レビューネーム未設定さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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復活の地1
小川一水 / ハヤカワ文庫JA
危機を乗り越えるのは一人の力ではできない
4
地震からの復興という地味ながら力のあるテーマのシリーズ全3巻。
舞台が地球でないので一瞬おや? と思ったが、物語の根幹にかかわる重要な理由があることが後に判明して納得。
星間文明的に周辺諸惑星より劣っ…たレンカを舞台に、主人公セイオが地震からの復興のために奔走するのだが、これでもかとばかりに次々と難題が起こる。
利権やら財源やら外交やら人権問題やら、実際の災害でもそうなんだろうなと思わされる問題があり、さらに自分勝手でばらばらの民衆を束ねることのなんと難しいことか。
それらを乗り越え、さらに襲い来る災害を最小限の被害に抑えるための策が功を奏するときには実にすっきりする。しかし、それを成功させても主人公は報われない、日陰者のままなのだ。
縁の下の力持ちのおかげで世界は回っている。読み終わって、姿は見えない人々に感謝の気持ちを抱いた。 続きを読む投稿日:2013.11.15
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華竜の宮(上)
上田早夕里 / ハヤカワ文庫JA
素朴な人々、冷徹な現実。
4
ハヤカワは読み応えのある話が多いなあ。上下巻だけど一気に読めてしまった。
高度な文明に頼らず自分たちの技術のみで暮らす人や、文明の恩恵を受けて他人を見下すように暮らす人、両者の間に立って全てが幸せにな…れるように苦心する人、彼らの駆け引きが良い。
壮大な世界観や、魚舟・獣舟といったアイディアもいいけれど、「人」というものについて考えさせられる話だと思う。
避けられない終末に向かって、持てる限りの力を使って生き延びようとする戦いもすごい。
みんながハッピーめでたしめでたし、とはいかないけれど、自然に対して唯一立ち向かえる人類の力を感じる。
マキ君は人類を継ぐものになるのかな。それとも別の種族として存在するのかな。人工知能だけど、肉体を改造された海上民やロボットで肉体コントロールをする陸上民たちと同じく、彼もまた人間の一種のようだと思う。 続きを読む投稿日:2013.10.03
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図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1)
有川浩 / 角川文庫
最後までノンストップ!
4
スピード感のある文章、向こう見ずで正義感の強い主人公、書籍の検閲をめぐる図書隊とメディア良化機関との攻防など、とにかく途中で目が離せない!
銃犯罪が起こるのは銃を規制しないから、猟奇殺人を起こした犯…人が残酷な漫画やゲームを好んでいた、だから規制しよう。
そうした論調と、作中のメディア良化委員会による検閲は同根のもので、それに対して検閲に抵抗する図書隊は「良いものも悪いものも斟酌せず、読み手に判断を委ねる」というスタンス。
その主張を守るためには武力も必要だが、相手を傷つけることについて開き直ったり美化したりしない、そうした点に図書隊の姿勢が表れている。
シリーズ後半になるほどラブコメ成分多目で、少女マンガは苦手な自分だが、主人公がアホの子だからか(?)かえって愉快に読み進められた。
シリアスとコメディのバランスが絶妙だからこんなに読みやすいのかも。 続きを読む投稿日:2013.10.19
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南極点のピアピア動画
野尻抱介 / ハヤカワ文庫JA
先生なにやってんすかw
3
自分も表紙で買うのを躊躇していたクチ。「太陽の簒奪者」「沈黙のフライバイ」は非常に楽しめたけど、クレギオンシリーズはあまり合わなかったし、キャラ先行だったらどうしよう…と思っていたのですが。
読み終え…てみるとしっかりSFしていて大満足。
突飛な発想でありながら、登場人物が普通に身近にいそうなリアリティを持っていて、「ひょっとしたらすぐにでも実現できるんじゃ?」と思わされる。知識だけではない、技術に裏打ちされた、地に足の着いたSFという印象。
蜘蛛が宇宙へのカギになるというのはありそうなことで、昆虫なら環境変化にも強いだろうし、しかも遺伝子組み換えなどなしで選択的淘汰だけでやってのけてしまうのがすごい。
こんな未来、来たらいいなあ。 続きを読む投稿日:2013.10.21
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オリガ・モリソヴナの反語法
米原万里 / 集英社文庫
どこまで嘘だかホントだかわかりゃしない
3
軽妙洒脱なエッセイを書く米原氏の持ち味がふんだんに生かされた長編小説。
ストーリーとしては主人公が少女時代に師事した一風変わったダンス講師オリガ・モリソヴナをひょんなことから思い出し、調べていくうちに…謎が芽生え始めて……というもの。
フィクションだが、実際に著者の過ごしたプラハをベースにしているだけあって細かい描写や時代背景にリアリティがあふれていて、どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションなのかわからなくなるほど。
激動のソビエト冷戦時代という歴史を背景にした謎解きやその時代に実際に生きた人々の悲喜こもごもが迫ってきて、たとえば指輪物語のようなハイファンタジーに勝るとも劣らない広い世界が感じられた。
登場キャラクターも外国人らしく個性あふれる人達ばかり。「オリガ・モリソヴナの反語法」というタイトルも、オリガ・モリソヴナを象徴する単語というだけではなく、物語全体を貫いて引き締める仕掛けがあるので、ぜひ楽しみに読んでほしい。 続きを読む投稿日:2015.01.09
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Papa told me ~街を歩けば~
榛野なな恵 / コーラス
これ見よがしの優しさは他人のためじゃなく優しい自分に酔うため。
3
Papa told me シリーズの新作。うれしい! 一話完結なので前のシリーズを読んでいなくても全然大丈夫!
子供だから、女だから、強くあれと求められる男だから…。「こうであれ」と求めてくる世の中の…理不尽に対して抗いたい気持ちを癒してくれるような、そんなお話。
「いいひと」の顔をした誰かが心配そうに優しい言葉をかけてくれるけど、その人が思うかわいそうなことは自分にとっては別にかわいそうなことでも悲しいことでもない。大きなお世話だよ! って言いたいけど、言っちゃうと自分が悪者になっちゃう時ってありませんか?
そんな時にこのシリーズを読むと、すごく胸に落ちて、ちょっと泣きたくなる。
何かが劇的に変えられるわけじゃないけど、何も変わらないかもしれないけれど、明日も生きていこうと思える、そんなお話。
前のシリーズも入荷しないかなあ~。 続きを読む投稿日:2013.10.11