
阪急電車
有川浩
幻冬舎文庫
関西人は、必読
「阪急電車」という強力なローカル色があるので 大阪・兵庫地域以外の人には、ちょっとなじみにくいかもしれない。 私も関西人だが、今津線に乗ったのは、今まで3回か4回だからだ。 ただ、その「なじみ」さえ気にしなければ、 とおりすがりの人々の間に生まれた、ささやかな交流を 心温まる視線で描いた傑作で、 映画もこの原作も甲乙つけがたい魅力がある。 私は、映画は映画館で2回観た。 原作は、文庫本と電子書籍のダブル購入である。 今津線に位置する某大学のOBも必読だろう。
16投稿日: 2013.11.09八日目の蝉
角田光代
中公文庫
「やさしかったお母さんは、私を誘拐した人でした」
映画のコピーである、この一文だけで すべての内容がわかる。 そして、 映画と原作では設定が違うが 子どもを奪い去られた実母も、また哀れである。 誰もが「悪くない」のに、みながズタズタに傷ついてゆく切なさ。 自分ならどうしただろうと、 読み終えたあとも考えさせられた。
1投稿日: 2013.11.09慟哭
貫井徳郎
東京創元社
職場の男性から勧められた1冊
職場の同僚男性より 「これ、面白いから、よかったら読んでみない?」 そう言われて、借りて読みだしたのが、この本を手にしたきっかけだった。 連続幼女殺人事件という、女性にはキツイ設定にもかかわらず はやいストーリー展開と、主人公の私生活をからめた苦悩、 そして新興宗教の内幕への興味深さに惹かれて 一気に読んでしまった。 読み終わったあとに、まさしく「驚愕」したのは、言うまでもない。 返すときに 「面白かったわ、ありがとう」 が心から言える一冊である。 返したあと、自分で改めて買ってしまったのは 彼には内緒にしているが。
23投稿日: 2013.11.09三浦綾子 電子全集 道ありき 青春編
三浦綾子
三浦綾子 電子全集
結納の日に発病、絶望の果ての自殺未遂、そして
これが実話だという。 24歳、結納が入る日に貧血で倒れ、そのまま肺結核と診断され 療養生活に入る著者。 婚約者は誠実な人だったが、当時は肺結核は不治の病、 婚約解消を決意した著者は、自殺を決意するが途中で止められ、未遂となる。 その後、13年に及ぶ寝たきりの生活。 望みは、自分の足で立ち、トイレに行けること。 ベッドの上に起き上がって、自分で自分の食べ物を見て食べられること。 すごい人生である。そこらのワイドショー顔負けである。 何度も書くが、実話である。 そんな過酷な療養生活を、著者はこう表現する。 その日々は「青春」だったと。 人間にとって、生きるとは何か、 どうしたら人間はこれほどの苦難を耐えて強くなれるのか、 キリスト教の教えに裏打ちされたひたむきさに 強く心を動かされる名作。 前半の「苦悩編」と、後半の「復活編」との対比もあざやかで 読み終わって、とてもさわやかな気分になれる。 ちなみに私は、紙の書籍で2回買った。 (読んでるうちに傷んでしまったので) 電子書籍なら、何度読んでも大丈夫。まことに結構である。
1投稿日: 2013.11.07三浦綾子 電子全集 氷点(下)
三浦綾子
三浦綾子 電子全集
恋とは憎しみだろうか
妻・夏枝の「不倫」の最中に、娘・ルリ子が殺された啓造は、 夏枝を苦しめるために、夏枝に隠して、ルリ子殺しの犯人の娘・陽子を引き取り、 夏枝に育てさせる。 ルリ子の身代わりにと、陽子を溺愛する夏枝。 が、ふとしたことから真実を知った夏枝は、どうしても陽子を愛せなくなり 一転して、陰湿な「継子いじめ」が始まる・・・。 後編では、この陽子が高校生に成長し、 青年・北原との出会い、そして恋が描かれる。 今まで、明るく素直だった自分が 北原の前では、思い通りにふるまえない・・・ そんな「恋する自分」に戸惑う陽子。 そして、北原が別の女性と歩いているところを目撃し、 嫉妬心は一気に爆発する。 逢いたいのに、許せない。 許せないのに、なつかしい。 自分の心なのに、自分の思うように動いてくれない思い。 そんな自分に戸惑い、陽子はつぶやく。 「恋とは、憎しみだろうか」 と。 このあたりの初々しい描写は、 作品発表後50年たつ今も、そのみずみずしさは色あせていない。 そして、いくつもの誤解や行き違いを超えて、 結ばれようとする二人に、母・夏枝は言い放つ。 「北原さん、この人(陽子)の父親は、ルリ子を殺した犯人ですのよ」 結末がどうなったか・・・ それは、ぜひとも、直接読んでいただきたい。 新聞連載当時、読者からの手紙が殺到したというそのシーンは 涙なしでは読めない哀切さに満ちている。
2投稿日: 2013.11.07三浦綾子 電子全集 氷点(上)
三浦綾子
三浦綾子 電子全集
