【感想】最後の努力──ローマ人の物語[電子版]XIII

塩野七生 / 新潮社
(29件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
6
12
5
1
1
  • 大改革を経て、ローマ帝国はローマ的でなくなってしまった。

    皇帝がコロコロ(?)暗殺されて混乱した4世紀の危機に、強力な指導力で終止符を打ったディオクレティアヌス帝。目標に向けて冷静な一手を打ちながら大目標をいくつも達成し、他ではキリスト教興隆の礎をつくったコンスタンティヌス帝。主にこの2帝を扱ったのが本書です。

    ディオクレティアヌス帝の政策は、とにかく戦略的というか理論的に完璧に見えるものばかりです。目的も明瞭なものばかり。

    絶対君主制に移行し、担当地域を明確に分けた四頭制を採用し、ローマ社会への反対者は容赦なく弾圧し、銀の含有率が落ちる一方だった銀貨を純銀にするなど、実に多くの政策を実行し、実際に大きな成果を上げます。

    でも、一代限りなんですよね。あえなく帝国は内乱に突入します。なぜ長続きしなかったのか?この問いかけがこの巻の読みどころになると思います。

    そして、内乱を勝ち抜いたコンスタンティヌス帝が登場。大帝とも呼ばれる彼ですが、政策の目的がわかりにくく、明瞭さはあまり感じません。

    大目標に向けて冷静に一歩ずつ歩んでいった彼が何を考えていたのか?なぜ、キリスト教にあそこまで肩入れしたのか?塩野さんの推論と学術的な諸説が紹介されています。

    大改革を経て、ローマ帝国はローマ的でなくなってしまった。それを端的に表しているのがコンスタンティヌスの凱旋門かもしれません。
    続きを読む

    投稿日:2017.05.16

  • ローマがローマでなくなる

    ローマ帝国という「形」を保とうとする最後の努力が、ディオクレティアヌスとコンスタンティヌスの二人の皇帝にってなされ、ついに「ローマがローマでなくなる」という ローマ的な主体も精神も変質してしまう改革がなされてしまう という巻である。自分たちの「第一人者」としての皇帝を、至高の存在「神」から任命されたもの としなければローマ帝国という「形」は保ち得なかったのか 深く考えさせられる。続きを読む

    投稿日:2023.11.24

ブクログレビュー

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  • uniso

    uniso

    ローマが「ローマ」でなくなっていく…
    という帯の文章がぴったりな内容だった。
    元老院の地位はいよいよ落ちぶれ、税制は変わり果て、首都も変わり、キリスト教が台頭しはじめる。
    コンスタンティヌスによる帝国の延命は、暗黒の中世を呼び込む。続きを読む

    投稿日:2024.03.04

  • shu1rev

    shu1rev

    研究者によっては、この本で描かれた時代でローマ帝国は終焉を迎えたという人もいるそうな。「ローマが『ローマ』でなくなっていく―」と、帯にも書かれているな。国家の最大の責務とは、防衛だ。その防衛が守れなくなってきて、ローマ帝国は危機を迎える。帝国再建のため、ディオクレティアヌスは二頭政、四頭政と帝国を分割して統治することで、なんとか再建しようとする。一時は果たせたものの、その過程でローマはどんどん変質していくんだね。

    「いかに悪い結果につながったとされる事例でも、それがはじめられた当時にまで遡れば、善き意志から発していたのであった。」というユリウス・カエサルの言葉がエピグラフとして巻頭を飾っている。本書を読み進むにつれて、この言葉の含蓄が増していくような気がしたなぁ。

     さらにいえば、どれだけ小なりといっても、組織、チームに責任のある立場としては、問題に対する解決は、あとでどんな結果につながるかは覚悟しておけ、ということを考えさせられる。先の先なんて、そうそう読めないんだけどさ。

     ディオクレティアヌスの後、コンスタンティヌスによってローマはキリスト教の帝国へと変質していく。コンスタンティヌスがなぜそれほどまでにキリスト教に肩入れしたか。その解説は、圧巻ともいえる説得力があったよね。そういう話だったのか。

     もちろん、信仰があったのかもしれないけど、政治家として考えるなら、それだけで行動するとは考えづらい。ローマは元来、世襲ということに身構える民族性をもっていた。そのため、帝国とはいえ、皇帝は必ずしも世襲ではなく、市民によって選出されたという体裁をとる。コンスタンティヌスより前、ディオクレティアヌス以前にさかのぼれば、皇帝といわれたといってもどちらかといえば、元首であった。しかし、元首は市民からの不信が強くなると、市民によってすげかえられてしまう。古代のこと、それは殺害という形をとることが圧倒的に多かったのだ。それがローマ帝国末期の衰退の原因でもあった。

     であれば、簡単に首をすげかえられなくすればいい。つまり皇帝は市民によって権威づけられるのではなく、もっと上の存在、つまり一神教の神をその力の源泉とすればよいのである、と。

     俺自身、ボーン・クリスチャンで子ども頃からキリスト教に接しているけどさぁ。宗教に対して、これまでそういう見方をしたことはなかったなぁ。

     知的に興奮したね。
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    投稿日:2022.11.20

  • たきゆか

    たきゆか

    ローマ人のことを素晴らしいと思っていたのだけど、この巻だと、その素晴らしい点がなくなっていくようで残念。

    投稿日:2022.11.01

  • morizo1000

    morizo1000

    2021/11/4
    統治を委託された存在としての元首政から絶対的な君主政へとローマを変えたディオクレティアヌス。権力を一手に集めて軍を2倍にすることで蛮族の侵入を阻止し、絶対的な存在として人々から隔絶することで身の安全を確保した。軍の主力をリメスから機動隊に移し常に皇帝が率いるようにするとともに、皇宮官僚を整備し地方から徴税権を奪い権力を一手に集めた。軍隊と官僚によって税金は高くなった。また4頭制テトラルキアによって首都ローマに本拠をおかないことでローマと元老院は形骸化し、世襲制によって階層の固定化もすすんだ。ディオクレティアヌス時代にはキリスト教は一定の勢力を持っており、本格的な弾圧を行った。
    4頭制の一翼でしかなかったコンスタンティヌスは、巧妙にミラノ勅令によって信仰の自由を盾にキリスト教を公認し、ライバルとの戦争に勝って唯一人の皇帝となった。その後は、コンスタンティノープルを建設し、キリスト教会に皇帝資産を寄贈したり、聖職者の公務免除を行うことでその勢力拡大を後押しした。さらにニケーア公会議を開き、キリスト教の正統を三位一体のアタナシウス派と決めている。筆者は絶対君主政の根拠となる存在として、キリスト教に目をつけ、司教を買収することで神の意志である絶対性を確保しようとしたと考えている。
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    投稿日:2021.11.04

  • argrath

    argrath

    専制君主となったディオクレティアヌスとキリスト教を公認したコンスタンティヌスのお話。このところしょうもない理由で皇帝が殺され続けたので、ハクを付けようと色々努力した…のはいいけれど、元々のローマとはすっかり変わってしまいましたとさ。コンスタンティヌスは遷都までするしな。続きを読む

    投稿日:2019.03.07

  • ichiro.mariners

    ichiro.mariners

    ローマ人の物語は、塩野ファンのみならず、どなたにもお勧めしたいシリーズ。滅亡への下り坂を一気に転げ落ちてゆくローマ。これを何とかして食い止めようとするヒーロー。だが、この時期のローマは、カエサルをもってしても時期すでに遅し。続きを読む

    投稿日:2018.10.23

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