noporinさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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下町ロケット
池井戸潤 / 小学館文庫
男のロマンとロケット打ち上げはどちらも儚く熱く涙を誘う。
11
どの池井戸作品を読んでも、現実の大企業やメガバンクはどこもこんなに非情で、中小企業の天敵になるものかと憂鬱になるのだが、この作品では、「日本初の純国産ロケットを打ち上げたい」という一点では敵も味方もな…く情熱を燃やす人々の群像劇だ。
それだけに、悪徳企業との勝負はともかく、最後の敵となるロケット製造企業との特許をめぐる駆け引きやキーデバイスのバルブシステムの開発に手に汗握る対決があっても、どちらにも共感でき、また2倍ドキドキハラハラする。
また、戦いは外だけではなく、社内との軋轢も厳しい。
社長自身の夢か、社員の生活の存続か。技術力向上か、利益追求か。
決して一枚岩ではない社内対立が、いつしかそのロマンあふれるプロジェクトの熱に押されて一気呵成に燃え上っていく。
最後までどんでん返しがありながらも感動のラストは涙を誘う。
「夢じゃ食えないんだよ!だから男は・・・」とか、つい思ってしまってごめんなさい(;´・ω・`)ゞ
続きを読む投稿日:2015.10.18
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火花
又吉直樹 / 文春文庫
芸人の私小説なんてとんでもない。センスあふれる抒情的表現に引き込まれる人間小説
30
売れない後輩芸人と、借金まみれで破天荒ながら哲学的に後輩を導く天才肌の先輩芸人。その二人のやり取りを中心とした、ヒューマンストーリー。
誰かの生死がかかるとか、ドラマチックな駆け引きがあるとかいう起…伏が激しいわけではなく、かといってつまらないわけでもなく、ただただ主人公・徳永に話をする、先輩芸人・神谷の言葉がいちいち心に刺さりまくって痛い。
二人の会話が何とも抒情的で、刺激的で、ウィットに富んでいて、読者が芸人の世界に興味があろうとなかろうと、誰の人生においても当てはまり、私も何でもないようなところで、何故か涙ぐんでしまったこともあった。
芸人・ピース又吉の人生観と、作家・又吉直樹の引き出しの深さと大きさが相まって、短い作品ながらも、これまでの読書の中で思わずブックマークやハイライトを付けた箇所が一番多かった作品。
以下私が一番印象に残った表現を引用する。
以下、本文引用
「誹謗中傷は・・・・・(中略)、他を落とすことによって、今の自分で安心するというやり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?(中略)俺な、あれ、ゆっくりな自殺に見えるねん」(引用終わり)
ゆっくりな自殺・・・人として一番痛々しい末路かもしれない。
心に刺激ではなく、一筋の指針が欲しいとき、何度となく読み返したくなる一冊となった。 続きを読む投稿日:2015.07.16
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銀翼のイカロス
池井戸潤 / ダイヤモンド社
悪を懲らしめるヒーローではなく、根深い社会の縮図と向き合う半沢
10
これまでのシリーズで見られた半沢直樹の徹底した調査能力と判断力、仲間との連携によって悪を追い詰めていく痛快さを期待するなら、前作の「ロスジェネの逆襲」の方がスリリングだ。
何故なら、これまでは半沢が銀…行と企業の未来を賭けて企業再生に取りくむと見せかけて、実は黒幕は銀行内にいて、派閥の足の引っ張り合いで、敵は単純で退治しやすい。倒せばスカッとする。
しかし、今作は、体質が違う銀行が合併することによる歪みと、それに乗じて利権をむさぼろうとする政治家と企業の思惑が絡まりすぎて、1人の行員が真実を暴いて解決できる問題ではなく、「正論が正義ではない」重厚で多角的なストーリー。途中から「帝国航空」の再生問題そっちのけで、政治汚職に比重が掛かりすぎるのがちょっと気になるところだが。
善悪が分かりにくいこともあるが、逆にいろんな立場に立って正義と真理を考えられるので、誰に共感するかによっては読後の感想は違ってくるだろう。あの金融庁・黒崎ですら、単なる敵でもない、複雑な立場で登場する。
今回の半沢直樹の活躍としては、自分自身で走り回るより、その人徳と人脈で情報が集まり、もう駄目だと思ったら、相手が自滅した・・という風に、若干能動的より受動的だ。
それでも、例の決め台詞も健在だし、相変わらず「最後はいいとこだけ持ってくなぁww」と、役割は果たしている。
決してハッピーエンドではないが、これからの明るい未来に期待したくなる終わり方だった。
