【感想】東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか

能勢伸之 / PHP新書
(8件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
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  • 集団的自衛権に関する議論との関連

    本書では、まず近年における中国と北朝鮮との軍事力の推移が客観的な表現で説明されています。ここで注目すべきは弾道ミサイルを迎撃することの難しさという点に触れていることです。要約すると現代の技術では飛来する弾頭のほとんどは打ち落とせると理解できるが、「間違いなく全て」打ち落とせるとはどう解釈してもいえない。日本にとっては、弾頭ひとつでも国内に着弾すれば大変なことであり、ましてその一発が核弾頭ならば・・。
    その後、太平洋に展開しているアメリカ軍、韓国、そして自衛隊のミサイル防衛に関する防衛力を中心とした紹介がまた、客観的表現で記述されています。ここまでできているなら万が一の時でも大丈夫なのか、という気持ちになり、「間違いなく全ての弾頭を打ち落とす」ことに一歩でも近づくための手段としてデータリンクが紹介されています。データリンクの中身については、民間で普及している最近の技術レベルを考えてみれば、この技術が防衛に導入されていても驚きません。
    しかしながら、ここで問題になるのがデータリンクの仕組みが集団的自衛権と個別的自衛権の定義に引っかかることです。昔の戦争での考え方をデータリンクに当てはめることができないのです。この点について、丁寧な解説がなされております。
    本書に書かれていることが真実であるとするならば、昨年政府が強行といえるほど、集団的自衛権を許す方向に議論を進めた理由が分かります。
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    投稿日:2016.02.08

  • 全ては繋がっている

    特別センセーショナルなことが書かれている事もなく、いうならば、80年代からの米ソの動きが、現在どのような変化をもたらしたのかという事を知るための一冊と言えます。
    最近の安保法制や集団的自衛権については色々とニュースに出ていますが、なんというか1945年から2015年までの間を飛ばしているので、いろいろと飛躍しすぎでわけがわからなくなっています。
    本書は、アメリカの核の傘の下に守られた1980年代と核軍縮、冷戦終結後の核・ミサイル技術の拡散について最初に語られているので、冷戦期からの対立構造の変化というのを理解しつつ現在の東アジアの安全保障について理解しやすいのではないかと思います。
    また、サブタイトルにもある通り、技術の変化がもたらした多国間のネットワークが安全保障をどのように変化させたなど、わかりやすく説明されています。
    報道などで細切れに伝えられる内容ではなく、全ては繋がっているというのを知るには良い一冊であるともいます。
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    投稿日:2015.10.12

ブクログレビュー

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  • うみ

    うみ

    能勢さんの新刊。キーワードは集団的自衛権とデータリンク
    今までの政府見解/国会答弁では『一般的な情報伝達は集団的自衛権の行使に抵触しない』が、米海軍が導入したNIFC-CAによるデータリンクは共同交戦を可能とするレベルのモノなので、集団的自衛権に関する政府見解を改めないと導入できないのではないか?というのがテーマ(語られていないが、こっちが本命なのでは?と読んでて思った)集団的自衛権をあくまでも厳格に認めないと、経済的、効率的に我が国の防衛ができないが、それでも厳密に認めないことが是なのか?という趣旨。(と、読んだ)集団的自衛権に関する政府見解の推移は必見。続きを読む

    投稿日:2018.10.14

  • かいのしずく

    かいのしずく

    このレビューはネタバレを含みます

    以下、要約。 弾道ミサイル防衛、それを支える戦術リンク及び歴代政権の防衛に対する解釈をかいつまんでまとめた内容。従来の戦術リンクは、国内乃至日米間でAD及びBMDともに情報をやり取りするだけのもであるのに対して、今後米軍で導入されるであろうCECは遠隔射撃・遠隔交戦能力の構築を目的としている。共同作戦であっても、日・米は互いを指揮統制することはないとしているが、果たして今後、この制約を維持したまま日本を防衛できるだろうか、という問題提起が行われている。