「私は悪くない」、そう思うことが罪
恐ろしい小説である。 それは、ストーリーが殺人事件から始まるからではない。 誰が一番恐ろしい人間なのか、それを絶えず読者に問い続けるからだ。 夫以外の男性と一緒にいたいために、 3歳の娘・ルリ子を外に出し、通り魔に殺されてしまう夏枝。 その妻・夏枝を許せず、ルリ子を殺した犯人の娘をひきとり、 夏枝に育てさせる夏枝の夫・啓造。 啓造の恐ろしい頼みを承諾し、犯人の娘を引き渡す医師・高木。 だれもが、世間では、立派な人間、しとやかな妻なのに 蔭では身の毛もよだつ恐ろしいことをしている不気味さ。 その中で、出てくるこんな会話。 「わたくし、犯人の娘を育てさせられるほど悪いことはしていませんわ」 「私は、きみほどひどい人間ではないつもりだよ」 そう、 誰もが、自分は悪くない、とずっと思い、ずっと誰かを責め続けている。 その中で、まっすぐに、育っていく犯人の娘・陽子。 「私は、石にかじりついても、ひねくれないわ」 そう思って、育ての母・夏枝のいじめにも負けず、 生きていこうとするのだが・・・ この陽子もまた、思っているのだ。 「私は悪くない、だから、どんなにいじめられても負けない」 と。 この作品は、「氷点(上)」「氷点(下)」「続氷点(上)」「続氷点(下)」の4冊の第1巻になる。 キリスト教の「原罪」をテーマにした小説だが、 ストーリーは昼ドラ並の「不倫仕立て」で それだけに身近で、ついつい引き込まれてしまう。 最後まで読み終わった時、一番悪いのは誰だと作者は言うのか 意外な答えに驚愕する。 ちなみに私のハンドル「hyouten」は、この小説からとったのは 言うまでもない。
4投稿日: 2013.11.07ホットロード 1
紡木たく
別冊マーガレット
一番こわいのは、止められない自分自身
「この14歳少女の 若いエネルギーを このままにしておいてはいけないっ」 そんな心の叫びのままに、いわゆる「不良」への道を走り出す和希。 ほんとにフツーの少女だった彼女がどんどん変わっていく。 でも、ハラハラしながら読み進んでいくうち、 ああ、こんなふうに、少女は傷ついていくんだ、 ああ、こんなふうに誰かを好きになっていくんだ、 ああ、こんなふうに母への思いをぶちまけるんだ、と せつなさで胸がいっぱいになる。 「たす…け…て」 と母にしがみつくシーンでは 涙が止まらなくなる。 もう、あんなにピュアに生きることは 今の自分にはできないけど、 それだけにいっそう、印象に残る。 最後に、作品からこんな言葉を。 担任の教師がつぶやく言葉である。 「この先、あの瞳に映るものが… あの子を強くするものであることを 願うよ」
3投稿日: 2013.10.29ロリィの青春 1
上原きみ子
秋田書店
少女まんがの王道
すてきな男の子との偶然の出会い、 母の死、 うちこめることと、強力なライバル、 すれちがう恋と、恋人の死、 そして明かされる主人公の出生の秘密・・・ ネタバレにならない程度のぼかして書いたが、 少女漫画の王道というべきストーリー展開である。 雑誌発表当時、熱狂的な人気を誇った。 バレーボールやテニス全盛時に 乗馬というスポーツも斬新だった。 また、主人公ロリィが恋人クレオと別れて 病弱なシベールを選ぶところは、 大人になった今読んでも、やっぱり納得がいかない! そう、いまだに、 「ああ、どうなるんだろう?!」 とドキドキして読ませる魅力にあふれている作品だ。
0投稿日: 2013.10.26海の底
有川浩
角川文庫
実は、子供たちの自立の物語
巨大甲殻類に襲われた子供たちが、自衛隊の潜水艦に避難した。 小学生から高校生までの15人、その中に少女がひとり。 主役の自衛官2人は、子供たちを無事に親許へ返すために 大車輪の働きを見せ、もちろん、そこがこの作品の一番の見どころだが この少女こそが、実は本編の主人公じゃないかと思う。 複雑な家庭環境に育ち、何もかもに遠慮がちなこの少女が、 密室の中で、危機に直面して 中途半端な自分の生活を一変させ、 強くなっていくのが、自衛隊とエビの戦い以上に印象的。 そういう意味では、女性におすすめの一作。
2投稿日: 2013.10.15大誘拐
天藤真
創元推理文庫
おばあちゃんは大悪党
チンピラ三人組に誘拐された資産家のおばあちゃん。 普通は、 お年寄り相手に、何てひどい、 と思うシチュエーションだが、 いつのまにか、誘拐されたはずのおばあちゃんが 犯人たちを手足のようにコキ使って 誘拐事件の首謀者に躍り出る! 荒唐無稽、だけど 人間がよく書かれた暖かいストーリーに ハラハラドキドキ、けどホロりとも来て 何度でも読み返したくなる名作。
20投稿日: 2013.09.25