あかんたれさんのレビュー
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人類は衰退しました5
田中ロミオ, 戸部淑 / ガガガ文庫
今回もまったり。
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前半章は女学生友情ネタ、後半章はレゲー愛好者がニヤニヤするゲームネタ。
相変わらずシリアスとは無縁のシリーズだが、前半章は「わたし」の性格の屈折ぶりの起源を
垣間見る事になり、ちょっと作品違うのではと…軽く戸惑う羽目に。
なお、版元提供の電書の仕様によるものでしょうが、前半章の各小見出しが地の文に書体も変えずに
普通に紛れ込んでいる構成になっているため、読みながら小石に蹴躓くような違和感を覚えました。 続きを読む投稿日:2013.10.07
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江戸の刑罰 拷問大全
大久保治男 / 講談社+α文庫
江戸時代の刑事法と執行内容解説
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個人的には「無残絵」的な、ちょっと悪趣味な関心で購入してみたのですが。
流石にそういう路線に応えるタイプの本とはちょっと違います。
資料絵や描き起こされた図を使いながら、晒し首とか石抱きとか色々説明し…てくれてはおりますが、基本的には江戸時代の刑事法がどういったものだったか、その運用がどういう組織によって行われていたのか、どういう執行がなされていたのかを解説したものです。刑罰・拷問はその執行や尋問における態様というべき印象。
とはいえ色々勉強になる事も多く、例えば大岡裁きの越前のエピソードは中国等からのエピソードの孫引きだったり、「義賊」鼠小僧次郎吉が、実は盗んだ金のバラ撒きも一切やらずにバクチと女に使っていた只の泥棒だったりと、時代劇トリビアとでも言うべき情報が色々詰まっております。 続きを読む投稿日:2014.02.11
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神狩り
山田正紀 / ハヤカワ文庫JA
著者の商業デビュー作
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数年ほどブランクを空けては忘れ、忘れては買い直して、これで通読3回目。
「情報工学の天才」な主人公が巻き込まれたトラブルから始まり、人智を越える論理構造の言語との格闘、
果ては霊感能力者までゾロゾロ登…場してタイトル通り「神」を「狩り」たてようと試みる物語。
神は邪悪なりというテーゼを大前提とする展開になるため、その辺合わない人には厳しいかも。
執筆された時代の空気によるものか、今改めて読んでみると「幻魔大戦」を何となく思い出した。
(相手が強大すぎてオープンエンドにならざるを得ない所も含め)
同人誌用に執筆した原稿を代表が編集部に持ち込んでデビュー決定という経緯も異例だが、
同人でここまで描ききってしまう筆力は流石というべきか。 続きを読む投稿日:2013.10.08
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ナイーヴ 完全版 1巻
二宮ひかる / ジェッツコミックス
「読むと、したくなる」という名コピー
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所謂普通の恋愛ができているようで、ちゃんとできてない。そんなコミュニケーション不全気味でほどほどに器用、でも精神的に不器用な2人。
既に社会人として出発を遂げている、そんな中途半端にオトナな2人の恋愛…漫画です。
上記のような2人だから、そしてコミック連載の掲載誌が青年誌という事もあって読者ニーズもあり、まず身体のお付き合いからスタート。
以降も毎回エピソードごとにその手のシーンが入ります。
とはいえ、それ故に即物的エロティシズムを期待するとちょっと肩透かしになってしまうかも。
本作は(勿論裸体描写なども多いですが)2人の男女の、身体を重ねてもなかなか気持ちが重なりきらずにもどかしい思いを抱く所や、ピロートーク的な台詞の一つ一つの味わいを楽しむタイトルで、その意味では青年誌掲載コミックではあるものの男女問わずに楽しむ事のできる作品です。
最近少しずつ増えて来た男性・青年向けなベッドシーンを交えつつもキャラの心理や台詞の機微で楽しませるタイプの恋愛コミックの、言ってみればハシリの作家である二宮ひかる。その魅力が最も凝縮されたタイトルではないかと思います。(「ハネムーン・サラダ」も捨てがたいですが)
刊行時の帯のコピー「読むと、したくなる。」が実に秀逸でした。 続きを読む投稿日:2014.01.31
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けだもののように1 学園編
比古地朔弥 / 太田出版
野生の少女・規範なき聖女
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学園に転校してきた謎の美少女。口数も少ない、人付き合いも悪い、授業態度もよろしくない。
けれど主人公はある夜、彼女の秘密を知ってしまった。。。
生い立ち不明な謎の美少女・ヨリ子は社会規範も性規範もど…こ吹く風で生きる野生の少女でもあった。
性規範も希薄だから、割とノリでアレコレやってしまったりするワケで、男子は気が気でなくなってしまうし、女子は女子で「キスまでした〇〇君が」とか「〇股のスベタ」とか思って複雑な気分になってしまう。そんな「少女」の姿をした台風に翻弄される学園の様が描かれます。主人公を筆頭に皆振り合わされっぱなし。
本作の続編として、ヨリ子のパトロン的中年男性と彼女が東京に行ってしまった後を描く「東京編」、そこで更なるトラブルが起こって舞台を一度本作「学園編」に戻す「完結編」が存在します。中年男性と本作の主人公がひたすら振り回される展開となりますが、規範に頓着のない一種の「聖女」として著者が捉えているヨリ子が、数々のイベントを経て人間・ヨリ子へと着地する様が描かれています(振り回される2人も、苦い思いを味わいつつ成長します)。
まずは本書を、ただ本書だけではそういったシリーズの肝が楽しめないので、本書が楽しめた人は是非続編2作も見ていただきたい。 続きを読む投稿日:2014.01.27
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スラップスティック
カート・ヴォネガット, 浅倉久志 / ハヤカワ文庫SF
非ナショナリズムの行方
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やや長めのエッセイじみた著者の述懐形式のプロローグを経て物語は始まります。
突然変異のフリークス(奇形)な双子の姉弟。巨大でモジャモジャ髪で乳首が四つもあって、姉とセットになれば比類無い知恵を発揮する…ものの、バラになれば読み書き以上の事が大分覚束ない(逆に姉は単独では読み書き以外だけが達者)。そんな弟が主人公です。
そんな弟が合衆国大統領に就任。それだけでも割と大丈夫かと思いたくなりますが、更に全米が不治の病に冒されて国家としての体を失っていきます。
とはいえ、ディストピア的な重苦しさは皆無です。全編にわたって繰り返される「ハイホー」(思考のしゃっくり、と称されます)がその証。
読み解く鍵の1つは主人公の政策。ファミリーネームを撤廃させて、人為的かつランダムに決めた独自のファミリーネームを使うように定めます。血統も何も関係ない、単純にランダムにミックスされた「拡大家族」による共同体構想と言えるでしょうか。
もう2つは物語の端々に現れる「中国人」。文明として進歩も失い劣化したアメリカを凌ぎ、最早彼らには理解不能な独自のブレイクスルーを遂げています。
この2つから、本書はナショナリズムや権力、富める者が不可避的に陥る一種の貴族主義、そういったものが人々の不幸の温床になるとして、それを無効化したらどうなるか、という思考実験とも捉えられます。進歩は失われ文明の勢いは一気に消失する、でも人々は不幸じゃない。緩やかな衰退を楽しんでいる風すらあります。
中国人は、西欧文明の外部に存在する英知の象徴と考えるべきでしょうか。英知はアメリカを見放し、遙か先に進んでいってしまいます。
ニヤリとさせられる諧謔に満ちつつ、しかし読み進めるに従ってジワリジワリと侘しさを感じさせられます。 続きを読む投稿日:2014.01.26