くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
参考にされた数
861
このユーザーのレビュー
-
高い城の男
フィリップ・K・ディック, 浅倉久志 / 早川書房
不思議な物語です
1
第二次世界大戦で、もし枢軸国側が勝っていたら?そんな設定の小説は結構沢山あります。日本でも、関ヶ原で豊臣方が勝っていたらという小説もありますね。でも本作の面白さは、そのような「たられば」の世界を描き…ながら、こんな世界になるでしょうという単純なものではないところです。
ストーリーの中では、なんと「もし連合国側が勝っていたら?」という設定の小説が隠れベストセラーになっているのです。これが展開のキモとなります。作者がアメリカ人である所以ですね。
ストーリー展開としては、なかなか本筋が見えてこず、何がなんだかわかならいまま、モヤっとした感じで進みます。にも関わらず読み進んでしまうのは、それぞれのエピソードが興味深いからで、文化論的にも面白いかもしれません。
ただ、もし日本が勝っていたとしたら、作中にある様にアメリカ文化に傾倒する日本人は、おそらくいないだろうし、ましてや易経が流行るとは思えないんだけどなぁ。作者はなぜ易経に注目したのか、それを聞いてみたい気がします。
枢軸国といいながら、実は一枚岩ではなかったという点を鋭く突いて暴いているのも面白く、万人向けの小説とは言えないかもしれませんが、興味をそそった、お話でありました。 続きを読む投稿日:2015.05.31
-
新訳 茶の本 ビギナーズ 日本の思想
岡倉天心, 大久保喬樹 / 角川ソフィア文庫
入門にはピッタリです。
3
書籍説明にあるとおり、「茶の本」と「東洋の理想」の他に、「エピソードと証言でたどる天心の生涯」が収められています。読むきっかけは、Eテレの100分de名著で紹介されたことですが、岡倉天心の名前は知っ…ていても、彼がどのような人物でどのような思想の持ち主だったかは、全く知りませんでした。私の様な人は「エピソード…」の方から目を通した方が良いかもしれません。
さて、この本は、明治時代、今から100年前、英語で執筆された日本文化論です。つまり最初から外国人向けに書かれた本であるということです。この本には原文は載っていませんが、大久保喬樹の訳とわかりやすい解説が掲載されています。
「茶の本」に関して言えば、当然、お茶の話です。でも、そこから始まり茶碗、茶器、そして花、絵、茶室と展開していき、いつしか芸術論に行き着き、利休の死を語って終わります。そこには「自然との共生」という老荘思想、そして禅を土台とした理念があったようです。私自身は、もっと老子、荘子を勉強する必要があるなと痛感いたしました。
天心の日本を中心としたアジア主義というものが、軍国主義につながったという主張もあるようですが、あの時代に早くも物質文明一辺倒の西洋文明に警鐘を鳴らしていたということが重要なのだと思います。今もし生きていたら、どんな主張をなさるのでしょうか?それとも、嫌気がさして、やっぱり隠遁してしまうでしょうかね。 続きを読む投稿日:2015.05.24
-
イニシエーション・ラブ
乾くるみ / 文春文庫
外面如菩薩内心如夜叉。女性はコワイ
3
映画化されると聞き、急いで再読いたしました。
最初に読んだときは、エッチな描写が生々しくも可笑しい(特に初体験のところ)ただのライトノベルみたいに思え、なんでこれがミステリーなのかしらんと思いまし…た。で、はたと気がつくと。。。
え~!なぁ~るほど、そっかぁ、そういうことかぁ!そう言えば、へんな違和感があったよなぁ、そして読み返してみると、ホラホラ、そこかしこにヘンな言動や行動が…、となるお話です。ベストセラーになっただけのことはありますよ。
これを映画化する?どうやって?と思いますよね。宣伝文句では原作とは異なる結末とのことですが、これ映像化したら最初っからネタがばれてしまいますよねぇ。どうするのかな?
