noporinさんのレビュー
参考にされた数
694
このユーザーのレビュー
-
ルーズヴェルト・ゲーム
池井戸潤 / 講談社文庫
野球好き、カメラ好きが読んで楽しい経済小説
564
「半沢直樹」シリーズに代表される多くの池井戸作品は、「カネと企業と銀行」の激しい攻防が魅力で、登場人物は経営陣と経理担当者が主だが、この作品はもっと多様で経済以外の人間ドラマとして十分楽しめる。
廃…部を迫られる社会人野球チームは、新監督就任で強くなっていくチーム戦略やチームメートの絆も感動するし、会社経営の悪化に焦る株主たちの心理戦駆け引きも熱い。
そして、会社再建の要となるのは新製品の開発。メインの商品はカメラのイメージセンサーで、エンジニアがどんなことにこだわって開発し、営業がどんな戦略で売り込むのか、カメラ好きには別の立場で興味津々だった。
「これって、どことどこが仮想モデルだろうー(笑)?」とか。
経済小説が苦手だけど、青春小説が好き!という人でも、十分熱くなれる作品。
続きを読む投稿日:2014.05.01
-
万能鑑定士Qの事件簿 I
松岡圭祐 / 角川文庫
手に取ったら最後、シリーズ最後まで完走しないと止められない恐ろしい小説(笑)
35
1巻の事件は、街に蔓延る謎のシールの作者と意図を探る雑誌記者・小笠原と、シールの鑑定を担当した万能鑑定士・莉子が調査するうちに意外な事件に巻き込まれ・・・という内容。
シーンがとても細かく区切られて…、事件進行の合間に莉子の生い立ちと鑑定士になるまでの経緯を上手く差し込まれて、事件の謎とともに莉子の人物像にもぐいぐい引き込まれていきます。
そして意外な事件に巻き込まれていき、ひいては最初のシールがまさかこんなところでつながって・・・しかも日本国家存続の危機まで発展か?・・・それは2巻に続く・・・っておおーーーーーい!
私、単に映画化された巻(9巻)を読もうかと思ったものの、最低限の人物背景は知っとこかと1巻を買っただけなのに、「え!今後もこの調子で次巻に引っ張られたら途中でやめられないやん!」とぞっとしました(笑)。万能鑑定士Qシリーズって15巻以上ある・・・。
幸い、続きのエピソードがあるのは1・2巻だけで、他は原則1巻完結。
なので、先に映画化の9巻読んじゃったけど、やっぱり4~6巻のキャラクターがキーパーソンになってくることがあるので、結局最初から順番に読むのが一番この世界を楽しめる方法だと今は腹をくくり、現在6巻まで読了。結局、1巻ずつ完結したところで、次の鑑定を知りたくてたまらなくなるので、止められないのは同じだったというオチですが(笑)
莉子の万能鑑定ぶりは、美術品にとどまらず、食べ物・植物・科学・音楽・印刷・映画・・・・などあらゆるジャンルにわたり、シリーズ通して読めば、何か一つ自分の琴線がピクっとなる鑑定があるかもしれません。
高校時代が超絶バカでも、何が役立つかわからないから、関心があることはとことんつきつめてみなよ!と過去の私に読ませてあげたい。これからシリーズ読破するのが楽しみです。
続きを読む投稿日:2014.06.13
-
火花
又吉直樹 / 文春文庫
芸人の私小説なんてとんでもない。センスあふれる抒情的表現に引き込まれる人間小説
30
売れない後輩芸人と、借金まみれで破天荒ながら哲学的に後輩を導く天才肌の先輩芸人。その二人のやり取りを中心とした、ヒューマンストーリー。
誰かの生死がかかるとか、ドラマチックな駆け引きがあるとかいう起…伏が激しいわけではなく、かといってつまらないわけでもなく、ただただ主人公・徳永に話をする、先輩芸人・神谷の言葉がいちいち心に刺さりまくって痛い。
二人の会話が何とも抒情的で、刺激的で、ウィットに富んでいて、読者が芸人の世界に興味があろうとなかろうと、誰の人生においても当てはまり、私も何でもないようなところで、何故か涙ぐんでしまったこともあった。
芸人・ピース又吉の人生観と、作家・又吉直樹の引き出しの深さと大きさが相まって、短い作品ながらも、これまでの読書の中で思わずブックマークやハイライトを付けた箇所が一番多かった作品。
以下私が一番印象に残った表現を引用する。
以下、本文引用
「誹謗中傷は・・・・・(中略)、他を落とすことによって、今の自分で安心するというやり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?(中略)俺な、あれ、ゆっくりな自殺に見えるねん」(引用終わり)
ゆっくりな自殺・・・人として一番痛々しい末路かもしれない。
心に刺激ではなく、一筋の指針が欲しいとき、何度となく読み返したくなる一冊となった。 続きを読む投稿日:2015.07.16
-
白ゆき姫殺人事件
湊かなえ / 集英社文庫
本編に騙されるな!関連資料で二度おいしい
24
自分の彼女が勤める化粧品会社の同僚OLが殺害され、真相を追うルポライター。やがて被疑者が特定されるが、被疑者周辺を取材するうち、意外な人間関係と人物像が浮かび上がり・・と、ここまではよくあるミステリー…小説。
この作品が面白いのは、巻末についている「関連資料」です。
本編は取材対象の証言で構成されていますが、関連資料はその取材や事件報道時期の「ネットの反応」と、事件後の新聞・雑誌の検証記事が載っています。
ライターがSNSで他人の意見・推理を収集していたり、そのスレに思わぬ関係者が行きついて意味深な発言をしたり、取材対象者も自分のページで意外な本性を現していたり・・・。
最終的には犯行にいたる心情が書かれた犯人のブログも!
