【感想】影

カーリン・アルヴテーゲン, 柳沢由実子 / 小学館
(5件のレビュー)

総合評価:

平均 4.7
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  • これはミステリでありながら純文学である

    「影」というよりは「裏」という感じだった。高名なノーベル文学賞作家だってもしかしたら最低最悪の偽善者かもしれない。物語は野外博物館で3歳くらいの男の子が保護されるシーンから始まる。一人の老女の孤独死、寝たきりの作家とその家族、作家を志す若者たち、それぞれのシーンが交互に描かれそれぞれに面白いのだがなかなか繋がってこない。書くことの「喜び」と書けない「苦悩」と書くためなら何でもしてしまう「狂気」と「罪悪感」と「嫉妬」が凝縮されている。久々にこの類の作品を読んだ。これはミステリでありながら純文学である。凄い。続きを読む

    投稿日:2018.07.17

  • 言い得て妙なタイトル

     輝かしい功績を持つ人にも、人に言えない影があるかも知れない。また一方、誰にも言えない秘密が、影のようにつきまとう人生は、多かれ少なかれ誰にもあるかもしれない。そんなことを思わせてくれる小説でした。

     物語は、なぜ一人ぼっちで亡くなった家政婦の死がそんなに問題になっているのか。読み始めると、わからないことだらけで、何に登場人物が悩み、怯えているのかがわからない状態でストーリーが展開します。おまけに登場人物が多い上に、スウェーデン人の名前が難しく、記憶出来ないのに閉口しました。冒頭に主な登場人物の紹介ページがありますが、私は別に紙に書いて読み進めました。
     すべての内容がわかり始めるのは、小説の真ん中あたり。徐々に社会的地位もある家族の影の部分が見えてきます。そして、その影に怯えて死んでいった家政婦のことも。まさに人間の影の部分を描いたような小説で、なかなか面白いけど、後味が良いとは。。。。
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    投稿日:2020.04.01

ブクログレビュー

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  • 0071

    0071

    このレビューはネタバレを含みます

    あらすじ
    ノーベル文学賞作家アクセル・ラグナーフェルトは寝たきりで死期が近い。その妻は体の不調を訴えては息子を振り回している。息子は父の威光と財力の管理で、全国を講演しているが、浮気と飲酒に溺れて、妻とは冷えた関係だ。
     長年ラグナーフェルト家で家政婦をしていた女性が亡くなった。彼女は身内がいなかったが、一人だけ相続人を決めていた。接点のない、かつて捨て子だった男性だ。
     ラグナーフェルト息子は家政婦の写真を探していてたまたま父の書類を見てしまう。そこには事故死と聞かされた妹が自殺だったことや、愛人らしき人物からの手紙があった。

     最後の怒濤の展開。ラストのラストまで、北欧らしい、人間の内面を丁寧に描いた作品かなと思っていた。特に家族の再生とか…。多分作中でまともなグループの家政婦の手紙から、とんでもない展開になっていた。特に父ラグナーフェルトと周辺の自己中心的な選択には驚いた。
     読者の期待を裏切り、安定を望まない作者だなあ。それでも読後感が悪くなくて、しみじみ考えさせてしまうのはさすがだと思う。

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    投稿日:2019.07.24

  • ぷらりん

    ぷらりん

    著名であるとか栄光とか名誉とか、そういうものは必ずしも幸せには繋がらない、ということか。みんながアルコールの問題を抱え、それぞれに足掻くような悩みを抱え堕ちていくところはなんとも・・・!それでもやっぱり女は強いよなあ(生贄とされてしまった娘はともかく)、と思わずにもいられない。続きを読む

    投稿日:2010.10.29

  • xmayumix

    xmayumix

     人はあっけなく、なんのひっかかりもなく、簡単に堕ちてしまう。

     ノーベル文学賞作家は、脳疾患で全身麻痺になっている。その息子は、父の威光に頼って仕事をしている。そして家庭は崩壊しかけている。
     かつてその家につかえていた家政婦の死によって、家族の闇がうかびあがってくる。

     人と過去が交錯する手法が心にくいばかりです。
     全ては絡み合い、もつれながら、それでも解かれていく。明らかになったとき、唖然としてしまう。何があったのか、読んでいく中で推察できるし、その想像を大きく超えたものでは決してない。けれど、あっけにとれてしまう。

     人が堕ちていくとき、それはもっとためらいや躊躇があるものではないのか。こんなにあっさりと、滑り落ちるように堕ちていくそんな俗悪なものなのだろうか。
     
     積み重なっていった悪意というものは、人をこれほどまでに愚鈍にさせるのだろうか。

     …でも、一番醜悪なのは、その死によって静まった湖面に石を投げ入れた形になった家政婦なんだと、私は思う。
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    投稿日:2010.06.26

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