ネットと愛国
安田浩一(著)
/講談社+α文庫
作品情報
【第55回 日本ジャーナリスト会議賞受賞・第34回 講談社ノンフィクション賞受賞】 「弱者のフリした在日朝鮮人が特権を享受し、日本人を苦しめている」。そんな主張をふりかざし、集団街宣やインターネットを駆使して在日コリアンへの誹謗中傷を繰り返す“自称”市民保守団体。現代日本が抱える新たなタブー集団に体当たりで切り込んだ鮮烈なノンフィクション。「ヘイトスピーチ」なる言葉を世に広め、問題を可視化させた、時代を映し、時代を変えた1冊。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- ネットと愛国
- 著者
- 安田浩一
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社+α文庫
- 書籍発売日
- 2015.11.19
- Reader Store発売日
- 2015.12.04
- ファイルサイズ
- 6.1MB
- ページ数
- 512ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.8 (7件のレビュー)
-
【感想】
朝鮮学校OB「不快に決まっている。でも、朝鮮人がバカにされるのは、いまに始まったことじゃないしな。それに、あの人たちだって、楽しくてしかたないって人生を送ってるわけじゃないんやろ?そりゃあ腹…も立つけど、なんだか痛々しくて、少なくとも幸せそうには見えないなあ」
街頭で聞くに堪えない罵詈雑言を繰り返す「在特会」のメンバー。彼らを目の当たりにした朝鮮学校のOBは、不快な感情を抱きながらも、一種の同情心を見せていた。
実際、会員の多くは「強者」ではない。むしろ、社会からつま弾きにされ、ネットでしか自分の居場所が無かった者たちである。そうした弱者たちがようやく仲間を見つけて始めた活動が、「街頭演説」「ネトウヨ」なのである。
本書は、日本の言論空間の一部にはびこる「右翼思想」の発端を、実際の在特会会員へのインタビューを中心に解説していくルポルタージュだ。ターゲットは右翼だが、街宣車や特攻服といったいわゆる「尊王攘夷思想」の者ではなく、外国人へのヘイトスピーチをメインとする「反中・反韓思想」の者にスポットライトを当てている。
在特会の活動を見てきた有識者たちは、彼らの行動原理を「なれ合い」「承認欲求」から来るものだと斬り捨てる。
なかでも元会員の藤井は、若者が在特会に惹かれる理由を「家族愛」のように形容している。
藤井「わかるんですよ、彼らが家族を求めたくなる気持ちも。ヤクザ者の世界でも、そうした要素に憧れて組織に入る人間は少なくない。組織こそが彼らにとって、もっとも居心地の良い〝家〟だからね。もちろん在特会はヤクザじゃないし、彼らはそんなものと繫がりなんてないよ。だけど、家族への欲求みたいなものは不思議と同じなんだな」
彼らは、どこかしら人間関係に難点を抱えているタイプが多い。そんな人は家庭も持てず、仕事でも浮き、地域社会にはもちろん溶け込めない。要するにリアルな「世間」というものを持っていないのだ。社会からは「いない者」として扱われている弱者日本人が、日の丸を持って外国人に罵詈雑言を浴びせるだけで、簡単に「仲間」と認められる。そうした受け皿こそが在特会なのだ。
本書を読む前は、在特会の会員は少なからず「政治的立場」を持って活動しているのかと思っていた。でなければ、職場や家族から白い目で見られてまで活動を続ける道理はない。しかし、本書の中で明らかにされたのは、彼らが「政治的立場」については内実どうでもいいと思っている点だった。彼らが欲しているのは日本の繁栄ではなく自らのアイデンティティであり、そのために在日を批判の的にしているだけだ。全ては「俺を認めろ!」「お前らばかりいい思いしやがって!」という感情から来るものであり、ならば彼らが叩くべきは、在日よりもむしろ日本人だ。しかし、日本社会の中で日本人は圧倒的にメジャーであり、強者を叩くなんてできるわけがない。だから在日に矛先が向けられ、国籍差別が繰り返されていく。
いったい、この活動に何の意味があるというのか。読了後、思わずやりきれない思いを抱いてしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――
【まとめ】
1 在特会とは何か
「在日特権を許さない市民の会」、通称「在特会」。
在特会は、「在日コリアンをはじめとする外国人が」「日本で不当な権利を得ている」と訴えることで勢力を広げてきた右派系市民団体だ。インターネットの掲示板などで同志を募り、ネット上での簡単な登録ながらも会員数は1万1000人を超える。朝鮮学校授業料無償化反対、外国籍住民への生活保護支給反対、不法入国者追放、あるいは核兵器推進など、右派的なスローガンを掲げて全国各地で連日デモや集会を繰り広げている。
「チョンコ!」「朝鮮人!」「ウンコでも食ってろ!」彼らが口にする罵倒は酷く汚い。
理不尽で、荒々しい力で、彼らを駆り立ててやまないものは何なのか。彼らが口にする憎悪の源には何があるのか。いったい彼らは、かくも過激な在特会の活動の、どこに魅了されており、そもそも、いったい何を目的に誰と闘っているのか。
