あかんたれさんのレビュー
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機動戦士ガンダム I
富野由悠季, 美樹本晴彦 / 角川スニーカー文庫
挑戦という名の道標
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初代のガンダムがTV再放送によりブームとなった時期に朝日ソノラマから刊行されたモノの出し直しバージョン。
(故に当時は放映半ばで安彦氏が倒れてしまった関係もあって、カバー絵はアリモノ版権のシャアの絵に…背景を組み合わせただけ、挿絵も作監スタッフによるものになっていた)
既に人気が定着してからの刊行になるため、こちらのバージョンはカバー・挿絵が美樹本氏、巻頭にキャラ紹介やメカ紹介ページも加わりこちらも豪華スタッフそろい踏みの贅沢な構成になっております。本来見開き構成になっていたページを単ページ扱いで電子化した版元の処理は正直どうかと思いますが。
リアルタイムで紙の本を何度も読み返していた事もあり、今こうして改めて読み返しても当時の空気感が思い出されます。
キャラ設定やメカ設定がアニメと違う、ガルマの撃退が超絶アッサリどころか地球降下すらしないじゃないか、そもそも文章の「てにをは」が一部おかしいのはどうなのか、モノローグの主体が切り替わってる所で文節が上手く切れてないのはどうよ、と今の読者にとって色々ツッコミどころは尽きないとは思いますが。
この当時はこれが挑戦だったのです。
当時のロボットアニメは完全な商品のプロモーションツールで児童向けがメインであり、スタッフの名前すら(一部アニメファンを除けば)知られる事がなかった状況で。
それでもロボットアニメを作ってきたからこそ、富野氏はスタッフの作家的評価・地位向上のために色々試みておりました。阿久悠氏に教えを請うた(今に至るまで続いている)主題歌の作詞もそうですし、この小説もその一環と捉える事ができるでしょう。
ガンダムブームでロボットアニメをSFの一種として捉えるファンに対し、某SF作家が「ガンダムはSFじゃない」と公言して軽く騒動になったのもこの時期です。
そんな中で、コマーシャルフィルムの枠内で作られたアニメと(富野氏自身が考える)SF小説をなんとか融合させようとした試みの一つが、これだったのではないでしょうか。
本書終盤でララァは斃れ、ホワイトベースも沈み、ガンダムも廃棄され、アニメ同様に宇宙歴0080を迎えますが、戦争はまだ終わりません。
そこから先=2巻以降は、本書以上にアニメ本編から離れ、アニメのキャラとメカを借用した別の物語となっていきます。
アニメ本編で生硬な語り口になってしまったニュータイプ概念を捉え直すには、いいサブテキストになるやもしれません。 続きを読む投稿日:2013.12.05
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いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ
吉川洋 / ダイヤモンド社
経済政策への蒙を啓く良書
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まず前提として、当方教養課程で(新)古典派を学習、現代思想的関心による興味本位で資本論を読了。ケインズ派というかマクロはとっつき辛いと思っていたが山形浩生氏翻訳のクルーグマンの一連の公刊物で関心を抱き…「一般理論」を(こちらも興味本位で)読了という経歴の、床屋談義メインな市井の野良ケインジアンという立場です。
現在の世界的不況、及びクルーグマンのノーベル賞受賞で(それまで古典派に何度目かの葬送が行われたにも拘わらず)改めて脚光を浴びたケインズ、そしてある意味ケインズ以上に「経済学者」でありながらあまり注目を浴びておらぬ同時代人のシュンペーター、この2人の人生を辿りながら、それぞれの主張と独創性を大づかみに描き出したのが本書といえます。
人生のタイムラインに沿った学説概略紹介は分かりやすく、また双方の欠点についても避けることなく触れているので、不況対策にどういう経済の捉え方をすればいいのかを理解するには好適書と言えるでしょう。個人的にはほぼ事前知識皆無だったシュンペーターについて理解を深められました。
現在アベノミクスへの評価という形で、(政権への支持は別として)消費増税以外は概ね支持を見せるケインジアン側と、強固な批判者として旧来のIMF的な財政健全論(これはかなり問題外)と「金融政策よりも構造改革」な古典派系との対立が見受けられ、両者の論議の断絶が気に掛かっていたのですが。
シュンペーターの主張する「イノベーション」を現在的に捉え直すと、「経済」はマクロな政策とミクロな経済活動、それと別の第三の評価検討軸として産業構造というものが必要になっているのではないでしょうか。産業全体を「第〇種産業の規模は…」と語るのでなく、各種産業自体の構造が硬直化していないか、「創造的破壊」を封殺して緩やかな自死を容認する構造になっていないかといった視点。そうすると、財政健全論はともかく構造改革論とケインジアン的マクロ政策論双方の強みを生かせるように思います。特に企業依存型経済になっている日本の場合においては。
シュンペーターが主に主張していた景気循環論は著者も批判しておりますし、個人的にも(経済史の視点としてならともかく)お話にならない印象があるのですが、この点については検討すべき視点を提供してもらえたし、価値があったと感じられました。 続きを読む投稿日:2013.11.21
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幻獣少年キマイラ
夢枕獏 / 角川文庫
ラノベ揺籃期に生まれた傑作シリーズ
4
子ども向けと一般向け小説の間隙に生まれたジュブナイル・ジャンルが、SFブームの若年向け受け皿となり、やがてメディア・タイアップノベル、キャラクター・ノベル化して所謂「ラノベ」へと変貌していったように記…憶しておりますが。その中でも人気ブランドだった、今は亡き朝日ソノラマ文庫の看板タイトルの一つが本作。
