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  • ハーモニー

    ハーモニー

    伊藤計劃

    早川書房

    これはすごい。

    「虐殺器官」の時にはさしてすごいとも感じなかったけれど、これはすごい。どこからこんなアイディアが生まれてきたのか。 全体的に無機質な感じの漂う作品で、所々に挿入されるHTMLのような謎のコード。まさかそれがあんな仕掛けになっているとは。 登場人物の名前が独特で最初ちょっととっつきにくかったけど、読み進めていくと、この世界の異質さを表すのにちょうどいいアイテムのように思えた。 ライトノベル風味のグレッグ・イーガンって感じ。 確かフィリップ・K・ディック賞を受賞してたと思ったけど…伊達じゃない。早世したのが惜しまれる。

    2
    投稿日: 2013.10.11
  • Papa told me ~街を歩けば~

    Papa told me ~街を歩けば~

    榛野なな恵

    コーラス

    これ見よがしの優しさは他人のためじゃなく優しい自分に酔うため。

    Papa told me シリーズの新作。うれしい! 一話完結なので前のシリーズを読んでいなくても全然大丈夫! 子供だから、女だから、強くあれと求められる男だから…。「こうであれ」と求めてくる世の中の理不尽に対して抗いたい気持ちを癒してくれるような、そんなお話。 「いいひと」の顔をした誰かが心配そうに優しい言葉をかけてくれるけど、その人が思うかわいそうなことは自分にとっては別にかわいそうなことでも悲しいことでもない。大きなお世話だよ! って言いたいけど、言っちゃうと自分が悪者になっちゃう時ってありませんか? そんな時にこのシリーズを読むと、すごく胸に落ちて、ちょっと泣きたくなる。 何かが劇的に変えられるわけじゃないけど、何も変わらないかもしれないけれど、明日も生きていこうと思える、そんなお話。 前のシリーズも入荷しないかなあ~。

    3
    投稿日: 2013.10.11
  • 華竜の宮(上)

    華竜の宮(上)

    上田早夕里

    ハヤカワ文庫JA

    素朴な人々、冷徹な現実。

    ハヤカワは読み応えのある話が多いなあ。上下巻だけど一気に読めてしまった。 高度な文明に頼らず自分たちの技術のみで暮らす人や、文明の恩恵を受けて他人を見下すように暮らす人、両者の間に立って全てが幸せになれるように苦心する人、彼らの駆け引きが良い。 壮大な世界観や、魚舟・獣舟といったアイディアもいいけれど、「人」というものについて考えさせられる話だと思う。 避けられない終末に向かって、持てる限りの力を使って生き延びようとする戦いもすごい。 みんながハッピーめでたしめでたし、とはいかないけれど、自然に対して唯一立ち向かえる人類の力を感じる。 マキ君は人類を継ぐものになるのかな。それとも別の種族として存在するのかな。人工知能だけど、肉体を改造された海上民やロボットで肉体コントロールをする陸上民たちと同じく、彼もまた人間の一種のようだと思う。

    4
    投稿日: 2013.10.03
  • 獣の奏者 IV完結編

    獣の奏者 IV完結編

    上橋菜穂子

    講談社文庫

    泣いちゃう!

    少女エリンと神獣リランの物語の最終巻。 泣ける…! 避けよう避けようとして頑張っても運命に翻弄されて、結局はカタストロフィに向かっていってしまうエリンたち。 色々な立場の人がいて、それぞれの思惑が絡まって、まるでそこにしか出口がないみたいに結末に至る。 よくあるファンタジーと違って、剣も魔法もなくて、謎解きのように神獣や世界の法則が明かされていくのが 本当に圧巻。 個人的にはこの作者のもうひとつのシリーズより、こっちのほうが断然好き。 読み終わって、まるでかつて本当に生きていた人のように、エリンが胸の中にいた。

