くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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猫鳴小路のおそろし屋
風野真知雄 / 角川文庫
骨董品にまつわる恐ろしくも哀しいエピソード
4
作品の中にも出てきますが、骨董品というモノは、それを以前所有していたヒトの思いが詰まっているわけで、ひどく「生臭い」ものなのだと、改めて感じ入った次第です。確かに古本なんかも、欄外に書き込みなんかが…あると、ちょっと手が止まりますもんね。
内容はファンタジーであり、よく落語に出で来る「岩見重太郎のわらじ」とか「清盛の溲瓶」の延長線上みたいな類いなのですが、「おそろしい」というよりも、「哀しい」感じの余韻が何とも心地よいものがありました。
この本には四つの話が収められています。しかし、その中で既に時の流れが出来ていますので、この後のシリーズ物の展開がどうなっていくのか、そこも楽しみではありますが、最初に登場する「血まみれの風林火山」の時の書きぶりが、徐々に変わっていってしまうのが、少々残念だったかなぁ。どこかどう違うわけではないのですが、最初は、こんな話がありましたといった感じで、語り手が存在して、語りかけている様な書きぶりだった気がします。それが、普通の小説のト書きのような感じに変貌した感じがするのですが、いかがてしょうか。最後まで、語り物で通した方が良かった気がするのですけれどね。
あと、作者はさほど重たい意味で書いたのではないのでしょうが、「刀に比べて銃は気が楽でいいとも言っていた。」なんていうセリフが出てきます。ボタン一つで戦争が行える現代、これは結構考えさせるコトバでした。 続きを読む投稿日:2016.01.20
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パンダ外交
家永真幸 / メディアファクトリー新書
元祖モフモフの歴史。名画「白蛇伝」も、勿論黒柳徹子も登場。
7
小生のように、カンカン、ランランの大フィーバーを知っている昭和世代にとって、パンダを巡る情勢にこんなに深い歴史があったとは驚きです。2011年に書かれた本ですので、ラストはソコになっていますが、話は…パンダ発見の所から始まります。そして、副題にあるとおり、パンダをどう取り扱ってきたかをたどることにより、中国がわかる、世界がわかる、というのは、まさに的を射ていると思います。傲慢さが目立つ昨今の中国外交ですが、力がなかった時代から、実にしたたかに世界を泳いできたことが解ってきます。
また、そんな政治的なことを離れても、私にとっては目からウロコのような話が満載でした。まさか、レッサーパンダの方が先に名前がついていたとはねぇ。
各章ごとに時代を追って解説されているのですが、面白いのは、その章の終わりに、関係する主なパンダの名簿が掲載されているところです。性別、誕生年、死亡年。つまり、こういう一覧を作ることが出来る数しか、世に出ていないと言うことですね。
愛らしい風貌のパンダでありますが、権謀術数渦巻く世界の中、絶滅することなく、生き抜いていって欲しいと切に願う次第であります。 続きを読む投稿日:2016.01.20
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刀伊入寇 藤原隆家の闘い
葉室麟 / 実業之日本社文庫
晴明も、清少納言も紫式部も登場!
