【感想】悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える

仲正昌樹 / NHK出版
(22件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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ブクログレビュー

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  • amy

    amy

    いまの本邦がかなり全体主義的な雰囲気に満ちているので、そこに引きずられないようにするための手がかりとして、また全体主義とは具体的にどういうことでどういう経緯で起こって、現在に至るまでにどう影響してきたのかが知りたくて読んだ
    読んでみて思ったのは全体主義は同質性に基づいているということで、やっぱり共感を重要しすぎてしまうと、自分と異なった意見を持つ人、それがエスカレートして自分と生きてきた環境や文化が異なる人を異質なものだと排斥してしまう可能性も充分にあって、自分と同じ意見を集めやすい環境ではかなり自覚的に気をつけなければなと思った。ハンナ・アーレント自身はナチスのユダヤ人迫害からアメリカに亡命してきた立場であり、本書でも彼女の著書や理論からナチスがユダヤ人にどういったことをしてきたのか、なぜそんなことになったのかを世界史の流れやドイツという場所の地政学的観点から論じていた。この地政学的な観点というのはなかなか出会わなかった視点でおもしろくて、もっとこういった歴史の出来事や流れを地政学的に分析した本とか読みたくなった
    また彼女の著書「エルサレムのアイヒマン」についても書かれている章があるのだけれど、迫害や虐殺というのはいかにも凶悪な人間がやるわけではなく、凡庸で誰でもしうるということが書かれており、昨今のガザの状況を考えると非常に示唆的でもあった
    敵か味方かなどの二項対立的な考えやわかりやすさを希求することが全体主義を引き起こし、それに染まる可能性があるとのことで、ネガティヴケイパビリティというか曖昧さや複雑さに耐え、自分と異なる意見を持つ人の背景を想像し、考えていく。地道にしっかりとそういう営みをしていくしかないのだと思う
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    投稿日:2024.04.14

  • モトカ

    モトカ

    アーレントは全体主義は大衆の願望を吸い上げる形で拡大していった政治運動と捉え、大衆自身が、個人主義的な世の中で生きていくことに疲れや不安を感じ、積極的に共同体と一体化していきたいと望んだからと考えた。
    ナチスを反ユダヤ主義を例にして、アレントが全体主義を考察した解説本。
    今、また世界は大衆として安易な解決に飛びつき、また、「敵」を排斥しようとしている。
    他者意識を認識し、議論していき、思考していくことの大事さを学んだ。
    色々身につまされる話。
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    投稿日:2024.04.09

  • 芦田友郎

    芦田友郎

    今の日本も何となく全体主義化してるんじゃないかなぁ、と思い勉強のため購入。凄く丁寧で具体例により分かりやすく説明してくれるので助かった。
    テレビでは政府への批判を聞く事もめっきり減り、政府も答えたくない質問には「回答を控える」で許される。フォアグラのガチョウの様にバラエティばかり朝から晩までこれでもかと見せられ愚民化政策が進み、「分かりやすさ」ばかりが求られる時代の危うさ。議論と言っても議論が深まる事もなく勝ち負けを決めるケンカのようなモノばかり。大衆化をヒシヒシと感じます。そんな世の中で解決策はと言えば「複数性に耐える」と言われてもムリ。実際しんどい。読み終わっても問題の大きさ深さに暗澹とする。続きを読む

    投稿日:2023.08.02

  • とおる

    とおる

    とても読みやすい本。全体主義思想、ホロ・コーストがなぜ起こったのか、大衆の心理についてハンナ・アーレントの思想を読み解く。
    エルサレムのアイヒマン(数百万人のユダヤ人の虐殺を執行した人、「法」に従ったのみだと主張した)の話に至るまでの最低限必要な知識が順を追って書かれているため、世界史に詳しくない人にもオススメ。
    不安が広がると単純でわかりやすい思想に流れがちというのは現代にも通じる話。二項対立で善悪を決めつけるのではなく「複数性」を持つことが大事だと解く。アンナ・ハーレントが世間からの批判を浴びる覚悟で当時持論を展開したことに尊敬の念を抱く。アンナ・ハーレントを英雄視することもまた単純な二元論に過ぎないと釘を刺すあたりも含めて、良い論点が提示されているように思う。オススメ。
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    投稿日:2022.08.09

  • afro108

    afro108

     Kindleでセールしてたので読んでみた。本来であればハンナ・アーレントの原著を読んでから読むべきなのかもしれないが入門編としてオモシロかった。ナチスのユダヤ人迫害を取り上げて、そこから全体主義とはなんぞや?という説明・論考をしてくれていて大まかな全体像を知ることができた。そして単純な昔話ではないことも…
     ナチスはユダヤ人を強制収容施設に押し込んで機械的に虐殺した、この事実のインパクトがデカすぎて、どういう経緯でそうなったのかがあまり知られていないように思う。極悪!ナチス!っていうだけなら事態は簡単だけど、そんな簡単な話でもない。当時のドイツ人に蔓延していた陰謀論、周到に設計されたナチスの組織とプロバガンダなどが全体主義という考え方を育んできた経緯がある。その結果、道徳的人格(自由な意思を持った、自分と同等の存在として尊重し合う根拠となるもの)を破壊して、当事者たちが何も感じずに迫害できる状態まで持っていった。こういう細かい経緯を知れて勉強になった。また自分の歴史に対する勉強不足も痛感…世界史の授業とか意味ないなーと寝ていたあの頃の自分に真面目に聞いておけと言いたい。すべては過去から脈々と繋がっており、いきなり起こるわけではない。
     著者のまとめ方も意図的だとは思うけれど、最近の社会情勢と既視感があるのが怖かった。「ダイバーシティ」と口ではいくらでも言うけど日本の社会制度としてはほとんど変わっていないし、一方で特定の国家や民族に対して露骨なヘイトをぶちまける。分かりやすい敵を用意して、その敵へのヘイトで団結する場面はしょっちゅう見るので、それが全体主義の萌芽なのだとしたらそれはもう始まっている。だから麻生氏のナチスへの憧憬はもしかするとしっかり勉強した上での本心なのでは?と思ったりもした。
     終盤には悪法に対してどのように対応すべきか?というさらに哲学めいた話は出てきて興味深かった。虐殺を主導したアイヒマンは裁判で「自分はあくまで法律に従っただけでユダヤ人への憎悪など無かった」と答弁しており、その盲目な遵法主義に対してアーレントは疑問を呈している。人間にとって法とは何か?政治とは何か?理性的に考えて自発的に従っていることが自由であると著者は説明していた。またアーレントのこのパンチラインもイケてる。

    政治は子どもの遊び場ではないからだ。政治において服従と支持は同じだ。

     あと刺さったのは考えることの大事さ。人間どうしても分かりやすいものや同じ意見の人に惹かれるけど、自分が間違っていた場合に素直に正せる力が必要だと感じる。著者のこのラインは自戒の念をこめて日々反芻していきたい。

    私たちが普段「考えている」と思っていることのほとんどは「思想」ではなく、機械的処理。無思想性に陥っているのは、アイヒマンだけではないのです。
    続きを読む

    投稿日:2021.10.02

  • Y'spp

    Y'spp

    複数性が担保されている状況では、全体主義はうまく機能しない。だからこそ、全体主義は絶対的な「悪」を設定することで複数性を破壊し、人間から「考える」営みを奪う。
    現在でも良くあるケースだと思う。
    自分の立場、考え方だけでなく、自分と対立している人の拠って立つところも理解する訓練を積むことが大切である。続きを読む

    投稿日:2021.09.24

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