【感想】水の時計

初野晴 / 角川文庫
(108件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
23
27
36
9
1
  • 臓器移植問題とミステリーが見事に融合

     初野晴なる小説家の本を初めて読みました。かなり詳細に医学的なことを調べられて書かれたのでしょう。単なるミステリーを超えて、様々な事を教えられました。
     まず、冒頭に示されるのが、有名なオスカー・ワイルドの「幸福の王子」。そして始まる本文。暴行場面に現れる謎の老紳士。さぁて何が始まるのか、全く先が見えない。うまい導入部分です。読み進めていくと、だんだん話の筋がわかってきて、摩訶不思議な設定の世界が拡がります。ミステリーですから、あまり詳しくは書けませんけどね。
     今でも臓器売買は存在するでしょうし、臓器移植さえ行えば、生を全うできる人も大勢いることでしょう。海外でならば臓器移植が可能となる日本の現実も、おかしいと言えばおかしいですよね。
     ただ、生きることも死ぬこともできない少女から臓器を秘密裏に取り出すことが出来ても、その出所が不明な臓器を移植手術するような手立てがあるのだろうかと、その設定は少々疑問ではありました。
     また、タイトルですけど、月の光が射すと少女の止まった時計がわずかに狂い出す。少女は「水の時計」を持っている、というところから付けられたようです。でも、タイトルに「月」の文字を入れた方が、もっと審美的になった気がします。
     途中、少々中だるみかな?と思ってしまうのは、登場人物の関係を複雑にしすぎたからかもしれません。しかし、横溝正史ミステリー大賞を受賞するだけのことはあります。ちょっとスピルチュアルで、ちょっとオカルトチックでもあり、かなりファンタジー的要素を含んだ、サスペンスミステリーといったところでしょうか。オススメですよ。
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    投稿日:2020.08.03

  • 意外にも悲しい「ハルチカシリーズ」の原点。

    心臓がキューっと握りつぶされるような、そんなせつない物語だった。自分の生を他人に分け与えていくという悲しい儀式の運搬役を任された主人公。その過酷な運命から十代にして髪が白くなってしまった。

    正直言ってまだ謎な部分が多く、それを全部説明したいたら作品の質が落ちてしまうかもしれないのだが、すべてを明かしてほしかった。

    「ハルチカシリーズ」とは一味違うシリアスな物語に作者の原点を見たような気がした。
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    投稿日:2018.02.26

  • 摩訶不思議なファンタジックミステリー

     第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞した初野晴のデビュー作である。さて本作では第一章が語られる前に、序章と言うべきなのか・・・いきなりオスカー・ワイルドの『幸福の王子』という童話の要約が記載されているのだ。それはさらに要約すると次のようになる。

     ある町の中に、金箔に覆われ、両目は蒼いサファイア、剣の柄にルビイをあしらった王子の像が立っていました。王子の像は足元で休んでいたツバメに、町の困っている人々に、自分の体の一部分を次々に運んでゆくように懇願します。
     ツバメは南の国へ旅立つ日を延ばして、王子の頼みを聞いてあげることにします。そして王子の像が灰色に成り果てるまで、町の人々に少しずつ金箔やサファイアなどを運ぶのでした。

     読み始めたときは、一体何の比喩なのだろうかと考えていたのだが、この王子とツバメの童話こそ、本作のメインテーマだったのである。本作では王子の代わりに、葉月という脳死と診断された少女が登場し、ツバメの役は暴走族のアタマである高村昴が演じることになる。
     奇妙なことに葉月は、脳死と宣言されていながらも、月明かりの漂う夜に限り、特殊な装置を使って会話することが出来るのだ。そして彼女は高村に、自分の内臓などを移植を必要としている人々に運んでくれと哀願するのである。

     それにしても、何とも言えない摩訶不思議な雰囲気と、おどろおどろしさが漂うファンタジックな寓話ミステリーだ。ラストは、童話のツバメと違って、なんとなく光明を見いだせるところに救いを感じた。まさに横溝正史ミステリ大賞に相応しい作品と言えるだろう。
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    投稿日:2016.08.24

