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レビューネーム未設定さんのレビュー
いいね!された数56
  • さいはての彼女

    さいはての彼女

    原田マハ

    角川文庫

    なんともステキな女性たち

    短編が4つ入ってます。 こういうのは「女の子応援小説」とでも言うのでしょうか? 「お仕事小説」とは違って、年齢的にみんな働いてるけどスポットは仕事よりも彼女たち自身。 恋に仕事に、そして自分自身の立ち位置に悩みや葛藤を抱える彼女たち。 どこにでもある、誰にも覚えのあるそのモヤモヤを旅を絡めて描いていく。 うまいなぁと思うのは決して説教臭くなく、いい話にしようという押しつけがましさもないところ。 なのにそんなに力の入っていなさそうなシーンでうるっとしちゃうのよね。 この人の書く女性はみんなさっぱりしていて気持ちがいい。 イケメンの父を持つ涼香はカッコイイ父が大好きだったが、その父は浮気した挙句に出奔。 それ以来イケメンはパンドラの箱と戒めていたのにイケメン社長に恋してしまう。 『 「おれ、涼香がいいんだよ」 これが効いた。 』 しかしその後 『 「おれ、涼香がコワいんだよ」 これがまた、痛いほど効いた。 』 これで一気に涼香が好きになってしまった。 よく考えると実は都合が良すぎるところもあるんだけど、それは小説としての舞台設定みたいなもので全く作品を損なうものではない。そこにいる彼女たちがどう思い行動するかが主題だからね。 読めばきっと清々しい気分になれますよ。

    1
    投稿日: 2014.07.08
  • 純平、考え直せ

    純平、考え直せ

    奥田英朗

    光文社文庫

    奥田さんって読み心地が抜群

    ヘンなタイトルだなぁ、と思ったら全編タイトル通りだった。 ヤクザの構成員、純平は心から慕うアニキの啖呵を真似てみたり、ヤクザの道(?)に外れた汚いことを心から嫌ったり、女の子や友達にはいいカッコをしようとし、とにかくなんだか憎めないキャラだ。おまけに言うことが的を得ていてカッコイイ。 このまままっすぐ育ってくれよ、と思わず願ってしまうが彼の生きている世界がそれを許さない。 組の親分から敵対する組の幹部の命を取ってくるよう言われる。 純平は待ってましたと喜び勇んでこの指令を受けるわけだが・・・ とにかく純平がカッコかわいい。 普段は目にすることのない裏社会の話だが、過剰にアンダーグラウンドの凄惨さを醸し過ぎず、映画のようにキメ台詞をビシッと言ったり外国かのようなアクションシーンがあるわけではなくて、そこがいい。 全編が純平にとっては日常のことでその雰囲気がよく伝わってくる。だから止めようもなく人生を転落して行こうとしているはずなのにそこに危機感は感じられない。 純平に悲壮感がないからだ。 殺人という罪の話でもあるはずなのに、道徳の教科書のように真正面からそのことを書くことはしない。 人と関わり多くを感じ純平がどう決断するのか、皆さんもぜひ一緒に見ていただきたい。

    1
    投稿日: 2014.06.16
  • いつか、虹の向こうへ

    いつか、虹の向こうへ

    伊岡瞬

    角川文庫

    安心して読めるハードボイルド

    ハードボイルドです。主人公は元刑事のちょっと情けなさの漂うおじさん。らしいんだけど、力の抜け方が逆にオトナの余裕があって魅力的だ。 夜の繁華街で知り合った少女が殺人の容疑で捕まり、主人公が元刑事というシガラミもあり事件に巻き込まれていく。 主人公の家には二人の男と一人の女の同居人がおり、彼らとの出会いから同居するに至るエピソードや主人公が刑事をやめることになった過去の事件などを絡めながら話が進む。 全体的に非常にうまい。吟味された抑制のきいた文章なのでテンポよく読め、全体の組み立て方もキャラの作り方もバランスがいい。 犯人探しがメインだとは思わなかったので、意外な犯人が用意されててぼーっと読んでた私はまったく気づかなかった。 小説らしいデフォルメが少ない分イマドキ流行のカタルシスは少ないけれど、主人公の斜に構えた、けれど傾きすぎない(年齢設定のせいかな)スタイルが小気味よい、地に足の着いた良い小説だ。

