
唐玄宗紀
小前亮
講談社文庫
楊貴妃がかわいそう
則天武后の孫にあたる唐の玄宗皇帝の生涯を側近の宦官高力士の視点で描く。 多少の欠点はあっても名君と言って差し支えない人物。 傾国の美女と言われる楊貴妃に対しても、贅沢はライチを取り寄せるぐらいで、むしろ悲劇の女性としてかなり好意的に描いている。 書家として有名な顔真卿や詩人の李白、杜甫なども登場し、唐文化の隆盛を感じさせる。 安禄山の反乱によって長安が陥落した時の杜甫の詩「国破れて山河あり…」は、歴史的背景がわかった上で読むと、学校で習った時とは全く違い、なんとも味わい深い詩として胸に響いてくる。
0投稿日: 2017.10.27
則天武后(下)
津本陽
幻冬舎文庫
この婆さんには誰も勝てない
皇后として実権を握っていた武后は、夫である高宗の死後も皇太后として君臨。 ついには周王朝を復活させ、自ら皇帝の座に就く。 この時、山上憶良などが遣唐使として拝謁したらしいが、となると遣唐使ではなく遣周使と呼ぶのが正解では? また、水戸光圀の「圀」など則天文字を作ったり、元祖「生類憐みの令」や元祖「国分寺建立の詔」など興味深い政策はあるものの、基本的には政敵の抹殺、誅殺の繰り返し。 ページをめくるたびに誰かが殺される。 まるで処刑者リストのよう。 親類や子、孫でも容赦はない。 それにしても82歳の老婆に誰も逆らえないっていうのもねぇ…。
1投稿日: 2017.10.12
則天武后(上)
津本陽
幻冬舎文庫
中国史上唯一の女帝による恐怖政治
唐の2代皇帝太宗(李世民)の愛妾でありながら息子の皇太子と便所で密通し、太宗死後、即位した高宗の皇后にまで上り詰め、皇帝をもしのぐ権力を握る女帝の生涯。 一時は尼寺の尼僧にまで身を落とすが、そこから這い上がっていく運と執念が凄まじい。 前半は陰謀、謀略の限りを尽くしてのし上がっていくさまがストーリー的にも面白いが、皇后即位後の後半部分はひたすら粛清の連続でちょっとげんなりしてくる。 権力のためなら自分の子どもさえも殺す非情さ。 この女性、いったいどれだけ殺せば気が済むのだろうか?
0投稿日: 2017.10.01
インデックス
誉田哲也
光文社文庫
新メンバーで姫川班復活!
ブルーマーダー事件前後の姫川玲子を描く短編集。 いつもながら姫川のデキる女っぷりが最高。 きもキャラ井岡との掛け合いも、なくてはならないものになってきた。 最近、井岡のドM感が理解できてしまう自分がちょっと怖い。 この中では『彼女のいたカフェ』が好き。 第三者の女性視点で描かれる姫川の素顔が垣間見れるのが新鮮。 こういうのも短編集ならではの醍醐味だろう。 そして待ってました!菊田とのコンビ復活が嬉しい。
0投稿日: 2017.09.25
戦国の陣形
乃至政彦
講談社現代新書
戦国の誤解
戦国オタクや『信長の野望』ファンにはたまらない内容のはず。 多くのドラマや映画の合戦シーンに陣形の妙を感じさせる描写がないという筆者の意見に強く共感。 陣形に焦点を絞った内容ながら、えー、そうなの?と思うような主張が次々と繰り出される。 村上義清が意外とすごい奴だってことがわかったし、鶴翼の陣ってV字型じゃないのか! 関ヶ原は小早川秀秋の裏切りが最初? 伊達政宗は眼帯してなかったの? ゲームで重要な陣形の相性なんて存在しないだと! などなど様々な資料を基に真相を突き付けてくる。 もしかしたら今後の歴史解釈が大きく変わるかもしれない画期的な新説。 結局、元凶は諸葛孔明ってこと?
