上級国民/下級国民(小学館新書)
橘玲(著)
/小学館新書
作品情報
やっぱり本当だった。
いったん「下級国民」に落ちてしまえば、「下級国民」として老い、死んでいくしかない。幸福な人生を手に入れられるのは「上級国民」だけだ──。これが現代日本社会を生きる多くのひとたちの本音だというのです。(まえがきより)
バブル崩壊後の平成の労働市場が生み落とした多くの「下級国民」たち。彼らを待ち受けるのは、共同体からも性愛からも排除されるという“残酷な運命”。一方でそれらを独占するのは少数の「上級国民」たちだ。
「上級/下級」の分断は、日本ばかりではない。アメリカのトランプ大統領選出、イギリスのブレグジット(EU離脱)、フランスの黄色ベスト(ジレジョーヌ)デモなど、欧米社会を揺るがす出来事はどれも「下級国民」による「上級国民」への抗議行動だ。
「知識社会化・リベラル化・グローバル化」という巨大な潮流のなかで、世界が総体としてはゆたかになり、ひとびとが全体としては幸福になるのとひきかえに、先進国のマジョリティは「上級国民/下級国民」へと分断されていく──。
ベストセラー『言ってはいけない』シリーズも話題の人気作家・橘玲氏が、世界レベルで現実に進行する分断の正体をあぶり出す。
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商品情報
- シリーズ
- 上級国民/下級国民(小学館新書)
- 著者
- 橘玲
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 小学館
- 掲載誌・レーベル
- 小学館新書
- 書籍発売日
- 2019.08.01
- Reader Store発売日
- 2019.08.01
- ファイルサイズ
- 1.7MB
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この作品のレビュー
平均 3.7 (153件のレビュー)
-
【感想】
「社会は知能によって分断されるようになった」
本書はこの一言に集約される。知能が学歴の差を生み、学歴が年収の差を生み、年収がモテ/非モテと子どもの知能差を生む。世の中がそうした「知能第一主義…」にシフトしていったのは、世界がリベラルに邁進していったからだ。人は人種や性別によって差別されないがゆえに、自分と他人の境遇の差は実力から来るものでしかなくなる。しかし、そもそもその実力も生まれ育った階層から来るいわば「天賦の才」である。こう考えると、上級国民と下級国民は本当に存在して、しかも下級から逆転することは不可能なように見えてくる。
どこの国でもそうだが、誠実に生きている(大学を出て、企業に勤めて、結婚して、子どもがいる)人にとっては、世の中というのは結構優しい。そもそもそうした人たちを「中央値」として社会は設計されている。しかし、その「誠実な人」の割合が、自由主義が進むにつれてどんどん縮小されていった。かつては普通に手に入ったものがいつの間にか高望みになって、かつては普通の生活を送っていた人たちがいつの間にか上級国民扱いされていく。「誠実な人たち」との差はみるみる開いていくが、彼らは「今の生活が普通」と考えているため、下からの声が届くことはない。
子どもを作るのが厳しい、まともな企業に入るのが厳しい、大学に行くのが厳しい、異性と付き合うのが厳しい……。いったい、普通というのはいつからこんなに難しいものになったのだろうか?そして、次は何を諦めればいいのだろうか?
最近、「上級国民」や「親ガチャ」という言葉が話題になっているが、次の標的はどこだろうか。私が考えるに、恐らく「子連れ」になる。そうなったらいよいよ終わりだ。
―――――――――――――――――――――――――
【まとめ】
1 格差が目に見え始めた
現代社会では、「エリート」や「セレブ」は「努力して実現する目標」だ。「上層階級(アッパークラス)/下層階級(アンダークラス)」は貴族と平民のような前近代の身分制を表わしていたが、その後、階級(クラス)とは下流から「なり上がる」ものへと変わった。
それに対して「上級国民/下級国民」は、個人の努力がなんの役にも立たない冷酷な自然法則のようなものとしてとらえられている。いったん「下級国民」に落ちてしまえば、「下級国民」として老い、死んでいくしかない。幸福な人生を手に入れられるのは「上級国民」だけだ――。これが、現代日本社会を生きる多くのひとたちの本音である。
2 団塊の世代の犠牲になる日本の若者
日本のサラリーマンは世界(主要先進国)でいちばん仕事が嫌いで会社を憎んでいるが、世界でいちばん長時間労働しており、それにもかかわらず世界でいちばん労働生産性が低い。
バブル前夜からバブル崩壊までの25年間で、「全体としては」年功序列・終身雇用の日本型雇用慣行は温存され、若い女性ではたしかに非正規が大きく増えたものの、その多くは元専業主婦だった。その一方で、若い男性で急激な「雇用破壊」が起きたことは間違いない。つまり、平成の日本の労働市場では、若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで中高年(団塊の世代)の雇用が守られたのだ。
IT革命が到来して、アメリカでは、これまで会社内で行なわれてきた業務がアウトソースされるようになった。こうして生産活動の一部が効率的な国内外のサービス供給者に集約され、経済全体の生産性が上昇したのだ。ところが日本では、雇用対策を優先したため、社員の仕事を減らすような業務のアウトソースができず、子会社や系列会社をつくって社内の余剰人員を移動させるという対応がしばしば行なわれてきた。しかしこれでは、個別の企業にとっては労働コストの削減にはなるが、経済全体の生産性上昇にはつながりらない。
