博司 / ブルーバックス
『大栗先生の超弦理論入門』 大栗博司 (著)
6
大栗さんの本は、素粒子物理学を最新の研究成果まで含めて読者に解りやすく伝えることを第一目的として書かれている。難しい数式を一切使わずに、且つできるだけ誤魔化さずに。
読んでみると、確かに本物だと感…じる。確証は無いけれど、研究者が認識している概要、若しくは一端に触れることができたように思う。
本書も第三者的な視点から客観的に超弦理論を丁寧に説明してくれている。読了後は他の本では断片的な一面しか見えなかった超弦理論の全体像が見えた感じがした。
以前読んだ本では「超弦理論の記述する世界を検証するためには、現実的な加速エネルギーでは到底無理であり、検証不能な理論である。検証不可能な理論は科学と言えるだろうか?」という批判があったが、本書を読むことで、理論屋、実験屋の努力でもうすぐ検証出来る可能性もあると知り、とても楽しみに思った。これからも最新理論/実験に着目していきたい。
また、時間・空間のみならず、空間次元も我々の幻想に過ぎない、という主張を初めて聞いて驚いた。
尚、本書を読む前に幻冬舎から出ている二冊の新書を読んでおいたほうが理解しやすいと思う。 続きを読む投稿日:2014.02.26
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宇宙のランドスケープ 宇宙の謎にひも理論が答えを出す
レオナルド・サスキンド, 林田陽子 / 日経BP
宇宙のランドスケープ 宇宙の謎にひも理論が答えを出す
6
著者は南部陽一郎と共にひも理論の創始者である。超一流の理論物理学者が一般向けに書いた本。サスキンドは切れ者として通っている南部と同じ考えに至ったことを誇りに思ったと書いている。これを読んで南部さん…は偉大だと思った。 著者は精悍な顔つきで、ほぼスキンヘッド、髭を蓄えている、物理学者としては珍しくコワオモテの人だ。本書の序では、「本書は初心者向けに書いたけれども、知的な成長の意欲もない見物人のためのものではない」とそれなりに努力することを要請している。
本書の骨子は、以下のとおりである。
現代の理論物理学では、物理定数の組み合わせ10^500(10の500乗)があり得ると考えられている。一方で、我々の暮らしている宇宙は生命が生まれ得る様に全ての物理定数が絶妙に調整されている。例えば、宇宙定数は真空エネルギーが小数点以下119桁の単位で相殺されている。これは、普通あり得ない偶然としか思えない。 以前はこの問題について、理論が発展すれば、物理定数もそれぞれが現在の値を持っている必然性が導かれるだろう、という楽観論(希望)があったが、それは望みが無いことが分かった。
一方、ランダムな物理定数の組み合わせを持つポケット宇宙はインフレーションにより無数に発生している。無数に発生するポケット宇宙(これを著者は「メガバース」と読んでいる)の中で、我々のような知的生命体が発生できるものはごく僅かであり、物理定数が絶妙に調整されているのは、我々が存在しうるのはそのような宇宙だけだからである。(これを「人間原理」と言います。)
サスキンドは可能性のある物理定数の組み合わせを「ランドスケープ」と読んでおり、本書の思想をひとつのスローガンで表すならば、「可能性のランドスケープを実在のメガバースが満たす」である。
(サスキンドは本書で可能性のランドスケープを満たすもののもう一つの可能性として、エベレットの平行宇宙論も挙げていますが、これについて説明すると長くなるので、やめます。興味があったらWikipediaで「エヴェレットの多世界解釈」を見てください。これで一冊の本になる驚くべき思想です。)
サスキンドは、人間原理が宗教的な思想(創造論)と結びつけられることを厳に警戒しており、本書の思想は真に科学的なものであることを主張している。一番の難点は我々が他の宇宙を認識することができず、証明方法が分からない事である。
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本書を読んだ感想は、この問題については、知っていたが、「理論が発展すれば、物理定数もそれぞれが現在の値を持っている必然性が導かれるだろう」と思っていたのが、その望みが無いことを知り、メガバースはほぼ間違いなく存在するとの強い主張に押された。「ああ、そうだったんだ」という感じ。
また、著者が量子力学のコペンハーゲン解釈よりも「エヴェレットの多世界解釈」を支持している事に意外性を感じ、この世界が更に意外な性質を持つ事を想像した。「エヴェレットの多世界解釈」は眉唾っぽく思っていたので。
可能性のランドスケープは、ずっと前からダーウィンの進化論について、生物が獲得しうる特性を二次元の地形の様に考えられ、実際に獲得する特性が「暫定的な谷間」である、と言うような事を考えていたので、違和感は無かった。
最近観測や実験物理学の進展が目覚ましく、現在は検証不可能と思われている事も意外と証明される可能性がある。例えば、メガバースに関しては、素粒子としては唯一重力子のみがブレーン宇宙間を行き来出来、影響を与えうる事から、ダークエネルギーの正体が平行宇宙の重力に由来するとの考えがある。重力が他の宇宙を認識する手段になる可能性がある。
死ぬまでにどんな事が分かるのか、本当に楽しみだ。長生きせねば。走ろう!(そこに行くか?) 続きを読む投稿日:2013.09.24
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ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い
レオナルド・サスキンド, 林田陽子 / 日経BP
ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い レオナルド・サスキンド (著), 林田陽子 (訳)
