
砂と人類:いかにして砂が文明を変容させたか
ヴィンス・バイザー,藤崎百合
草思社
砂のマルサス
大部な著書であるが、砂の歴史的な位置づけ 利用方法から説き起こして、多くの資源と同様に砂でさえも枯渇し始めている という、言説には大変に説得力がある。ありきたりの環境活動家とは異なり、現代の先進国の人々の快適な生活が、砂を始めとした資源の上に成り立っている ということも繰り返し述べている。それだけに発展途上国の多くの人々が、先進国と同様の快適な生活をおくるための資源の問題は 用意には解決策が見つからない課題である。 しかし、この本を読むまで、砂まで枯渇しているとは全く思わなかった。そして砂漠の砂がコンクリートに使えないことも知らなかった。
0投稿日: 2025.09.15
殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一)
池波正太郎
講談社文庫
半世紀も前のテレビドラマ
半世紀も前のテレビドラマ「必殺シリーズ」の原作の記念すべき第一作目である。主人公梅安のイメージはテレビドラマの主役を張った緒形拳のイメージそのものである。単純な勧善懲悪 正義の味方モノではなく、後ろ暗いところ 失敗するところなど、今読んでも人間味あふれる傑作である。
0投稿日: 2025.09.11織田家の長男に生まれました~戦国時代に転生したけど、死にたくないので改革を起こします~ 8
逸見兎歌, 大沼田伊勢彦, 平沢下戸
織田家の長男に生まれました~戦国時代に転生したけど、死にたくないので改革を起こします~ 8
逸見兎歌,大沼田伊勢彦,平沢下戸
チャンピオンクロス
領主たちの戦略のせめぎあい
この巻は、転生者らしい未来知識の発揮の場面はまったくなく、一介の中小領主として周辺の領主たちとの戦略のせめぎあい にどっぷりと浸かってしまっている。歴史読み物としてはこのやり方のほうが正道であることはよく分かる。しかし、転生モノの特徴である 未来知識 を活かして無双する という爽快感がないところはやや惜しい。絵は相変わらずややぎこちない。
0投稿日: 2025.06.30
叛鬼<文庫版>
伊東潤
コルク
凄まじい戦いの人生
私の知識の中で空白に近かった戦国初期の関東地方の様子がよくわかった。最初から最後までほぼ戦いの描写で埋め尽くされた作品である。その戦いも戦略の冴え、戦術の巧みさ、個人的な戦技の卓越さ といった一般受けする要素はほとんど無く、大半がひたすら叩き合い、殺し合いに終止している。作者伊東潤が訴えたかった「下剋上」というものも、文章で抽象的に表現されているが、主人公の行動を見ると、下剋上というよりは 都合の良い方へ 生き残りができる方へ 転身していったようにしか思えない。
0投稿日: 2025.06.29
地図から読む歴史
足利健亮
講談社学術文庫
根拠がある話とない話
発掘調査の実績や出土物、地形からの考察など現物を伴った根拠がある話はたとえ地味でも謎解きサスペンス風の雰囲気もあって面白い。逆に文字や発音からの考察は眉唾物だと感じた。奈良時代から平安時代初期の古代律令制国家のころ幅広な直線幹線道路が整備されたのに、それが整備されなくなって曲がりくねった狭い道に劣化してゆくという過程は、古代ローマの街道を思わせて面白い。信長 秀吉 家康の話では、城下に無理に街道を集約させたという秀吉の話が面白い。家康の話は?である。
0投稿日: 2025.06.03
首折り男のための協奏曲(新潮文庫)
伊坂幸太郎
新潮文庫
連作短編集なのかはっきりしない
もともと独立した短編であったものを、加筆して連作短編集っぽくしたものらしい。そのせいか全体のまとまりがなく焦点がボケた あるいは焦点がないような印象を受けた。所々にこの作者らしいユーモラスな台詞があるが、他の作品と比べて控えめ。
0投稿日: 2025.05.31
ドイツ誕生 神聖ローマ帝国初代皇帝オットー1世
菊池良生
講談社現代新書
皇帝の凄まじい一生
実態がわかりにくい「神聖ローマ帝国」の初代皇帝オットー1世の伝記である。現代の「国民国家」という考え方にとらわれてしまっている我々とはまるで違った形 考え方をベースとした「帝国」がなかなかに興味深い。特に「国とは王家の私有財産であった。」という話には感銘を受けた。それにしても、身内 子どもたちに次々と先立たれた人生だったんだな。
0投稿日: 2025.03.28
君の心を漢字たい 3巻(完)
須河篤志
くらげバンチ
ちゃんとまとめている。
このコミック業界ではダラダラと巻を重ねる作品が多い中、ちゃんと3巻に話をまとめて大変に読後感が良い。気になる相手の心の中を読みたい という欲求は誰にでもあるが、「漢字一文字」が見えるという能力は大変に斬新で敬服した。そしてその能力が失われても、心を相手に伝える大切さを歌い上げていてとても良い。もちろん漢字の勉強にもなる。絵柄もとても良い。
0投稿日: 2025.03.28
地検のS
伊兼源太郎
講談社文庫
連作地検ミステリー
語り部として作者自身が投影されたような新聞記者を動かしている。自分の体験をもとに描いていることもあって、大変にリアリティがある。法律と義理.人情というわかりやすい対比 バランスを描いている。下手に書くとお涙頂戴もののベタな作品になるところだが、その少し手前でとどまって描いている所が良い。読み進めるにつれて、どんどん話が深くなってきて検察内部の権力闘争が物語のメインテーマになってくる。
0投稿日: 2025.03.23RAGS プロローグ
Brian Ball, Trent Luther, ほか6名
RAGS プロローグ
Brian Ball,Trent Luther,Luigi Teruel,Raven Monroe,Capucine Drapala,Liz Finnegan,HEY YOU,WagaComix
ナンバーナイン
アメコミそのもの
アメコミそのものの絵柄である。書き込みが大変に多く迫力満点ではあるが、日本のコミックを読み慣れた人間からすると、大変にとっつきにくい。ストーリー以前に絵柄で拒否反応を起こしてしまう。それでも我慢して読んでゆくと確かにストーリーそのものは切迫感緊張感にあふれている。しかし読みにくい。
0投稿日: 2025.03.23
