
雪冤
大門剛明
角川文庫
著者の熱が伝わってくる
死刑廃止派と肯定派の激しい議論が組み込まれた作品。元弁護士の八木沼は死刑囚となった息子・慎一の冤罪を信じ活動を続ける。刑罰について様々な角度から検証されていて死刑が凶悪犯人の再犯を防ぐ究極の社会防衛であることなども正面からぶつけている。感情論だけで語ることは危険だが被害者の感情を無視した議論も無意味である。 罪火、確信犯、雪冤と3作品続けて読んだ。デビュー作であるこの雪冤はやはりスゴイと感じた。 著者の熱が伝わってくる完成度の高い作品でありミステリーとしても楽しめる。 真っ直ぐで潔癖症で一途な慎一の姿から三浦綾子さんの「氷点」に出てくる陽子を思い出した。人はどこまで人を許すことができるのだろうか。
0投稿日: 2017.03.16
確信犯
大門剛明
角川文庫
復讐という正義に命をかけるのは間違っている。
殺人事件で無罪を勝ち取った男が14年後に自分が真犯人であると告白して病死した。被害者の息子と判決に関わった判事3人を巡る新たな事件が起きる。確信犯とは道徳観や正義に基づきなされる犯罪である。忠臣蔵の影響か仇討ちにどこか同情的になりやすい日本人だが復讐という正義に命をかけるのは間違っている。基本はこの路線を走り続けるストーリーだが裁判員裁判への批判や司法制度改革など多くの問題を提起している。軽薄で野心家だった元判事の穂積が今さらではあるが「人を裁くとはどういうことか」真剣に向き合っていく姿が印象に残った。
0投稿日: 2017.03.11
心をはぐくむ てのひら名作えほん
西東社編集部
西東社
滑舌練習を兼ねた朗読用に購入。
「名作えほん」なので全て知っている作品だと思っていたら北欧の童話やギリシャ神話などもあり20作品程は初読のものだった。それぞれ1分~3分で読める長さにまとめてあって文章の上手さも勉強になる。幼児期に読み聞かせをするかしないかで成長に大きな差が出るということなので毎日寝る前に絵本を読んでいた時期があった。これといって自慢できることのない子育てであったと反省ばかりであるが読み聞かせを続けたことだけは良かったと思っている。朗読は認知症にも効果があるらしいのでこれからは自分のために…
0投稿日: 2017.03.10
灰姫 鏡の国のスパイ
打海文三
角川書店単行本
難しくてなかなか情報が繋がらないのに面白い
北朝鮮の地下に潜り日本に情報提供する灰姫と日本の調査会社との諜報合戦。CIAと絡んだ情報が難しくて繋がらないまま読み進んだが不思議と飽くことなく読了できた。五木寛之さんの旧ソ連を舞台にした小説に雰囲気が似ている。情報戦に明け暮れる男達の緊張の中でもユーモアを忘れない洒落た会話が楽しい。1992年の小説であるが「国会前に原発を作る会」などというドキリとする言葉も出てくる。打海作品制覇の途中で偶然読んだ本書だが金正男事件の最中に読了した。今この時代に打海文三という作家が生きていたらどんな小説を書くのだろうか。
0投稿日: 2017.03.09
罪火
大門剛明
角川文庫
年月では癒されない苦しみもある
犯罪被害者支援のため被害者と加害者との仲介役をしている町村理絵は13歳の娘を殺害され突然当事者となった。殺害シーンは犯人側から描かれていて衝動的で自分勝手な行動とともに後日味わう深い罪悪感も伝わってくる。そして思いがけない別人の逮捕。被害者家族と加害者のそれぞれの執念…それまで理絵は何度も繰返し「罪と許し」について考えてきたがどれほど甘い考えだったかを思い知る。修復的司法といわれる当事者間の話し合いは私は有効であると今まで考えてきた。憎しみや恨みを抱いたまま生きていくことは一番辛いことだと思うからだ。 極刑を望む被害者の姿に疑問を持ったこともあったがやはりそれも傍観者だから言えることなのだろうか。著者も小説という形で表現することに対して自分自身にその意味を問いかけているのではないかと感じた。派遣社員の待遇の問題なども絡めていて読み応えのある内容であるが、ここまで書いてもネタバレと言えないほどの驚きの結末が待っている。読了と同時に最初のページに戻ってポイントになる箇所を飛び飛びで読み直した。
0投稿日: 2017.03.05
アドラー心理学実践入門 ~「生」「老」「病」「死」との向き合い方~
岸見一郎
ワニ文庫
