飛浩隆 / ハヤカワ文庫JA (75件のレビュー)
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総合評価:
yakitori
6
美しくも残酷でエロテックな物語
とにかく残酷な話である。話がはじまってから物語の舞台となる「鉱泉ホテル」に主人公たちが集う前半までに何千、何万という人々が死んでしまう。ここまでに主要メンバの知合いや家族が実にあっさりと殺される。で、…ここからが逆に主要メンバが時間をかけてじわり、じわりとなぶり殺されるのだがスプラッタかというとそんな事はなく、むしろ鮮やかな日本刀で断ち切るような殺され方をする、そして鮮血の赤。苦痛と快楽。。。。最初は作者が何故ここまで執拗にこの大虐殺(ジェノサイド)を描いていくのかがわからなかったのですが、物語の進むにつれておぼろげに見えてくる、がそれも「夏の区界」の消滅とともに物語りも終焉を迎えるので結局のところはっきりとはわからず終い、またたくさんの謎が提示されたまま終わってしまう。 その点では、この物語は完結していません。続きは作者が他の区画を舞台にした物語や「夏の区界」の前日譚を用意して「廃園の天使」シリーズを書き綴っていくらしいのでそれを待つことになります。 ただ、非常に無駄のない文章で美しくも残酷でエロテックなこの物語、一読の価値あり。 続きを読む
投稿日:2013.11.15
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ryunico
3
キーワードは「残酷」
アミューズメントとしての仮想空間や、そこで来訪する客をもてなすNPC(ここでいうAI)たち……というモチーフは、確かにSF世界観としていまや新鮮味が薄いかもしれません。 でも、声を大にして言える。 そ…んなことに拘るのは馬鹿馬鹿しいほど、圧倒的な魅力の溢れる作品だと。 正体不明の〈蜘蛛〉は強靭で、〈夏の区界〉AIたちはみるみるなぎ倒されていきます。 それも酷く残虐な方法で。 そして物語が進むにつれ、〈夏の区界〉そのものがゲストたちの厭らしい欲望をぶつけられてきた歪な世界だと判明します。 思わずぎょっとするようなグロテスクな展開も多いです。 でも読後感はとても爽やか。 あとがきに「ただ、清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。」とある通り、文章も端正でとても美しい。 だからなのか、SFというジャンルでも、世界観の把握はスムーズにできます。 仮に「SFって何だか苦手」という理由だけでこのタイトルを敬遠しているとしたら、それはとてももったいない。 この一冊だけでは謎はすべて解けません。 シリーズ続編である「空の園丁(仮)」が心底待ち遠しいです。続きを読む
投稿日:2014.04.05
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もー
このレビューはネタバレを含みます
穏やかで優しい海辺の田舎町の何気ない一日の風景、心安らぐ平凡な日常のシーンから物語が始まる。 ただ、最初からシミュレーション内の世界であり登場人物達がAIであることを隠そうとしないためであろうか、のどかだがどこか不思議な雰囲気の導入だとも感じた。 『1000年』という時間が比喩ではなく何度も文中に現れる。 このAIたちに対しては、世界や時間・過去に対する認識や内面が揺れ動く様で人間のようだと感じる一方で、1000年間を(正気のまま)少年であり続けられることやそれだけの長時間を共に過ごしたヒトを失った際の反応など、狂ってしまわない点に「やはり人間とは違うモノだ」と感じる、相反する感想が入れ子になっていた。人間としか思えないような優しく”人間味”のあるキャラクター達に感情移入や思い入れが生じるが、それが間違っていると心の隅で引っかかっているような妙な気分で読み進めていた。 序盤は「正統なSF作品だ」という感想だったが、中盤では巧みな恐怖演出とAI達の恐れが文章から良く感じられ「これはパニックホラーだ!」という印象を抱いた。終盤の世界観が完全に崩壊していく様や通常の動きを越えていくキャラクター達の様子はファンタジーのようでもある。 これは描写が克明で写実的であるためだろうか。 最終盤のジュールがジュリーに追いつくあたりのシーンが特に印象に残っているが、綺麗なシーンは音(無音・静寂)まで感じられそうだと思った。 逆に中盤からの残虐なシーンはAI達の最期があまりにグロい。緻密で鮮やかな描写も相まって著者の暗い性癖を反映しているのではないかと思えるほどだった。思い入れのあったAI達を次々に虐殺された怒り(?)から、「コレを人間で描写することに抵抗があったから作品の世界観を仮想空間とし、キャラクターをヒトのアバターではないAIにしたのではないか」と勘繰ってしまった。 最終章は、今までのエピソードが伏線のように別の側面を持っていたり、グラスアイやドリフトグラスの謎が明かされていく。 外の世界や大途絶の事、天使についてのようなAI達の世界の“外”のことはわからないが、それでも、それはそれとしてスッキリとした終わりかただと感じた。
