Anthro Vision（アンソロ・ビジョン）　人類学的思考で視るビジネスと世界

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  ABAKAHEMP

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  「身近なもの」を「未知なること」に

  エキゾチックな文化を研究することだけが人類学ではない。
  アンソロ・ビジョンのスキルが生きるのは、未知なるものへの共感が、身近なもの、すなわち自分自身を映す鏡を得ることにつながること。
  
  FT…の記者として何の関心も持てなかった経済部に回された著者。
  しかし彼女の目には、投資銀行家の会合が、学生の時に研究していたタジキスタン人の結婚式と同じだと気づく。
  新しい言葉が飛び交っていても、結局は、様々な儀礼と文化的パターンに彩られた集合に過ぎない。
  人類学のレンズを使って振り返ることは、自らにレンズを向けていることに等しい。
  
  世界のどこにいても同じに見える、キットカットや社内会議でさえ、国によって異なる「意味の網の目」を持っている。
  人類学的視点は、社会や組織の暗黙の了解を顕在化させ、隠された文化的パターンをはっきりと認識させてくれる。
  眼の前にあるのに見えていなかったんだと、まるでわかっていなかったんだと、気づかされる。
  
  「身近なもの」を「未知なること」と捉え、「未知なるもの」を「身近なこと」として捉えるためには、常に認知的な筋トレが必要になる。
  みんなにとっての「ふつう」を、アウトサイダーからの視点で分析するのだから。
  
  最も深刻なコミュニケーションの行き違いは、異民族同士ではなく、同族同士の間で起きている。
  なぜなら、誰でも自分の抱いている前提が、仲間と共有していないなんて思わないからだ。
  この前提の中には、時間に対する感覚なども含まれ、まさかお互いの間で時間の意味するところが異なっているとは想像すらしない。
  「あぁ、まるでわかりあえていなかったんだな」とわかる、気づきの瞬間だ。
  
  パンデミック対策で、多くの政府は、デジタル接触追跡テクノロジーの開発に巨額を投じたが、結局ほぼ使い物にならなかった。
  新型コロナを抑える最善の方法は、デジタルアプリに頼るのではなく、コミュニティと協力しながら、治療と共感を届けることだった。
  トップダウンの視点ではなく、地域に根ざした虫の目の視点が必要だった。
  複雑で多様なニーズを地道に聞き取って、他者の共感を広げていくこと。
  医師が共感を持ってコミュニティと協力した方が、パンデミックの制圧ははるかに容易になる。
  
  なぜリモートワークでは駄目なのか?
  自宅でリモートワークしたチームより、オフィスで働いていたチームの方が、成果が大きいのはなぜなのか?
  今後も、すべてオンラインで仕事ができるなら、なぜまだフロアに集まって一緒に仕事をする必要があるんだろうか?
  著者の視点はこうだ。
  席の隣同士で会話したり、休憩室で雑談にふけったり、他の人たちのやり取りを耳に挟んだりすることは、そこで多種多様なシグナルや情報を吸収している。
  これらは、故障診断や金融市場などといった不確実な問題や要素への対処を容易にしてくれる。
  
  ある程度リモートで仕事できても、このような「偶発的情報交換」、自分が必要としていることすら気づかない情報と出会う機会はなかなか訪れない。
  正しくセンスメイキングするためには、同じ空間に身を置き、人と人とが交わる必要がある。
  オフィスや学校で机を並べることは、そのための貴重な社会システムで、物語や相互作用を生む、かけがえのないものなのだ。
  
  ちょっと意地悪な見方をすると、隠されたパターンを見つけるのは、別に人類学の専売特許ではない。
  インフォーマルな社会関係を分析する社会学もそうだし、他の学問もそうだろう。
  参与観察という人類学ならではの分析手法もすべてで通用するわけではなく、現に著者も、ジャーナリスト界に属すると入れない領域だらけだ。
  社内で人類学者を雇って業績をアップさせた企業の実例も紹介されているが、どこまでがその貢献によるところなのか曖昧だし、何よりアップ率がその程度なんだという冷めた印象も。
  ストーリー性のある解釈で納得できたのが大きいのかしらん。続きを読む

  投稿日：2022.03.16

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  echigonojizake

  筆者のジリアン・テットはFTの看板記者、アメリカ版編集長。ジャーナリストはヒストリアン(歴史家)の視座が必要ということは言われますが、アンソロポロジー(人類学)の素養、視座もとても重要とのこと。かつア…メリカ中心に企業からのニーズも増えているというのがよくわかりました。素直におもしろい！
  しかも彼女はこんど母校ケンブリッジ大のキングスカレッジの学長になるとか。
  
  記者の取材テーマが人の人生はわかりやすいですが、クルマやスマホなどの可視的なもの、哲学という概念的なもの、AIのような最新テクノロジー、のどれをとっても動かすのは人間ですね。テック全盛と思われがちな現代だからこそ、人類理解はスクープや深い解説記事につながるのかと。英語のこの本の解説を見ても、ブラインダーを取り除くなど評価されてました。
  
  さらにアンソロポロジーとひとことで言っても、調べると霊長類学、人間古生物学、有史前の考古学、人類の進化、人類学的言語学、民俗学、民族歴史学、社会文化人類学など広範に含まれるようです。うーん、今回はジャーナリストの本だが、また別の本も読んでみたい。続きを読む

  投稿日：2023.09.27

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