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米原謙 / 中公新書 (9件のレビュー)
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総合評価:
崩紫サロメ
10
彼の筋が通らないところにどこか共感
徳富蘇峰は「変節漢」として毀誉褒貶が激しい人物である。 若き日は熱心すぎるほど熱心なキリスト教徒であったが、 割とあっさりとキリスト教から離れる(少なくともそのように見える言動をする)。 その後は民権…派ジャーナリストとして活動するが、藩閥政府へと参画。 日清日露戦争を経て国粋的ジャーナリストとして「大東亜戦争」を鼓舞してきたにも関わらず、 戦後はあの戦争に敗れたのは日本の自業自得であった、と言ってしまうような人である。 個人として見て、このような変化は一体何故なのか、と気になる。 本書は蘇峰の94年の生涯を通してその時代の日本全体の変化を読み取ろうとするものである。 私は、蘇峰を少々変わった人間だと思っていたので、その蘇峰を通して見えるのは、どんな日本なのかと興味を持った。 本書を通読してみて思ったのだが、 蘇峰のやっていることは支離滅裂なようで筋が通っているし、筋が通っているようでやはりおかしい。 例えば蘇峰は同志社英学校で西学とキリスト教に心酔した。 だからこそ、西洋人の欺瞞がよくわかる。 故に日本が国際社会で敬意ある待遇を求め、そのために戦おうとする。 だが、アジアの他の国も同じように敬意ある待遇を求めているということに思い至っていない。 この種の筋の通り方/通らなさというのは、考えてみれば蘇峰だけではないだろう。 蘇峰にとっての「同志社時代」は、日本にとっての同時期、つまり「文明開化」という言葉が流行した明治初期であろうし、 第二次世界大戦の戦中と戦後でころっと言うことが変わったのも蘇峰一人ではあるまい。 本書のサブタイトルは「日本ナショナリズムの軌跡」となっているが、 蘇峰の関わった範囲、そして本書で扱っている範囲は広く、 ジャーナリズムの軌跡であり、歴史観の軌跡でもある。 もちろん、日本近代史でもある。 どちらかといえば「徳富蘇峰」個人に関心をもって読み始めたのだが、 吉野作造、北一輝、石橋湛山など、いろいろな人物について今一度考え直すきっかけともなった。 なかなかにセンスのいい切り口の本だと思う。続きを読む
投稿日:2015.01.14
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キじばと。。
平民主義を掲げてジャーナリズムの世界で活躍し、ナショナリズムへと傾斜していった徳富蘇峰の生涯と思想をわかりやすく解説している本です。 著者は、状況のなかでベターなものを選択するという蘇峰の便宜主義的…な振る舞いを批判しながらも、西洋列強からのまなざしを意識しつつ日本の国家的アイデンティティを形成していかなければならない近代日本の歩みのなかに蘇峰を置き、彼の思想的変遷が現代のわれわれに突き付けているはずの問題を浮き彫りにしています。 蘇峰のコンパクトな評伝としてはたいへん優れた本ではないかと思います。欲をいえば、陸羯南や三宅雪嶺といった思想家たちとの比較や、北村透谷などの蘇峰よりすこし若い世代との考え方のちがいについても、もうすこし触れてほしかったように感じました。続きを読む
投稿日:2020.06.11
hideyoshi
熊本で徳富蘇峰記念館を訪れて興味を持ち、読んでみた。同志社出身のジャーナリストという漠然としたイメージしかなかったが、蘇峰のナショナリズムに焦点を当てた本書で明確な像を結んだ。 新聞記者は、虎穴に入ら…ずんば虎児を得ずということで、取材対象に深入りした結果、自身がプレーヤーになってしまうことがある。特に政治の世界ではよくあるが、蘇峰はまさにその先駆者であろう。新聞社を経営しながら、松方首相の際に、内務省の参事官を引き受けてしまったり、自身の新聞を「正統なる唯一機関」と覚え書きを交わし、政府の機関紙であることを臆面なく宣言してしまう。言論人ではなく、フィクサーの感が強い。 「欧米に対して正統な認知を求めながら、アジアの他者が同じ欲求を持つことは認識できなかった」「アジアの他者には欧米と同じ立場で、脱亞の姿勢のまま対処した」との指摘は至言で、大日本帝国の命運とともに、大日本言論報国会の会長を務め、戦後はA級戦犯指定に至ったのは、必然だろう。敗戦で「百敗院泡沫頑蘇居士」という戒名を名乗ったという。94歳まで生きたが、これが明治中期ぐらいで召されていれば、もっと歴史的評価が変わった人物なのかもしれない。続きを読む
投稿日:2017.09.10
abetakabehiroab
