【感想】愚行録

貫井徳郎 / 東京創元社
(111件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
15
44
42
1
1
  • なぜインタビュー形式にしたのか思い知らされる怪作

    斉藤孝の「読書力」という本に、「読書の醍醐味は、実際には会いたくないような癖の強い人に会えること」とあったが、本作はまさにそんな嫌~な人間、人間のネガティブな側面を、インタビュー形式の独特のスタイルで紡いでいく。

    「いやー、めんどくさいおばさんだな」
    「自分勝手で友達になれそうもないやつだな・・・」
    「他人を手段のように扱いすぎだろ・・・」
    と心の中で突っ込むこと多数。

    なんというか、自立していないというか、どこかまっとうな大人になりきれていないような、後味の悪い人々。
    そして、そのインタビューの合間に挟まる、謎の兄妹の不気味な会話。
    本の最初には、一家殺害の事件の真相をあぶりだすためのインタビューが始まる前に、何の関係があるのかわからない児童遺棄殺害のニュース。

    読み始めは、物語の構造がつかめず混乱する。

    半分程度読んだところだろうか、次第にどこに向かっているのか見え始めるが・・・・ああ、やられた。緻密に計算された見事な構成に、なぜインタビュー形式で物語を編む必要があったのか思い知らされる。

    物語の構造を追いかけたくなり、思わず、読み終わった後に人物相関図を書いてようやく納得できた。

    立場の異なる人それぞれの心理が非常によく書けていて、特に被害者と加害者の価値観の乖離の激しさに、「人間は話し合っても分かり合えないことがある」と絶望的な気分にされます。
    読む価値のある本だと思います。
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    投稿日:2014.07.01

  • 誰が犯人だ?というのは重要ではないかも。

    閑寂な住宅街で起こった一家惨殺事件。一家と関わりのあった人達を取材していく形式で物語は進む。
    途中織り込まれる誰だかわからない兄妹の境遇。
    その表現形式に慣れるまでに、半分を読み進めなければならなかった。
    4分の3読み進めたあたりから、格段に面白くなる。
    それは、同じ人を違う立場から見たら、こんなにも異なるものかとういう視点。
    そこから一気にフィナーレまで突き進む。あぁ、この人が犯人だったんだぁ・・・・だけでは終わらない悲劇。
    物語に入り込むまでに時間がかかるため、星三つにしたけど、読み切った後は、星4以上になる不思議なミステリーと思います。
    読み終わった後には、一番最初の新聞記事を読み返しましょう。
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    投稿日:2015.05.01

  • これもまた、イヤミス……。

    インタヴュー形式で語られていくので、
    主観で語られる気持ち悪さと閉塞感が、効果的。
    誰が犯人か、というよりも、「一見、とても幸せそうなひとたち」というものの
    怖さをこういう形で描きだす見事さ。
    世間的に「幸せそう」というのは、見えない部分で犠牲にしているもの、残酷な部分があるのだということを改めて教えてくれる。読み応えあるし、夢中になって読んでしまう小説でした。面白かったです!続きを読む

    投稿日:2017.02.20

  • 面白い

    1回目、飛ぶように読んで、ラストにおお!と驚いて、伏線を確認したくなってもう一度読んだ。すると、最初に読んだ時とは読後感が違う。下衆な話題に、ワイドショーみたいな形で取り込まれて、夢中になって読んでいるうちに、ふっと誰でも抱えている汚さ・愚かしさや、幸運な人間と不運な人間とのあまりの差や、悲哀などに取り込まれている。とてもよく書けている作品だと思った。続きを読む

    投稿日:2014.06.06

  • 人間の心理を浮き彫りに

    最初から最後まで独白形式で進行する意欲作です。ルポライターが一家殺害事件の真相を追い、関係者にインタビューをしていくのですが、そこで浮かび上がってくるのは“人間の醜さ”でした。元同級生が、被害者女性の人となりを語るシーンは、言葉の裏に垣間見える嫉妬や苛立ちの感情がとてもリアルで、読んでいて背筋がうすら寒くなってきたほどです。人は誰でも、本音と建前の使い分けるものですが、そうした人間の心理をうまく取り込んだ著者の筆力を感じさせる一冊となっています。何とも言えない読後感も心に残ります。続きを読む

