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かんけつさんのレビュー
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  • 月は無慈悲な夜の女王

    月は無慈悲な夜の女王

    ロバート・A・ハインライン,矢野徹

    ハヤカワ文庫SF

    ハインラインの代表作のひとつ

    ハインラインと言えば世間一般には「夏への扉」だろうし、ミリタリーSF好きなら「宇宙の戦士」。私も長いことこの2冊しか読んだことがなく、冗長との噂の晩年の作品をはじめとする他の本はまあ読まなくてもいいだろうと長いこと思っていたのである。 だが、欧米ではハインラインの代表作といえばこの作品らしいというので、何度が買おうかと思ったこともあったのだ。ただ文庫本は結構厚かった上に、古い作品より新しいのを先に読もうじゃないかということで、結局読まずじまいだった。 しかし、時が流れて電子書籍時代になってたまに古典と呼ばれる本も読むようになってきて、ようやくハインラインの他作品も読む気になってきた。 Amazonのレビューなどでは翻訳の古めかしさが話題にされているが、実際私が書店で手にとって買おうかどうか悩んだ文庫本が出たのは1976だし、それは古くても当然だろう。 朝晩の通勤時に30~60分ごと電子書籍で読んで、読了するのに2月くらいかかっているから、客観的に評価して読みにくさはあるのかもしれない。 ネビュラ賞を争った「ババル-17」や「アルジャーノンに花束を」の印象に比べると古びてる印象は間違いなくあった。その印象には、この作品の後にAIや月の独立を描いた作品が多数ありいろんな作品に影響を与えているせいもあるだろう。 古典的名作の範疇に入りつつあるのかも知れない。

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    投稿日: 2015.09.20
  • 世界最終戦争の夢

    世界最終戦争の夢

    阿部知二,H・G・ウェルズ

    創元SF文庫

    「猫」が書かれた時代前後に発表された小説たち

    「アリの帝国」「森の中の宝」「めずらしい蘭の花が咲く」「海からの襲撃者」「盲人の国」「故エルヴシャム氏の物語」「ダチョウの売買」「赤むらさきのキノコ」「剥製師の手柄話」「「最後のらっぱ」の物語」「世界最終戦争の夢」「クモの谷」 知能の高い巨大有り、有毒植物、食肉蘭、人食いタコ?イカ?、キノコ、クモとSF生物ネタが多し。 調べてみるとウェルズの短編集が書かれた時期「世界最終戦争の夢」(1901)、「盲人の国」(1904)、「蟻の帝国」(1905)あたりで、「吾輩は猫である」(1905~1906)の書かれた時期とほぼ被っていた。たまたまだが。 夏目漱石。1867~1916。 H・G・ウェルズ。1866~1946。 意外にも同年代作家だったと初めて知った。

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    投稿日: 2015.09.18
  • グレー・レンズマン

    グレー・レンズマン

    E・E・スミス,小隅黎

    東京創元社

    レンズマンシリーズ第2弾

    「銀河パトロール隊」を学校の図書館から借りて読んで大興奮したのは小学校高学年の頃だったか。 何十年も経って登場した新訳版を電子書籍で読むのはそれだけで感慨深いものがある。 古いから悪いわけではない。古いからこそいいこともあるぞ、というわけでいまだに楽しく読めるのは大したものだ。 レンズマンは宿敵ボスコーンを壊滅させたわけですが、続編はまだまだ続く。ここでやめるわけにはいかないので、こうなれば続編も読むしかない。

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    投稿日: 2015.09.18
  • フランケンシュタイン

    フランケンシュタイン

    メアリー・シェリー,森下弓子

    創元推理文庫

    あるいは現代のプロメテウス

    だいぶ以前に読んだスコールズ&ラブキン『SFその歴史とビジョン』でSFの十大小説として紹介されていて、読む前からかなり詳しいあらすじだけは知っていた。 どうかと思ったのだが、予想以上に面白く古びていなかった。科学的な設定は置いておいて、倫理的な問題は今日的でもある。 (まあ科学者よりも宗教屋の倫理の方がよほど危ないってことをぼくたちはオウム真理教から学んできたわけだが。) やはり怪物のキャラクターは出色であった。はじめは無垢な存在だったが、その怪異な容貌故に迫害され、悪意に侵され、子供を殺し、無実の女を陥れ、伴侶を作るという約束を破られたことで、フランケンシュタインの友人を殺し、結婚したばかりの妻を殺してしまう。 フランケンシュタインとしては怪物を赦すことはできないわけだが、しかし、フランケンシュタインの死に際しての怪物の複雑な心情など、胸に迫るものがある。 この本は電子書籍として最初の方に買ったので、電子書籍版には解説がないことはこの本で知った。本を買うとまず解説を読んでしまう私にはちょっと残念であった。

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    投稿日: 2015.09.18
  • MM9 ─destruction─

    MM9 ─destruction─

    山本弘

    創元SF文庫

    読んで損なし

    ビッグバン宇宙と神話宇宙の相克の中で登場する怪獣たちが怪獣大戦争を繰り広げる。 円筒状バリヤを持つ怪獣とか、合体するロボット怪獣とか子どもの頃夢中になって見ていたウルトラシリーズを思い出す。 後日、総天然色ウルトラQで初めて「ガラダマ」「ガラモンの逆襲」を見たので、前作MM9(invasion)はウルトラQのガラダマへのオマージュだったことに気付く。ウルトラQはリアルタイムでは見てなかったんだなあ。 そういった過去の怪獣映画、特撮ものへの愛とSF魂にあふれた連作の完結編。

