にしむらさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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あなたの魂に安らぎあれ
神林長平 / ハヤカワ文庫JA
初めて神林長平を読む人にうってつけの一作
7
満を持して神林長平作品が一気にReader Storeに入荷(電子書籍でも「入荷」って言うのかしらん? んー、「入電」とか?)したようで、やれめでたい。
OVA化もされた「戦闘妖精・雪風」シリー…ズ、アプロが可愛い(?)「敵は海賊」シリーズなどのシリーズ物や、日本SF大賞受賞作の「言壺」、重厚長大な「猶予の月」、デビュー作の「狐と踊れ」が収められた同題の短編集などなど、どれから読んだらいいのかリンダ困っちゃう(古)、という割とよくあるタイプのあなたにお薦めなのが本作、「あなたの魂に安らぎあれ」から始まり、「帝王の殻」、「膚の下」と続くいわゆる「火星三部作」です。
本作は神林長平の長編第一作でもあり、わたしが初めて読んだ神林長平作品でもあるのですが、布団の中で読みながらとうとう途中で止められず明け方に読み終えた後もしばし呆然とした後、うわなんだこれすげえ読み終えてこんな気分にさせられたのは小松左京の「果てしなき流れの果てに」以来かもしれんうわーすごい本読んじゃったなこれは生涯のオールタイムベスト20に確実に入る一冊になりそうだうわーまいった、などと眠気なぞ吹き飛んでしまうほど興奮したのを昨日のことのように覚えています。
と言うわけなので、まだ読んでない人は読むといいよ。そんで「雪風」でも「敵は海賊」でも、なんでもいいから手当たり次第神林長平作品に手を出してハマればいいさ! じゃ、グッドラック!! 続きを読む投稿日:2013.11.15
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シャイニング(上)
スティーヴン・キング, 深町眞理子 / 文春文庫
スティーブン・キングなんか怖くない
4
キング先生、巷では「スティーブン・キング・オブ・ホラー」とか言われてますけど、どちらかと言うとサスペンス風かダーク・ファンタジー風な作品の方が多くて、ガチのホラーはそんなに多くはないような気がします…(個人の感想であり、感じ方には個人差があります)。ただし数は少ないのですが、「IT」と「呪われた町」と、そしてこの「シャイニング」はガチで怖いです。あの読みながら鳥肌が立ちっぱなしな感じはなかなか他の作家では味わえません。
で、本作の「シャイニング」です。映画では、ジャック・ニコルソン演じる主人公のジャック・トランスが斧でドアを壊して顔を覗かせてるビジュアルが強烈に印象に残っていますが、実は原作と映画では結構な差異があったりします。どっちも怖かったのですが、わたくし的には想像を巡らす余地がより多い分、原作の方が怖かったような気がするのですが、なにぶん読んだのが前世紀なものであんまし覚えてなかったりして(てへ)。
でも長大な作品が多くて、電車の中で吊革につかまり立ちしながら読んでいて腕がやられた被害者が多い(ちなみにわたしは「IT」のハードカバーでやられました)ことでも知られるキング作品こそ電子書籍向けだと思うので、今回の電子化には含まれなかった「IT」とか、入手困難な「呪われた町」とか、泣かせにきた作者の狙い通りにまんまと泣かされる「グリーンマイル」とかどんどん電子書籍化されることを希望します。
最後に、「スティーブン・キング絶賛!」みたいな帯が巻かれてる海外作品をよく見かけますが、「キングは誰でも褒める」ので、あんまり信用しない方がいいですぞ。これ豆な。 続きを読む投稿日:2015.05.06
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機龍警察 火宅
月村了衛 / 早川書房
「機龍警察」? ああ、「パトレイバー」のちょっと小さいバージョンね、そんなふうに考えていた時期がわたしにもありました。
3
日本SF大賞&吉川英治文学新人賞を受賞し、わたしの心の中の「今、一番続きが楽しみなシリーズ・2015年春」、堂々の第一位でもある「機龍警察」シリーズ初の短編集。
どこか高村薫の「合田雄一郎」シリ…ーズや横山秀夫の諸作を思わせる表題作、ライザやユーリが警視庁特捜部に入る以前のストーリーである「済度」そして「雪娘」、まさかこのシリーズでこんなに爆笑させられるとは思いもよらなかった宮近特捜部理事官受難の巻な「勤行」、そしてラストの1行で本シリーズに待ち構える闇の深さを予感させる「化生」と、短篇ながらどの収録作もバラエティに富んだ読み応え十分な作品ばかりでした。
もっとも、長編の方を追いかけている人ならわたしが薦めるまでもなくとっくに読んでいるでしょうし、このシリーズを初めて読むなら、やはり長編第一作の「機龍警察」(ちょうど「完全版」も出たことだし、ってなんだよ「完全版」て?)から読むべきだとは思うので、本作単独ではなかなかお薦めしにくいのですが、ともかくこのシリーズは読んで後悔することは無いと断言しておきます。Kindle版は3/27に発売予定の最新作、月村了衛版「ダイハード」?な「槐(エンジュ)」も楽しみです。 続きを読む投稿日:2015.03.21
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マリアビートル
伊坂幸太郎 / 角川文庫
ドキっ!屍体だらけの新幹線、スネークも出るよ!
