竃猫さんのレビュー
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レナードの朝〔新版〕
オリヴァー・サックス, 春日井晶子 / ハヤカワ文庫NF
ただし、映画の方が感動的ではある
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同名映画の原作。映画の方は、もう、「騙されたと思って取り敢えず観とけ!」、と強要しても良いくらいのレベルに傑作。だが、本作はレナード以外の患者も含めた、ノンフィクション作品。映画はレナードを取り上げ、…ノンフィクション化しているので、より感動的になっているので、その点は注意されたい。率直に言えば、難しく、硬い。ただし、映画と同じく、人生に対し疲れちゃった気分になったとき、ヤケな気分になったときに、パラパラめくると襟を正された感じになる。完読しなくても、本棚に置いておく”御守り”としてお勧め。
続きを読む投稿日:2016.06.22
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日本のいちばん長い日(決定版) 運命の八月十五日
半藤一利 / 文藝春秋
意思決定論の問題として読んでも圧巻の一冊
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大事を決めるときの意思決定プロセスとは、どうあるべきか?
勿論、サイモンら米国流の組織的意思決定論はあるにはあるが、一国の命運を決するような場合はどうなのか・・・。
非常に興味深いが、極めて事例が少…なく、かつ、データが収集し難いテーマだ。
3.11やリーマン・ショック以降、レアイベントに係るリスクが関心を集めているが、そのリスクが顕在化したあとのディザスタリカバリフェーズでの意思決定論に、個人的には特に関心がある。
しかも、その意思決定がわが国の国民性に馴染むものであるべきと考えると、本書に見られる合意形成プロセスは実に含蓄に富んだものと思えてくる。
『失敗の本質』と並んで、ビジネスマンにも是非お勧めしたい。
続きを読む投稿日:2016.06.19
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菊次郎とさき
ビートたけし / 新潮文庫
同じ叱るでも、そこに愛があるか否か
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故杉浦日向子は1994年発行の『呑々草子』の中で「昭和三十年代の、希望に溢れたビンボーが懐かしい。喧嘩のタネとなる貧乏はシンドイけれど、「ちょっと貧乏」が間尺に合って生き易い。」と言っている。今日も生…活苦は私自身を含め多くの人にとって現実の問題だし、大学生が中退する主要な理由のひとつでもある。
本書は電子化はされていない『たけしくん、ハイ! 』と同様、教育により貧困を脱出しようとした御母堂が印象的に描かれている。経済格差の問題、ワーキングプアの問題等々が語られる今日、再度、振り返る価値のある良書と思う。
続きを読む投稿日:2016.06.13
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秘密結社の手帖
澁澤龍彦 / 河出文庫
かの人の語る如く語る人を知らず
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昔から、『カソリック教会の転覆を諮る秘密結社の首領を、謀略が成就する一歩手前で追い詰めたら、地方の平凡な修道院の”うだつ”の上がらない万年修道士だった』、といったモチーフの物語が読みたいと思っていた。…残念ながら本書は実在の秘密結社を紹介した真面目なものである。知識欲が旺盛な人には興味深く読めると思う。
翻訳物を巡る係争および世評に関しては、一旦、置くとして、それを煽るかのような本人の言動や露悪的な態度は、もしかしたら演出または屈折した心理の発露でもあったのだろうか、と思える。本作などは噂に違わぬ博覧強記ぶりを遺憾なく発揮しているほか、行間に垣間見える著者の判断能力は健全な良識人のものである。澁澤龍彦という個性についての更に深い今後の研究が待たれよう。
”営業妨害”になるやも知れないので、”あちら”にはコメントを付さないが、桐生操の秘密結社に関する著作の主要部分は本書からの引用でもある。より硬派ではあるが、オリジナルを味わうのも一興と思う。
続きを読む投稿日:2016.06.13
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井上成美
阿川弘之 / 新潮文庫
”パイン”焼失を惜しむ
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書籍説明にあるとおり、阿川弘之の海軍提督三部作のひとつ。Smart Navyを体現したかのような井上成美の戦前から戦後、晩年を描いた物語。人気で言えば山本元帥であろうし、米内大臣のような歴史の教科書に…残る業績とも縁遠いが、三提督シリーズの一角を占めるに相応しい人物と思う。狂気の時代に正気を保ち、貫き得た数少ない人間の一人であり、典型なのかも知れない。まぁ、平時であれば、誠に付き合い難いかも知れないが・・・。そんな人が存在したこと、そして、どんな苦労をしたのか、どんな生き方をしたかを知ることは、ある種の基準軸を心に描く助けになると思う。
個人的に井上成美には不思議な縁を感じる。
社会人になった際、長井で新入社員研修を受けたことがある。本作にも出てくる井上邸の近所であった。数年前の記録では、省みられることもなく打ち捨てられているということだが、現存するなら一度、訪れてみたいものである。
また、私の書架にはNHKラジオドラマ『ヘッド・イズ・バッド』の台本がある。本作に登場する青年教師である山ざき先生が後年、大学で教鞭を執られるようになった。その時、山ざき先生の講義を受講していた私が、何か質問をしに行った際に、ご恵贈頂いたものである。その時の、山ざき先生の話しぶりからは、何十年も前に井上成美から受けた感銘を色褪せることなく持ち続けられていることが良く伝わってきて、井上成美の偉大さが感じられたものである。
続きを読む投稿日:2016.05.28
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山本五十六(上)
阿川弘之 / 新潮文庫
あと2提督が・・・
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有名な3提督シリーズ。やはり一番は名実ともにこの山本元帥なのだろう。
さりながら、米内、井上の両提督も早く電子化して欲しいものだ。特に井上成美提督には個人的に多少の縁があるので、強く期待している。投稿日:2016.03.12