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かんけつさんのレビュー
いいね!された数18
  • 偶然の科学

    偶然の科学

    ダンカン・ワッツ,青木創

    ハヤカワ文庫NF

    そういえば社会学者というのは一体何をやっている人々なのか?

    当方社会学を全く知らない門外漢なので、彼らがやってる実験、思考実験、そこからの推論は興味深いものがあった。 暴動の思考実験とか。100人の集団が暴動を起こすか否か、参加者がほかの参加者99人を常に観察可能で、暴れ出すかどうかの閾値を持った個人(何人暴れてるから暴れようという)というモデルを設定した思考実験。一人の閾値設定を次の一人と入れ替えるだけで、集団の暴動が発生するかしないか変わってくるが、暴動を画起きた集団と起きなかった集団100人を外から調べるだけでは何が原因か分からないとか。 ほかにも、売り上げという結果だけですべてを決めるのも、売り上げ至上主義者の循環論法なんだな。売れたものが売れるものとか、そんな考えは未来の予測の役には立たないわけだ。 いろいろ考えさせられる本であった。 現実社会は複雑系すぎて未来予測は不可能、予測できたような気がするだけなのかもしれない。

    0
    投稿日: 2016.06.09
  • 侍女の物語

    侍女の物語

    マーガレット・アトウッド,斎藤英治

    ハヤカワepi文庫

    キリスト教原理主義者による革命

    映画化もされていたはず。 キリスト教原理主義者による革命が成功した未来のアメリカ。支配階級の都合のいいように歪曲された(かどうかは知らないが)聖書に基づく支配の不気味。日本人観光客との通訳を通してのやりとりは私も聞きたくなるような質問。 語り手が属する”侍女”は妊娠可能な女性で”司令官”とその”妻”の子どもを産む道具扱いされている。女は財産を奪われ、名前も奪われオブ何がしと子供を産む予定の相手の男の名前の記号で呼ばれている。読むことも書くことも禁じられている。 語り手は嘘言いました、とか言っちゃうので、すべて額面通りには受け取れないのだが、夢想もいれないとやりきれないということなのだろう。英雄的ではなく慎重なので波乱万丈な物語が語られるわけではなく、脱走を図ってひどい目に合わされるのは親友のモイラ(おそらく仮名)の役回り。 しかし、そんな地味な語りでもどうにも続きが気になって読み進んだ。 聖書を字句どおりに信じる原理主義者の世界・・・こいつはほんとのディストピア小説である。

    0
    投稿日: 2016.04.07
  • 鋼鉄都市

    鋼鉄都市

    アイザック・アシモフ,福島正実

    ハヤカワ文庫SF

    SFであればこそのミステリー

    大昔に図書館で借りて読んだ「鋼鉄都市」は少年少女世界SF文革全集(あかね書房)の中の1冊だった。訳者はともに福島正実で、翻訳時期は相当古いはずだが、まだまだいける。登場する科学技術もさすがに時代遅れになっている箇所もあるだろうが、それはそれで味がある。 ロボットにRをつけること以外、話のほとんどを忘れていたせいもあって新鮮な気持ちで再読できた。 読み終わってみると、冷静に分析的読み方ができていれば犯行方法は推理できたはずと思われる合理的謎解きでした。その意味で正統派ミステリー。 広所恐怖症のように都市の外へ出られない地球人と、ロボット工学三原則により人は殺せないロボット。人と機械が探偵と相棒役になって宇宙人(地球人の子孫たち)殺人事件の謎に挑む。 鋼鉄都市に閉じこもっている遠未来の地球人類を、C/Fe世界を受け入れさせて地球外惑星へ導くという、宇宙人のSF的な計画と事件とその謎解きが不可分のものになっていて、未来世界(=異世界)で殺人事件を解決する以上の物語になっているところがいい。SFとミステリーの組み合わせが必然だったのだと感心させられた。 舞台を未来なり異世界に移しただけの作品ではなかったところがさすがアシモフ。続編「はだかの太陽」も是非読みたい。

    3
    投稿日: 2016.03.05
  • 聖なる侵入〔新訳版〕

    聖なる侵入〔新訳版〕

    フィリップ・K・ディック,山形浩生

    ハヤカワ文庫SF

    「ヴァリス」に続いて新訳版だが・・・

    サンリオSF文庫版を初めて読んだ時は「聖なる侵入」の方がずっと分かりやすく思ったが、新訳版ではむしろ印象が逆転した。 初めて読んだ時や「ヴァリス」に比べても神学談義が煩わしく感じて、訳は読みやすいのだが読み進むのに苦労した。聖書や宗教関連文書からの引用が多いのだが、引用を使っての話の展開がどうにもなじめないのだった。 それと、「ヴァリス」に比べると「聖なる侵入」の方は覚えている内容は極めて少なかった。「ヴァリス」の内容はある程度覚えていて、読み進むにつれて内容の記憶も蘇ってきたものだが、こちらはほとんど思い出せず。その意味では初読に極めて近かった。 処女解任して神性を地球圏に密輸入するため危篤症状にされているユダヤ教徒の女性ライビスなんて全然覚えてなかった。処女マリアの妊娠線云々のいかにも話のネタになりそうな話くらいは覚えていても良さそうなのに。 移民星から地球へ侵入を図る話と10年後の話が平行して描写されるくらいで構成がややこしいというわけでもない。そう考えると、ディックの神学かぶれの分身ファットの書いた小説という解釈は非常に納得できる。 それにしても、かつては神を外宇宙へ追放したはずの悪魔ベリアルの扱い随分と粗略である。あっさりハッピーエンドすぎるので、実はそう思わせない夢オチだったのかもしれないな。

