グラン・ヴァカンス 廃園の天使I

飛浩隆 / ハヤカワ文庫JA
(63件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
28
14
10
1
1
  • 美しくも残酷でエロテックな物語

    とにかく残酷な話である。話がはじまってから物語の舞台となる「鉱泉ホテル」に主人公たちが集う前半までに何千、何万という人々が死んでしまう。ここまでに主要メンバの知合いや家族が実にあっさりと殺される。で、ここからが逆に主要メンバが時間をかけてじわり、じわりとなぶり殺されるのだがスプラッタかというとそんな事はなく、むしろ鮮やかな日本刀で断ち切るような殺され方をする、そして鮮血の赤。苦痛と快楽。。。。最初は作者が何故ここまで執拗にこの大虐殺(ジェノサイド)を描いていくのかがわからなかったのですが、物語の進むにつれておぼろげに見えてくる、がそれも「夏の区界」の消滅とともに物語りも終焉を迎えるので結局のところはっきりとはわからず終い、またたくさんの謎が提示されたまま終わってしまう。

    その点では、この物語は完結していません。続きは作者が他の区画を舞台にした物語や「夏の区界」の前日譚を用意して「廃園の天使」シリーズを書き綴っていくらしいのでそれを待つことになります。

    ただ、非常に無駄のない文章で美しくも残酷でエロテックなこの物語、一読の価値あり。
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    投稿日:2013.11.15

  • キーワードは「残酷」

    アミューズメントとしての仮想空間や、そこで来訪する客をもてなすNPC(ここでいうAI)たち……というモチーフは、確かにSF世界観としていまや新鮮味が薄いかもしれません。
    でも、声を大にして言える。
    んなことに拘るのは馬鹿馬鹿しいほど、圧倒的な魅力の溢れる作品だと。

    正体不明の〈蜘蛛〉は強靭で、〈夏の区界〉AIたちはみるみるなぎ倒されていきます。
    それも酷く残虐な方法で。
    そして物語が進むにつれ、〈夏の区界〉そのものがゲストたちの厭らしい欲望をぶつけられてきた歪な世界だと判明します。
    思わずぎょっとするようなグロテスクな展開も多いです。
    でも読後感はとても爽やか。
    あとがきに「ただ、清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。」とある通り、文章も端正でとても美しい。
    だからなのか、SFというジャンルでも、世界観の把握はスムーズにできます。
    仮に「SFって何だか苦手」という理由だけでこのタイトルを敬遠しているとしたら、それはとてももったいない。
    この一冊だけでは謎はすべて解けません。
    シリーズ続編である「空の園丁(仮)」が心底待ち遠しいです。
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    投稿日:2014.04.05

ブクログレビュー

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  • ま鴨

    ま鴨

    このレビューはネタバレを含みます

    AIたちが終わりなき夏を過ごす仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」。ゲストとして訪れる人間をもてなすために構築されたこの世界には、もう1000年もゲストが訪れたことはなく、AIたちがルーチンのように夏の日々を過ごしている。
    そんな平穏にして停滞した世界に、ある日突然災厄が訪れる。世界を無効化するために現れた<蜘蛛>、それを操る謎の存在。AIではあるものの確個たる自我を持つ彼らは、自己の存在を死守するために蜘蛛との戦いに臨む。終わりなき夏のとある一日、絶望的な攻防戦が幕を開ける・・・

    飛浩隆作品は、これまで短編をいくつか読んでいますが、鴨的には正直なところ「何が描かれているのか/何を伝えたいのかよく判らない」という印象で、ハードルが高いなと思っておりました。が、この作品は非常にストレートに世界観に入っていくことができ、世界観の解像度が半端なかったです。長編向きの作風なんですかね。

    作品の冒頭では、AIたちが「暮らす」南仏の片田舎の港町風の素朴な生活が、淡々と描かれていきます。この過程において、AIが極めて人間的な「官能」の能力を持っていることに、鴨はまず違和感を覚えました(ここでいう「官能」は、いわゆる性的なそれだけではなく、五感を総合する広い概念を指します)。が、後半において、AIたちにそこまでの能力が付与されている理由が明らかにされます。
    「数値海岸」は、単なる仮想リゾートではなく、性的嗜虐趣味を持ったゲストの快楽を満たすために、AIたちが従順に苦痛を受け入れることを目的として構築された世界である、という真相。反吐が出そうなほどおぞましい描写が、延々と続きます。でも、AIたちは「そのために作られている」存在であり、粛々と受け入れるしかありません。どこにも逃げ場のない、絶望的な修羅の世界。そんな残酷な世界でも、彼らはそれを守らずにはいられない。

    語弊を恐れずに申し上げると、鴨は「村上春樹っぽいな」と思いました。
    極めて凄惨で残酷なことが描かれているのに、極めて静謐で美しい筆致。ロジカルに突き詰めるなら、突っ込みどころは満載です。でも、そんな突っ込みどころを圧倒的な力でねじ伏せるだけの美学が、この作品には感じ取れます。そんなところが、ちょっと村上春樹っぽいな、と。
    さっそくシリーズ2作目「ラギッド・ガール」を購入しました。この世界観がどのように展開するのか、楽しみにしています。

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    投稿日:2019.05.09

  • なおと

    なおと

    90年代グロテスクの孫という印象の仕事。AI周りの描写は2002年という時期を考え合わせると非常によくできており、2019年の今読んでもまるで古ぼけていない。語彙は実に美麗だ。間違いなく何度も読み返し、あちこちのつくりを参考にするだろう。