    5
    投稿日: 2013.10.03
  • ダンダリン一〇一

    ダンダリン一〇一

    とんたにたかし,田島隆,鈴木マサカズ

    モーニング

    主人公の成長が楽しみなお話。

    ドラマのCMを見て気になって購入してみた(ドラマは未見)。お仕事ストーリーが好きなのだ。 これは労働基準監督署が舞台のお話。麻薬に麻取、脱税にマルサがいるように、お仕事の 環境を守る警察のようなもの。 まあ社会人の一員として知っといて損はないかな、と思って。 常々残業時間が給料に反映されていないのを不満に思っていてこっそりタイムカードを写メって いる身としては、労基の話を読まないわけにはいかないでしょう。 内容は、思ったより面白いかなーという印象。絵柄はあんまり好みじゃないけど(失礼)。 でもこの主人公、ちょっと周りが見えていないというか空回りというか、若干イライラする。 これだから公務員は、とか教師は、とか言われちゃうような、学校出てすぐ温い環境で中身が お子様パターンな気が…。理不尽なことがあったからって無断欠席とか、学生じゃないんだから さー。 まあ正義感にあふれてて全力で突っ走っちゃう分、壁にぶち当たったときのダメージも でかいんだろうけど。第四話の「セクハラ? もちろんありますよー」のセリフでちょっとざまあみろ とか思っちゃったりして…。 でも、セクハラに怒ってみたり、労災認定のために普通はされない司法解剖までしちゃったり、 そうやってがんばる人は嫌いじゃない。 現実にこんなに親身になってくれるひとがいたらいいのに。 あんまりころころ変わる就業規定に苛立って労基に相談に行ったときは鼻であしらわれたけど。 この本を読んで勉強して、「労働基準法第○条に~」とか言ってみようかな。 ちょっと恥ずかしいな、無理だな。

    0
    投稿日: 2013.10.03
  • Landreaall: 1【イラスト特典付】

    Landreaall: 1【イラスト特典付】

    おがきちか

    Comic ZERO-SUM

    どこまでも遠く広がっていくような…

    ハリーポッターみたいなファンタジーが好きな人には向かないかもしれない。 いわゆるファンタジーと聞いて想像するような剣と魔法の世界とはちょっと違う、ゆる~いファンタジー。 竜がいて、魔法(のようなもの)もあって、剣ももちろん使うけれど、注目すべきはそれらのアイテムを 生かすこの世界独特の法則。 主人公は強いけれど万能ではないし、言葉では語られないこの世界の「当たり前」の中で生きていることが 感じられる。ひもを手繰っていくように少しづつストーリーが展開していくので、ミステリーやSFが好きな人には おすすめかも。 4巻からは突然学園ものになって一瞬驚いたけれど、彼らの生きている世界の一面ということで受け入れ られるようになったし、最初はあんまり好きじゃなかったキャラクターもストーリーが進むにつれてその 人間性がわかってきて好きになってしまう。 おまけもおもしろいよ! 電子書籍版だとカバー裏が収録されないのが残念…。

    2
    投稿日: 2013.09.26
  • 一瞬の風になれ 第一部 イチニツイテ

    一瞬の風になれ 第一部 イチニツイテ

    佐藤多佳子

    講談社文庫

    走りたい。力尽きるまで。

    幼い頃から続けてきたサッカー。兄と比べて自分の才能のなさに落ち込み、見切りをつけてしまった… そんな主人公の新二が幼馴染の連の「かけっこしようぜ」の言葉に誘われ、陸上部という新たな スタートを切る。 なんで俺の周りにはこんなにすごい奴ばっかりなんだろう、なんて思いながらもたゆまず努力を続けて、 いつしか自分も「すごい奴」らに並び立っていく… 呼んでいて泣き出したくなるような青春小説だと思う。 自分にも確かにあった、ひとつのことに打ち込んで、力尽きるまで走り抜けた過去。彼らにとってはそれが 「今」なのだ。 主人公が天才型の作品というのは多いけれど、この作品はそうじゃない。もちろん主人公の新二にも 恵まれた体格、神様からもらった才能はあるのだけれど、彼の本当の才能は不器用ながらもあきらめず、 努力し続けられるところ。 仲間と共に戦い、負けた試合が胸に苦しく、努力はタイムとなって報われる。本気の人間はすばらしい。 読み終わった後、無性に走り出したくなってしまうこと間違いなし。 まあ、かくいう自分は帰宅部だったのだけれど。

    1
    投稿日: 2013.09.26