特務(スペシャル・デューティー) 日本のインテリジェンス・コミュニティの歴史
リチャード・J・サミュエルズ(著)
,小谷賢(訳)
/日本経済新聞出版
作品情報
●日本は日米同盟を深化させ、「ファイブ・アイズ」加盟への道を進むのか。●「自主防衛」を選び、インテリジェンス・コミュニティを完全に再構築するのか。●あるいは中国との協調関係を選び、中国が反対するレーダーシステムや衛星の導入を抑制し、米国よりも中国と情報協力するのか。* * *冷戦終結後、日本の安全保障戦略家たちは日本のインテリジェンス改革に取りかかり、日本の安保組織を再構築しはじめた。第二次世界大戦の完全な敗北、アメリカへの服従、国民の軍部不信といった戦後日本のインテリジェンス・コミュニティへの足枷が、どのようにして「新しい世界秩序」のなかで外され、2013年の特定秘密保護法と国家安全保障会議(NSC)創設に至ったのか。戦前から現在まで、日本の100年におよぶインテリジェンス・コミュニティの歴史を、インテリジェンスの6要素――収集、分析、伝達、保全、秘密工作、監視――に焦点を合わせて考察する。そして直近の改革が日本の安全保障にどのような結果をもたらし得るのか、過去の改革がどのような帰結だったのかを明らかにしていく。
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商品情報
- 著者
- リチャード・J・サミュエルズ, 小谷賢
- 出版社
- 日経BP
- 掲載誌・レーベル
- 日本経済新聞出版
- 書籍発売日
- 2020.12.22
- Reader Store発売日
- 2020.12.22
- ファイルサイズ
- 19MB
- ページ数
- 504ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (7件のレビュー)
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重要なのは、情報と政策の分離
戦前から戦後、そして現代に至るまでの日本のインテリジェンス研究。
このような通史は初めてで、それだけに貴重かつ決定版とも言えるほどの完成度。
最初にさらりと解説された後は、ヒュミント/シギント/イ…ミント/オシント/マシントなどの専門用語が頻出するので、馴染みのない人はメモ必須。
とにかく無類に面白いのだが、翻訳が拙くいちいち引っかかりストレスを覚える。
訳者は、著者直々のご指名で、TVでもお馴染みのこの分野の専門家。
おそらく原文のニュアンスを忠実に訳そうとしたのだろうが、日本語の文章として破綻してしまっていては意味がないだろう。
「我々の計画立案では、よく知らないことを、起こりそうもないことと混同してしまう傾向がある。深刻に考えていない不測の事態は一風変わっているように見え、一風変わっているように見えるものはありそうもないと思われ、ありそうもないことは深く考える必要がない」というシェリングの至言から始まる最初の総論が素晴らしい。
インテリジェンスの世界では見直しや改革をしても、失敗は厄介なほどすぐ発生する。
これは世界的な現象で、失敗は敵ではないと説く。
インテリジェンス業務は決定的な成功と華々しい失敗とを生み、双方から学ぶものだ。
インテリジェンスの収集は膨大な量の矛盾した情報に満ちている。
何を調べる必要があるかも、探し求めるものを見つける方法さえもわからないという収集の問題。
あるいは、総意に反する意見は薄められ、曖昧になり、捨てられるという分析の問題、過剰に編集や調整され、決定的なものでなくなるという伝達の問題がある。
たとえ的確に収集され分析された情報も、それを受け取った政策者が正しく反応しなければ失敗する。
分析官と政策立案者との関係も微妙で、政策がなければ分析は的外れになり、インテリジェンスがなければ政策はやみくもになる。
安倍政権において改善に向けて連携しつつあるインテリジェンス・コミュニティも、その内側は警察官僚がトップを牛耳る内調と、外務官僚が重要ポストを占めるNSSとの主導権争いがあり、すでに米海軍と独自に緊密な連携をとる自衛隊や防衛省などを含む情報担当機関がそれぞれに縄張り争いを繰り広げ、垣根を越えた協力もないまま、生情報をバラバラに直接官邸に上げ続ける構図が見える。
中国でのスパイ行為による邦人の拘束も、嫌がらせや日本政府の政策に対する報復と見られていたが、公安調査庁のヒュミントへの傾倒ぶりを示すものらしい。
あまりパッとしない日本のインテリジェンスも、シギントについては、技術レベルの改善や傍受拠点の着実な増設によって、情報収集能力が高められ、アメリカ軍部から頼りにされるほど連携は深まっている。
大韓航空機撃墜事件のソ連機の暗号解読などは、日本の陸自の能力の高さを示した好例だろう。
驚いたのは、アメリカのインテリジェンス内部での三島事件についての受け止め方で、楯の会の訓練が自衛隊基地で行なわれ、教官役を務めた山本が事件後に辞任も求められず、むしろ昇進さえしているという事実は、相当な不信感を抱かせていたようだ。続きを読む投稿日:2021.03.18
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多くの関係者インタビューをもとに、日本のインテリジェンスの歴史やその問題点を分析する良書。NSS立ち上げ後も内調とのアクセス争いがあることなど、収集・分析機関間の争いや政策との関係が引き続き問題である…ことがよく分かる。結局は、不確実性を含むインテリジェンスを政治家・政策部局がどれほど重視できるのかという文化の問題かもしれない。以下興味深い点。
・戦前のインテリジェンス・コミュニティでは秘密工作の方が分析よりも高く評価された。
・東條英機はインテリジェンス不信。ナチスドイツのソ連侵攻に関する情報を信じようとせず。防諜組織も持っていなかった。
・合同情報会議は1986年に創設。この頃、内調室長の総理ブリーフは週一回だった。
・1985年、中曽根総理がスパイ防止法を作ろうとして失敗。
・1998年、官房長官を議長とする内閣情報会議が創設。しかし、縦割りや政策側との混線問題は取り組まれず。
・1997年に防衛庁情報本部の創設。
・インテリジェンス改革の促進要因:テポドン実験など安全保障環境の悪化・米国の圧力
・町村は「政治指導者によるインテリジェンスの放棄」の状況を変えようと決意。
・2005年でも内閣情報官の総理ブリーフは週一回。
・NSSは内調に頼るのではなく外国の情報源を開拓しようとした。ソニーピクチャーズへのサイバー攻撃について米から情報を得たのはNSS。
続きを読む投稿日:2022.05.08
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