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    投稿日: 2015.09.16
  • 地球光

    地球光

    アーサー・C・クラーク,中桐雅夫

    ハヤカワ文庫SF

    地味だけど佳作

    クラークらしく月世界の描写はいい。「渇きの海」で主役を務めた月塵の流れをくむ描写もちらりと出てくる。 大筋は惑星連合と地球の戦争を巡るスパイ活動が描かれる。 ただ素人スパイなので、権謀術数渦巻く頭脳戦や活劇などはない。その意味で派手さはなく地味な印象。 クラークは近未来ものよりも遠未来ものの「都市と星」が好きなのでちょっと評価が辛いかも。

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    投稿日: 2015.09.16
  • 零戦 その誕生と栄光の記録

    零戦 その誕生と栄光の記録

    堀越二郎

    講談社文庫

    一流のエンジニアの文章力に感服

    2013年夏、映画「風立ちぬ」を見て、技術者堀越二郎に興味を抱いて買って読んだ。 挿絵や数式が全くないにもかかわらず、わかりやすく読ませる文章に感服した。しかし、図面とかあればエンジニア同士ならもっと簡単にわかり合えるところなのにと思って本屋で文庫本を手にとってみると、紙の本にはきちんと図面が載っていた。作者の筆力か図面なしでもイメージは大体あっていたのだが、やはり図面も載せて欲しかったところである。

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    投稿日: 2015.09.15
  • SF西遊記 【復☆電書】

    SF西遊記 【復☆電書】

    石川英輔

    講談社文庫

    入手困難な本を蘇らせるのも電子書籍の使命かも

    今なら、石川英輔というと「大江戸リサイクル事情」の印象が強いが、古いアニメファンには「SF西遊記スタージンガー」の原案だろう。 子どもの頃何話かアニメは見たのだが、この本を読むと、ほんとに原案にすぎずアニメはアニメで好き勝手にやっていたのがわかった。アニメに出てくるオーロラ姫って何?って感じ。 小説は西遊記の枠組みを結構利用していて、原作リスペクトという意味でもアニメより数段上だろう。いずれにしても、まだまだ楽しめる作品であった。 入手困難な本もこんな形で復活するなら電子書籍はまだまだいけるんじゃなかろうか。

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    投稿日: 2015.09.05
  • 夢幻諸島から

    夢幻諸島から

    クリストファー・プリースト,古沢嘉通

    単行本

    久しぶりに読んだクリストファー・プリースト作品だが予想以上に良かった

    ベストSF2013海外篇の1位。読んだのは2013年12月末のことだが、積ん読が多いので出た年にすぐ読んだ本というのは珍しい部類に入る。クリストファー・プリーストはサンリオから「逆転世界」が出たとき奇想に期待しすぎたせいか、世評ほどには楽しめなかった記憶があるので、他には「ドリーム・マシン」しか読んだことがなかった。 この本も、最初は単調な島の観光ガイドぽい描写で退屈しかけたのだが、スライムと名付けられた毒サソリの話が実に恐ろしく、そこからはもうずんずんと読み進めた。 ・・・と、そのうち、序文を書いているチェスター・カムストンが何故か死んで葬式までされているエピソードが。 ありゃりゃ、そういえば不死の技術とか、時空がずれる島とかの話があったな・・・ 死んだはずの著名人に再会したら自分にそっくりだったとか・・・ 不死人の話でもあったのか。 そんなこんなでいろいろあって、とにかく一筋縄ではいかない読書体験だったが、大変面白かった。そんなわけで他のプリースト作品「奇術師」とか「双生児」も読んでみたくなってきた。

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    投稿日: 2015.09.05
  • グッドラック 戦闘妖精・雪風

    グッドラック 戦闘妖精・雪風

    神林長平

    ハヤカワ文庫JA

    「戦闘妖精・雪風」の続編

    一作目のラストでてっきり死んだと思っていたブッカー少佐だが、パイロットは死亡して頸の怪我はしたものの生きていて、今回は哲学談義を繰り出す。カウンセラーのフォス大尉とのジェムの正体を巡る議論のあたりは読む人を選ぶかも。ジェムの正体を巡る話が増えれば、その分雪風の戦闘描写が減る。今巻はジェムの正体の謎解きが中心になっている。 一方、植物状態になっていた深井大尉は復活後は雪風とのコンビで一種の複合生命体のような状態とフォス大尉に評される。 さらに、フォス大尉は謎の異星知性体ジャムをプロファイリングする。 一作目で登場した光学異性体のジャム人間は、FAFに潜入し幽霊部隊となって破壊工作を試みる。このあたりはゾンビ映画っぽい雰囲気。そしてそれを手引きしたのが情報部のロンバート大佐。 第一作では相互理解不能な状態から、コピー人間によるコミュニケーション、今巻では直接対話?、ついには人類からの裏切り者が登場する。 ここで引かれたのでは続きを読まねばなるまい。

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    投稿日: 2015.09.05