人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する
マット・リドレー(著)
,大田直子(翻訳)
/ニューズピックス
作品情報
■マーク・ザッカーバーグ&ビル・ゲイツが絶賛する現代最高の科学・経済啓蒙家、全米ベストセラー!
■あらゆるビジネス・人間活動における最大の課題「イノベーション」の本質と未来を解き明かす!
■名著『繁栄』のマット・リドレー最新刊、待望の日本語版
■米Amazon「The Best Business Books of 2020」に選出
・なぜ原子力発電は「斜陽産業」になったのか
・世界を変えるのは「1人の孤高の天才」ではない
・世界を変えるのは「発明家」ではなく「イノベーター」である
・新しいテクノロジーに携わった起業家の多くは「破産」する
・イノベーションは圧倒的な雇用を生む
・イノベーションを阻害するのは「規制」と「知的財産権」である
・人類史が証明する「イノベーションをはぐくむ環境」
・2050年の世界を予測する
AI、SNS、起業、ブロックチェーン、経済、通信、医療、遺伝子編集……。あらゆるビジネスや社会活動における最大の課題「イノベーション」。それはいかにして起こるのか? その原動力とは? なぜ近年大きなイノベーションが生まれないのか? 誰も知らなかった「イノベーションの本質」を、産業革命史や人類史、Google、Amazonの実例など、圧倒的なファクトを積み重ねて解き明かす。ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、スティーブン・ピンカー(『21世紀の啓蒙』)、ピーター・ディアマンディス(『2030年』)らの世界観に大きな影響を与えた現代最高の科学・経済啓蒙家による、待望の最新刊にして米英ベストセラー。巻末に特別追記「コロナ後の世界とイノベーション」を収録。
「2020年の私のベストブックは本書だ。『1人の天才が世界を変える』という思い込みはもう捨てよう。蒸気機関もテレビも電球も、1人の天才による発明ではない。無数のイノベーションが『進化』を繰り返した結果生まれたものだ。そう、イノベーションとは『生物の進化』と同じ仕組みなのだ」
——リチャード・ドーキンス(『利己的な遺伝子』)
「本書でとくに深い洞察があるのは、失敗は成功の一部であること、試行錯誤を繰り返すことの意義、そしてイノベーションを妨げがちな『政府』についての指摘だ。さらに人類の成功に不可欠な材料は何かという点においても、私はリドレーに完全に同意する」
——ジェームズ・ダイソン(ダイソン社創業者)
「名著だ。読め」
——Forbes誌
◎目次
第1章 エネルギーのイノベーション
第2章 公衆衛生のイノベーション
第3章 輸送のイノベーション
第4章 食料のイノベーション
第5章 ローテクのイノベーション
第6章 通信&コンピュータのイノベーション
第7章 先史時代のイノベーション
第8章 イノベーションの本質
第9章 イノベーションの経済学
第10章 偽物、詐欺、流行、失敗
第11章 イノベーションへの抵抗
第12章 イノベーション欠乏を突破する
特別追記:コロナ後の世界とイノベーション
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この作品のレビュー
平均 3.8 (28件のレビュー)
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【はじめに】
マット・リドレーは、『やわらかな遺伝子』、『ゲノムが語る23の物語』、『赤の女王』など進化論をベースとした科学ジャーナリスト。その著者がイノベーションについて語ったのが本書である。そこに…は進化論的なにおいが含まれている。近年の『繁栄』、『進化は万能である』に続くもので、イノベーション=「進化」のための「自由」の必要性を強調した本。原題は、"How Innovation Works: And Why It Flourishes in Freedom"だが、副題に「『世界は「自由」と「失敗」で進化する』と付けたのは理由のないことではないのである。
長大な著書『繁栄』でリドレーは、イノベーションの源泉が科学でもなく、資金でもなく、特許でもなく、政府でもなく、"交換" - 無尽蔵なアイデアの交換から生じると論じた。そもそも『繁栄』で論じたことは、人類の繁栄の源が、かつて進化の過程で交換する能力を得たことだというものであった。そして、交換が限りなく容易となったいま、イノベーションはとめどようがなくなった。本書でも、「イノベーションは脳のなかではなく、脳と脳のあいだで起こる集団的現象である。そこにこそ現代社会世界が学ぶべき教訓がある」と語っている。「イノベーションとは「アイデアの生殖」である」 とあるが、これは『繁栄』のプロローグのタイトルにも採用した「アイデアの生殖」をここでも繰り返したものだ。次の言葉にもイノベーションと生物進化との間に共通するロジックを見ていることがわかる。
「イノベーションの火を消すのは難しいだろう。それはイノベーションが、かくもネットワーク化された世界における、かくも進化的なボトムアップの現象だからだ」
【概要】
本書は、近現代のイノベーションの歴史を辿ることから始まる。具体的には、エネルギー、公衆衛生、輸送、食料、ローテク、コンピュータ、通信の領域が取り上げられる。イノベーションはあちこちに溢れている。下水管、U字パイプ、トタン板、キャスター付きスーツケースといったローテクもイノベーションの結果だ。『繁栄』もそうだったが、リドレーの話はいちいち長い。それぞれは興味深い話で、どれも省略したくないと思うのだろうが、もう少し短くできるのではないだろうか。