ブクログレビュー

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  • 甘いパンよりしょっぱいパン

    甘いパンよりしょっぱいパン

    このレビューはネタバレを含みます

    高村昴
    暴走族『ルート・ゼロ』の幹部。

    芥圭一郎
    元新聞記者の医者。

    葉月
    脳死状態で閉鎖された南丘聖隷病院にいる。

    中谷
    昴の二つ年下。原付ばかりよく盗む。

    高階稔
    ルート・ゼロの幹部。広域指定暴力団の傘下の美緒興産とつながっている。

    室井広志
    ルート・ゼロの幹部。

    室井可奈
    室井広志の妹。

    堀池
    生活安全課の巡査部長。

    澤登
    医者。四十代半ばぐらい。

    須藤貴子
    北陽高校バレー部。神社で喧嘩を目撃する。

    玲子
    貴子の育ての母親。

    さなえ
    貴子の妹。入院している。

    美和子
    貴子のクラスメイト。

    苅谷
    バレー部顧問。一年の保健体育を受け持つ学年主任。軍曹。

    仁村
    さなえの担当医師。

    笠原克也
    小さな出版社を辞めた。フリーの編集&ライター。

    仲西聡美
    三十三歳。文房具を扱う商社の事務職。慢性腎不全。

    丘本
    斡旋業者。

    由比忠彦
    腎臓移植斡旋詐欺で刑事告発された「トーワ・コーポレーションを事件発覚直前に退社。高村の上司。

    高村誠
    笠原とは大学時代の同期。トーワ・コーポレーションに入社。志村病院精神科分室療養所に入院している。

    ムロイ
    高村誠の隣の部屋に入っている。交通事故を起こした。

    森尾哲朗
    冠状動脈硬化症。

    レン
    カンボジアの女の子。十一歳。

    律子
    森尾の妻。

    香織
    二十五歳。律子の遠縁。

    牧村
    警察。

    境大助
    境フラワーショップ主人。堀池とは小学校のときの同級生。

    下妻加世子
    三十六歳。急性リンパ性白血病。

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    投稿日:2023.09.21

  • chimachimaki

    chimachimaki

    展開が早く面白いんだけど・・・
    なんだか入っていけなかった。
    仕事とか忙しくてブツキリで読んだから、設定を忘れながら読んでいたのがいけないんだけど。

    昴の内面や心境ももやっとした感じ。もうちょっと葛藤とか知りたかったな。

    最後もなんだか、うむうーといった感じ。
    悪くはないんだか。

    ただ、「カンボジアの孤児達を」「余生のキャンバスを塗るための絵の具代わりにするんだったら・・・」というくだりはドキっとする。
    こういう人が多いから。
    どの世界でも承認欲求のかたまりみたいな人だらけ。
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    投稿日:2022.01.19

  • ビンゴ

    ビンゴ

    このレビューはネタバレを含みます

    10数年ぶりの再読。

    あらすじを見ると暴走族の元リーダーと脳死状態の女の子の交流、、、イロモノのように聞こえる。しかし読んでみると淡々とした文体で、惹き込まれた。

    以前読んだ時は代理ミュンヒハウゼン症候群の話が記憶に残っていた。今回読んでみると第4幕の心臓病の元教師の話が、この教師と奥さんの心理描写に共感したせいか、一番心に響いた。

    最後が少し安易かなーと思ったが、主人公の辛かったこれまでを考えると、最後くらいご都合主義でもいいじゃない、とも思う。

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    投稿日:2021.11.05

  • morikoyuna

    morikoyuna

    このレビューはネタバレを含みます

    ハルチカシリーズのほろ苦い話を一冊ぶんにしたような感じ。思っていた以上に読みやすかった。2000年代初頭に執筆された本だから、どことなく石田衣良っぽさもある。カラーギャングとか、暴走族とか、今となってはナニソレ?って文化だけど、読むぶんには好きだなー
    はづきが主人公にシンパシーを抱いて、同じような境遇の人がいることを支えにしていたことを知り、そんな些細なことだからこそ逆に腑に落ちた。ただ、はづきの事故の原因も実は主人公が若干関わっていて、そのやるせなさが切ない…。はづきは臓器移植ができず母を亡くし、子一人で志望校にも入れず、猛勉強して先生になろうとしていた矢先不慮の事故で死ぬことも生きることもできなくなり、直前に見たカラスと月のせいで臓器移植と月光のもとでだけ話すいびつさを持ち……
    主人公は兄が気を病み、子一人で志望校に入れず、グレにグレまくって喧嘩三昧……こうしてみると同じ不幸の中でもはづきは苦しみのなかにいる。ひたすら使い走らされたツバメはエジプトに行けず亡くなるのか?それとも1000万を手に歩き出すのか?

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    投稿日:2021.08.11

  • akodam

    akodam

    臓器移植をテーマにしたファンタジーミステリー。
    脳死と臓器移植をテーマに救われなかった人と救われた人と家族の物語がオムニバスで描かれていて、読み進めるうちに物語のピースが揃っていく作品。

    大切な友人に勧められ読了。

    臓器提供のテーマは重く、正解不正解は当事者が感じること。

    与える自由と与えない自由、
    貰う自由と貰わない自由。

    この言葉の通りに。
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    投稿日:2021.04.04

  • tomosaku

    tomosaku

    澄んだ物語だ。臓器移植、暴走族、生と死、扱われているパーツはハードなのだが、主人公たちの願いはどれもピュアで、それ故に残酷でもある。

    自分を犠牲にして他人を助ける、オスカー・ワイルド「幸福の王子」を下敷きに繰り広げられる本作は、現代の寓話と言える。

    オムニバス形式で進みつつ全体としてひとつの大きな物語となる構成で、個々のエピソードは心に染み入るものなのだが、「この伏線回収されてなくない?」や「あれは結局何?」が散見され、ワシは気になってしまった。とはいえミステリ賞の受賞作なので、ワシの読み込みが甘いのかも。
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    投稿日:2019.06.06

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