とは言え、改めて読んでも、女性の怖さを実感いたします。男はこんな風に出来ないなと思います。いや少なくとも、私にはとてもとても…。誤魔化す技量も度量もありません。ハイ。 続きを読む投稿日:2015.05.15
-
教科書が教えない歴史1 日本とアメリカ
藤岡信勝, 自由主義史観研究会 / 扶桑社BOOKS
大変平易な、お手軽歴史読本
4
「はじめに」を読んで、時々叫ばれる日本の自虐史観に対抗しているのか?と思いましたが、そんな偏った解説ではありませんでした。私には、さほど目新しい事柄はありませんでしたけど、一つ一つの項目が短くまとめ…上げられていて、とてもわかりやすい読本に仕上がっていると思います。知識を整理しながら読むには最適です。また、シリーズ1は「日本とアメリカ」。ペリーの話から始まります。これも視点としてはグットでしょう。
この本は価格が130円です。よくReaderStoreで行われる○○○円以上お買い上げは、○○○ポイントというセールの際、ちょっと足りないなぁという時に利用すると良いでしょう。ただし、シリーズ2以下は購入していないのでわかりませんが、1は半分以上が索引に費やされていますので、そのへんだけは覚悟が必要です。 続きを読む投稿日:2015.05.14
-
新装版 一絃の琴
宮尾登美子 / 講談社文庫
骨太の文学に飢えている人にお勧めです
2
一絃琴の伝承にまつわる大河小説であります。そして、幕末、明治、大正、昭和という時の流れの中における女性達の葛藤をも描き出します。
お茶やお花、そしてスポーツさえも「道」という精神修養の場にしてしま…うのも日本人の特性なのでしょう。これ以上シンプルな弦楽器はありえない一絃琴も同様なんですね。
タイトルから音楽が前面に出ている様に思われるかもしれません。たしかに、現在も脈々と受け継がれている楽器にまつわる歴史小説ではありますが、あまり、音楽、とくに和楽に興味がなくとも心配ご無用です。どちらかというと、楽器、楽曲そのものよりも、それに魅せられてしまった人々の生き様が主眼になっています。書籍説明に記載されている蘭子と苗の確執は、物語後半のクライマックスですが、前半部分の苗の半生も色々と考えさせられます。この時代は、今よりもはるかに女性だけで生きていくことは難しかった時代ですものね。また驚愕するのは、何十年も楽器に触れていなくとも、琴の前に座れば体が覚えているというところです。私も幼き頃習っていたエレクトーンを就職してから再開して、それでも30年になりますが、1日でも鍵盤に触れていないと、感覚を忘れてしまいます。テープもしっかりした楽譜もなく、耳だけで修練していた彼女達とは自ずから志が異なるのかもしれません。
それにしても、蘭子はなぜ自分が後継者に選ばれなかったのか、最後まで真に理解は出来ていなかったんでしょう。それはそれで幸せだったのかなぁ。私としては、それはね、と教えてあげたかった気がします。本来、音楽というものは聞かせるモノではなく、奏でるモノで、それをどこかの誰かが、そっと聞き耳をたてて鑑賞しているというスタイルが一番いい様な気がします。
それはさておき、この作品は、これまでも舞台やテレビドラマ化された名作であり、直木賞受賞作です。長編大衆文芸作品であることは間違いはありませんが、本格的な文学作品であります。読むにはそれなりの覚悟が必要です。なんといっても使われている漢字が難しい。春に咲き誇るあの花を「躑躅」と書くとは私は知りませんでしたし、繰り返し使われる「沁々」という表現はすっかり覚えてしまいました。じっくり腰を据えて読書する方にオススメいたします。 続きを読む投稿日:2015.05.14
-
炎環
永井路子 / 文春文庫
4つの短編をあわせて炎環という一つの作品です
2
長編小説ではなく、それぞれ主人公が異なる4つの短編で構成された一つの作品というスタイルです。
作者の「あとがき」によれば、一人一人が自分が主役のつもりで思い思いの方向に時代を引っ張った結果、いつの…まにかその流れが変えられていった歴史を描いたつもりと、書いておられます。
時は、鎌倉。武家政権が初めて成立した時代です。4つの短編を読んだ後見えてくるのは、鎌倉時代という、新しい秩序ができあがるまでの胎動というところでしょうか?なんとなく、頼朝の家系が3代しか続かなかった理由もわかる気がします。
いつも思うのですが、この時、天皇家をなぜ滅ぼそうとしなかったのでしょうか?どこの国の歴史でも、前の王朝を滅ぼして新しい王朝を築いていくのに、頼朝はそれをしなかった。もし、この時滅ぼしていたならば、後の歴史は確実に変わっていたと思います。でもそうなると、世界で最も古くからある国「日本」というのは、存在しないことになりますけど。
分類としては時代小説にはいるものですが、時代物はちょっとという人にも、話の筋立ては週刊誌のゴシップネタのような話ですので、入り込め易いとは思います。しかし、ライトノベルでは決してありません。直木賞受賞の作品ですが、格調高い文体と表現も随所に出てきます。たとえば、瞼に「うかぶ」を「浮かぶ」ではなく、「泛ぶ」という漢字が当てられています。私はこの字を初めて見ました。
その他、内容については、julia-kさんのレビューに全面的に賛同いたします。
ただ、この電子ブックには、ひとつ気に入らないところがあります。それは、本文の後に掲載されている作者による「新装版に寄せて」という一文に起因します。その中で永井路子は、こう書いておられます。「題名は恣意による造語です。進藤純孝氏が解説の中で、じつに的確にその意図に触れておられるので、更につけ加えることはありません。」
しかーし、にもかかわらず、その解説はこの電子データの中には含まれていません。これはすごく欲求不満が残ります。早々に本屋さんに駆けつけたくなりますよね。 続きを読む投稿日:2015.04.29