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    投稿日:2016.03.21

  • モゲラ

    モゲラ

    いわゆる81年見解(日本は集団的自衛権を有しているが、行使できない。そうであっても、日本に不利益はない)がだされた時代、米ソは冷戦の真っ只中にあり、米ソ間の有事はすなわち世界核戦争であり、北も日本には届かない初期のスカッドを保有するに過ぎなかった。翻って今、グアムまで射程に収めるとも言われるミサイルを保有する北朝鮮と、覇権を強める中国に囲まれる今日、従来の防衛政策で十分なのかという問いかけ。
    軍縮交渉の難しさ。SALTⅡ(第二次戦略兵器制限交渉)でICBMであるSS-16の保有、配備をしないことになったソ連が、SS-16を改造して中距離弾道ミサイルとしたSS-20を配備し、NATO諸国の脅威となった時、アメリカも、それに対応するカテゴリーの兵器であるとソ連が認識できる兵器を開発、配備することで交渉カードとし、ソ連をテーブルにつかせることに成功し、INF(中距離核戦力全廃条約)締結に至った。軍縮のために軍備を保有、配備するという一見逆行するようなこともしなければ、軍縮は達成できない場合もある。
    こういう観点から見ると、平和国家として、攻撃的兵器を保有しないなどの軍備の制約を持つ日本は、平和国家ゆえに軍縮のイニシアティブをとれない、発言権を持てないということになってしまうのだろうか。まあ、でも、例えば2014年発効の武器貿易条約(初の通常兵器の取引規制)の成立過程においては、日本は共同提案国の一国として一定の役割を果たせたわけだから、ケースバイケースなのかな。ATTでは、日本は、武器輸出に厳格な制約を持つ国として、同様な制約を持つヨーロッパ諸国を味方につけることができたし、現状、そのような制約を持たない国々に比べた武器輸出に関しての不利を是正するために、武器輸出の規制を世界的に引き上げて、同じ市場で戦えるようにしようっていうヨーロッパ軍需産業の支持も取り付けることができたことが大きいとおもうが、そう考えると、この場合は平和国家として装備移転に厳格な基準を持っていたことが、交渉のうえで有利に働いたことになる。東アジアの軍縮とか、弾道ミサイル軍縮では主要な役割をはたすのは難しいかもしれないが、日本が軍縮を主導できる分野もあるということかな。

    INFに縛られた米露は、北朝鮮や中国にかつてアメリカがソ連にしたような交渉を持ちかけることはできないし、対抗することもできない。INFが北朝鮮への核軍縮の働きかけを阻んでいる面がある。INF違反が疑われるロシアは、INFに縛られずロシアを射程に収める中距離弾道ミサイルを保有する中国を警戒している可能性がある。米露を中心とした冷戦下の軍縮条約には限界が来ているという面もあるのかもしれないと思った。この辺はNewsweek2015年3/31号で読んだ記事を思い出した。
    既存の兵器の高性能化や周辺国の軍事能力の高度化、グローバルストライク兵器などの新技術の登場に対応するためには、データリンク→実際の行動のシームレス化や、他国軍との指揮系統の統合など、国籍を超える防衛上の仕組みが欠かせなくなりつつあり、そこには武力行使との一体化の懸念など、安保関連法成立前の法制では対応できない面がある。昨今の安保改革の議論はそことつながっているのではないかという話。
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    投稿日:2015.11.12

  • たけ坊

    たけ坊

    今話題の安保法制を最新の軍事技術と合わせて説明しているので大変勉強になる。わからないとこはわからないとはっきりしてて潔いし。良著。
    軍縮の意味では画期的だったINF条約、中朝はそこの穴を狙ってて、米ロは困る。ソ連の崩壊が中朝の軍事力の向上に一役買った側面。
    発展を続けるイージス艦の仕組み。MIPS/DWES、NIFC-CAなど。
    韓国にTHAADを配備するか否か、台湾のEWR、豪海軍と潜水艦や英軍士官など、日米を越えた国々との軍事的な協力。
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    投稿日:2015.07.20

  • H.Sato

    H.Sato

    ソ連の崩壊は強大と思われてきたその軍需産業にも危機的情況をもたらした。ロシアはもちろん、ソビエトを構成していた国が活路を求めて軍事の輸出先を求めて、それが中国だった。

    投稿日:2015.06.30

  • hibiscum

    hibiscum

     北朝鮮が頻繁にミサイルを試射し能力を増強しつつあるが、米軍はイージス艦や早期警戒機、地上レーダーの探知能力や、ミサイル撃墜能力、そしてそれらをネットワークで連携する能力を向上させてきた。短時間で到達するミサイルをしかも複数のそれを撃墜させるには、そうせざるを得ないであろう。
     日本を防衛するためには、米軍のそれらと自衛隊とのリンクも必要になるだろうが、それが集団的自衛権など法律解釈の見直しなり変更なりの検討が必要な理由である、との説明である。
     本書は、現在の日本を取り巻く軍事情勢を分かりやすく解説した好著である。本書に書かれたくらいの知識を知らずして集団的自衛権などの議論をすることは的外れになるであろう。
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    投稿日:2015.06.27

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