ぼくは物覚えが悪い 健忘症患者H・Mの生涯
スザンヌ・コーキン(著)
,鍛原多惠子(訳)
/早川書房
作品情報
脳手術の後遺症で記憶を新たに作れない脳障害患者H・Mが記憶の科学に残した遺産はいかに巨大だったか。長年治療にあたった医師自身が綴る、「医学史上最もよく研究された患者」の記録。映画化決定!
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商品情報
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 早川書房
- 書籍発売日
- 2014.11.25
- Reader Store発売日
- 2014.12.24
- ファイルサイズ
- 15.9MB
- ページ数
- 448ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (14件のレビュー)
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人生を正常にしてくれると信じた医学に求められたのは、完璧な研究対象
重度のてんかん発作に苦しむ姿を見かねて、当時の最新脳外科手術を受けさせた両親に残されたのは、健忘症のわが子だった。確かに発作は激減したが、今日が何日か、朝食に何を食べたか、数分前に言ったことさえ思い出…せない息子を背負うことになる両親。出会う人の顔も、訪れた場所も、日々のどんな経験もすぐに脳裏から消え失せ、亡くなるまで永遠の現在に閉じ込められることになった息子ヘンリー。彼はその後も人生を正常にしてくれる医学の進歩を待ち続けたが、ヒトの脳がもつ記憶のメカニズムを研究するための完璧な患者であり続けた男の物語。
不遇の生涯をひたすらウェットに追いかける感動ドラマを期待すると肩すかしに合うだろう。著者の視点はあくまでドライで科学者の視点なのだから。 「現在が刻々と過ぎ去っても、まるで足跡を残さないハイカーのようにヘンリーの記憶はなんの痕跡も残さない。そのような状態にある人は、どのようにして自分を自分と認識するのだろうか」。自分が何者であるかを示す豊かな感覚的、情動的な自伝的記憶に障害を持ち、ある出来事から別の出来事へ意識して時をさかのぼる能力に欠ける健忘症患者の自己認識は一体どんなものだろうか?
研究対象としてのへンリーの価値はますます上がっていった。「自分と同時代になされた科学的発見のなかで、へンリー研究と実は関連していることがわかったり、へンリーの研究によって裏づけが取れたりするものが実に多いことに、私たちは驚かされどおしで、ヘンリーの研究はわが研究室の名声にとってかけがえのない宝物だった」と著者は述べる。著者は、彼に対する研究や取材の窓口となり取捨選択も行なっていたため、「独り占めし、囲い込んでいる」と非難も受けた。
短期記憶のみで生きていくヘンリーは、意外なほど温厚で愛想が良かった。彼はつねにそのー瞬一瞬を生き、日常の出来事を満喫し、日々の多くのストレスと無縁でいられた。確かに長期記憶は生存に必要なものだが、時にそれがわれわれを苦しめ、重荷となっていることも気づかされる。これがあるばっかりに、心の痛みやトラウマ、問題をなかなか忘れさせてくれず、重い鎖で縛られる。ときに私たちは記憶に埋もれて生きるあまり、現在に生きることを忘れてしまう。
「日常生活で直面する不安や苦しみの多くが、長期記憶や、未来の心配や予期から生じるものであることを考えると、へンリーが人生の大半をほとんどストレスに煩わされずに生きた理由も見えてくる。彼は過去の思い出にも、未来への思い入れにも邪魔されずに生きた。長期記憶をもたずに生きるのは恐怖以外の何者でもないが、つねにいま現在を見据え、30秒という短く単純な世界に生きることがいかに開放感に満ちているか、私たちは心のどこかで知っている」
しかし記憶を奪われたへンリーは、人生で避けようのない別れを余人のように悲しんだり処理したりすることができなかった。大好きなおじの死を耳にするたび、彼は悲嘆に暮れ、やがて悲しみが薄れると、いつまたおじさんが訪ねてきてくれるかと母に尋ねるのだった。
「私たちの多くにとって、自分の個人史は自己を定義する根本的なものであり、私たちは過去の経験について思いをめぐらせたり、自分の物語が将来どのように進展するかを想像したりするのにかなりの時間を費やす」。ヘンリーは、過去を覚えられないのと同様に、未来を想像することもできなかった。彼は人生が前に進んでも自分史を構築することはできず、短期、長期の別を問わず心の中で時間を進めることができなかった。
「記憶を持つことで得られる大きな恩恵に、互いを知る能力、というものがある。私たちは共有された経験と会話をとおして関係を深めていく。そして記憶する能力がなければ、このような関係が紡がれていくのを見届けることはできないのだ。へンリーは生涯で多くの友人を得たものの、これらの関係の真の奥深さを感じ取ることはできなかった。彼は他者をよく知ることができず、悲しいことに、彼を知るすべての人 - そして全世界 - に自分が永遠に変わらない印象を与えたことを知らなかった」。 続きを読む投稿日:2015.03.07
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高3の時から読みたいと思っていた本。 やっと読めた。
重度のてんかんによって両側頭葉内側を摘出したことで新しい事を覚える事が出来なくなり、永遠の現在に閉じ込められた患者H.Mの生涯を主治医が書き記した…学術本。
医学に携わる者なら知らない人は居ない程有名な患者だけど、どう考えたってヤバそうな手術が行われた歴史背景(読んでわかったことだけど当時はこんな実験的な手術を行う神経外科という謎の科が神経科医の花形だったらしい、怖すぎる)や、H.Mではなくて一人の善良な市民ヘンリー・モレゾンとしての一面も書いてあってよかった。クレソンよりケーキが好きらしい。
新しい事を覚える事が出来ないってどういう感じなのか、本当に想像がつかない。この本を読んだし勉強もしたから彼の病態もメカニズムも分かるけど、やっぱり自分に落とし込んで考えるのは難しい。
これを読んで思うことが沢山ありすぎてうまく言葉にできないんだけど、とりあえず、読んでよかった。
現代神経学の礎となったのは"患者H.M"ではなくて、アメリカに生まれた、甘いものとパズルが大好きなヘンリー・モレゾンというごく普通の人間の人生だということを心に刻みたい。
続きを読む投稿日:2021.04.11
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