クラフト★ビア★マンさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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岡崎に捧ぐ(1)
山本さほ / ビッグスペリオール
糸井重里が認めた新時代の日常系マンガ
13
育児放棄に無職の父、いつもワインを飲んでいる母、すぐ「殺す」と言って暴れる妹と、よく考えるとなかなか悲惨な家庭環境にある「岡崎さん」と作者の友情を、全然重くないタッチで描いた日常系マンガ。
たしかに…「ちびまる子ちゃん」に似ているところがあるけど、もうちょっとモチーフは深刻。なのに読み口が軽くて楽しく読めてしまう。
他にはない不思議な感覚で、古いような雰囲気なのに、独特の新しさがある。
ちびまる子ちゃんと一番違うのは世代で、作者の小学生時代の風俗が濃密にリアルに描かれている。
携帯型ゲームに夢中になったこの空気感は、それを味わった世代でないと書けないリアリティにあふれていて、思わずほくそ笑んでしまう。
もとはwebマンガで、twitterで糸井重里さんが褒めたのがきっかけで出版までこぎつけた珍しいタイプの作品。
個人的にはまだまだ売れて、長期間続くアニメとかになってほしいと思っている、良質の漫画です。
ずっしりもやっとした終わり方で、なんだか考えさせられてしまう回があるのが好きです。
たぶん、子供が読むのと、大人が読むので感想が大きく異なるでしょう。
とにかくおすすめです。 続きを読む投稿日:2015.12.16
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進撃の巨人(18)
諫山創 / 別冊少年マガジン
ハガレンの最終巻を思い出した
6
進撃の巨人を進撃の巨人たらしめている象徴的な1巻の壁が破壊されるシーンを巻き戻すように、丁寧に紡がれるウォール・マリア奪還戦へのプロローグ。
18巻かけて積み上げて来たものがとうとう現実になる感慨のよ…うなものが作中からにじみ出ている。
どこかで見たようなシーンがこれでもかと挿入されて、「この漫画、そろそろ終わっちゃうんじゃないか?」と心配させられるほど。
作者の諫早さんも相当の気持ちを入れて書いているのが伝わってくる。
これまで、読者に準備させずに飛んでもない展開を異常なほどあっさり突きつけてきた本作には珍しい「タメ」のある演出だった。
なんだか、ハガレンの1巻の「オレとお前との格の違いを見せつけてやる」と
最終巻の「オレたちとお前との格の違いを見せつけてやる」の見事な対比を思い出した次第です。
さあ、次の巻はいったいどうなるやら。 続きを読む投稿日:2015.12.11
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ワールドトリガー 13
葦原大介 / 週刊少年ジャンプ
真面目なのと型破りなのは別の話
4
成長する時ってまっすぐにはいかないよね、ってことを身を持って感じさせられる巻。
アニメ版がオリジナルストーリーで別物になっている今(原作のストーリーに戻ってくればまた面白くなるはず)、
やっぱり原作の…練りこまれたキャラ・設定の緻密さ、淡々としているのに抑えるとこガッツリ抑えてくる展開にうならされる。
三雲君の超現実的な考え、素晴らしいです。
真面目なのにタブーがなくて、他人に縛られず自分の頭で実行できる行動力が三雲君の最大の長所だと思う。
ベンチャー企業始めるのなら投資したいレベル。
新キャラがたくさんでてきたのに、それぞれちゃんと戦いの中で立っていて、群像劇のうまさは昨今の漫画では類を見ないと言っていい。
ナルトやワンピ、ヒロアカ(僕のヒーローアカデミア)と比べても無駄がなくてきれいにパズルがハマりまくるのはお見事。
ヒロアカは取り上げるキャラが重複が多かったり、脇役の活躍を描くのがあまりうまくなかったりで、ワートリはホントにうまい。
その分、ヒロアカは勢いに乗った時の盛り上がりは半端ないけど。やっぱこの二つが個人的に2大ジャンプ漫画です、今。 続きを読む投稿日:2015.12.07
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影との戦い ゲド戦記1
アーシュラ・K.ル=グウィン, 清水真砂子 / 岩波少年文庫
世界3大ファンタジーにしてジブリ映画原作。こっちが本物です
11
