【感想】テロルの決算

沢木耕太郎 / 文春文庫
(77件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
26
25
15
3
1
  • 作者の筆致が冴えるノンフィクションです。

     社会党委員長・浅沼稲次郎が右翼の少年・山口二矢に壇上で刺殺されたのは、1960年。私が1歳の時です。現代史の中の一つの事件として、衝撃的な写真ととともに記憶にはありますが、深く考えたことはありませんでした。
     まず、1960年10月12日の日比谷公会堂まで、二人の人生の軌跡を丁寧にたどります。浅沼委員長、山口少年双方がどのような人物だったのか、生い立ちは?家庭環境は?学生時代は?等を詳細な調査とわかりやすい文体、そして、あたかも小説のような書きぶりで解き明かしていきます。テロリストとしての山口二矢がコトに至るまでの心象風景は言うまでもなく、それ以上に、浅沼稲次郎の戦前から社会党委員長になるまでの紆余曲折?の生き方も、とても興味深いモノでありました。また、なぜあの衝撃的な報道写真が撮ることができたのかも、解き明かされます。しかし、この本のスゴいところは、この事件の後のことに沢山のページを割いていることです。つまり、これが「決算」と言うことです。さてその決算報告は…。
     考えてみれば、当然のことなのですけど、双方に仲間、友人、知人、そして家族がいるわけで、事件が起こった後のそれぞれの様子を詳細に追跡しています。さらに年を経過したごとに書かれた「あとがき」が3つも掲載されています。
     この本を読む前は、一つの事件の経過をたどるモノとして手に取ったのですが、最後まで読み、3つの「あとがき」を読んだ後は、まったく印象が変わりました。これは、人としての一生を深く顧みる、示唆にあふれた、紛れもなくノンフィクションの「金字塔」であります。
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    投稿日:2014.11.30

  • 歴史的背景と結果を見れば…

    テロリストに対する評価を甘く下してしまうかもしれませんが、テロはテロです。そして、彼が歴史を動かしてしまったのも事実でしょう。
    社会党の被害者浅沼は著者が描いているように中国へ気を遣うあまり、冷戦下で米軍基地の存在下で、”米帝との闘い”を叫んで、日本の親米左派、親米中道を完全につぶしたという評価を下さざるを得ない古い気質の典型的な社会主義、共産主義信奉の闘志ではあるわけですが、国民から信託を受けた歴とした議員であるわけです。それを暴力をもって排除した少年を英雄視することは民主主義の冒涜であると感じます。
    確かに、浅沼が親米左派、中道を挫折させ、現在に山積する数々の問題を引き起こしたのは事実だとは感じます。特に彼が中国寄りの発言を行わなければ、朝鮮総連への甘い対応は右派と中道の連繋で防げたはずで、そうであるならば北朝鮮の核武装もなかったかもしれません。また、靖国参拝を行う極右のみの選択肢しか国民に残らないということもなかったでしょう。
    しかし、テロルはテロルです。特に犯人に信条を吹き込んだ右翼団体への時の政権のさじ加減の甘さには幻滅します。
    ポアすると言った例の団体の教祖のことを思い出します…。
    内容としては非常によく取材されたノンフィクションで、読み手に歴史を教えながら、偏りのない内容でありながら、自身の主張を上手く読者に読ませてくれます。
    ただ、右左問わずテロはよくない!
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    投稿日:2017.08.17

ブクログレビュー

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  • まささん

    まささん

    社会党委員長の浅沼稲次郎が渋谷公会堂で行われた立会演説会の演説の最中にテロリストの若者と交錯した場面はテレビ映像で何回か見たことがあった。
    この本は17際の少年がなぜ暗殺に及んだのか、また、その時現場にいた多くの人たちが何を見て何を感じたのか克明に描いている。
    当時の政治情勢含めて詳細に描かれた秀作だと思う。
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    投稿日:2023.12.15

  • モナカ

    モナカ

     社会党政治家が右翼少年に刺殺された事件がテーマとなったノンフィクション作品。二人の過去を辿りながら、社会党政治家側の視点、右翼団体の視点、そして、テロ至るまでの経緯が丁寧に描かれている。
     戦争、安保闘争、学生運動、その時々の人々の考えが伝わってくる、とても学びの多い作品だった。それぞれの転換期にどちらに世の中が傾いたか。世代間の考え方の違いは、歴史の積み重ねであることを感じた続きを読む

    投稿日:2023.11.13

  • コギー

    コギー

    沢木の処女作で代表作。最初の単行本刊行は1978(昭和53)年のことで、それからもう45年も経った。最初の文庫化も1982(昭和57)年、やはり40年以上が過ぎた。新装版も2008(平成20)年、それから15年も経った。
    山口二矢という右翼少年による浅沼稲次郎暗殺事件は、1960(昭和35)年のことで、それからもう60年以上も経った。だが、内容は今なお、色褪せてないように思う。
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    投稿日:2023.10.06

  • チルコート

    チルコート

    もともとノンフィクションは好きだが、文章が上手く、緻密で広い関係者からのヒアリングに基づきストーリーが作られた秀作。戦後に個人主義が進み、今は人間関係が薄い時代になっているが、まだまだ人間の濃さが残っていたのを感じる。続きを読む

    投稿日:2023.09.23

  • suzy

    suzy

    昨今の政治家襲撃に関連して紹介されていたので手に取った作品

    恥ずかしながら全く知らない事件であり、こうも大きな事件が知られずにいたものかと自分の無知を棚に上げておもったりなどした。

    テロに至る若者の頑なさと被害政治家の愚直さが辛かった

    起こるべきテロなんてものはないけれど、それにしたってどうしてと思わずにはいられない。
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    投稿日:2023.05.26

  • area8800

    area8800

    読むのに時間がかかり疲れた
    間違いなく読み応えはあるが
    時代も古いし
    正確に認識できていない言葉が出てくると
    例えば
    安保闘争ってなんだっけ?
    とググったりを繰り返した

    テロは誠に手前勝手な迷惑行為であるが
    その全てを否定することも難しいのではないかと思ってしまう
    続きを読む

    投稿日:2023.02.06

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