この作品のレビュー
平均 4.0 (1件のレビュー)
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著者は大阪府松原市で体操ジムを営むコーチ。これまでに7人(藤田健一、池谷幸雄、西川大輔、鹿島丈博、冨田洋之、田中光、米田功)ものオリンピック選手を育てています。
タイトル通り、とにかく基本を強調する…内容です。あん馬であれば、つま先、膝、腰が伸びた身体づかいをするのが基本で、それを言い続け、指導し続けます。基本ができていないうちに小手先の技を覚えさせても、目先の競技会では勝てても、その先にオリンピックはありません。
すぐに手が届く目先の物事を目標にするよりも、遥か遠い地点を目標にした方が最終的には間違いがない。目先の道は右に左に曲がっていたり、どうしても這い上がらなければならない急斜面があったりするかもしれませんが、自分が目指している山の頂さえ見失わなければ、道に迷うことはないわけです。(p.26)
昨日はできたとか、今日はできないとかいう目先の細かい話は、ほんとうはどうでもいいのです。(p.89)
基本という幹、土台が太くどっしりとしていればいるほど、子供は将来、楽に高い場所を目指せるのだと思います。技という枝葉は、子供が勝手に広げていきます。子供を指導する立場にある者の役割は、幹や土台を徹底して大きくすることです。そうすれば、ある瞬間に、子供は予想もしなかったような才能を開花させていくはずです。(p.118)
基本ばかり指導されたら子供が退屈しないかという心配は無用です。一歩ずつ、より高度な基本に挑戦していくので、退屈することはありません。「基本とは無縁の高度な技」は教えませんが、「高度な基本」を教えます。
「基本」は行き詰まったときに戻る場所でもあります。完璧をめざして10個を積み上げたとします。そこで崩れたら、1個はずして一歩前の9個からやり直せばよいのです。「一歩前に戻るという発想ができる人は強い」というのが城間コーチの選手育成観です。
これまでに城間コーチが高校の体操部に送り込んだ選手は100人。そのうちオリンピックに出場した選手は6大会24年で7人。7人が獲得したメダルは、団体で金3個、銅4個、個人種目別で銀2個、銅3個。じつにすばらしい成果です。
しかし城間コーチは、自分がやってきた仕事の全体を見渡せば、オリンピックを目指しながらオリンピックに行けなかった選手を育て続けてきたにすぎない、と言います。コーチ人生が失敗だったと言っているのではありません。成功か失敗か、勝ったか負けたかの尺度を、そういうところには置いていないということです。
オリンピック選手を育てるのも、逆上がりができない運動オンチの子供に指導するのも、喜びは同じだと言います。できなかったことができるようになる瞬間の喜びに立ち会う、困難なことに挑む経験をさせる、厳しい練習に耐えた自信を身につけた子供をジムから送り出す、行き詰まったときにぶらりと戻って来る場所を用意する……そういうことにコーチとしての醍醐味を感じるということです。
講演を依頼されると、「なんで、ここまで強くなったのか不思議です」と正直な心情を語ります。偉そうなことを言わず、選手や後進のコーチたちへの感謝と称賛を口にする謙虚な人柄は、城間コーチ自身、恩師から「人を見たら先生と思え」と口癖のように教えられたからでしょう。その恩師の教えを継いで、城間コーチも、誰からでも教わることがある、教えられ上手にならなければ大成しない、と子供たちに教えています。そして、教えられ上手になるための基本は「あいさつ」であるとの考えから、人に会ったら大きな声であいさつするよう徹底して子供たちを指導しています。
顔は国籍不明のスーパーマリオみたいなオッチャンですが(失礼)、体操への情熱と子供たちへの愛情は半端ではありません。きつい言葉も浴びせる厳しい指導者ですが、子供たちに慕われていることが行間から感じられます。
子を持つ親の心得 この本には、スポーツ・コーチのためだけでなく、子供を育てる教師や親にとって大切な教えが詰め込まれています。私がこの本から抽出した「親の心得」を書き出しておきます。
・欠点だらけのいいかげんな人間であることを隠さない。
・人に会ったら大きな声で明るく挨拶することを教える。
・個性を尊重し、親の経験や期待の枠にはめない。
・最初は(体操の技を教えるときのように)支えてやるが、どこかで手を離す。
・子供の人生も自分の人生も、成功を世間的な基準で測るのではなく、どれだけチャレンジしたか、どれだけ可能性を開花させたかで測る。
・子供が行き詰まったときにいつでも戻って来られる場所(存在)であり続ける。
・やがて子供が大人になったときいっしょに酒を飲めたら、それ以上何を望むことがあるものか。
とにかく基本を追求せよと教えられた本でした。続きを読む投稿日:2013.03.02
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