    とはいえこの物語には瑕疵とまでは言えないが、個人的に看過しがたい点がある。
    人間の理不尽な残忍さを物語の基盤に埋め込んだだけならいかにもありふれていて薄っぺらいが、被虐者が残忍に「狎れ」た上で己の宿願を果たすため一層凄絶な手段を選択する描写を描くならば凄味は増す。物語後半に、檻に入れられた女のエピソードがあるが、そのことだ。しかし彼女の選択は辻褄が合わない。男から「それ」を得られるなら、硬い道具だってもっと簡単に得られるからだ。このエピソードが凄味を発するには、女がある程度は正気でなくてはならない。道具を持ってこさせる程度の思案もできないほど狂気に落ちているなら、彼女はどんなおかしなことでも選択できるわけだから、何をしたところでそれは彼女の選択ではなく、単純に著者の都合である。

    陰惨の極みを描きたい著者の都合が先走って、物語の中でも特に慎重を期さねばならなかった場面でこの手の疑問が湧いてしまうのは大いに興が殺がれる。敢えて好意的に受け止めなければ、この重要な場面はすんなりと流れていかない。

    この作品に限らず、90年代にあちこちで見かけたこの手の過剰なグロテスクはしばしば、このようにその前段でだらしない漏らしをしでかす。グロテスクを書きたいという都合が先にあり、その次に物語の体裁を整えるという順序を明かしてしまう。過剰なグロテスクを美しく整えるにはそれに見合うだけ精密な設計が必要だが、それが大抵足らない。おおよそは出来ていても、細部が綻んでいる。書き手はそれを気にも留めない。

    しかしそのような、ファサードは大伽藍然として実際には細部の綻んでいる作品というのが、毒と荼味の塩梅がちょうどよくなるものなのかもしれない。
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    投稿日:2019.04.05

  • みボ

    みボ

    文体もそうだけど出てくる単語が小難しくてちょっと読みづらかった。でもそういうのも加味して面白かった〜〜。なんか久しぶりにSF読んだな〜といった気分。

    驚くほど緻密に計算された小説で最初の方に出てきたあのセリフあのシーン全部に意味があって繋がってるんだと気づいた時にちょっとした恐怖を味わってしまった。読み直したらまた面白そう。続きを読む

    投稿日:2019.02.02

  • 凪野基

    凪野基

    37:仮想世界に作られたリゾート地に住まうAIたちが主人公。今後の展開の壮大さを思ってうきうきします。AIがAIであることを自覚していて、その背後には記憶や歴史ともいえる膨大なプログラムが横たわっていて。
    こういうバックグラウンドだからこそ、「ハック」という手法によって「制限つきの何でもあり」が可能になっています。サイエンス・ファンタジー寄りのSF、続きがとても楽しみ。予約、早く回ってこないかな。

    '12.7.7 購入タグを追加。
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    投稿日:2018.10.08

  • katsuya

    katsuya

    久々に「ヤバい」小説。田舎の鄙びたリゾートをおそう謎の物体。天才少年の活躍により、どうやら別の世界からやってきた人工知能に襲われていることがわかり、生き残った住民は不思議な力を発揮する「石」を駆使して謎の物体と戦うが、、、というよくある設定で映画マトリックスを想像させるが、大きく異なるのは、襲われている方も人工知能の世界の住人であること。高度に発達したAIにより、各自(各AI?)が独自の個性と記憶と判断能力を持ち、まるで自然人のように振る舞う。AI対AIなのか、そのAIを操っている人間がAIを襲わせているのか、全くわからないままストーリーは進む。読んでいて不思議なのは、まるで自分が傍観者としてすぐ近くでこの大事件を観察している気がすること。アバターやIDなど、ネットの世界で自分を代理させている”人格”があることが、このリアルさを生んでいるのだと思う。続きを読む

    投稿日:2018.04.03

  • yamada3desu

    yamada3desu

     ヴァーチャルの世界に存在する仮想リゾート「夏の区域」が滅びゆく一日を描いた作品。
     ヴァーチャル世界なので、登場してくるのは人間ではなくAI(人口知性)である。
     仮想と現実の闘争、とあるが、現実側の現実感があまりないので、どこまでも仮想の世界内で閉塞されているように思う。
     はてさて、これがSFなのだろうか。
     ここ数冊、SFと呼ばれているジャンルの本を読んでいるが、どれもこれも僕自身のSFイメージとは合致しない作品ばかり。
     どうも、僕のSFイメージが誤っているようだ。
     まぁいいけど……。
     仮想と現実の闘争の中で、AIたちは様々な殺されかたをしていく。
     まぁ、もともと生のないAIたちだから、「殺されかた」という言い方は正しくないのかもしれないが。
     いずれにしてもその殺されかたのイメージが残酷であり、美しくもあり、想像力豊かである。
     映画で例えれば、「エルム街の悪夢」的な映像が浮かぶ殺されかたなのだ。
     思うに「エルム街の悪夢」は現実ではない夢の中の世界のことであり、本書の場合も現実ではない仮想世界のことなので、乱暴な言い方をしてしまえば「何でもアリ」なのだ。
     この「何でもアリ」な姿勢が読んでいて潔さすら感じてしまうくらいに面白い。
     ただ、そうすると「やはりこれSFなのかなぁ」と再び疑問に思ってしまうのも事実なのだが。
     ちょっと長すぎるなぁ、というのが正直な感想。
     途中途中でなかなか物語が進まないじれったさを感じてしまった。
     でもまぁ、面白かったんだけどね。
    続きを読む

    投稿日:2018.01.04

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