本編では語られなかった細部の状況が明らかになるだけでなく、証言者がリアルの取材で語ったことと、ネットでの匿名世界で語る別人格とのギャップが、よりストーリーを複雑にさせ、現代のネット社会の闇の深さを考えさせられます。
本編後に関連資料を読んで、もう一度本編を読むとセリフの意味が全く違うように思えて、一粒で二度おいしいみたいなww
電子書籍上では、各章の終わりに関連資料へのリンクがあり、いつでも本編と資料と行き来できるし、本編を全部読み切ったあと資料一気読みでもいいし、読み方を選べるのが、電子書籍ならではですね。
それにしても、リアルはどうなのかは別として、週刊誌の大衆記事はこうして盛られていくのか!としみじみ。一つ一つの取材ソースは間違った情報でもないのに、組合せと表現方法でここまで真実とかけ離れるイメージを与えられているのかと思うと、現実社会はどこまで真実が報道されているのかちょっと怖くなる作品です。 続きを読む投稿日:2014.03.11
-
下町ロケット
池井戸潤 / 小学館文庫
男のロマンとロケット打ち上げはどちらも儚く熱く涙を誘う。
11
どの池井戸作品を読んでも、現実の大企業やメガバンクはどこもこんなに非情で、中小企業の天敵になるものかと憂鬱になるのだが、この作品では、「日本初の純国産ロケットを打ち上げたい」という一点では敵も味方もな…く情熱を燃やす人々の群像劇だ。
それだけに、悪徳企業との勝負はともかく、最後の敵となるロケット製造企業との特許をめぐる駆け引きやキーデバイスのバルブシステムの開発に手に汗握る対決があっても、どちらにも共感でき、また2倍ドキドキハラハラする。
また、戦いは外だけではなく、社内との軋轢も厳しい。
社長自身の夢か、社員の生活の存続か。技術力向上か、利益追求か。
決して一枚岩ではない社内対立が、いつしかそのロマンあふれるプロジェクトの熱に押されて一気呵成に燃え上っていく。
最後までどんでん返しがありながらも感動のラストは涙を誘う。
「夢じゃ食えないんだよ!だから男は・・・」とか、つい思ってしまってごめんなさい(;´・ω・`)ゞ
続きを読む投稿日:2015.10.18
-
銀翼のイカロス
池井戸潤 / ダイヤモンド社
悪を懲らしめるヒーローではなく、根深い社会の縮図と向き合う半沢
10
これまでのシリーズで見られた半沢直樹の徹底した調査能力と判断力、仲間との連携によって悪を追い詰めていく痛快さを期待するなら、前作の「ロスジェネの逆襲」の方がスリリングだ。
何故なら、これまでは半沢が銀…行と企業の未来を賭けて企業再生に取りくむと見せかけて、実は黒幕は銀行内にいて、派閥の足の引っ張り合いで、敵は単純で退治しやすい。倒せばスカッとする。
しかし、今作は、体質が違う銀行が合併することによる歪みと、それに乗じて利権をむさぼろうとする政治家と企業の思惑が絡まりすぎて、1人の行員が真実を暴いて解決できる問題ではなく、「正論が正義ではない」重厚で多角的なストーリー。途中から「帝国航空」の再生問題そっちのけで、政治汚職に比重が掛かりすぎるのがちょっと気になるところだが。
善悪が分かりにくいこともあるが、逆にいろんな立場に立って正義と真理を考えられるので、誰に共感するかによっては読後の感想は違ってくるだろう。あの金融庁・黒崎ですら、単なる敵でもない、複雑な立場で登場する。
今回の半沢直樹の活躍としては、自分自身で走り回るより、その人徳と人脈で情報が集まり、もう駄目だと思ったら、相手が自滅した・・という風に、若干能動的より受動的だ。
それでも、例の決め台詞も健在だし、相変わらず「最後はいいとこだけ持ってくなぁww」と、役割は果たしている。
決してハッピーエンドではないが、これからの明るい未来に期待したくなる終わり方だった。
もしドラマ化するなら、半沢だけでなく、是非頭取の葛藤と「男気」も中心に据えてほしい。 続きを読む投稿日:2014.08.04