5
最先端の物理学をいろいろな喩えを使って一般人の科学ファンにもなんとなく解った様な気にしてくれる。エントロピー、エネルギー、情報の保存、などの概念をかなり親切に説明している。しかし、本書の主題である…「ブラックホールの相補性」、「ホログラフィック原理」など直感に反する思想はなかなか理解しがたいものがある。これらが立証されれば、著者が「頭の配線を切り替えなければならない」と言っているパラダイムシフトが起こることは間違いない。
また、プランクスケールで起こっている素粒子の事象を記述する「ひも理論」が、サイズが10^20も大きい核物理学の世界でも使えそうだという事を初めて知って驚いた。核物理学であれば実験可能なので、不可能と考えられていた「ひも理論」の検証も出来るかもしれないという事である。実験物理学も目が離せない。
本書では著者の論敵であったが、その知性・生き方を尊敬しているスティーブン・ホーキングや論争の戦友であるゲラルド・トフーフト等、多くの物理学者の人物を描き出していたり、ケンブリッジ大学の印象や宗教についてなど、専門分野意外の著者の考え方も記されており、先端物理学以外のエピソードも楽しめる。
簡単に読める本ではないが、先端の素粒子物理学、宇宙論・世界観に興味のある人には是非お薦めしたい。サスキンドは次の著作を予定しているとのことで、楽しみである。 続きを読む投稿日:2013.10.16
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量子力学の哲学 非実在性・非局所性・粒子と波の二重性
森田邦久 / 講談社現代新書
量子力学の哲学
4
量子力学は我々の生活に無くてはならない、いわば実用上必要な理論となっている。しかし量子力学が意味するところを理解することは、非常に難しい。
量子力学が提示する、簡単には理解しがたい現象である…、「物理量の非実在性」「非局所性」「粒子と波の二重性の解釈」及び「状態の収縮」がいつ、どういうメカニズムで起きるのか?という点に対する解釈の紹介・解説が本書の主題である。
著者が良書と勧める「量子力学の解釈問題―実験が示唆する「多世界」の実在 (ブルーバックス)」は以前読んだことがある。この本では「多世界解釈」を推しているが、世界中のあらゆる現象、一挙手一投足ごと(例えば、シュレディンガーの猫が「生きている世界」と「死んでいる世界」)に世界が分岐していったのでは、すごい数の平行世界ができてしまい、こりゃたまらんだろう、と思った。
一方で本書で著者が最も有望であるという、「時間対称化された量子力学」 は未来が過去と同様に現在に影響を与える、という説である。この説は本書で初めて知った。波動方程式を使った理論的な解釈も簡単に説明されているが、割愛する。
我々は過去から未来への時間の流れが絶対と感じているが、元々物理法則は時間に対して対象であり、時間の方向・流れは決まっていない。本書では「 原因と結果(因果)」という概念は人間が作ったものであり、世界の側に客観的に存在しているものではない、という。
具体的にどういうことなのか、まだよく理解できていないが、確実に新しい世界観を与えてくれる理論であると思う。個人的には、「多世界解釈」よりは違和感が少ない。
また,本書において、粒子と波の二重性について以下の様な「たとえ」による説明があった。「二次元しか認識できない生き物には、円筒はある向きでは「円」に見え、ある向きでは「長方形」に見える。二次元の生き物には同一のモノであるとは思えないだろう。これと同じように我々の認識を超えたレベルでないと「粒子と波の二重性」は矛盾のない姿が描けないのかもしれない。
新しい知見も多々あり、難しい話も比較的易しく記述されている良書である。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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カラマーゾフの兄弟〈1〉
ドストエフスキー, 亀山郁夫 / 光文社古典新訳文庫
カラマーゾフの兄弟
4
大学生時代はドストエフスキーにはまって、『罪と罰』『悪霊』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』などを読み耽っていた。あれから30年、今再度読んでみてもまたハマる。もちろん、記憶に残っていた印象と異なる点も…あれば、変わらない点もある。
変わらないのは、『罪と罰』ならラスコーリニコフ、『悪霊』ならスタヴローギン、『カラマーゾフの兄弟』ならイワンに同化すること。まあ、『罪と罰』、『悪霊』の場合、主人公なので当然か。しかし、『カラマーゾフの兄弟』の主人公はアリョーシャということになっている。この人物は「キリスト教思想とロシアの大地」を体現しているのだが、どうも良い人すぎて印象に残らない。思想を感じない。
対して、イワンはキリスト教を根本から考えて、自分なりの理論を展開する。これは無神論となる。この思想には、数年前に小説・映画が大ヒットしたダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチコード』を想起させられた。キリスト教と教会に対する見方はほぼ同じではないか。
物語上は無神論者であるイワンは敗北し最後には冤罪で告発された兄を救う決心をしながらも発狂してしまい、救出を果たせず、自身は斃れてしまう。「キリスト教思想とロシアの大地」が勝利を納めることになるが、ドストエフスキー自身はイワンと同じ思想を持っていたのではないか、と思う。
西欧の社会においてキリスト教が如何に大きな影響を与えてきたのかがわかる。パソコンに例えると、キリスト教はBIOSで、その上に国家というOSが乗っているようなものではないだろうか。翻って現代の日本国は何に乗っかっているのだろうか?
