
ネクロポリス 下
恩田陸
朝日新聞出版
上巻から読もう。
上巻でテンションが上がったままで突入する下巻だが、上巻で持ち上がる多くの謎が解き明かされる。その解明していく様は喉に詰まったものが少しずつ胃に納まっていくような爽快感がある。そして相変わらず巧みな情景描写だが、実際にVファーという自然豊かな島にいて、その濃密な空気に圧倒されるような感がある。上下巻合わせてかなりの長編だが、あっという間に読んでしまった。作者の力量で物語に引き込まれ、登場人物たちと共にビールを飲んで歓談しているような錯覚に襲われる。是非上巻から読んでほしい極上の作品だ。
0投稿日: 2018.04.23
ネクロポリス 上
恩田陸
朝日新聞出版
人物設定、情景描写が圧倒的。
ファンタジーとサスペンスの融合が秀逸。 架空の国、架空の宗教、そしてそこでは実在する霊。とても面白い設定だ。主人公で今回初めて「ヒガン」に参加するジュンと同じようにして読者も「アナザーヒル」での「ヒガン」に導かれる。そこで起こる連続殺人事件のカギを握るのはやはりジュンのようだ。そして実態を持って現れる霊の存在感もかなりのもの。とにかく他の作品でも言えることだが。恩田陸さんは人物設定や情景描写が圧倒的に上手い。読んでいて自然にその作品の中に吸い込まれてしまう。この作品でも上巻をあっという間に読み終わってしまった。これから読む下巻にもかなり期待できる。久しぶりに上質なサスペンスを読んだ。
0投稿日: 2018.04.16
知らないではすまされない自衛隊の本当の実力
池上彰,「池上彰スペシャル!」制作チーム
SB新書
思いのほか頼もしい自衛隊。
まだまだ安心できない日本を取り巻く国際情勢の中で、思いのほか自衛隊が頼りになることが分かった。戦争はしないほうがいいに決まっているし、その抑止力となる自衛隊の存在は今後も増していくだろう。その装備や訓練、意識などを池上さんが分かりやすく解説してくれる。そして長いこと議論されている憲法上の自衛隊の立ち位置など発足当初から現在に至るまで紹介してくれている。自衛隊に不安を持っている人はこれを読んで自衛隊を再評価してほしい。
0投稿日: 2018.04.01
蒼空時雨
綾崎隼
メディアワークス文庫
好みが分かれるラスト。
複雑に絡み合う前後のストーリーや個々の人物設定は見事だと思う。途中までは留まる事が出来ないほどに読み進めたが、ラストがちょっと好みのものと違った。それがいけないとかそういうわけではないのだが、私が描いた理想のラストとは違い、少しだけ後味の悪さが残った。それは個人的なものだから他の人が読めばまた違う感想を抱くのだろう。小説としての出来は間違いなく傑作で、後は好みの問題だと思う。
0投稿日: 2018.03.14
水の時計
初野晴
角川文庫
意外にも悲しい「ハルチカシリーズ」の原点。
心臓がキューっと握りつぶされるような、そんなせつない物語だった。自分の生を他人に分け与えていくという悲しい儀式の運搬役を任された主人公。その過酷な運命から十代にして髪が白くなってしまった。 正直言ってまだ謎な部分が多く、それを全部説明したいたら作品の質が落ちてしまうかもしれないのだが、すべてを明かしてほしかった。 「ハルチカシリーズ」とは一味違うシリアスな物語に作者の原点を見たような気がした。
0投稿日: 2018.02.26
ドミノ
恩田陸
角川文庫
カオスから終息へ。
当初は何の繋がりもないように思えた複数の事柄が、まさしくドミノ倒しのように一つのゴールへと収束していく様が見事だった。やはり早くから力量のある作家だったようだ。 最初は居心地が悪くなるくらい混沌とした複数のストーリーが同時進行する。それが段々と場所と時間が一点に集まりだし、最後は一つの事件に収束する。20年近く前の作品なので少しアナログだけど、恩田陸という作者のファンは読むべきだろう。のちに賞を獲った作品などと比べると作風が違く感じるけど、原点と言っていい作品だと思う。
0投稿日: 2018.02.16
七つの会議
池井戸潤
日本経済新聞出版
池井戸作品にハズレなし。
中堅メーカー、東京建電での不祥事をめぐる物語。 読んでいる内にグイグイ引き込まれ、中断することが出来なくなるほどの面白さ。もはや池井戸中毒と言っていい現象だ。 8つの短編という形になっていて、それぞれ主人公が違うのだがそれぞれのキャラづくりがまたすごい。実在の人物のように興味を持ってしまう。 池井戸作品にハズレはないようだ。また続けざまに読みたくなってしまう。それは私が書くまでもないことだが。
0投稿日: 2018.01.31
ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇
初野晴
角川文庫
ハルチカをサブの目線で。
ハルチカシリーズの番外編で、主人公二人をサブにまわし、吹奏楽部の他のメンバーに焦点を合わせた短編集。 相変わらず伏線を敷くのが上手い、あああの人とここで繋がってくるのかーという場面が必ず出てくる。普段はサブのキャラたちの目線を通してチカやハルタをみるのも面白い。とにかくこのシリーズは読まなければ損だし、まだ現在進行中だ。そこで番外編となった今作にもまだ明かされていない伏線らしきものがあり、それも気になる。ハルチカシリーズのファンなら当然読むだろうし、そうでない人はまず「退出ゲーム」から読んでほしい。
0投稿日: 2018.01.23
惑星カロン
初野晴
角川文庫
読者をひきつけて離さない。
やはりこの「ハルチカシリーズ」は近年稀に見るミステリーの傑作だと思う。多様な登場人物のキャラクター設定、そこに持ち上がる何かしらの難題、そして至る所に張り巡らされている伏線、どれをとっても尋常じゃない文筆力を感じる。 謎を解いていく段階でもスムーズに進んだと思えば二転三転ひっくり返されたりする。謎を考え出す力と分野を選ばず幅広い知識を持っている作者だ。 さてこの「惑星カロン」では一番の謎を持つキャラ、草壁先生の過去が少しずつ明らかになってくる。このシリーズのファンならだれでも知りたいと思うことだが、それと同時にその謎の全貌が明らかになったときは物語の最後だろうと思うと知るのが怖いという心情もある。とりあえずこの作品が最後でなくてよかった。まだまだ「ハルチカシリーズ」を読みたいから。
0投稿日: 2018.01.13
千年ジュリエット
初野晴
角川文庫
全くブレずに面白い四作目。
ハルチカシリーズ四作目となる本作だが舞台は清水南高校の文化祭の二日間である。主人公チカとハルタを始め、様々なキャラクターが悲喜こもごものドラマを展開する。まったく面白い。 全体としてはコメディタッチなのだが結構シリアスな部分も多い。だがそれでも後味が悪かったりしないで、きっちり消化できるのは作者の力量によるところだろう。 未だ謎な部分もいくつかあるが、まだ結末は迎えてほしくないほどにこのハルチカシリーズにハマっている。とはいっても物語の中では着々と季節が進んでいくのだが…。
0投稿日: 2017.12.30