2
我ながら、ひどいタイトルだ。
さて、最近Readerで読み終えたばかりな本のレビューなので、まだちゃんとストーリーを覚えてるから大丈夫です(何が?)。「グラスホッパー」に続く「インセクトシリーズ…」の2作目(あ、「インセクト(昆虫)シリーズ」と言うのは今わたしが付けました。みんなも使っていいぜ)ですが、1作目の「グラスホッパー」を読んでなくても特に問題はありません。わたしも読んだはずですが、ああ、そう言えばそんなキャラがいたような……いなかったような……、とずーっとぼやっとしつつ読んでしまいましたが、面白かったですよ?
ただ、伊坂幸太郎は割と久しぶりに読んだのですが、あれ?こんなにギャグがあからさまだったっけ?と思いました。もうちょっと唇の端だけで「ニヤリ」とする笑いだったような印象があるのですが、大口を開けて「ぎゃはは」的な笑いが多かったかな。で、わたしが好きな伊坂幸太郎は、前者の笑いの方なので、それがちょっと不満かも。ただ、まぁ、ラスト近くの「自分の幸運を、得体の知れない不運の怪物がかぶりつき、食い散らかしていく恐怖だ。」というフレーズには大爆笑させられたので、★四つで。 続きを読む投稿日:2013.11.03
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赤朽葉家の伝説
桜庭一樹 / 東京創元社
ま、「渾身の雄編」と言うよりは、大河小説的ホラ話だよね
2
にゃんぱすー。
富士見ミステリー文庫から出た「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を読んだ時は、おいおいおい、ライトノベルのレーベルからこんなん出していいのかよ、これ中学生が読んだらトラウマになるんじ…ゃね?と思ったのも今となっては懐かしい想い出の桜庭一樹の代表作、と言ってもいいのではないでしょうか。
第60回日本推理作家協会賞を受賞したことからも分かるとおり、ミステリ的な要素も多少はありますが、どちらかというとファンタジー、それもマジックリアリズム寄りのホラ話、もとい、年代記で、今のところ個人的にはこの作者のベスト作だと思います。
なお、桜庭一樹は「青年のための読書クラブ」も好きなので、新潮社は早く電子書籍化するように(ナゾの上から目線)。 続きを読む投稿日:2013.10.19
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リライト
法条遥 / ハヤカワ文庫JA
王道か邪道か
2
「バクマン。」で主人公の二人が、自分たちが目指すべきなのは王道か邪道か、みたいな議論をするシーンが何回かありまして。もちろん王道だから良いとか、邪道だから悪いとかいうことではなく、あくまでも売れるた…めの<戦略>としてどちらを選択するか、というようなことを話し合うわけです。
で、本作なわけですが、これはもう思いっきり邪道ですね。この手のお話を読んだ後に残る余韻もへったくれもありません。もちろんだからダメなわけでは全然無く、「あり」か「なし」かで言ったら「あり」です。特に、NHK少年ドラマシリーズで「タイムトラベラー」(筒井康隆の「時をかける少女」を原作とする一番最初の映像化作品)をリアルタイムで観たことがあるような、すれっからしのSFファンにしてみれば、ふふん、そうきますか、なるほどね、などとツッコミを入れつつ楽しく?読めるのではないでしょうか。
ただ、邪道というのは王道があってこその邪道(逆もまた真ですが)、とも思うので、あまりこの手のタイムトラベル物を読んだことが無い人には勧めません。例えばケン・グリムウッドの「リプレイ」とか、北村薫の「《時と人》三部作」とか、高畑京一郎の「タイム・リープ-あしたはきのう」とか、新城カズマの「サマー/タイム/トラベラー」とかが未読だったら、先にそちらを読むべきかと。まぁ、他にもこのジャンルでの佳作、傑作は多々あるのですが、ある程度の代表作と言われる作品を読んでから読む方が楽しめる、本作はそういう作品だと思います。 続きを読む投稿日:2013.11.11