【感想】最貧困女子

鈴木大介 / 幻冬舎新書
(171件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
32
57
39
9
1
  • 「世の中で、最も残酷なことはなんだろうか?」

    本書で「最貧困女子」として扱われている女性は、
    貧困のため、性労働によって、糊口をしのがざるをえない人々である。

    実は、これは可視化されにくい問題である。
    何故なら、日本のメディアにおいて、性労働に関わる女性は
    東電OL事件のような「心の闇」として、また、SNSを用いた子どもの「非行」
    など、どちらかといえば倫理的な文脈で論じられているため、
    「貧困」の問題であるという認識は持ちにくかったからだ。

    しかし、著者は、そうやって見えにくくなっていること自体に危機感を感じ、
    実際にどのような境遇で育ち、今どのように生活しているのか、
    何人かの極限状態にある女性たち、また彼女たちの周辺にいる
    闇金業者や性労働事業に関わる男性への取材をしている。

    その中には知的障害や精神障害、発達障害を抱えている男女が少なからずいるということを指摘している。
    これは、障害者差別につながる恐れもあるため、多くの本では取り上げることを避けてきた問題である。
    だが、知的障害や発達障害を持つ子どもが親から虐待を受けることは普通の子どもよりも多いし、
    健康に生まれても、親の虐待により、抑鬱状態になる子どももいる。
    家出したり、施設から逃げ出したりした子どもたちに、
    「自分の居場所」であると感じさせるものを提供したのが、
    性労働事業者であるというのは、悲劇としか言えない。
    強制連行されたわけでもなく、事業者との間に疑似恋愛関係のようなものを求め、
    そうした仕事から抜け出せなくなっていく少女たちがいるということ。
    しかし、「未成年」でなくなれば、市場価値が一気に下がり、その後は・・・。

    逃げ出したくなるようなところを、よく取材したと思い、素直に感心する。
    障害を利用する形で性産業に組み込まれているのだから、
    「差別を助長する」などといって見て見ぬ振りをするわけにはいかないだろう。

    著者はあとがきで
    「世の中で、最も残酷なことはなんだろうか?」と問いかける。
    「それは、大きな痛みや苦しみを抱えた人間に対して、誰も振り返らず誰も助けないことだと思う」
    という。
    「助けてくださいと言える人と言えない人、助けたくなるような見た目の人とそうでない人、
    抱えている痛みは同じでも、後者の痛みは放置される。これが、最大の残酷だと僕は思う」と。

    これは、確かに。つらい状況にあること自体つらいが、それが「つらいこと」だと思われない、
    それは一番つらいことだろう。
    本書で扱われているような人について、直接できることは少ないが、
    彼女たち、また、彼女たちと関わりながらも、何もできずに忸怩たる思いでいる教師やケースワーカーたちのつらさ(これについては別の本を読む必要があるだろうが)について考える。
    それが読者として最初にできることかもしれない。
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    投稿日:2015.04.03

  • リアル闇金ウシジマくん

    闇金ウシジマくんは、徹底した取材に基づいて描かれているらしいが、まさにあの世界を地で行くルポルタージュ。
    家族縁、地域縁、制度縁を失ってセックスワークに従事せざるを得ない過酷な状況をつぶさに見せつけられる一冊。本当に追い詰められた事例がわんさか出ていてまともに感情移入してたらとても読んでいけない。

    いろいろ、不満はあれど、自分の与えられた家族縁が大概恵まれていたのだと認識させられるという意味では、読む価値のある一冊だと思う。
    著者は、かなり社会正義を感じている方らしく拙いと前置きしながらも何とか改善の道筋を探ろうとしている。おそらく取材を通してかなり精神的にも疲労したに違いない。

    大変申し訳ないが、「こういう世界もあるのねー」ぐらいで構えておかないとつらすぎる内容。
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    投稿日:2014.12.20

  • 思考停止中

    自分にとっては、「最貧困女子」全く別世界に住んでいる方々でした。
    そしてまた、自分にとっては知らない世界ばかりで現実感が伴ないませんでした。
    想像力が足りないのでしょうか?
    著者の最後の提言がまた分からない。昔でいう赤線(公娼制度)を復活させればいいということでしょうか?
    現在思考停止中の上に、今後このことを考えることもないと思います。私はこういった状況に同情できたり、憤ったりする善人ではないので。
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    投稿日:2015.06.17

  • 提言は理解するが説得力が弱い

    Webで紹介されていたのに興味を持って読んでみました。
    ルポ部分はいいと思います。
    しかし、後半の提言はアイデアの一つとしては良いと思いますが、説得力に欠けると思います。
    説得力に欠ける理由はただ一つ、裏付けるデータが無いからです。
    福祉にせよ政策にせよ、それは集団に対して行われるべきで、ただそこにそういう人がいるというだけでは誰も動けないのではないでしょうか?