イノベーションを生物進化の法則に結びつけて考える著者が気にかけるのは、現代の知的財産制度と著作権制度が自由を制限し、イノベーションを阻害しているのではないかということだ。知的財産の保護が、イノベーションの進化に役に立ったと示すものは何もないと何度か繰り返す。逆に、多くの人が同時に独立して発明した事例を挙げる - 温度計、電信、皮下注射、自然淘汰、写真、望遠鏡、タイプライター、電球、などが挙げられる。いまやイノベーションの代表格ともいえるコンピュータと通信だが、著者はそこに突出した「発明者」を見ることはない。アラン・チューリング、クロード・シャノンも含めて「コンピュータの発明者」という栄誉に浴するに値する人はいないと明言する。総じて知的財産権・特許については懐疑的でネガティブだ。皮肉を込めて、「多くの発明家からひとりを選び出すのに貢献するのが知的財産制度であって、その逆ではない」と言う。
著者はイギリス人であり、欧州の規制に対して大きな懸念を示している。本書を書いた動機のひとつであったに違いない。特に遺伝子編集作物に対する論理的ではない過度の抑制については、個人としてはどうしようもない現状を見てあきれているという体である。
また、知的財産制度の暗黙的なベースとなっているイノベーションの神話として、それが突然起こるかのように語られることは決して正しくないことを指摘する。実際には全くそうではなく、イノベーションはゆっくりとした漸進的なプロセスによって完成するものである。「イノベーションはほぼつねにゆるやかであって突然のものではない」 ―― これもまた生物進化とのアナロジーを感じることができるだろう。
「いまもイノベーションは、私たちが考えがちなほど監督も計画もされない。ほとんどのイノベーションは、設計の変化を選択的にとどめることで成り立っている」というときや、「地球上の生命の始まりこそが最初のイノベーションである」と言うとき、生物進化がここまで成功した理由と、イノベーションがここまで成功している理由を同じ自由競争と適者生存に見ていることは明らかである。
「イノベーションは自由から生まれ、繁栄を生み出す。すべてを考えると、それは非常に良いことである」
著者が感じているのは、この何よりも大切にするべき「自由」が規制され、抑制されようとしているのではないか(特に欧州で)ということである。そして同時に、最終的には「自由」は残り、イノベーションは進むということである。
【所感】
イノベーションについて著者が強調することのひとつは「アマラ・ハイプサイクル」と呼ぶものだ。これは、「イノベーションの効用に対する人びとの評価は、長期的には低すぎるが短期的には高すぎる」というものだ。この言葉はビル・ゲイツが言った言葉として覚えていたのだが、元を正すと未来学者のロイ・アマラが最初に言った言葉らしい。自分もこの言葉は含蓄のある言葉だと思っていて、昔、書かせていただいた技術書(『実践SIP詳解テキスト』)のまえがきに引用させてもらった。
技術は進化するが、その方向や距離は予測が難しいという点について、この本に書かれている中で印象的なのが次の指摘である ―― 著者の祖父母の時代には輸送技術は彼らが生きている間に大きな変化が起きた。自動車や飛行機が世界における距離を縮めた。一方で通信技術は電報と電話は生まれた最初からあったが、生きている間には大きな変化はなかった。自分たちが生きてきた時代はそれとは逆に輸送に関しては大きな進化はなく、逆に通信は携帯電話とインターネットとスマートフォンという大きな変化があり、人類の生活を大きく変えることになった。それを考えると、この先通信の進化がこれまでと同じように起きるとは限らないということだ。3Gは必然で、4Gは正常進化であったが、5Gは大きな変化をもたらすものではないかもしれない。―― そして次の大きな変化は通信でも輸送でもないところで起きるのかもしれない。おそらく、自分はそれは遺伝子技術だと考えている。著者も、そのように考え、だからこそこの点に関する欧州の非論理的で感情的な過剰な規制を懸念しているのではないだろうか。
著者は、ジェフ・ベゾスの挑戦と失敗をイノベーションを産む姿勢として好意的に取り上げる。生物がその進化の過程で実行してきたように、イノベーションの分野でも十分に失敗をしなくてはならないのだ。
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『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)』(マット・リドレー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152091649
『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(下)』(マット・リドレー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152091657
『進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来』(マット・リドレー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152096373
『赤の女王 性とヒトの進化』(マット・リドレー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4150504180続きを読む投稿日:2021.04.17
すぐれたアイデアや発明を実際に人々の役にたつ実用的で手頃な価格のイノベーションに変えるのに多くの労力がかかる。
遠くの領域と結合して、イノベーションは起こる。失敗は、できないやり方の発見。投稿日:2024.03.10
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