争うは本意ならねど 日本サッカーを救った我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール
木村元彦(著)
/集英社文庫
作品情報
我那覇和樹を襲った、日本サッカー史上最悪の冤罪事件。沖縄出身者として初の日本代表入りを果たした彼のキャリアは、権力者の認識不足と理不尽な姿勢により暗転した。チームやリーグと争いたいわけではない。ただ、正当な医療行為が許されない状況を何とかしなければ。これは一人の選手と彼を支える人々が、日本サッカーの未来を救った苦闘の記録である。覚悟と信念が宿るノンフィクション。
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商品情報
- 著者
- 木村元彦
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2019.01.23
- Reader Store発売日
- 2019.03.01
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 360ページ
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この作品のレビュー
平均 4.8 (5件のレビュー)
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いやあ、マスコミが騒いじゃったからさ〜
「先生、厳重注意処分でいいのではと書いてあるじゃないですか。どうしてドーピング違反にしたんですか?」
「いやあ、マスコミが騒いじゃったからさ〜」
2007年4月川崎Fは浦和レッズを我那覇和樹の…先制点から2対1で下した。しかし、我那覇の体調は最悪で試合後は水も飲めないほどであった。2日後の練習も何とかこなすがチームドクターの後藤は生理食塩水を点滴した。治療は30分ほどで終了。そして駐車場へ向かう我那覇を報道陣が取り囲んだ。それが・・・
「我那覇に秘密兵器 にんにく注射でパワー全開」この記者に我那覇は話をしておらず内容はでたらめ、この記事通りならドーピング禁止規定に抵触するものだった。
WADA(世界アンチ・ドーピング機構)の定義では疲労回復のためのにんにく注射は正当な治療とは言えず禁止方法に当たる。2007年1月の会議でJリーグのDC(ドーピングコントロール)委員長の青木治人は禁止規定の改定点の説明をしており、その際今後は全ての点滴で使用許可申請(TUE)が必要であるが、緊急時には事後でいいと説明していた。WADAの規定には「静脈内注入は、正当な医療行為を除いて禁止される」とある。我那覇のケースは正当な治療でありTEU提出の必要も無いのだが、青木はドーピングであると考えていた。
最終的に処分を決めるのはJリーグアンチ・ドーピング特別委員会だが医学メンバーはDC委員会と兼務しており検察がそのまま裁判官になっていた。WADA規定では対象者には抗弁の機会があるのだが川崎Fはこの機会を行使しないとし、我那覇には知らされないままだった。我那覇には6試合の出場停止、川崎Fには1000万円の罰金が科せられる事が決定した。
青木はさらにJリーグに適切な医療かどうかは現場の医師ではなくDC委員会が判断する。点滴は原則禁止であり、TUEは提出したからと言って必ず認められるとは限らないと伝えた。この前日ドイツ遠征で骨折し緊急帰国したのだがJリーグは「そちらが正当と判断したら先に手術してあとでTUEを出してください。その後で審議します。」と回答する。結局後藤はTUE認められる真夜中まで手術を送らせることになった。日本代表合宿でも風邪をこじらせた選手が点滴を受けられず肺炎をおこしている。
チームドクターたちが一致団結して立ち上がり質問状をだすがJリーグはとりあげない。ついにチームドクターは連絡協議会で青木と対決するが青木はFIFAからドーピングだとの回答が有ったと答えた。実はこれは青木が旧知の医事委員にガーリック注射はドーピングに当たるかとメールで質問したものであり、その回答は軽微な違反であり、厳重注意でいいのではと書いてあった。冒頭の一文はこのメールを見せられた浦和レッズのチームドクター仁賀が連絡協議会の後青木に見せられたときのやりとりだ。
後藤は日本スポーツ仲裁機構(JSAA)への申し立てを希望したがこの時反対したのは川崎Fだった。後藤に対して申し立てをするなら辞任をしろと迫る。そして浦和の仁賀が我那覇に送った手紙が我那覇を動かした。これまでの経緯とともに「この間違った前例が残ると全てのスポーツ選手が適切な点滴治療を受ける際に常にドーピング違反に後で問われるかもしれないという恐怖にさらされます」。これは、自分だけの問題ではないのだ。他のサッカー選手にも被害が及ぶ。こんな嫌な思いを他の選手にさせてはいけない。チームドクターたちが選手のために頑張っているのならば、そのために自分も声を出すべきではないのか。そして我那覇が立ち上がった。
Jリーグは我那覇の訴えをスイスのスポーツ仲裁裁判所(CAS)で英語でやるなら応じるとした。JSAAならば5万円で申し立てできるところが我那覇の負担額は最終的には3441万円(選手会やサポーター達の寄付でかなりの部分がまかなわれた)になっておりJリーグ側がプレッシャーをかけようとしていた事が見て取れる。結果は我那覇の完勝で、仲裁費用はJリーグの負担、さらに我那覇の負担した費用のうち2万ドルを支払うように命じている。懲罰的な判決だ。
それでもJリーグは反省の色は見せない。鬼武チェアマンに譴責処分が科されただけで、青木は処分を受けていない。鬼武は「CASはドーピング違反の認定が否定されたわけではない」と言って川崎Fへの罰金の返還を拒んだ。また、川淵会長もインタビューに答え「我那覇の名誉が回復された事はよかったと思う。ただ、その行為が違法だったのかどうか、何がどう悪かったのかは触れられていない。納得しづらい無いようになってしまったと思う」とコメントした。いずれも何が問題だったか全く理解しておらず、医学的な事は青木に任せており、選手やドクターの話には聞く耳を持たなかったのにだ。続きを読む投稿日:2019.03.31
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JFAやJリーグにおけるガバナンス欠如案件についての本。よってカテゴリは「スポーツ」ではなく「法律」に分類した(「ビジネス」でもよいけど)。
ほんの30年前までスポーツの競技団体なんてどこも手弁当で…有志(?)が運営していたので、人材の欠如や偏りがあるのは必然である。
その中でいちはやく自立に道筋をつけたのがJFAやJリーグであるが、そんなに一朝一夕に解決できるとは思えない。本書の事例は2007年の出来事であるから、なおのこと。
ガバナンスの欠如そのものには「しょうがないね」と思う部分もあるのだけど(本当はしょうがなくない)、それよりも暗い気持ちになるのは、指摘を受けてからの態度。
それがポジショントークとして必要だと考えているのか、問題の所在を理解していないのか、自己正当化に終始する態度は醜悪。
専門性の高い部門に外部から専門家を招くのは当然だが、その専門家の言動についてのチェック機能が働かないという「ガバナンスの欠如」が本事例の肝である。
本書の事例では、「各クラブのチームドクターが好き勝手にするのはいかん」と言うJリーグドーピングコントロール委員会委員長が、だれからもチェックされずにいる(好き勝手にやっている、と言いたい)ようなシステム、機構上の問題がある。
ドーピングについてはその後に改善が図られたと思うが、しかし同様の問題はまだ潜んでいるように思える。
たとえばハラスメント関係についても、専門家に丸投げしてチェック機能が働いていないという疑いはある。専門家が「調査報告書」を出して、それが実態として「起訴状兼判決文」になっているのは際どいと思って見ている。
とか書いているが、中小企業勤務の私としては他人事ではない。弊社にもちゃんとした法務部門が欲しいなあ。。。続きを読む投稿日:2023.08.11
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