0投稿日: 2017.09.20
世界一豊かなスイスとそっくりな国ニッポン
川口マーン惠美
講談社+α新書
アルプスの少女ハイジの裏に潜むブラックなスイス
いつもタイトルで物議を醸す川口さん。 今回もそっくりというほどの共通点は少なかったように思うが、スイスという国を知る上でとても勉強になった。 アルプスの少女ハイジの牧歌的なイメージしか持たない私にとっては驚くことばかり。 スイスのブラックな面を沢山知ることとなった。 半ば人身売買のような里親制度、口減らしのための傭兵輸出、露骨な人種差別、汚い金でも預かる銀行。 日本が見習うべきは有事の際の危機意識やエネルギー政策、観光業など。 核シェルター普及率、スイス114%に対して日本は0.02%って…唯一の被爆国なのに。 北朝鮮もミサイル飛ばしてるし、大丈夫か日本。
0投稿日: 2017.09.16
決戦!三國志
田中芳樹,東郷隆,天野純希,吉川永青,木下昌輝
講談社
衝撃のラストに戦慄する
『三國志』のストーリーが頭に入っている人には、それを補完すべく脇役的な人物にスポットを当てたサイドストーリーとして楽しめる。 『三國志』未読の人にはちょっと厳しいかも。 許攸を描いた木下昌輝さんの『姦雄遊戯』と周瑜を描いた天野純希さんの『天を分かつ川』はどちらも衝撃のラストが見ものだ。 東郷隆さんの『倭人操倶木』は日本や邪馬台国との関わりなども絡めて、興味深い考察を交えている。 田中芳樹さんの『亡国の後』は、切れ者の勝者たちが命を縮めていく傍らで、敗者である暗愚な劉禅が最終的にもっとも安寧に生涯を遂げたという点で、感慨深い余韻を残す作品となっている。
0投稿日: 2017.09.10
日本人の誇り
藤原正彦
文春新書
日本人の自虐的歴史観を変えてくれる一冊
東京裁判への痛烈な批判とGHQによる「罪意識扶植計画」により、今なお自虐史観にとらわれている日本人への覚醒を促した本。 これを読むとアメリカや中国がとんでもなくひどい国に思えてくる。 戦争は勝てば官軍。歴史は勝者の都合でいかようにも書き換えられる。 その書き換えられた歴史を律儀に信じている日本人。 その負い目が弱腰外交を生み、改憲に躊躇し、日米同盟依存の体質を作っている。そのくせ内に対しては個人主義や権利を振りかざし、和や人情を尊ぶ日本人の美徳が失われていると訴える。 過激な論調だが、藤原さんの考え方には同感だ。
1投稿日: 2017.09.10
紅の五星 冷たい狂犬
渡辺裕之
角川文庫
ジェームズ・ボンドを彷彿とさせる日本人のスパイアクション
冷たい狂犬シリーズ2作目。 007の日本版という感じのスパイ小説。 この手のストーリーには欠かせない美人スパイも登場。 敵とわかりつつもベッドインしてしまう余裕ぶり。 今回はインドネシア・フィリピンを舞台に、前回の敵だった中国情報局と協力しテロリストに立ち向かう。 変装、尾行、ハッキングを駆使しながらの諜報戦がスリリング。 これを読む限りフィリピンはちょっと怖くて、観光旅行には行けないなぁ。 本作の続きは新傭兵代理店シリーズ『凶悪の序章』へと持ち越され、藤堂&影山の夢の最強コンビの競演が実現する。
0投稿日: 2017.08.27
冷たい狂犬
渡辺裕之
角川文庫
本格的スパイアクション小説!
新傭兵代理店シリーズ『凶悪の序章』を読んでいたら、突然凄腕の男が登場してきて、こいつは誰だ?って思ってたら、どうやら新シリーズの主人公らしいということがわかり、作者の術中に嵌ってまんまとこちらのシリーズも読むことになってしまった。 韓国を舞台に中国情報部との壮絶な諜報戦を繰り広げる。 ストーリーも面白いのだが、韓国のお国事情も興味深い。 たった5時間の授業と50メートル直進の実技試験で運転免許取得って…。 医師の処方箋なしで薬が手に入るというのもどうなんだか。 主人公の影山夏樹のキャラクターが魅力的で、かっこいいダンディな中年オヤジが大活躍。
0投稿日: 2017.08.27