日本的雇用の本質は「重層的な差別」である。なぜなら、日本という社会が、先進国のふりをした身分制社会だからだ。
オランダでは「フルタイム」と「パートタイム」は勤務時間が異なるだけでまったく平等な労働者ですが、日本では「正規」と「非正規」は身分のちがいで、「非正規に落ちる」とか「正社員に上がる」という言葉がごくふつうに使われます。正社員との収入格差でも、社宅や家族手当などの福利厚生でも、雇用の保証でも、日本の「非正規」は先進国ではあり得ないような劣悪な労働条件を課せられている。
現代日本社会は「大卒/非大卒」の学歴によって分断されている。現代日本社会において、「下流」の大半は高卒・高校中退の「軽学歴」層なのだ。
3 モテと非モテ
調査によると、女性より男性の方が自分の人生や将来展望に大きな不安を感じている。男性のなかでもっとも不安定性が低いのは「壮年大卒男性」だが、それでも女性のなかでもっとも不安定性の高い「若年非大卒女性」とあまり変わらない。壮年よりも若者のほうが、大卒よりも非大卒のほうが、女性よりも男性のほうが不安定性が高い傾向にある。
男の性淘汰では、「持てる者」になる(高い階級に達する)ことと、女性に「モテる」ことが一致する。自由恋愛という「一夫多妻制度」では、なんらかのルールにもとづいて複数の女性が一人の男(権力者)を共有することになる。もちろんそこでも競争(足の引っ張り合い)はあるだろうが、それは男集団のような明確なヒエラルキーをつくるようなものにはならない。自分の子どもを守り育てるには、競争するより女同士で協調した方が有利だからだ。 これが、男性とちがって、女性は「階層帰属意識」が低くても、それが生活満足度や幸福感の低下に直結しない理由ではないだろうか。
男も女もすべての人が自らの意思で結婚・離婚する自由恋愛の社会では、マジョリティであるはずの男性が、必然的に「モテ=持てる者(上級)」と「非モテ=持たざる者(下級)」に分裂することになった。
そんな中、「非モテの男たち(下級国民)」にとって、「モテの男(上級国民)」とすべての女は自分たちを抑圧する「敵」にしか感じられない。「非モテ」の男は性愛から排除されることで人生をまるごと否定されてしまうのだ。
4 リベラルが作る格差の世界
リベラルは、人種、出自、宗教、国籍、性別、年齢、性的志向、障がいの有無などによるいっさいの差別を認めない。なぜならそれらは、本人の意思や努力ではどうしようもないことで自己実現を阻むからだ。しかしこれは逆にいうと、「本人の意思(やる気)で格差が生じるのは当然だ」「努力は正当に評価され、社会的な地位や経済的なゆたかさに反映されるべきだ」ということになる。これが「能力主義(メリトクラシー)」であり、リベラルな社会の本質である。
オランダは世界にさきがけてフルタイムとパートタイムの「差別」を撤廃したが、そんなリベラルな社会でも、2004年に施行された「雇用・生活保護法」で、18歳以上65歳未満の生活保護受給者は原則として全員が就労義務を課せられ、「切迫した事情」を立証できないかぎりこの義務が免除されなくなった。
「知識社会化」「リベラル化」「グローバル化」は三位一体の現象である。
先進国のマジョリティは2つの階層に分断される。イギリスのジャーナリスト、デイヴィッド・グッドハートはこれを「エニウェア族(Anywhere)」と「サムウェア族(Somewhere)」と名づけた。 エニウェア族は、仕事があればどこにでも移動して生活できるひとびと。地元を離れて大学に進学し、そのまま都市の専門職に就き、進歩的な価値観を身につけ、成果主義や能力主義に適応している。グローバル化や欧州統合に賛成し、移民の受け入れや同性婚にも寛容である。一方、サムウェア族は、中学・高校を出て地元で就職・結婚して子どもを育てているひとたち。個人の権利より地域社会の秩序を重視し、宗教や伝統的な権威を尊重する「ふつうのひとびと」だとされる。イギリスのブレグジットによって明らかになったエニウェア族とサムウェア族の分断は、現代社会が人種や民族、宗教によって分断されているわけではないことを示している。また、アメリカ社会は白人と黒人の人種対立ではなく、白人社会のなかでベルモント(新上流階級)とフィッシュタウン(新下流階級)に分断されている。
社会を分断しているのは何か?それは「知能」によってなのだ。続きを読む投稿日:2022.06.16
このレビューはネタバレを含みます
上級国民/下級国民と言うと抵抗を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、これは2019年に池袋で発生したひき逃げ事件をめぐり、ネットに飛び交った言葉だそうです。
レビューの続きを読む
本書は社会学系の本で、日本やアメリカに限…らず全世界的に等しく起こっている、持つ者と持たざる者の分断について解説しています。
著者曰く、その引き金となったのは「リベラル化、知識社会化、グローバル化」の3つでした。
最後まで読み進めると、なぜ(数々の問題行動や問題発言があってもなお)トランプ氏が人気なのか、反日・嫌韓・反中を謳う人はいったい誰なのか、といったことが感覚的に理解できるようになります。続きを読む投稿日:2024.02.15
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