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平安貴族の生活と言えば、飽くなき権力争いと、我々からしてみれば、色ボケとしか思えない様な恋愛ごっこに終始明け暮れていたという印象しかありません。他にやることがないんかい!と突っ込みを入れたくなります…ね。世界最古の長編小説と言われる「源氏物語」も面白いんだけど、生活臭というものがなく、何もしなくても食べていける人々はこうなのかなぁと思わなくもありません。
で、もし本当にそんな生活だったとしたら、それに反発する反骨精神旺盛な御仁が、貴族の中にいても、おかしくはないさね、と著者が思ったかどうかは知りませんけれど、限られた資料から、こんな作品を紡ぎ出すとは、作家の創造力とはスゴイもんです。
最初は、どこか夢枕獏の「陰陽師」っぽいなぁと思って読み進めていると、安倍晴明が登場するし、その後も、清少納言、紫式部、そして当然、栄華を極めた藤原道長も登場します。とは言っても、優雅な平安絵巻とは一線を画すアクション絵巻でありました。
でもその中で、ふと目が留まるのが、「この国には敗者を美しく称える雅の心がある。だからこそ、この国を守りたいと思う。この国が滅びれば、雅もまた滅びる。」という一文。権力の争いは醜いが、誰もが美しきモノを求めてやまない心を持っているからこそ、争いは繰り返される、と説きます。な~るほど、それが言いたかったことなんだ。
武士の世界を描く作品が多い葉室麟氏でありますが、平安時代も普通に描くことはしませんね。 続きを読む投稿日:2016.01.20
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新編 日本の面影 II
ラフカディオ・ハーン, 池田雅之 / 角川ソフィア文庫
すぐれた紀行文であり、また山陰地方の遠野物語と言える部分も
7
「日本の面影」に続く本であります。日本人である私の知らない貴重なエピソードが満載の弘法大師に関する項や当時の山陰地方の様子など、とても興味深く読むことが出来ます。
それに表現方法がまたすぱらしい。…訳のうまさと言うこともあるのでしょうが、「器量はさほど良くはないが、気立ての良い顔立ち」のおかみさん、なんて、今時こんな言い方する人はいないでしょう。でも、どんな女性だったかは良くわかりますよね。
また、今では、水木ロードで賑わっている境港も、「悪臭漂う見栄えのしない小さな町」と記されています。これもまた、面白いですよね。そして何といっても、「日本人の性格に潜んでいる驚くべき魅力」を、長々と書き記しているところが魅力的です。どう表現されているかは、読んで頂きたいところですが、こんなところも、すでに面影になりつつあることが、悲しくもあり、また寂しくもあるところです。
そして、この本の著者はラフカディオ・ハーンと記されていますが、全体の五分の一くらいが奥様である小泉節子さんが書かれた「思い出の記」が占めております。これがまたハーンの知られざるエピソードが満載で、とても興味深く読ませて頂きました。結構、付箋だらけ、いやハイライトだらけになりましたよ。 続きを読む投稿日:2016.01.10
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右手に「論語」左手に「韓非子」 現代をバランスよく生き抜くための方法
守屋洋 / 角川SSC新書
論語8割、韓非子2割のバランスが重要とのこと
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性善説か?性悪説か?と帯にありますが、別に二つの思想の対決を述べているのではなく、それぞれのエッセンスとなる名言を40選び出し、それを一つ一つ解説してくれた、入門者には誠にありがたい本でありました。…
それぞれの名言には、まず、簡潔なタイトルがつけられ、次に平易な日本語訳、そして、読み下し文、漢文と示されています。そして、それぞれの言葉の真意とするところは?と著者の解説がついています。これがわかりやすくて、また、時折、著者の現代社会に対する思いのようなものが垣間見えて、なかなか興味深いものがありました。
確かに論語の方はなんとなく知っていても、韓非子の思想に深く触れたことはなかったので、私にとってはその点も面白かったですよ。論語8割、韓非子2割とは、あとがきの中で紹介されているものですが、今の世の中、韓非子の割合をもっと増やしていかないと生きていけないかもしれませんね。世知辛い世の中になったものです。
40の項目一つ一つは、大変短くまとまっているので、通勤通学途中で読むには最適かもしれません。 続きを読む投稿日:2016.01.10
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はぶらし
近藤史恵 / 幻冬舎文庫
な~んか腹立つ焦燥感。
8
いるんだよなぁ。こういうヤツって。勝手に欲望のまま結婚して、離婚して、シングルマザーでございます、生活が大変なんです、助けて下さい!という無節操きわまりない人がね。あなたは独身で余裕もあるでしょ?手…を差し伸べるは当然よ。なんてね。冗談じゃねぇよ、こっちは欲望に蓋をして、アリのごとく働いて頑張ってきたんでぃ!と、突っぱねることが出来ない主人公。
この物語の二人の主役のどちらにも、いらだちましたよ。なぜ、この物語がサスペンスに分類されているか理解に苦しむところですが、確かに、こんな人に転がり込まれたらサスペンスというよりも、ホラーですな。
それにしても、こんな親に育てられた子供が本当に可愛そうですよ。何も考えずに生んでしまうのかねぇ。親になるための資格試験はないからね。小説の中では、良い子になってますが、現実だとどうなのかなぁ。
さて、この小説をオススメするとしたら、長編は苦手だけど、それなりの文体を持ち、いかにも小説という内容の物に、突っ込んで突っ込んで、溜飲を下げてみたいという人かな。と、ここまで書いてきたら、なんと2016年新春からBSプレミアムでドラマ化するという情報を得ました。ドラマでは、サスペンス色を前面に出すようですが、さて、どうなりますか? 続きを読む投稿日:2015.12.25