【感想】月と蟹

道尾秀介 / 文春文庫
(192件のレビュー)

総合評価:

平均 3.5
26
58
62
22
2
  • 試しに、海水をなめてみた時のように、しょっぱい思い出

    なぜ、自分は自分なんだろう?と、漠然とした疑問が心の奥底に、常に潜んでいた小学生の頃。私は、主人公のように「少年」ではないけれど、けがれない瞳に映った世界は、心の泉を良くも悪くも染めて行ってしまい、時には、前後の見境もなく行動を起こしてしまったりする姿などには、既に、忘れかけていた子供時代の「純粋さ」を、思い出させてくれました。
    所々、子供の目線からの比喩、隠喩が鏤められ、傷付きやすいけれど、冒険心に富んだ少年の心模様が、分かりやすい言葉で描かれていると思います。
    冒頭から登場するおじいさんの、孫である少年への愛情は、温かく、そして時には切なく感じられ、読後の印象は、すがすがしさで一杯でした。
    ピュアな物語がお好きな人にお勧めです。
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    投稿日:2014.10.03

  • たぶん、私にも似たような記憶があるのかも

    子供の頃って、こんなことをしていたかも。
    子供の頃って、こんな気持ちを抱いて生きていたかも。
    大人が忘れてしまった子供の記憶がいっぱい詰まっていて、それは決して美しくなく甘くなく、きらめいてもいない記憶だと教えてくれる一冊です。
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    投稿日:2014.07.19

  • 苦い思い出を飲み込んで通り過ぎる夏

    海辺の町に転校してきた少年、慎一と、同時期に転校してきた春也。新しい学校に馴染めず、浮いた存在の2人は次第に打ち解け、秘密の基地で危険な遊びを繰り返すようになります。そこに3人目のクラスメイト、鳴海が加わって・・・
    残酷ならがもワクワクドキドキした前半から、少しずつ歯車が狂い始めて、どうしようもなくなる後半へ。幸せだと思っていた日々が過去のものとなり、読んでいて辛かったけど、しっかりと現実を受け止めて前を向く彼らを応援したくなりました。
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    投稿日:2014.07.18

ブクログレビュー

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  • 山中

    山中

    小学生の少年がヤドカリ様に祈りをするというストーリー。子供ならではの残虐性や考え方など、もう子供じゃない自分が読むと感慨深いものがあった。大人になるということについて考えさせられたのもよかった。物語自体はすごくダークで惹き込まれる。誰もが経験したことのある感情が比喩を用いて明瞭に描かれており、共感することが多かった。直木賞は伊達じゃないと思われされる作品だった。続きを読む

    投稿日:2024.04.14

  • よみよみ読書速報

    よみよみ読書速報

    このレビューはネタバレを含みます

     両親の離婚、クラスに馴染めず不登校、母が出会い系で別の男を探してた、わたしの中学生時代の何もかも嫌になった時期を思い出した。
     1つ嫌なことがあると、他のことも上手くいかないって思ってどんどんネガティブ思考になって抜け出せないんだよなぁ。周りの些細な表情や言葉も敏感に感じ取っちゃって生きづらかったあの頃は...。

    「何か、粘着質の音が聞こえた。鳴海の父親の、微かな声。同じくらい微かな、純江の声。そしてふたたび静かになった。その静けさの中に、先ほどと同じような粘着質の音が、また聞こえた」(P222)

    慎一が車にて、母と鳴海の父の密会現場に潜むシーン。口付けを「粘着質の音」と表現してるのが印象的。母が他の男と性的行為をしてるのを想像するだけでもゾッとするのに、慎一は現場に居合わせちゃうんだからすごい度胸。俺だったらその後、まともに母と顔合わせられないかも。

    「鳴海は昼寝から覚めたように、しばし春也に顔を向けていたが、さっと恥ずかしそうに身体を硬くし、それから相手に笑いかけた。前髪で隠れた額は軽く汗ばみ、耳たぶが熱ってピンク色になっていた」(P259)

     慎一、春也、鳴海の三角関係は台詞を使わず表情や仕草だけで、照れ、嫉妬、ショックなどを表現してるのが上手い。鳴海と春也の距離がだんだん近づき、慎一が可哀想になってきて切ない。

    「『ね』って、逃げてく奴をロープか何かで捕まえとるみたいやろ。このほら、縦の棒が人やとして、首んとこからぐるぐる巻いて、ぎゅっと掴んで」(P34)