蘇峰の評伝。色々と勉強になりました。 ナショナリズム的な心性が、近代における歴史的出来事の中でどのように変遷したのかを、蘇峰に焦点を当てて論じる。といった感じの本なので、トータルな伝記ではない。よっ…て、蘆花との関係とかはほとんど触れていない。個人的なメモとしては、黄禍論をちょっと勉強したいので、あとでまた読む。続きを読む
投稿日:2014.03.03
jun55
日本におけるジャーナリストの草分け的存在でもある徳富蘇峰の生涯を著したもの。徳富蘇峰はジャーナリストの他にも、思想家、歴史家、政治家として明治~昭和にかけて影響力の与えてきた人物。 また副題にもある通…り、本著では日本のナショナリズムの変遷がうまく整理されており、その意味でも一読の価値あり。 以下引用 ・蘇峰の弱点は、脱亜を断念した後も、脱亜論の目できかアジアを見ることができなかった点にある。それは欧米に対して正当な認知をもとめながら、アジアの「他者」が同じ欲求をもつことは認識できなかったということである。換言すれば、欧米が日本の国民的自尊心を傷つける事には敏感でも、アジア諸国の「傷つけられた自尊心」には無関心だった。くり返せば、アジアの他者には欧米と同じ立場で、脱亜の姿勢のまま対処したのである。 ・現在を歴史のパースペクティブで観るとともに、過去を現在の問題意識で読み直すのが、言論人としての蘇峰の一貫した方法だった。 ・明治国家の対外問題、リベラリズム、富国強兵の課題を西郷・木戸・大久保がそれぞれに体現しており、かれらが抱えた課題が日露戦争の勝利によってほぼ実現したと(蘇峰は)考えたのである。続きを読む
投稿日:2013.12.16
unzarist
徳富蘇峰の生涯を追う伝記であると同時に、 維新以来戦前の報道、そして世論形成を俯瞰する一冊。 徳富蘇峰から一歩引いた視点で、 冷静な評価を試みる姿勢に好感が持てた。 吉田松陰をナショナリズム高揚のプロ…パガンダに利用する一方、 中韓が放つナショナリズムを無視し、軍部の報道を純に信じる点など、 大変に興味深かった。 また、明治初期の青年が持つ「成り上がり」に向けた思いも感じられ、 面白かった。続きを読む
投稿日:2013.10.20
コロちゃん
本書は、「明治・大正・昭和」の長い期間を第一線の新聞人として過ごした「徳富蘇峰」の生涯の「軌跡」を追いかけたものである。 「徳富蘇峰」の現在の評価はあまり高いとは思えないが、本書によると、日本の政…界における当時の地位や影響力は、今一般に考えられているよりもはるかに高く重いものがあったようである。 「徳富蘇峰」の特徴としてその長い生涯と活躍期間の長さがある。徳富蘇峰が新聞人を目指したのは、明治13(1880)年の17歳時。日本で新聞が初めて発行されたのは明治5年だというから、新聞の黎明期から今で言うジャーナリストを目指し、23歳時の明治19年(1886)年には、「将来の日本」という政治評論を発行するなかで当時の日本のトップジャーナリストに躍り出たという。 その後「国民新聞」を発刊する等を行うなかで、明治・大正・昭和の長い期間、第1級の新聞人・トップジャーナリストとして君臨したという。 その「徳富蘇峰」の活動の特徴としてその「政治好き」がある。政治を批判するだけでなく、「政治を動かすことを好んだ」という。これは常にその時々の政治権力者と伴走することをも意味する。その手法で長い生涯にわたり、政治の中枢に関与してきたという。 これは、「政治家のブレーン」となるということなのか、それとも「政治家の走狗」となるということなのだろうか。 その集大成の結果が昭和の大戦争への「文章報国」だったとしたら、戦後の彼の評価が高くないのも当然だろうとも思えた。 「徳富蘇峰」は、大東亜戦争を賛美し国民を鼓舞しつつ82歳で昭和20年(1945)の敗戦を迎え、昭和32年(1957)94歳で死去した。 本書を読んで、現在の読売新聞の「ナベツネ」が頭に浮かんだ。新聞の世界に生きつつ、政治を好み、政治に深く関与しながら、どうやら最終的な生き様への評価が高くないことや「老残」と見えることも同じかもしれない(ナベツネは2013年現在87歳現役)。 ただ、「徳富蘇峰」はいかに評価が低くとも「歴史上の人物」なのだろうから、比較することだけでも「ナベツネ」にはすぎた評価かもしれない。 本書は、「徳富蘇峰」の生涯をよく知ることができる良書であるが、やはり昭和の敗戦という国家的破綻を招いたリーダーのひとりであり、「失敗した指導者」なのではないかと思うゆえに本書の読後感はよくない。しかし、昭和史のひとつの側面がよくわかる本である。続きを読む
投稿日:2013.07.31
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