ドストエフスキーは死ぬ前にもう二三回は読みたいと思う。
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イワンの思想は、最初の盛りあがりの場面である、ゾシマ長老の庵室におけるカラマーゾフ一族の寄りあいの際に、新聞に掲載された論文の話でその一端が示されるが、その段階では理解できない。
「僕は、このふたつの要素の混同、つまり教会と国家という個々別々なものの本質の混淆《こんこう》は、もちろん、永久につづくだろうという立場から出発しているのです。 ・・・中略・・・ 僕は逆に、教会のほうが自分のなかに国家をそっくり包含すべきであって、国家のなかのある一隅しか占めないようなことであってはならない・・・以下、省略」
その本当の意味は、中盤の盛り上がり場面でアリョーシャと料理屋で話をするときに語る、自らが作った『大審問官』(十六世紀スペインのセヴィリヤを舞台とした叙事詩)で披露される。
詳細は、以下の解説文を参照してください。
------------北垣信行 の解説文より抜粋。-----------
『大審問官』はぜんたいとしてキリスト教批判である。それはローマ・カトリックの教権主義と社会主義の見地からなされている。ここではイワンと大審問官は、思想的にほとんど同一人物と見てよい。大審問官は、キリストが自由、とくに信仰と善悪の選択の自由を与えたために民衆を混迷におとしいれてしまったものと見、キリストは人間の弱い本性と無気力な性格を実際以上に高く評価して、彼らに実行不可能なヒロイズムを求めていると言って責めている。そして自分たちは逆に彼らから自由を奪って、彼らを従属させ、同時に地上のパンを与えることによって民衆を幸福にしてやったのだ、お前が拒んだ奇蹟と神秘と権威の三つの力でこの事業を成しとげたのだと言って、それを誇る。この、民衆から自由を奪ってパンを与えることによって民衆を幸福にするという点が、ドストエフスキーの理解する社会主義の主張なのである。大審問官は最後にキリストにむかって、自分は悪魔と手を結ぶことによって、「キリストの偉業を修正したのだ」と告白する。
----------引用おわり-----------
以上 続きを読む投稿日:2013.09.24
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宇宙の扉をノックする
リサ・ランドール, 向山信治, 塩原通緒 / NHK出版
『宇宙の扉をノックする』 リサ・ランドール (著), 向山信治 (監訳), 塩原通緒 (訳)
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LHCを中心に最新の素粒子物理学と宇宙物理学を解りやすく解説した本。
LHCの加速器および検出器の仕組みについて、非常に詳しく解説してある。
既に発見の発表があったヒッグス粒子(本書執筆時はまだ発見さ…れていなかった)、微小なブラックホール、ダークマターの有力候補であるWIMPが近々(あるいは暫く待てば)発見されるかもしれない。
LHCだけでなく、最新の宇宙観測機器が新たな知見を次々と見出し、また見出しつつある。
我々は今まさに科学のルネッサンス期とも言える激変期にいるという。
うん、素晴らしい。これからも『日経サイエンス』を購読し、この手の本も読んでいこう。
ただ、著者らが提唱した「ワープした余剰次元」は「階層性問題」を解決できる可能性のある理論として紹介されているが、本書では詳しい説明がほとんど無く、その意味がよく解らなかった。
私が『ワープする宇宙』をまだ読んでいないからだと思うが。
私はこの本を読み進めるのに、かなり苦労し、時間がかかった。
この本のテーマは前述の最新物理学の解説と、「科学的思考」であり、後者にもかなりの紙幅を裂いている。
科学的思考、そして科学的手法とはどのようなものであり、どのようにすべきか、宗教との違いは何か、創造性とはどのように生まれるのか?など。
謝辞を読むと、著者はこの部分を新しい試みとして、読者に訴えたかった様である。
しかし、原書もそうなのかはどうか分からないが、特にこれらを記述した文章が相当くどく思え、疲れてしまい集中力が続かなかった。
私とはどうも相性が良くないのかもしれない。
とはいえ、『ワープする宇宙』もいずれは読もうと思う。購入してあることだし。
続きを読む投稿日:2014.04.26