大変読みやすい本
アドラー心理学の全体像を偏りなくまとめた大変読みやすい本だと感じた。後半は老、病、死という問題を掘下げているためまた違った味わいがあった。よりよく生きるために今この時に集中すること、自由であるためには責任を引き受ける覚悟が必要であること、アドラー心理学は本当に勇気づけの心理学である。最近は対人関係を重視する余りに自分の主張が出来ない人のトラブルが増えているそうで岸見先生は対人関係より問題解決を重視できるように援助しているとのこと。私達は予見できない先のことを無駄に心配して生きる生き物であることを痛感した。
0投稿日: 2017.02.27
獄の棘
大門剛明
角川文庫
もっと重い内容を想像していたが人情モノで読みやすかった。
自分はこの仕事に向いていないのではないかと悩む新人刑務官が個性の強い先輩達の中で成長していく物語。 刑務官の離職率の高さは同僚間の人間関係にあるという。 刑務所は二度と来たくないと思うくらい厳しくて良いのだと考えるが故に一線を越えてしまう刑務官もいる。 そんな内情を描きながら「被害者の視点を取り入れた教育=ゲストスピーカー制度」などを上手に組み込んで被害者家族の苦しみも書き込んでいる。割と草食系の主人公のサラリとした台詞の中に時々感じる深さが心地よかった。
1投稿日: 2017.02.23
ハルビン・カフェ
打海文三
角川文庫
報復の連鎖は怖ろしい
北陸の小都市が舞台。Pという警察官の地下組織に監察官が闘いを挑む。 Pは伝説を作り上げ正義感の強い警官を巻き込んでいくがその熱気は些細なことで破壊衝動と報復テロへ変わっていった。 難民流入による治安の悪化、経済の疲弊、国家とマフィアとの二重権力、キャリアと下級警官に分断された警察組織内の権力闘争。 シリアや欧米で起きていることを考えるとタイムリーな作品を読んだという感じがするがこれは15年前の小説である。 警察官が日々直面する恐怖や組織の重圧などを丁寧に書くことで何故報復の連鎖に繋がっていったのかを解明していく。 複雑なストーリーで登場人物も多く600ページの大作なので時間をかけてジックリ読むつもりでいたが想像以上に時間が掛かった。 前半は混乱して読み辛かったがこの部分を丁寧に読まないと後半の感動はなかったと思う。 ハイライトと書籍内検索を駆使して8日目で読了。感動と達成感のひと時である。 それにしても舞台上の全員が興味を失うまで終わらない報復の連鎖は怖ろしい。「復讐するは我にあり我これを報いん」という言葉の重さをあらためて感じている。
0投稿日: 2017.02.21
沈黙入門
小池龍之介
幻冬舎
人間とは厄介なもの
沈黙している者も非難され多く語る者も非難され少し語る者も非難される。世に非難されない者はいないのである。人が本当に思っていることなどたかが知れていて相手に伝える必要などなく「口は災いのもと」なのである。そんなこと言っていたら何も言えないと思うなら黙っていたら良いのだ。特に最近はSNSでの自分語りが少々度を越してきて、みんながコメンテーターのように批判を繰り広げる。人は放っておくと無駄に気持ち良くなりたがるので何かと自慢になりやすい。 こんな感じで話は進み仏道式非難訓練へと入っていく。 普段漠然と思っていることをここまでハッキリ言ってくれてありがとう、という所もあるが少々言い過ぎ感もある。この本は著者の処女作であり20代半ばのご自身の経験~自意識過剰からくる人間関係の苦しみと試行錯誤~から生まれたという「あとがき」を読んですべて納得できた。
1投稿日: 2017.02.17
謝罪の作法
増沢隆太
ディスカヴァー・トゥエンティワン
作法という言葉にふさわしい考え方を磨く内容である。
謝罪とは誠意をもって臨めば乗り越えられるものではなく、だからといってテクニックで切り抜けられるものでもない。「申し訳ございません」以外に誰もが納得できる言葉などないのである。山一證券の破綻謝罪会見が繰返し引用されていることが印象的だった。カスタマーセンターが直接利益の獲得部門でないため立場が微妙なことも同感である。長年カスタマーセンターに関わってきたが最近は特に生産性との戦いと離職率の高さを感じる日々である。こんなレビューしか書けなくて本当に「申し訳ございません」
1投稿日: 2017.02.13