    0
    投稿日: 2016.02.07
  • すべてがFになる THE PERFECT INSIDER

    すべてがFになる THE PERFECT INSIDER

    森博嗣

    講談社文庫

    犯人の動機は理解は出来ないんだけれども納得は出来る

    真賀田研究所に対する犀川助教授の感想は、おおむね同意できるなあ。窓は無くても個室で電子会議で仕事ってのは理想に近い。それとも窓がないのはWindowsを使っていないという暗喩なのか?  描かれているのは90年代後半あたりのプログラマの世界で、UNIXで動くワークステーションとマックがでてくる。私も90年代後半にはHPのHP-UX(UNIX)を載せたエンジニアリングワークステーションで仕事をしていたので、なんだか親近感を覚える。確かその仕事を始めた頃は1千万円くらいしていたはずだ。 デボラはデボラ数、粘弾性のネタとか、機械系がmm単位で話すとか、専門が近いところは細かいところも楽しめた。 それにしても、犯人の動機はちょっと理解が及ばないほど常識離れしているのだけれど、犯人の動機に不満が残った綾辻行人「十角館の殺人」よりは納得できた。理解は出来ないんだけれども納得は出来るというのも変な話なので、なぜなのか考えてみた。つまるところ、ミステリー小説にあるような連続殺人、密室殺人はそれ自体がかなり現実離れしているので、その動機もそれこそ奇想天外なものであった方が釣り合いが取れている気がするから私は納得できているように思われる。だいたい現実の殺人事件はほとんどが衝動的、発作的なのだろうし。密室殺人なんて特殊な犯行を試みる犯人の動機はやはり常識を外れたものの方が似合うと個人的に思うのだ。リアリズムより奇想を好むSF好きゆえの感想かもしれないが。

    1
    投稿日: 2015.10.04
  • 沈黙のフライバイ

    沈黙のフライバイ

    野尻抱介

    ハヤカワ文庫JA

    SFらしいSF短編集

    一貫してSFらしいSFが書かれていて大変面白く読んだ。この作品を読んだことで、安心して他の著者作品を買えるようになった。エンジニアにとって元気の出る小説を書く作家さんである。 「沈黙のフライバイ」。地球外文明探査(SETI)。JAXAのSETI班が異星人の探査機が接近するのを迎える話。確かに簡単には意思疎通はできないだろうが、いつかはわかり合えるはずだとの希望は湧いてくる。 「轍の先にあるもの」。2020年代小惑星エロスに立つ野尻抱介という夢を描いた小説。 「片道切符」。火星の有人探査に向かう二組の夫婦。しかしテロにより帰還不能になり、片道切符を覚悟する。 「ゆりかごから墓場まで」。太陽だけで閉じた生態系を形成し地球を旅するスーツ。火星のバクテリア。 「大風呂敷と蜘蛛の糸」。凧によるアシストで宇宙に達する方法。理工系ヒロインが主役となって長編「ふわふわの泉」に通じるところあり。

    5
    投稿日: 2015.09.22
  • 第二段階レンズマン

    第二段階レンズマン

    E・E・スミス,小隅黎

    東京創元社

    第一作、第二作に続いて勢いで読んだ

    勢いで読み終わたがボスコーンは撃退したってことでQX。まだエッドア人が残ってるか。 お話としては前作「グレー・レンズマン」ほどの興奮はなかったかな。驚きは減っても安定した面白さがあるってことは、シリーズものだし悪くはない。ただ、パターン化の嫌いもあるので最初に読んだ第一、第二作の方が上に思えても仕方なかろう。

    0
    投稿日: 2015.09.22
  • 恐怖

    恐怖

    筒井康隆

    文春文庫

    「恐怖」だからってホラーではなく

    文化人が狙われる連続殺人事件。ホラーではまったくない。題名が”恐怖”だから、ホラーだと思うのはあまりに安直すぎる思い込み。 恐怖におののき半狂乱になっていく文化人・村田の姿が笑いを誘う。それも恐怖が過ぎて笑うしかないというのではなく、被害妄想かと思われるほどびびりすぎな姿が笑える。 大変読みやすい。記録を見ると4時間くらいで読み終わっていて、私にしては早い。

    0
    投稿日: 2015.09.22
  • 作画汗まみれ 改訂最新版

    作画汗まみれ 改訂最新版

    大塚康生

    文春ジブリ文庫

    高解像度な端末で読もう

    読み終わったのは随分前で、手持ちのPRS-T2で読んだ。しかし、だいぶ内容を忘れているのでレビューを書くに当たってPCのブラウザで開いてみると、挿絵や写真の見栄えが随分違う。カラーもあるし。ウェブブラウザで読み直すと随分印象が違うのではないかという気がする。 それにしても大塚さんの15歳頃のスケッチの描写の細かさには驚かされる。絵の上手い人の観察力は並大抵ではない。 宮崎・高畑監督の同志である大塚さんの書いたこの本、アニメージュ連載時に部分的に読んでいたが、電子書籍化をきっかけにはじめて通して読んだ。 「ルパン三世」とか子供心に強烈な印象を受けた作品も彼らが作り出したもの。 そんな日本のアニメーションの歴史を作ってきた職人アニメーターの歩みが描かれた良書。

    0
    投稿日: 2015.09.22
  • アンブロークン アロー 戦闘妖精・雪風

    アンブロークン アロー 戦闘妖精・雪風

    神林長平

    ハヤカワ文庫JA

    戦いはまだまだ続く

    なぜか三部作完結と思い込んでいたが、戦いはまだまだ続く。 ジャムと雪風と機械知性体と人類の認識を巡る戦いは、リアルを巡る哲学談義の連続に読み進むにはかなり苦労した。現実世界の変貌により正しいリアルがなにか分からなくなるので読みづらくなるのも当然か。 とはいえ、続きが気になるところである。

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    投稿日: 2015.09.22