もしドラマ化するなら、半沢だけでなく、是非頭取の葛藤と「男気」も中心に据えてほしい。 続きを読む投稿日:2014.08.04
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県庁おもてなし課
有川浩 / 角川文庫
単なる町興しストーリーじゃなくて自分興しとして読むべし。
3
官民一体となって町興しってよく言うけど、どれだけ官と民がずれまくっているか、そのギャップにまず驚き、双方のかみ合わなさにやきもきし、掛水と多紀ちゃんのいじらしさと発展の遅さにももっとやきもきし(笑)、…読者側は共感というより、いろんな感情が沸き起こってとても忙しい。つまり引き込まれるということだ。
確かに地方都市は東京みたいな大都会より話題性は乏しい。でも、そこにしかない魅力はそこに住んでいる人が発信すべきで、まずは自分たちが楽しまなきゃアピールもできない。
これって、町興しに奮闘する地方公務員の成長ストーリーではなく、自分自身の魅力に気付けって話なんじゃないかなぁ。
自分が自分を広報しなきゃいけない場面は人生いくらでもある。受験、就職、昇進、結婚・・・、どんな人が読んでもまずは「自分の魅力」を考えてみるいいきっかけの作品化もしれない。 続きを読む投稿日:2014.06.29
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万能鑑定士Qの事件簿 I
松岡圭祐 / 角川文庫
手に取ったら最後、シリーズ最後まで完走しないと止められない恐ろしい小説(笑)
35
1巻の事件は、街に蔓延る謎のシールの作者と意図を探る雑誌記者・小笠原と、シールの鑑定を担当した万能鑑定士・莉子が調査するうちに意外な事件に巻き込まれ・・・という内容。
シーンがとても細かく区切られて…、事件進行の合間に莉子の生い立ちと鑑定士になるまでの経緯を上手く差し込まれて、事件の謎とともに莉子の人物像にもぐいぐい引き込まれていきます。
そして意外な事件に巻き込まれていき、ひいては最初のシールがまさかこんなところでつながって・・・しかも日本国家存続の危機まで発展か?・・・それは2巻に続く・・・っておおーーーーーい!
私、単に映画化された巻(9巻)を読もうかと思ったものの、最低限の人物背景は知っとこかと1巻を買っただけなのに、「え!今後もこの調子で次巻に引っ張られたら途中でやめられないやん!」とぞっとしました(笑)。万能鑑定士Qシリーズって15巻以上ある・・・。
幸い、続きのエピソードがあるのは1・2巻だけで、他は原則1巻完結。
なので、先に映画化の9巻読んじゃったけど、やっぱり4~6巻のキャラクターがキーパーソンになってくることがあるので、結局最初から順番に読むのが一番この世界を楽しめる方法だと今は腹をくくり、現在6巻まで読了。結局、1巻ずつ完結したところで、次の鑑定を知りたくてたまらなくなるので、止められないのは同じだったというオチですが(笑)
莉子の万能鑑定ぶりは、美術品にとどまらず、食べ物・植物・科学・音楽・印刷・映画・・・・などあらゆるジャンルにわたり、シリーズ通して読めば、何か一つ自分の琴線がピクっとなる鑑定があるかもしれません。
高校時代が超絶バカでも、何が役立つかわからないから、関心があることはとことんつきつめてみなよ!と過去の私に読ませてあげたい。これからシリーズ読破するのが楽しみです。
続きを読む投稿日:2014.06.13
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舟を編む
三浦しをん / 光文社文庫
「辞書編纂」の「編」は、「言葉を編む」こと
10
『記憶は言葉で作られている』
「舟を編む」に出てきた中で、一番印象的な一文です。
言葉の意味を知るために辞書を引くと、それを説明するためにまた違う言葉が並び、その言い換えた言葉にもまた意味がある。意…味だけでなく歴史もある。「~へ」「~の」という助詞にさえ、幾通りの意味もニュアンスもある。
この本を読むまで、そんな風に考えて辞書を使ったことなど今までありませんでした。そして、時代の流れと共に変わりゆく言語を終わりなく追いかけている人たちのことも。
よく「この気持ちはどんな言葉でも言い表せない」という表現をしますが、それでも、他の人に伝えるにはやっぱり言葉がいる。この本の感想も同じです。何て書いていいのかさっぱりわからないけど、この「ほわっとした幸福感」は何としても伝えたいという衝動がこのレビューを書かせています(でも拙すぎて・・・ww)
編み物を一目一目編むように、つたない言葉からはじまっても、言葉が一つずつつながって、自分の想いや記憶が大きなカタチになった時、きっと相手に伝わるるし、きっと素敵な人生になる。
だから一語一語、大事にしたいと気づいた作品でした。 続きを読む投稿日:2014.05.06