相対主義の極北
入不二基義(著)
/ちくま学芸文庫
作品情報
すべては相対的で、唯一絶対の真理や正しさはない――この相対主義の「論理」を相対主義自身にも適用し、極限まで追いかける。その最果ての地で、どのような風景が目撃されるのか? 本書では、ルイス・キャロルのパラドクス、マクタガートによる時間の非実在性の証明、デイヴィドソンの概念枠批判、クオリア問題等を素材に、「相対化」の問題を哲学する。相対主義を純化し蒸発させることを通して、「私たち」の絶対性を浮き彫りにすると同時に、その「私たち」も到達しえない“他なるもの”の姿を鮮やかに描き出す。ダイナミックな哲学の思考運動が体感できる名著。
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商品情報
- シリーズ
- 相対主義の極北
- 著者
- 入不二基義
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま学芸文庫
- 書籍発売日
- 2009.01.07
- Reader Store発売日
- 2015.08.28
- ファイルサイズ
- 5.5MB
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この作品のレビュー
平均 4.2 (11件のレビュー)
-
『相対主義の極北』というタイトルに惹かれて購入。
「地平線と国境線」と「足の裏の影」の話から入る。ここに相対主義の枠組みと実在の関係と、相対主義の無限後退と実在の関係を想像するべきなのだろうか。
…著者は本書の考察を「円錐形」になぞらえる。絶対的な真理や正しさはなく、枠組みや観点に依存するという相対主義は非常に広い。カントの物自体に対する哲学的枠組み、プロタゴラスの人間尺度説、人間原理、ルイス・キャロルの亀とアキレスのパラドクス、などは円錐のたとえにおいて、これは円錐の底面に相当する。ただし、その論考を煮詰めるとすべての相対主義の議論は核心とも言うべき一点に縮減される。これが円錐の頂点に当たる。さらにはこの一点において実在論の極限に接近するというのが図式的な理解だ。そして、それこそが相対主義の極北というべき地点である。
相対主義は、内在化、複数化、断絶性、再帰性、相対性と絶対性の反転、非-知の次元、という六つのエレメントを持つという。それぞれの説明はあるが、わかったようなわからないような気分になる。
本書の中で自分がもっとも心動かされたのは、第八章のクオリアの議論だ。単に自分の関心ごとに近かっただけのことなのかもしれない。この本の中で意識論が議論されているとは思わなかったので、若干不意を衝かれた形になった。「客観的・科学的な記述は、私たちが体験しているクオリアを捉えることができないし、さらに、私たちの認識能力は、異者のクオリアへは決して届かない。したがって、客観的・科学的な記述は、最も近い私たちのクオリアにも、最も遠い異者のクオリアにも及ばないのである」という。トーマス・ネーゲルの「コウモリにとって、コウモリであるということがどういうことであるのか」というハードプロブレムは、クオリアの問題としては消えさるというものだ。クオリアは、クオリアとは別の何ものか(something)になるか、単なる無(nothing)になってしまうほかないという。このような形で哲学的な論点でクオリアが扱われうるというのは新鮮であり、哲学的思考の可能性を示しているとも思える。
最後に本書は、
「「私たち」は限界をもたないが有限である。相対主義の極北とは、「私たち」と「私たち」の未出現との間の、最高度の断絶性がきわだつ地点である」
という結論に至るが、自分自身が極北に至ったのかは、はなはだ疑問である。ただ、こういうことを考えるのも必要なことなのかも。
あとがきにて、
「平易で分かりやすくて「おもしろい」のではなく、単純なはずなのに難しくて、頭が変になりそうだけれど、それが「おもしろい」でなくては意味がない。「哲学」なのだから」
という著者の言葉がこの本の意義を表していると思う。決して難しい言葉で書かれていないが、その内容はおそらくは深い。決して誰にもお薦めする本ではないが、良い本だと思う。
扱っているテーマから古典なのかと思ったら比較的最近の本ということ。まだ、こういう本が日本人によって書かれ、出版され、文庫化されるのかと少しうれしく思った。続きを読む投稿日:2015.10.19
私の好みとしては本書の第6章がすこぶる良かった。デイヴィドソンについての本を最近読んだばかりのせいかもしれない。
ただ解説者の野矢茂樹さんが言っている通り、分岐の可能性もあったと思う。つまり、理解不…能なものが一つであることはできなくてゼロ個以上のどこかであるとも考えられる。物質を分割しても一種類の素粒子とは限らないように。
私は私がいなくても世界は存在していて、むしろ私が、いるのが邪魔だと思っていたこともあった。最近はどちらかというと、私なしではこの世界が存在しなくなるという方向に向かっていた。反復していくという発想はなくもなかったが、元気づけられたことは確かだ。
永井均さんがネッカーキューブが二通りに見えるが、こっちのほうが見やすいと言っていたのを思い出す。実在論か相対主義もそれと似ているように思えた。続きを読む投稿日:2022.03.13
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