投稿日:2025.03.19
秋田の緋鯉
会員制仮想リゾート数値海岸の一区画、夏の区会 南欧の不便な港町、そこはゲストが1000年もの間訪れなかった 永遠に続く、平穏な日々をAIたちは送っていたのだが…ある日謎の存在「蜘蛛」の大群が全てを消し…始める…というお話 まず何より文章が美しい 主人公、ジュールが夏の朝に海へ向かってかけて行く描写は今や忘れてしまっていた夏休みの日の朝そのもの あの爽やかな空気感、今日は何をしようかという高揚感を素晴らしく表しています 「蜘蛛」との戦闘描写も迫力満点 AI達の奮戦ぶり、そして死に様は残酷なまでに美しい エロ描写、グロ描写は詳細でどこか美しくて、儚げで、残酷で あとがきに「清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ」とありましたがまさにその通りでした この本を読んだ時に図書館の奥で眠っていた埃のかかった分厚い古いハードカバーの洋書のような印象を受けました 人の目に触れなくなってしまった物語の登場人物はどうなってしまうのだろう?という問いもこの話はもたらしてくれます 読む前ならば、彼らの前日譚が繰り返されているのか 途中で投げ出したのならば、その瞬間が永遠に続くのか 読み終わっても、物語は続いていくのか 悲劇は僕が読んでしまったから起こったのではないか? そう思いながら作品に触れました グラン•ヴァカンス、廃園の天使シリーズは多くの謎を残して終わりました 続編が刊行済みが一冊、連載中が一作あるそうなので追いかけてみようと思います!続きを読む
投稿日:2024.05.21
ぬたろう
理系ではない頭では設定に理解がついていかない部分はあるけれど、それにしても面白かった。 登場人物はAIであり、グロテスクで救いのない場面が続くけれど、無機質ではない。むしろ、情や執着や羞恥心のような人…間味と、生きていることの切なさのようなものがある。もっと雑にいえば、なんだかよくわからないけれど、切ない。 なんだかよくわからないというのは、設定やストーリーではなく、読み終わった後の感情がうまく形容できないという意味である。その、「なんだかよくわからない」を受け入れられる人にはこの本をお勧めしたい。続きを読む
投稿日:2024.02.25
斎藤
読み終わりたくなかった…読み終わってしまった…。 「零號琴」が面白かったのでこちらも、と手を伸ばしたのだけれど凄まじかった。2章のアンヌの登場あたりから面白さがどんどん加速していく。徹底した、容赦のない残酷さ。無慈悲さ。全編とおして、それこそ「天使」みたいな無機質さと美しさを感じる文章。 美しい永遠の夏の区界。表向きのコンセプトは「古めかしく不便な街で過ごす夏のバカンス」だけど、それは「踏みにじられる為のイノセンス、無垢」という意味合いも内包していて、その成り立ちからしてもう、この区界そのものが残忍さと美しさの集積で出来ている。 「零號琴」のときもそうだったけど、本作も一見美しく豊かな世界観の裏には幾重もの秘密と時間のレイヤーが埋まっていて、読み進めることはそれらを暴く作業になる。つらいんだけど、物語が進むのが面白くてやめられない。個人的にアンヌが好きなのでアンヌのところが辛かったな。ジョゼも可哀想だった。貧しい農夫と刺繍妻の話は本当に怖かったし。 とにかく続きが楽しみ。 ⚫︎あらすじ 仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。 (ハヤカワオンラインより引用)
投稿日:2024.02.08
瀀
これほどまでに文章だけで人を惹きつけることができるのか、と思った。どこまでも残酷で、救いがない。「作られた」存在であるAI。だがそこに確かに感情は存在している、心はある。例えそれすらも最初から規定され…ていたものだとしても。読めば読むほど苦しくなるのに読むのをやめられない。かけ離れているように思える残酷さと美しさが共存していた。そのアンバランスで脆く壊れそうな、高度の低い宝石のような美しさが好きだった。続きを読む
投稿日:2023.11.03
ふりら
私は何を読んだんだろう。 何度も読むのやめようかと思いながら読み進めて、半分を過ぎてからは一気に駆け抜けた。 めちゃくちゃにグロくて、気持ち悪いけど、けどなんだろう。 よくわからない。
投稿日:2023.07.21
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