ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀
エリック・A・ポズナー(著)
,E・グレン・ワイル(著)
,安田洋祐(監訳)
,遠藤真美(訳)
/東洋経済新報社
作品情報
既得権をなくす! 独占を壊す!
自由な社会をどうつくるか?
若き天才経済学者が描く、資本主義と民主主義の未来!
支配なき公正な世界のデザインとは?
富裕層による富の独占、膠着した民主主義、巨大企業によるデータ搾取・・・・・・
21世紀初頭の難題を解決する、まったく新しいビジョン!
「私はずっと、テクノロジーと市場の力を用いて平等な社会を実現する方法を探してきた。本書こそが、その方法を示している」――サティア・ナデラ(第3代マイクロソフトCEO)
「深淵かつオリジナルな本書の分析は、あなたの世界観を根底から覆すだろう」――ジャン・ティロール(2014年ノーベル経済学賞受賞者)
経済の停滞、政治の腐敗、格差の拡大。この状況を是正するには、発想を自由にして抜本的な再設計を行わなくてはならない。社会を成立させるための最良の方法は市場と考えるが、最も重要な市場が今は独占されているか、存在していない。
だが、真の競争が可能な、開放的で自由な市場を創出することによって、格差を縮小し、繁栄をもたらし、社会の分断を解消できるはずだ。すなわち、オークションを要とするラディカル・マーケット(競争原理によって誰もが参加できる自由な取引市場)である。
本書は、移住の自由化への反感、機関投資家による市場の独占、巨大なプラットフォーム企業によるデータ労働の搾取といった、21世紀のさまざまな問題を解決し、繁栄と進歩を可能にするために、古い真理を疑い、物事を根底まで突き詰め、新しいアイデアを提案する「ラディカル」な提案の書である。
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商品情報
- 著者
- エリック・A・ポズナー, E・グレン・ワイル, 安田洋祐, 遠藤真美
- 出版社
- 東洋経済新報社
- 書籍発売日
- 2019.12.20
- Reader Store発売日
- 2019.12.20
- ファイルサイズ
- 7.6MB
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この作品のレビュー
平均 3.8 (8件のレビュー)
-
現代に生きる私たちは、ソ連の崩壊や北朝鮮の悲惨な経済情勢によって、共産主義は過去の遺物であり、もはや資本主義しか残されていないと思っている。一方で、資本主義が決して完璧なものでないのはリーマンショック…を見るまでもなく明らかでもあり、資本主義をどう改良していくのか、という目線に囚われている。
しかし、資本主義の未来とはそのような”改良”レベルで事足りるのか?、というのが本書が突き付ける疑問である。
本書は一般的な資本主義のルールに”No”を突き付け、極めてラディカルな、ただし、”サヨク”が牽引するような夢物語ではなく、一定の理論的実現性を踏まえた姿を描き出す。
たとえば、資本主義と共産主義を分かつ違いの一つは、私有財産を認めるか否かである。資本主義社会に生きる我々は、私有財産という制度を疑うことはまずないだろう。しかしながら、私有財産というルールによる弊害があるのも事実である。例えば、都市開発においては、99%の地権者が同意しても1%の地権者が自らの土地を手放さない(もちろん、その行為はなるべく交渉を長引かせた方が自らの利得が高まるという卑しさによるものであるのは論を待たない)。この点を実感するなら、赤坂のアークヒルズを訪れると良い。アークヒルズの2Fには、北大氏魯山人が黄泉の国から復活して、呪詛を吐きそうなくらい不味い蕎麦屋がある。なぜ、そんな蕎麦屋が存続しているか?それはその店がアークヒルズの地権者であり、土地を手放す代わりにテナントとしての出店権を獲得したからだ。
もちろん、不味い蕎麦屋を憎む私のようなスマートな人間は訪問することはないが、サントリーホールを訪れる貴婦人方は知らずにその店を訪れ、あまりの不味さに天を仰いでこう言うだろう、「逝ってよし」と。
酩酊しているので、前置きが長くなりすぎた。
本書がそうした私有財産という資本主義のベーシックなルールの代わりに提示するのは、"COST(共同所有自己申告税)"というルールである。これは、常に自らが保有する資産の時価を提示し、その時価に対して税が課せられる仕組みである。税金を抑えたいと思えば、その時価を低くすれば良いが、その一方で、その時価で資産を購入したいと思う他者には抗弁できない。このルールはつまり、資産を最も有効的に活用できる人間に、その資産の所有権が譲渡され、結果として資産活用によるベネフィットが最大化される。先の例でいえば、アークヒルズを訪れる貴婦人たちは不味い蕎麦屋で不幸な目に会うことがなくなる。
こうした点で本書は極めてラディカルな資本主義のルールを示す。もちろん、全てがすぐに実現可能なわけではない。それでも、今後の社会を考える一つの思考の”補助線”として、こうしたラディカルな改革案を知ることは、悪くはない。続きを読む投稿日:2020.02.02
タイトルに明示されているように、本書は、21世紀の一般的な人々からすればラディカル(急進的)だと思えるような提案が多数盛り込まれている本です。しかし思考実験としては良いきっかけを与えてくれます。彼らが…提案する制度が導入されるとどんな世の中になるのだろう、という想像です。本書は所有権の部分共有による切り崩し(1章)、投票制度の改革(2章)、移民制度の改革(3章)、機関投資家の力の切り崩し(4章)、データを労働力としてみる(5章)、というような構成になっていますが、特にインパクトが大きく、著者らが特に力点を置いているのが前半の所有権の切り崩しと選挙制度の改革でしょう。
私は特に2章の投票制度について関心を持ちました。投票制度の問題は以前から議論されていて、アローの一般可能性定理やアマルティア・センが指摘したパレート最適の毒性問題があります(詳細は、たとえば『「きめ方」の論理』ちくま学芸文庫を参照のこと)。パレート最適の毒性問題を回避するための一つの方法は、「自分が関心の低い事案については投票しない(意見表明を差し控える)」ことです。これは自己抑制的という意味でアジア的な解決策と言えるのかもしれませんが、本書が提示しているQV方式と呼ばれるものはその逆で、「自分の関心が高い事案については、他人より多くの票を投ぜよ」という解決策です。私はこれを自己主張的な欧米型の解決策ととらえました(人間は自己主張しなければならないという欧米的な強迫観念が背後にあるとも言えます)。この場合、少数のその事案に高い関心がある人の意見が、多数のあまり関心がない人に勝つ可能性があるわけです。
その意味で、本書は確かにラディカルな制度提言が盛り込まれていて興味深く読みましたが、いずれも自己主張、競争、対立といった価値観が著者らの背後に見え隠れしており、そのような価値観に社会が覆われているという意味できわめて欧米的であります。つまり、逆に自己抑制、協調、和合の社会設計という選択肢についても可能性がないのだろうかと本書を読んで思いましたが、いずれにせよ頭を柔らかくする、想像力を働かせるという意味で面白い本でした。続きを読む投稿日:2023.05.06
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