世界3大ファンタジー「ナルニア国物語」「指輪物語」「ゲド戦記」の一角にして、ジブリの宮崎吾郎監督初監督作品「ゲド戦記」の原作。
映画版は、複数あるゲド戦記の原作の内容がなぜかごちゃまぜになっていて、本…質を捕まえているとは到底思えず、原作読了者としては「?」が頭の中から取れないままだったのを覚えています。
映画の方はあんまり評判がよくない印象ですが、宮崎駿監督がずっと映像化したかったという本作は、非常にテーマが深く、10~20代前半での、個人が体験する自我が確立する過程を、ファンタジーの形を借りて克明に描いた傑作だと思います。
ユング心理学での「影」の考え方に強い影響を受けて書かれたこの「影との戦い」は心理学的な観点から見ても高い価値が認められていて、文章は低年齢層向けに平易に書かれているものの、内容は深く、暗く、重く、本質的です。
出版は1968年と古く、本作を読むと、現代の少年漫画などでよくある、自分の悪意を受け入れて主人公が強くなる(NARUTOでもあったな)描写のひな形はこれなんだと思えます。
「ナルニア国物語」「指輪物語」と比べると、登場人物は少なく、世界観も限られているので、テーマが分かりやすいかもしれません。
連作で、1作ごとテーマは大きく変化していきますが、一貫してあるのは人の心の有り様を深く掘り下げていく視点にあるように思います。
秋の夜長にはよくはまる物語ではないかと。 続きを読む投稿日:2015.10.15
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知っておきたい「味」の世界史
宮崎正勝 / 角川ソフィア文庫
辛味、甘味、塩味、苦味、酸味、旨味から紐解く人間の欲望と世界史
8
五大味覚と言われる辛味、甘味、塩味、苦味、酸味に加え、日本人が発見した旨味。
当たり前だと思っていたこれらの味わいが100年単位で流行り廃りを繰り返し、現代まで繋がっていることを実感することができる良…著。
世界史や地理、文化人類学の観点から見ても面白い。
トマトとこぶだしにグルタミン酸の共通点があったりして、人類が美味しいと感じる味には共通項があって、それを別の場所で、違う方法で見つけて大事にしてきた文化があることが文化人類学冥利につきるというか、好奇心をそそる。グルタミン酸(昆布など植物系)とイノシン酸(カツオだしなど動物系)を組み合わせると「うま味の相乗効果」で飛躍的にうまみが増すとのことだが、日本のだしは、なんと合理的なものだったのか誇らしい気持ちになる。
フランス革命と現代のフランス料理・レストラン文化という、「社会体制」と「味」の民主化が連動しているのが目から鱗だった。美味しいものは貴族が独占してたんだなあ。旨いものは価値があり、莫大な金が動いていたと。奴隷制度の必要性もそのあたりにあるとすると、なんだかフェアトレードなんかにも興味が湧いてくる。
ものを食べるということを新しい視点で捉えたいひとは是非。雑学自慢としても使えます。 続きを読む投稿日:2015.09.07
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ワールドトリガー 12
葦原大介 / 週刊少年ジャンプ
ますます面白くなる!戦術・戦力・時の運、それと地形戦。
7
B級ランク戦第3戦決着!
荒船隊・諏訪隊との第2戦以上に読めない戦局、微妙なバランスの崩れで一気に傾くスリリングな展開に興奮が止まりません。
各チームのエースをいかに効果的に動かすかの戦術、兵として…の戦力、そして時の運。
短・中・長距離の戦力と組み合わせに注目していると、個人の背負った積み重ねや、地形戦の妙に持ってかれます。
眠ることで強くなる村上と、眠れないことを活かして強くなるユーマの対比も見事の一言。
いやあ、視野の広い戦いで、この作家は本当に楽しませてくれます。
得意なところでぶつかる、というユーマの戦い方、いいです。
方や戦術はよいが、戦力としての限界を感じるオサム。弱点のばれつつあるチカ。
さてこれからどうする。
また、負けたチームに対するフォローもしっかりしていて、こんな風に評価されるならみんなやる気になるよなぁと。
こういう会社あったら私も働きたい(笑)
相変わらず組織を描くのもうまい。
本刊では、ランク戦の要素だけでなく、ネイバーの世界の要素と、そもそものオサム・チカの戦う理由といった物語の芯の部分も入ってきて、立体的なストーリー展開。いやはや早く先読みたい。 続きを読む投稿日:2015.09.04