    3
    投稿日: 2014.06.03
  • 叫びと祈り

    叫びと祈り

    梓崎優

    東京創元社

    すでに独自の世界を持っているので、今後に期待大

    短編集です。どの話にも斉木が出てくるので連作短編っていうのかな。 表紙が外国の歴史ある街の建物といった風情で、初出がミステリ・フロンティアだからモダンミステリみたいのを想像してたんだけど、なんと砂漠が舞台の話から始まります。 いい意味で話がどう展開するのかわからず楽しめました。 ミステリだと思って読んでるので、主軸の謎がどの話もちょっと無理があるのが残念ですね。 ただそれぞれ舞台がとても魅力的なので、むしろミステリにしない方がいいような。作者はミステリにこだわりがあったのかなぁ。 特殊な状況(一般の日本人にとっては)であるからこそ説得力のある、そして驚ける動機が多かったのでそこにいかに感情移入できるかがカギだと思うんだけど、舞台設定に寄り添えないまま謎解きがされると、ミステリとしてはむしろ納得、素直に考えるとそういう理由だよね、という結果に・・・ しかし主軸ではないところに仕掛けられているイタズラの見事なこと。やられたー、とワクワクしちゃいますよ。 ところでこれは蛇足ですが、ミステリとしては統一感がなくて少し落ち着きませんでした。 ミステリにもジャンルがありますが、日常系なのか本格なのか社会派なのか・・・死人は出るのか出ないのか(笑) そこは新人さんのしかも連作短編ならそろえた方が気持ちいいかな。 たぶん引き出しがたくさんあり過ぎるんでしょう、ということでこれからも期待して追い続けようと思います。

    2
    投稿日: 2014.05.11
  • 化学探偵Mr.キュリー

    化学探偵Mr.キュリー

    喜多喜久

    中公文庫

    ライトノベルにしてもライトすぎるかな

    主人公は大学の庶務課で働く社会人1年目の舞衣。大学で起こる事件を准教授の沖野と共に解決していく。 短編が5コ入った日常の謎系のミステリですね。 表紙のイラストからもわかるようにライトノベルです。話は軽いです。 学内や舞衣の周りで起こる謎をタイトル通り科学の切り口で解決していきます。キャラがステレオタイプから一歩もはみ出してない印象。この手の話はキャラが立ってないと読むところがないのに、1冊目だから遠慮したのか沖野の「変わった人」というあたりは伝わってこず、舞衣は女性読者に嫌われる一歩手前をぎりぎり綱渡りしてるかな。 そのうちこの二人がお互いを気になる存在と認識するだろう流れなんですが、どうも舞衣にそちらの魅力が感じられず残念。 謎もうまくまとまっているけれど、ちょっとコンパクトで子供っぽいかな。 2冊目以降で沖野の変人さと舞衣のステキさが増してくれるといいんだけど・・・。

    0
    投稿日: 2014.04.27
  • アイビー・ハウス

    アイビー・ハウス

    原田ひ香

    講談社文庫

    読めなかった

    すみません。きちんと最後までは読めませんでした。 二組の子供のいない夫婦がシェアして住む戸建て住宅「アイビーハウス」が舞台。 そこに見知らぬ女が訪ねてくることから波紋が広がり・・・という話らしいんだけど、帯やあらすじから想像する通りに話が進んでしまい、いつまでたっても予想外の展開にはならないようなので、後半は飛ばして読んでしまいました。 なにより気持ち悪かったのは、大抵この手の話は仲良しだけど心の中にはいろんな葛藤や鬱屈があってそれがあるきっかけで表面化して、結果その小さなコミュニティが崩壊していく、という流れだろうけど、ごめん、どうみてもあなたたち最初から難有りだよね、という所。 4人が仲が良くて一緒に住んでてとっても楽しいの!という場面がないからか、それぞれの性格や考え方の偏りが初めから気持ち悪くて、一緒に住むなんて無理だよね、むしろ夫婦としても結構無理だよね、と思わせられてしまった点。 いったい何が書きたかったのか、夫婦という単位では書けない話だったのかが疑問。

