KENTさんのレビュー
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ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 1
廣嶋玲子, jyajya / 偕成社
笑うセールスマンのようなふしぎな駄菓子屋さん
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ときどき思い出したように町の路地裏に佇む奇妙な駄菓子屋さん。そこで店番をしているのは、和服を着てどっしりとしたお相撲さんのようなおばさんである。真っ赤な口紅を塗りたくり、色とりどりの大きなガラス玉の…かんざしを何本もさしている派手な彼女は「紅子」という名で、古いお金を集めているようである。
また店に置いてあるものは、「猫目アメ」、「骨まで愛して・骨形カルシウムラムネ」、「闇のカクテルジュース」、「妖怪ガムガム」、「ぶるぶる幽霊ゼリー」などなど、見たこともない摩訶不思議なお菓子ばかりである。そしてこれらを食べることによって、魔法のような不思議な現象が起こるのである。
本書では「型ぬき人魚グミ」、「猛獣ビスケット」、「ホーンテッドアイス」、「釣り鯛焼き」、「カリスマボンボン」、「クッキングツリー」、「閉店」の七短編が掲載されているが、読み易くて面白いので遅読の私でさえ1時間程度で読破してしまった。
好評につき、現在13巻まで出版され、アニメ映画化されたようである。なかなか面白い小説だが、なんとなく藤子不二雄の『笑うセールスマン』を思い出してしまうのは私だけではないだろう。 続きを読む投稿日:2021.01.12
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時砂の王
小川一水 / ハヤカワ文庫JA
映画向きの作品かも
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西暦248年、邪馬台国の女王卑弥呼は、突然おぞましい「物の怪」に襲われるのだが、「使いの王」と呼ばれる未知の人物に助けられる。実は「使いの王」とは、遥かな未来から時空を超えてやって来たメッセンジャー…と呼ばれる人工生命体であり、オーヴィルの頭文字Oを王と聞き違えて、この時代では「使いの王」と呼ばれることになったのである。
邪馬台国の時代より遥か2300年後の未来においては、謎の増殖型戦闘機械群により地球は壊滅してしまい、さらに人類の完全殱滅を防ごうとその機械群を追って来たのがメッセンジャーたちであった。またその邪悪な機械軍が、邪馬台国の時代には物の怪と呼ばれる存在であった。
邪馬台国の時代を中核に描きながらも、オーヴィルたちが戦い続けてきた別の時代やパラレルワールドを交錯させながら、この壮大なストーリーは紡がれてゆく。この大作を僅か300ページ足らずの文章にまとめた技巧は実に見事である。ただそのためか、状況説明的な文章が多くなり過ぎて、登場人物の背景や心理描写などが希薄になってしまった感が否めない。
このあたりが最近のSF小説の特徴で、データー量の多さや精密な論理については申し分ないのだが、ジンジンと心に響き渡ってくるような熱い感情が湧かないのだ。ただこれが小説ではなく、映画やアニメやゲームの原作となると、小説では見えなかった映像や音源などとの融合により、迫力ある素晴らしい作品となるのだろう。事実この作品もハリウッドで映画化されることが決定されたようである。
もし若者たちから、「それが現代SFなんだよ、おっさん!」と叱られれば、「さようでございますか、勉強不足で申し訳ございませんでした。」と応えるしかないだろう。ただ良い悪いは別にして、星新一や小松左京たちが活躍していた頃のSFと比べると、もう全く別ものと言って良いほど、近年のSF小説が変わってしまったことは間違いない。またSF小説だけではなく、マンガもアニメ風の絵柄に変化しSF同様の道を辿っているような気がしてならない。 続きを読む投稿日:2020.01.04
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約束 村山由佳の絵のない絵本
村山由佳 / 集英社文庫
三篇の本絵を文字だけで再構成した童話
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村山由佳がイラストレーターと創った絵本から、文章の部分だけを取り出して再構成した『絵のない絵本』である。子供向けで字数も少なく読み易いので、誰でもあっという間に読めるだろう。
収録作品は表題の『…約束』をはじめ、『さいごの恐竜ティラン』、『いのちの歌』の三作で紡がれている。
この中で一番長いのが約80頁の『約束』で、4人の少年たちの友情をノスタルジックたっぷりに描いた『スタンド・バイ・ミー』もどきの小説である。その中で難病で入院した友達を助けるために、タイムマシン製作に夢中になってゆく3人の少年たちの涙ぐましい努力が実に微笑ましい。
『さいごの恐竜ティラン』は、肉食恐竜に子供を食われた草食恐竜が、その肉食恐竜の赤ちゃんを育てるというお話。また『いのちの歌』は、人間によって汚染された海の中に迷い込んでしまったくじらの母子の愛情物語である。ともにいのちの尊さと母性本能の深さを、しみじみと描いてジーンとくる短編小説に仕上がっている。 続きを読む投稿日:2018.03.20
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穴(新潮文庫)
小山田浩子 / 新潮文庫
不条理だが読み易かった芥川賞受賞作