     春也が「ね」を書きまくる場面が狂気を感じで怖い。他にもヤドカリを躊躇なく潰したり「あ、こいつサイコパスや...」って序盤から感じた。慎一宛のイタズラ手紙はなんとなく「春也が書いたんだろうなー」と予想してたので、慎一が春也が書いたのだと見破るシーンの驚きは少なかった。

     最後鳴海の車に乗ってたのは春也なのかヤドカリ神なのか気になる。でも父親を結局殺せなかった春也が慎一のためとはいえ、鳴海の父を殺そうとするかなぁ。モヤモヤして気になる。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.03.31

  • まつした

    まつした

    それぞれが暗い現状に悩まされている少年少女の慎一、春也、鳴海。彼らは理不尽を打破するために、海と山に囲まれた小さな町でヤドカリを使った神様を作り出す…!
    小学生の抱える闇を圧倒的な筆致で描いた青春小説とでも言えるだろうか。心理描写には息を呑むものがあるが、話は終始暗い雰囲気が漂う。
    道尾秀介さんはラストに伏線が次々回収される技巧派のイメージがあったので、それとは対を成すといえる。
    自分の勝手な期待でしかないのは重々承知しているが、もっとどんでん返しのような展開を期待してしまった。
    ただ、心理描写をメインにした純文学作品としては楽しめると思う。直木賞受賞作と聞いていたのだが、エンタメに全振りしたものだけが直木賞ではないようだ、不勉強を痛感…。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.30

  • しんた

    しんた

    海辺の町で小学生の三人はヤドカリを神様に見立てた願い事遊びを始めるが……。
    大人になるにはこの運命は辛すぎる。
    大人たちの「本当の顔」に気づく時の衝撃度はそれほどではないが、一つの小説として面白い作品と言える。郷愁に吹かれる一作だ。続きを読む

    投稿日:2024.03.12

  • yookanae3

    yookanae3

    まず読後にやったことは、ヤドカリの殻無し画像検索。
    初めて見た。結構グロテスクで、生々しさ、艶かしさ、そして主人公の子供たちならではの残酷性、危うさのシンボルとしてピッタリ。ヤドガミ様とはうまく言ったものだな。

    クライマックスで慎一が身を挺してヤドガミ様への祈りを撤回したのは本人にとっても春也にとっても良かったと思う。
    読者からすると、春也の方が慎一より救いがない状況なんだけど、当事者だとわからないだろうな。

    慎一の母親は同じ女性として理解できる部分もあるけど、人としても母親としても頼りないところがリアル。ただ最後、引っ越して男性と決別することにしたのは慎一にとって救いだったろう。春也とはここが違う。ヤドカリの赤ちゃんを綺麗と言いながら指で潰してしまう春也の哀しみにも胸を締め付けられる。

    昭三というお祖父さんの存在がどれだけ慎一の救いになったか。大人の目線だと、お父さんが亡くなり家族という意味では微妙になってるけど、それでも登場人物で一番印象的だったのは昭三だった。慎一もずっと後、大人なってから気づくんだろう。
    慎一のことも、慎一の母親のことも、全部わかってたんじゃないかな。自分の足も失い、鳴海の母親を死なせたという罪悪感をずっと持ち続けながら生きてきた昭三の哀しみが胸に迫る。

    病院での父親と昭三の姿が被る。ふと遠くを見るような瞬間の描写で、自分の父親の亡くなる間際の様子が思い出された。新聞で自分の持ってる株価のページ見てたりして、私としては他にみたいものは無いのかと少し寂しい気持ちになったけど、今になって、本当にあの時父は新聞を見てたのかと思えた。見てるようても頭に入ってなかったんじゃないか、他に話したいことがあったんじゃないか、と。年を経てわかることも多いね。

    この本を読んで改めて思ったのは子供は大人が思うよりずっと「わかっている」ということ。
    自分の境遇は選べないし、解決もできない。
    もし辛い中にいる子供がいれば、大人になるのも悪くないよ、と伝えたい。
    続きを読む

    投稿日:2023.12.16

  • よこそら

    よこそら

    文庫ではなく、単行本で。

    途中から、引き込まれるようにあっという間に読んでしまった。
    どこか、祈りながら読んでた。

    投稿日:2023.10.07

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