悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える
仲正昌樹(著)
/NHK出版
この作品のレビュー
平均 4.3 (22件のレビュー)
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第二次世界大戦中にドイツからアメリカへ亡命したドイツ系ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレント。彼女が執筆した『全体主義の起原』をはじめとした著書を通して、ナチズムやホロコーストを推し進める背景にあった社会の…流れや大衆心理を説いていく。
『蠅の王』(ウィリアム・ゴールディング)や『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)を読んだときに感じた背筋がヒヤリとする感覚は、本書を通してかなり補完されました。
ヒトラーが大衆心理を熟知し巧みに操り、自身の「法」に従うよう扇動していたのはその通りです。アーレントはさらに歴史的惨事が起こった時代背景として、政治や社会が混沌とし敵味方の見通しがつきにくい、将来が不安定、蔓延した閉塞感などを挙げています。そのような不穏な世の中にいると大衆は求心力のある「分かりやすい」対象・イデオロギーを求めるメンタリズムが働くと説きます。当時ドイツは近隣国から今まで経験のない圧を受け、国はそれに一丸となって対抗する必要がありました。連帯感・仲間意識を維持強化するための安易な近道は「敵」をつくること。つまり当時のドイツ政府は早急に国民の統制を取らねばと考え、その格好の対象となったのが国内の社会コミュニティのなかで異分子でもあったユダヤ人でした。彼らを大衆の憎悪の対象に仕立て上げ“排除”しようとすることで国民の足並みを揃えようとし、未曾有の殺戮へと繋がります。
分かりやすくレッテルを貼り自分達の存在や立場を正当化する、善良性を証明しようとする行為は大小さまざまな規模で起こっています(子供のケンカから戦争レベルまで)。おそらく自分が自分らしくあるために人間に備えられた安全装置なのだと思います。無くなることはないでしょう。
至って平凡に生まれ平凡に育ってきたと自覚している自分でさえ、大衆の渦に飲まれたときに冷静でいられるかと問われると自信がありません。
本書を読む前は「歴史」に触れるつもりで手に取りました。しかし読み進めるほど本書で書かれていることは歴史ではあるけれど過去ではない、そして他人事ではないと痛感します。むしろ国内外問わず社会情勢としては当時の状況下とかなり共通点が多いのでは……と邪推するのは考えすぎでしょうか。
memo:ハンナ・アーレント『全体主義の起原』『エルサレムのアイヒマン』など続きを読む投稿日:2020.06.20
いまの本邦がかなり全体主義的な雰囲気に満ちているので、そこに引きずられないようにするための手がかりとして、また全体主義とは具体的にどういうことでどういう経緯で起こって、現在に至るまでにどう影響してきた…のかが知りたくて読んだ
読んでみて思ったのは全体主義は同質性に基づいているということで、やっぱり共感を重要しすぎてしまうと、自分と異なった意見を持つ人、それがエスカレートして自分と生きてきた環境や文化が異なる人を異質なものだと排斥してしまう可能性も充分にあって、自分と同じ意見を集めやすい環境ではかなり自覚的に気をつけなければなと思った。ハンナ・アーレント自身はナチスのユダヤ人迫害からアメリカに亡命してきた立場であり、本書でも彼女の著書や理論からナチスがユダヤ人にどういったことをしてきたのか、なぜそんなことになったのかを世界史の流れやドイツという場所の地政学的観点から論じていた。この地政学的な観点というのはなかなか出会わなかった視点でおもしろくて、もっとこういった歴史の出来事や流れを地政学的に分析した本とか読みたくなった
また彼女の著書「エルサレムのアイヒマン」についても書かれている章があるのだけれど、迫害や虐殺というのはいかにも凶悪な人間がやるわけではなく、凡庸で誰でもしうるということが書かれており、昨今のガザの状況を考えると非常に示唆的でもあった
敵か味方かなどの二項対立的な考えやわかりやすさを希求することが全体主義を引き起こし、それに染まる可能性があるとのことで、ネガティヴケイパビリティというか曖昧さや複雑さに耐え、自分と異なる意見を持つ人の背景を想像し、考えていく。地道にしっかりとそういう営みをしていくしかないのだと思う続きを読む投稿日:2024.04.14
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