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本作『穴』は第150回芥川龍之介賞を受賞している。最近の芥川賞は有名人や若い女性の受賞が多く、内容的にも分かりづらく読みにくい作品が多かった。そんな中で本作は、久々に分かりづらいが読みやすい作品であ…った。
話のあらすじは、主人公が夫の転勤で、田舎にある夫の実家隣に引っ越してきたところからはじまる。
とある日、姑に頼まれてコンビニに支払いに行く途中で、不思議な黒い獣と遭遇し、河原のほうへそれを追いかけるうちに、胸の高さくらいある穴にすっぽりと落ちてしまう。
この黒い獣も謎めいているのだが、姑が連絡してきた支払金額がだいぶ違っていたり、突然聞いたこともない義兄が登場したりと、かなり不条理な雰囲気が漂いはじめる。ところが主人公は、それほど奇妙には感じていないようだし、悩むでなし夫や姑に相談するではなし、抵抗感が全くなく淡々とかまえている。そんな主人公の飄々としたような生活感度も、さらに不条理さの深みに誘っているような気がするのだ。
だからなんとなく、つげ義春の後期のマンガや安倍公房や村上春樹の小説を読んでいるような雰囲気が漂ってくる。またインタビューによると、作者自身も何を書こうとしているのか不明であり、何なの分からないまま推敲し彫琢したものが、この作品になっているのだと言う。
この『穴』という作品は約90頁で、本作だけで書籍するには短過ぎる。それで『いたちなく』と『ゆきの宿』という短編二作品を追加して書籍としてまとめられている。この『ゆきの宿』は本作を書籍化するにあたり書き下ろされた作品で、『いたちなく』の続編といったポジションのようだ。そしてどちらも舞台は田舎である。『穴』も田舎が舞台であることを考えると、著者は田舎に対して憧れ感を抱いているのであろうか。 続きを読む投稿日:2018.03.20
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クイックセーブ&ロード
鮎川歩, 染谷 / ガガガ文庫
何度でも人生をやり直せる少年
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普通の人間なら、人生は一回限りでやり直しがきかないのだが、本作の主人公は何度でもやり直しができる能力を持っている。つまり死んでも再生可能ということなのだが、事前にセーブしておくことが必要となる。そう…することにより死後に再生する時間と空間が、セーブした時点からのやり直しで済むことになるのだ。
セーブそのものはただ頭の中で念じるだけなので、脳に針を突き刺すような感覚が一瞬走るだけなのだが、死ぬときの痛みと恐怖感は半端ではない。それでも主人公は何度も何度も自殺を繰り返して再生しているのである。その感性は余り理解できないし、主人公の暗くてドジではっきりしない性格も好きになれない。
ただ唯一の協力者である「超能力研究会」の常盤夢乃先輩のキャラだけは、なかなか好感が持てるし、染谷の漫画チックなイラストもなかなか良い味を漂わせている。
ストーリーは、幼馴染の女の子を救うために、主人公が何度も自殺と再生を繰り返して別の結果を導こうとするのだが、ドジで非力で弱虫のためなかなか思うような結末にならない、といったループものにはよくある展開なのだ。そして終盤になって致命的なミスを犯してしまうのだが、それが通常のゲームと違い平行セーブできないという弱点であった。
いずれにせよ新鮮さやストーリーの緻密さにはやや欠けるものの、読み易さという面ではかなり評価できるかもしれない。なにせ超・遅読症の私でも、350ページ近い本作を、僅か3日間で読了してしまったのだから…。 続きを読む投稿日:2018.03.20
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タイム・リープ<上> あしたはきのう
高畑京一郎, 衣谷遊 / 電撃文庫
美少女高校生の綿密な時間パズル
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著者の高畑京一郎は、1993年の『クリス・クロス 混沌の魔王』で第1回電撃ゲーム小説大賞〈金賞〉を受賞してデビューしたのだが、本作を含めていまだに4作しか書いていないという超・遅筆作家である。本作は…そんな数少ない著作の中でも代表的な作品であり、1997年には大林宣彦監督の監修で実写映画化もされている。
さて本作はタイムトラベル系の小説だが、タイムマシンを使って時空を超えると言う方法ではなく、女子高生の危機意識による時間移動という手法を用いて時空を越えてゆく。但し同じ時間軸を二度以上経験することはなく、ランダムに時間を渡り歩くという展開なのである。
そしてなぜそうした現象が生じてしまったのかという謎解きに、ヒロインを狙い続ける犯人の存在が絡んでくる。だからどうなる・どうなると夢中になって、一気にむさぼり読んでしまうのである。
ことに緻密な時間論理構成による時間パズル的な手法は、発表当時には驚くほど新鮮であった。さらにSF・ミステリー・学園・恋愛を絡めたうえにテンポも良く、まさに上質の名作小説に仕上がっていると確信する。
さて『タイム・トラベル』、『タイム・スリップ』、『タイム・リープ』など、時間移動方法には似たような言葉があるのだが、一体これらはどう違うのだろうか。余り自信はないのだが、次のように括ってみたのだがいかがかな・・・。
●タイム・トラベルとは、タイムマシンなどを使って時空移動するオーソドックスな方法
●タイム・スリップとは、地震などの突発的な災害や事故により時空移動する方法
●タイム・リープとは、自分自身の能力や意識により時空移動する方法
こんなところであろうか。 続きを読む投稿日:2018.03.20