    0
    投稿日: 2014.04.04
  • SOSの猿

    SOSの猿

    伊坂幸太郎

    中公文庫

    中の下

    いつもの通り特に大きな盛り上がりもなく、なにがどうなってるのかさっぱりわからないまま話が進みます。 証券会社の社員が入力ミスで会社に300億の損害を出したり、子供が虐待されてたり、交通事故で人を死なせたり、と世界はまったく平穏ではないけれど、これもいつも通り。 話は「私」と「猿」の話が交互に進む。互いに関係なさそうな話だけれど、もちろん最後にはひとつの話になる。本格ミステリみたいに種明かしがあるわけだけど、それがちょっと無理があるためか、いつも以上に全体的にぼんやりしてしまったかも。 ウィットに富んだ会話やテンポのいい文章に時々くすりと笑わせられ、本家エクソシストや孔子のうんちくたっぷりのエピソードは安定の面白さ。

    0
    投稿日: 2014.03.30
  • あなたのための物語

    あなたのための物語

    長谷敏司

    ハヤカワ文庫JA

    意外な面白さだった

    人の感情、知識、経験を取り出すことのできるナノマシン(すいません、理解が追い付かずざっくり自己流です)を開発中の女性が主人公。 装丁からハードSFかと思ったら、舞台設定が近近未来なせいか道具立ては驚くほど身近。 いかにもありそうだし、すぐにこういう世の中になるんだろうというシチュエーションがたくさんあって、今私たちはSFの世界に生きてるんだなぁと思わせられた。 しばらく読んでから気づいたが、話は主人公をピンポイントで追っていていつまでたっても登場人物は増えないし、舞台となる場所も限られてる。なのに全く飽きずに読み進められる、というのは作者の力量のおかでだろうか。 主人公がちょっとぐるぐるしちゃうのが気になったけど、死にまつわる話なのでわざとそうしたのか作者もぐるぐるしちゃってるのか・・・。 このテーマでこの設定でただ主人公を追うだけでこの量を書ききったのはすごいと思う。 ロボットも宇宙も未知の生命体も出てこなくてもSFが好きという人は楽しめるでしょう。

    5
    投稿日: 2014.02.18
  • 裏閻魔

    裏閻魔

    中村ふみ

    ゴールデン・エレファント賞

    面白かった

    第1回ゴールデンエレファント賞 大賞受賞作 現在続編が出て3巻で完結らしいです(すいません未読です) 1巻では幕末から昭和までが舞台。不老不死の運命を背負った刺青師が主人公。 本の装丁からライトノベルやアニメっぽいものを想像したけど、実際はもっとしっかりしてます。 史実をからめつつ、主人公の不老不死ゆえの苦悩や葛藤を描き、しかし最近ありがちな脳内グルグルにならずにストーリー重視。なにしろ主人公、新撰組隊士だったりしますからね。ただその部分はかなりさらりと。 文章は軽妙で読みやすく、携帯小説のような言葉のセレクトが時代小説として読むと違和感があるかもしれないけど、くすりと笑わせてくれるのでOK。 主人公も魅力的だけど、脇を固める登場人物もいい感じ。とくに主人公の秘密を知り腐れ縁的にかかわり続ける牟田(むた)信正は、主人公よりも年下なのになんだかお兄ちゃんみたいでとっても微笑ましい。 優れたエンターテイメントだと思う。 ただ、表紙のアニメっぽい絵、あれはちょっと違うかなぁ

    1
    投稿日: 2014.02.16