2 在特会の活動
同会が最重要の政治課題として掲げているのは在日コリアンの「特権剝奪」だ。日本は長きにわたって在日の犯罪や搾取によって苦しめられてきたというのが、同会の現状認識であり、日夜、「不逞在日との闘い」を会員に呼びかけている。
「朝鮮学校無償化反対」「外国人参政権反対」「外国籍住民への生活保護支給反対」「領土奪還」──掲げるスローガンはいわゆる右派的な主張であるが、在特会は自らを「右翼」と名乗ることはせず、「行動する保守」だと自称している。実際、会員の多くは右翼・民族派の活動に参加した経験を持たず、ネットの掲示板などで「在日叩き」をしている「ネット右翼」(通称:ネトウヨ)が目立つ。東日本大震災以降は、各地で盛り上がりを見せる「反原発」の動きに対抗すべく、「反・反原発」「核兵器推進」といったスローガンも掲げ、「強い日本」を訴えるデモや街宣も活発におこなうようになった。
在特会の活動のほとんどは、「ニコニコ動画」や「USTREAM」といったネット上の動画投稿サイトで生中継される。視聴した者によって、それがさらに他の動画サイトにもコピーされるだけでなく、ブログやツイッターを通してリンクが張られる。ネット用語でいうところの「拡散」である。ネットユーザーはたとえデモや街宣の場にいなくとも、いつでも在特会のこうした活動を目にする機会が与えられているのだ。
ネット掲示板などを通じて「愛国」や「反朝鮮」「反シナ」「反サヨク」を呼びかける者たちは、一般的にネット右翼と呼称される。朝から晩までパソコンや携帯にかじりつき、「朝鮮人は死ね」などと必死に書き込む者たちの存在は、ネットが一般化した90年代以降、急速に目立つようになった。当初こそネット右翼は、いわば変形型の「オタク」に位置づけられていた。匿名性を盾に差別的な言辞を繰り返す様から、攻撃的な引きこもりと揶揄されることもある。
一方、今世紀に入った頃から、そうしたネット右翼のなかにも、キーボードを連打するだけでは飽き足らず、リアルな「連帯と団結」を目指す動きが活発化した。あくまでもネット利用して情報収集、交流、呼びかけをおこないながら、「闘いの場」をネットの外にも広げたのだ。
在特会広報局長の米田は、ネット言論が大きく「右に振れた」要因として「日韓ワールドカップ」と「小泉訪朝」の2つをあげた。いずれも2002年の出来事である。なかでもワールドカップは「ネット言論におけるエポックメーキングだった」とまで断言している。
3 彼らの主張する特権は、本当に存在するのか?
在特会がことあるごとに主張する在日コリアンの「特権」なるものは、実態としてよくわからない。米田は「外国籍でありながら、日本人と同じような権利が与えられていることじたいが異常だ」としたうえで、次のような「特権」を指摘した。
・彼らは特別永住資格によって、ほぼ無条件に日本に永住できる。滞在資格による条件がなく、たとえば他の外国人であれば犯罪を起こせば強制送還されても、在日コリアンにはそれがない
・彼らは通名(本名以外の氏名)使用が認められている
・彼らは外国籍でありながら生活保護の受給が認められている
・一部自治体では、在日コリアンや、在日団体の関連施設に対し税制面で優遇措置をしている
果たしてこの4つは、在特会の主張するとおり事実なのか。
たとえば、在特会が特権の筆頭として示す「特別永住資格」。これは、戦前や戦中に日本へ移住した旧植民地(朝鮮半島と台湾)出身の人々に対して、入管特例法という法律に基づいて与えられた在留資格である。
たしかに旧植民地出身の人々は、かつて日本国籍を有していたということで、「特別永住者」として他の外国人とは区別されている。治安・国益にかかわる重大な事件を起こさない限り、特別永住者は強制出国させられることがない。また、滞在期限というものがないため、他の外国人のように滞在延長許可申請も必要ない。仮に他の外国人からこうした声が出てくるのであれば一定の理解もできようが(とはいえ永住者であれば同等の条件を有することができる)、日本人がこれを羨むべき「特権」だと騒ぐ理由は見当たらないだろう。
弁護士の在日コリアン、李春熙は以下のとおり解説する。
「世界的に見れば、旧植民地出身者には旧宗主国の国籍との選択権を認める例が多いのです。さらに、日本政府は、『外国人』になった在日朝鮮人に安定的な在留資格を認めてきませんでした。つまり、多くの在日は、植民地支配の結果、日本に住むことを余儀なくされたにもかかわらず、戦後は、不安定な在留資格のもとで暮らさざるを得なかった。このような状態の改善は長年の課題であり、1991年の入管特例法の制定により、ようやく特別永住資格が設けられたのです。旧植民地出身者とその子孫に最低限の安定的な在留権を保障することは日本政府の当然の義務だと思います。これがなぜ特権にあたるのでしょうか」
「一般の外国人であっても、通常は10年も日本に住んでいれば永住資格が与えられる。数十年も日本に居住している旧植民地出身者に永住資格が与えられるのが、そんなに特別なことなんでしょうか」。
4 いったい誰と戦っているのか
米田はこう語る。「我々は一種の階級闘争を闘っているんですよ。我々の主張は特権批判であり、そしてエリート批判なんです」