    筆者は学者では無いと断っていますが、今後この問題を更に掘り下げるのであれば適切な人物と共同であたって光をあてるべきだと思います。
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    投稿日:2015.09.03

ブクログレビュー

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  • しんきろう

    しんきろう

    7〜8年前くらいの本だけど今はもっと貧困は拡大していると思う。出会い系アプリでは生活に困っているシングルマザーが自ら売春を働いていたり、Twitterでは「今晩泊めてください」のような呟きもたまに見る。なぜ家出少女や路上生活者は売春や風俗に従事する傾向があるのか。それは彼女たちはお金も住む場所も健康保険証すら持っていない中で補導に怯えながら路上を彷徨っている。そこで風俗のスカウトなどの支援者が宿を提供し、身分証や携帯電話を貸与する代わりに、風俗店で働かせる。外見が良くなかったり、障害を持っている女性はお店では働けず、違法の売春で日銭を稼いでいる。

    筆者が取材した売春少女たちのエピソードは本当にここは現代の日本なのかと思うくらい、地獄で文字情報だけでも、目を覆いたくなるほど、酷かった。幼少期は親からの虐待やネグレクトに遭い、愛されずに育ち、過酷な状況から打開しようと家出を試みるも、性産業に吸い込まれてしまう。

    家族・地域・制度の3つの無縁と身体・知的・発達障害の3つの障害を持っていると、このような再貧困女子になりやすいらしい。逆に売春少女と同じくらいの低収入でも困った時に頼れる親がいたり、地元の友人と助け合える環境があれば、貧乏ではあるけど、ある程度は幸せに生きていける。俗に言うマイルドヤンキー。ただこれらの人は貧困とも紙一重かなとも思っていて、突然3つの縁から切り離されてたら、売春少女のような、貧困に一気に落ちると思う。

    なるほど、だから田舎のマイルドヤンキーたちは地元の輪から外れないように、団結を高めて、仲間意識が強いのかなと思った。自分も今、地元から離れて一人暮らししているけど、低収入だし頼れる人も近くにいないから、貯金を崩しながら、本当にギリギリの所にいるから、3つの縁の大事さは身に染みて感じた。同じ低収入でも近くに親がいるだけで生活の楽さは全然違う。地元で暮らしやすい理由って、この3つの縁があるからなんだな。

    売春少女が抱える痛みは見えづらい所か、売春や性産業は差別されたり、誹謗中傷されやすく感じる。大変なのはわかるけど自己責任だろ、みたいな言葉を投げかけられたり。まずは彼女たちの苦痛を社会に知ってもらうことが、彼女らを救うのに大事だと思う。

    あと、この本を読み終えたあと、教育って生きる上で凄く大事なんだなと感じた。少女たちは中学校もろくに通っていないから、契約書とか色々な手続きをする時に出てくる長文や難しい言葉が理解出来ず、住民票の異動すら出来ない。路上生活をしている時も、法や支援制度を知らないから、全部自分でなんとかしようとする。仮に貧困を一時的に抜け出せたとしても、どこかでつまずくと思う。彼女たちを助けるためには教育が最重要なのかもしれないな。
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    投稿日:2024.03.12

  • ゆーじろー

    ゆーじろー

    このレビューはネタバレを含みます

    貧困のさらに下層である最貧困女子の現状を記したルポ。人は低所得に加えて「三つの無縁」「三つの障害」から最貧困へと陥る。本来支援されるべき方々が世間に可視化されていないので、支援が難しい現状がある。

    「第一章 貧困女子とプア充女子」を通して、例え月10万くらいの低所得でも周りの友達の支援やシェア文化が整っていたら、上手くQOLを保ちながら生きていけると改めて感じた。地方は低所得でも地域の支えを受けやすいので、その点地方出身者は強いなと。

    元々家庭環境が良くなくて教育も十分に受けていないので、そもそも思考力が欠如していて努力するベースがないから、貧困は自己責任では片付けられないと感じました。
    ちゃんと学校に行っていたら最低限自分でネットや本から情報を得る術は身につくし、何がいいのか悪いのかの判断もつく。だが学校で学力をしっかり身につけることができなかったので、努力だけでは解決できないだろう。

    自分は何不自由なく生きてきて貧困とは無縁の生活をしてきたから正直日本で本書のような方々がいることにびっくりした。
    だからといって何が出来るかといえば難しいが、でも現状このような人たちがいることを知り、現状を理解することはできる。
    思考停止で自己責任で片付けることなく、リアルを今後も知っていきたいと思いました。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.08.27

  • 東宮

    東宮

    貧困とは、三つの無縁、三つの障害から、貧困に陥るという。
    そして、三つの障害は見た目では分からないが故にセーフティネットの網から引っかからないのだという。

    本書を読んで、貧困の一端を垣間見れたわけだが、この本が、当事者の方を救う一助になるのを心から願うとともに、自分自身でも何か出来る事がないかこれからの人生で考えていきたい。続きを読む

    投稿日:2023.07.24

  • Ryouga

    Ryouga

    鈴木大介さん、最貧困女子の声を届けてくださりありがとうございます。
    女子の貧困が深刻化する中で可視化されない部分や「自分から買われたのだから」という心無い誤解や偏見は私の周りでも散見されます。
    大人から裏切られ続けてきた少女は居場所を見つけても自ら手放すような行動に出てしまう。そんな彼女たちとどう向き合えば良いのか、、、先ずは知ること。最貧困女子本人にも、第三者にも、それぞれに考えられることはあると思いました。続きを読む

    投稿日:2023.05.09

  • masyahide

    masyahide

    風俗や売春などのセックスワーカーとして生計を立てざるを得ない人たち。遊ぶ金欲しさではなく、育児放棄や虐待など育ってきた家庭環境に問題が多く、普通の仕事には就き辛い人が多いという現実。特に最底辺の激安風俗やハード系AVなどは知的や精神に障害を持った方が多いとの現実に衝撃。続きを読む

    投稿日:2023.05.07

  • herogroove

    herogroove

    ★★★★
    今月10冊目
    これは非常に難しい問題。貧困の最下層にいるのは、親などに頼れない、親からの虐待、メンタルやられてる、精神疾患、知的障害がベースにある。行き着くところはセックスワーク。 
    これは出会う人種ではないかもしれないがこの手の人達がいるって衝撃続きを読む

    投稿日:2023.03.20

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