元々のバージョンを知る身としては、天野喜孝氏でなく三輪士郎氏のイラストに(良い悪いではなく)軽い違和感を覚えるものの、いざ読み出せば中身は変わらぬキマイラ。張り詰めた筋肉と骨の軋む音の聞こえそうな夢枕獏氏ならではの肉弾戦描写を堪能できます。
美貌の少年2人の宿す共通の秘密「キマイラ」、2人の間に絡み合う因縁、2人を見守る雲斎や九十九の懊悩、人智を越えた強者達の戦い、…全てはここから始まりました。 続きを読む投稿日:2013.11.18
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国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)
ダロン・アセモグル, ジェイムズ・A・ロビンソン, 鬼澤忍 / 単行本
凡庸なれど緻密な文明論(上下巻通読)
3
基本的に本書のテーマは王道にして明快。なぜ国家で貧富差が出るのか、なぜ国家が隆盛したり衰退したりするのか。
まず中央集権体制がなければ国民の生産活動もイノベーションもままならぬ、でも包括的制度でないと…生産活動やイノベーションを胚胎し推進するインセンティブに欠ける。
ここで頻出する対立軸「包括的制度」=法の支配・万民の法の下での平等的政治体制、アンド万人が既存経済システムの創造的破壊を生じるイノベーションを生み出しうるような経済体制。対する「収奪的制度」=絶対者やエリートの専横による政治体制、アンド経済的強者が自分の利益の源泉たる経済システムを守るためにイノベーションを圧殺するような経済体制。これを念頭に置いて読む限り、全体に一般書として充分分かりやすく各種国家・文明の成り行きが描かれている。
要するに政治的自由主義の中でも多様性容認な現代型、そして経済でも自由主義が、国民の持てる総力を生産活動やイノベーションにつぎ込めるから強い、と。
どうすればそうなれるのかは、各国の「制度」に関わるため多様な経緯を辿るし偶然に依存する部分も多々あるが、その結論は変わらない。
恐ろしい程に王道でベタ。だけどそれを導出するために言及・調査されている世界各国各地域の量が膨大で、有無を言わせぬ程の説得力がある。
ある意味教養課程の経済史や、受験論述用の世界史の副読本としても利用価値があるのではないかと。
ただ、若干ひっかかりを禁じ得ないのは、本書の批判対象への言及。ジャレド・ダイヤモンドの地政学やヴェーバーの文化・倫理を一刀両断してしまっているのだが。
確かに両者ともに根拠や原因とするには弱いのだが、地政学は文明の発展にとって有利な条件ではあったろうし、ヴェーバーは元々社会事象の原因が多様である事を前提にした上で資本主義黎明期の駆動力に新教のメンタリティが資したという論調ではなかったかと(この点、マルクス主義側からのヴェーバー批判のように類型化が著しい)。
また、包括的制度の世界的極限たる合衆国が今陥ってる苦境はどう説明されるのか。例えば今の日本のように(他の原因も非常に多いが)一定水準の生活インフラが整ってしまった事で、イノベーションが生み出せても滅多な事で「創造的破壊」に至るような社会的インパクトが生み出せなくなってないか、とか。
それらの疑問は原著者の別のタイトルを参照すべき話ではあるのだろうが、いずれにしても本書の価値を減ずるものではなく、政治経済史・文明論として読む価値のあるタイトルだと思う。 続きを読む投稿日:2013.11.14
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人類は衰退しました6
田中ロミオ, 戸部淑 / ガガガ文庫
一家に一人、ようせいさんを。
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楽しそうでいいなあ。いやまぁ当の執筆者にとっては大変だろうけど。
今回は(技術力が失われているにもかかわらず無謀にも実施される)鳥人間コンテスト、そしてアニメでもぶっ飛んだ内容で楽しませて貰った同人誌…制作&即売会ネタ。
後半パートの方では雑誌連載のスケジュールや構成プランがgdgdになって編集サイドがマトモなアオリ文をつけられないネタ等、所々に「分かってる人」向けのニヤリとさせられるネタが仕込まれていて、これが実に「人退」らしい面白さ。
メンタルに屈折して、ねじ曲がって、ぐるりと一周して、一見まっすぐに戻ったかのように見える田中ロミオワールドは癖になります。 続きを読む投稿日:2013.11.05
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海戦からみた太平洋戦争
戸高一成 / 角川oneテーマ21
今、艦これネタでコラボ販売展開してほしい一冊。(13年11月初旬時点見解)
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……だって角川の刊行だし。二次大戦の海戦ネタなんだから、正にドンピシャリでしょう。寧ろなんでやらないのかと。
とはいえ、艦これライトユーザー的視点で読み出すとメンタル的に殺されます。
二次大戦の各種…海戦で、どういう経緯でどういうメンバーがどういう判断を下し、そこからどういう結末が訪れたか。
主要海戦ネタを時系列に沿って敗戦まで解説しておるワケですが。
艦これで名前の挙がってくるあの船・この船が片っ端から轟沈撃沈していく展開が延々続くのですよ。
しかも原因が、戦術・戦略レベルの頑迷さや大艦巨砲主義への拘り、失策当事者にリベンジマッチの機会を与えるために碌な罰もない指揮体制、日本の被害最小化よりも海軍のメンツ重視な姿勢とか、そういうフォローのしようも無いダメダメな要素ばかりなワケですよ。
もう何と言うか、過去の猟奇事件の被害者の写真を偶然見て一目惚れし、気になって事件の概要を調べてみたら果てしなく陰惨な状況を目の当たりにしてしまったような、マイルドなメンタルレイプ喰らう気分ですよ。
でもいいじゃないですか。過去の史実が元ネタなんだし、ならば史実を多少なりとも把握した上で楽しみたい。当時の愚かしさを再現しちゃいけないって気持ちだって湧いてくるってモンですよ。 続きを読む投稿日:2013.11.04