彼らが憎悪する「特権」の正体とは、つまり、在日社会が持っている濃密な人間関係や、強烈な地域意識だ。それは、今日の日本社会が失いつつあるものでもある。個々に分断され、ネットを介してでしか団結をつくりあげることのできない者たちにとって、それこそが眩いばかりの「特権」にも見えるのではないだろうか。
在特会の元支部長「仕事とか学歴とか、そんなこととは関係なしに、どこか人間関係に難点を抱えているようなタイプが多いんです。在特会のいいところは、「来る者を拒まず」を通していることなんです。自分たちが少数派であることを理解しているから、誰でも大歓迎なんですよ。とにかく行動をともにしてくれるのであれば、参加者が在日であろうと他の外国籍であろうと構わない。一緒に街頭で叫んでくれさえすれば、大事にされるんです」
保守系市民運動の草分けとして知られる増木は次のように語る。
「連中は社会に復讐してるんと違いますか?私が知っている限り、みんな何らかの被害者意識を抱えている。その憤りを、とりあえず在日などにぶつけているように感じるんだな」
増木はそう前置きしながら、在特会の会員が仕立て上げる具体的な加害者を列挙した。
・大手メディア
・公務員(教師を含む)
・労働組合
・グローバル展開する大企業
・その他、左翼全般
・外国人
「なんとなく高学歴で、なんとなく高給与で、なんとなく守られている。そんなイメージが少しずつ、かぶりますよね。それ以上に重要なのは、在特会メンバーの多くは、これら加害者のような存在になりたくてもなれない、そんな場所で生きているということなのかもしれません」
5 ネトウヨが生まれた理由
ネットは誰もが自由に発信できるメディアだからこそ利用者を増やしてきた。新聞、テレビ、雑誌といった既存メディアでは表現できない「本音」こそがネット言論を盛り上げる。
だからこそと言うべきか、「差別はいけない」ではなく「差別は本当にいけないことなのか」と挑発する行為こそ、ネットでは求められている。
「つまり、タブー破りの快感です」ネット事情に詳しいフリーライター、渋井はそう語る。
「正面から愛国を論じたところで見向きもされない。そこにはやはり、さまざまなタブーという仕掛けがあったからこそ、ナショナリズムに火がついた。たとえば外国人は日本から出て行けという言論もそうでしょう。今世紀に入ってから非正規労働者の割合が急増した。正社員の座をめぐる過酷な椅子取りゲームが始まったわけです。椅子が余っている時代であれば外国人のことなど気にはならないし、寛容でいることもできました。しかし椅子の数が少なくなれば、まず、椅子に座るべきは日本人からだろうといった声が出てくる。それがいつしか外国人は出て行けという罵声にも変わる。『外国人に優しくすべき』『外国人は大事にすべき』といった常識論を乗り越えてしまえば、あとは排外主義の競い合いですよ。これはナショナリストが指導したものではなく、もちろん愛国的な視点から生まれるものでもありません」
それではネットにおける左派的、あるいはリベラルな言論はどうであったのか。
実はネット空間は、もともとリベラルなアカデミズムによって独占されていた時期もある。ネットはかつて大学の研究室のなかで主に運用されてきた。大マスコミで流通されることのない現場発の言葉が、研究者によってネットへ流されたのである。それはいかなる検閲も制約も受けることのない自由な言論──つまりカウンターカルチャーの一種であったのだ。
しかし90年代からパソコンや携帯の普及によって、ネット空間の大衆化が顕著になった。
大衆化はネットの世界に論理ではなく感情を持ち込んだ。学者や研究者は旧来的な議論には慣れていても、感情の応酬にはついていけなかったのである。よく言われることだが、ネット言論は「激しさ」「極論」こそが支持を集める。彼らはそうした大衆的な舞台から降りることで、いわばネット言論をバカにした。いや、見下した。結果、大衆的、直情的な右派言論がネット空間の主流を形成していく。もともと「権威への抵抗」といった側面を持っていたこともあり、勢いは止まらなかった。この場合、舞台から降りたアカデミズム関係者を「大衆」は権威そのものとみなしたのである。
社会への憤りを抱えた者。不平等に怒る者。劣等感に苦しむ者。仲間を欲している者。逃げ場所を求める者。帰る場所が見つからない者──。
そうした人々を、在特会は誘蛾灯のように引き寄せる。いや、ある意味では「救って」きた側面もあるのではないか。続きを読む投稿日:2023.04.27
在特会のことがよく分かる本。
在特会の街頭演説がありのまま書かれているので、出てくる言葉がかなりキツい。気分が悪くなるレベル。
10年前くらいからインターネットに触れていたからこういう特定の民族に対…しての差別的な情報は触れてきたし、そうなのかと信じてた時期があったのも思い出した。
学生だった当時はなんとなく近寄りがたいと思い、深く調べず忘れていったが、生まれる時代や環境が違ったら心酔してたかもしれないと思うと怖い。続きを読む投稿日:2022.06.26
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。