    投稿日:2016.12.10

  • ひとつの指標では評価しづらかった

    あぁ,なんなんだろう,この感想は.
    面白くないわけではない.後味の悪さが嫌いなわけではない.ふっと自分の若い頃を思い浮かべて考えてしまうところがいい.「無駄」で「冗長」な部分が味を出している.ミステリーと思うと何か違う気がする.つまりジャンルの曖昧さからくるモヤモヤなのかもしれない.または,人間の心の曖昧さ,清濁併せ呑んだ状態そのものが人間である,ということを強烈に意識させられるところからくるモヤモヤかもしれない.
    読後,つい空を見上げてぼけっとしてしまいたい気にさせられる.

    ただ,この人の本をもう一冊とりあえず読んでみたい,とは思った.
    また,この本こそ読後に他者のレビューを楽しめるなぁと思った本であった.
    続きを読む

    投稿日:2017.02.21

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  • 読生

    読生

    愚行。人間だもの。
    そうやってみんな生きている。
    でも、上手く生きていけるかはわからない。
    同じことしているのに。同じ人間なのに。
    同じようには生きていけない。

    投稿日:2022.11.09

  • no-chindayo

    no-chindayo

    愚行かぁ
    清廉潔白に生きるのは難しい。
    ちょっとだけ愚かな行為も
    積み重ねればすごい恨みをかってしまうのだと怖くなった。
    人はいろんな面があって、よい出会いで、よい面が伸びればよいけど、
    運悪く悪い出会いをするとどこまでも落ちて行く、てことも。
    つまり、こわい負の連鎖の話。
    続きを読む

    投稿日:2022.02.01

  • gemi

    gemi

    最近はまりつつある貫井徳郎さん作品。タイトルがなかなか禍々しい。今まで読んだ「悪の芽」「壁の男」とはまた違って、登場人物全てが愚かしいのでムカムカすること請け合い。

    誰もが羨むようなエリートサラリーマン一家殺人事件が起こった。妻も子供2人も殺害。犯人は誰なのか?動機は?フリーのルポライターが事件の真相を追う。インタビューしていくうちにこの夫婦の人間性が暴かれていく。

    どいつもこいつも…と誰一人として共感出来ない。だがそこが良い。人間の持つ醜さが泥臭くていい。容姿端麗で人たらしの女。過去を自分のいいように解釈し、改竄し、自分が傷つかないように振る舞う女。娘に手をだすゲスな父。その娘を泥棒猫扱いする母。自分の為なら彼女をだしにして地位を手に入れようとする男。そしてネグレクトで3歳の娘を衰弱死させた女。

    まぁ酷いけどこれも人間の性なのか。これだけ醜い部分が描いてあるのは面白い!
    続きを読む

    投稿日:2021.06.16

  • あんだんて

    あんだんて

    このレビューはネタバレを含みます

    タイトル通りの愚行の数々。
    惨殺された一家に関わりのあった人々がインタビューを受けて一人一人語る形式で進む。

    自分の中にある嫉妬心やコンプレックスといったものをあぶりだされるような感覚で、読めば読むほど嫌な気持ちが充満していく。
    推理ものとしては面白くないと感じたが、人間の愚かしさに打ちのめされるのもたまにはいいかも。
    それにしても慶応って本当にそんな感じなの?
    まあ、あるんだろうね。
    人は生まれ育ちで人生決まってしまうのだろうか。
    そうではないと思いたいけれど。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2019.10.15

  • taiko

    taiko

    一家四人が殺される事件から1年、事件を追う記者が近所の人や被害者の関係者にインダビューをしていた。

    誰もが羨む様な幸せな家族、取材が進むうちに、その夫婦の過去のことや暗い部分が浮き彫りになります。

    最初に出てくる幼児虐待の新聞記事は何なのかが気になりつつ、田向夫妻の噂話を野次馬気分で読み進めていました。

    事件の真相は、びっくりというか意外というか、想像出来ないものでした。
    最後の怒涛の告白、愚行録、なるほどという感じです。
    続きを読む

    投稿日:2019.04.27

  • dark-knight-k

    dark-knight-k

    きっついなー

    ところどころ挟まれる独白と最初の新聞記事はああいう風につながるのね。人間のコンプレックスをむき出しにするのは相変わらず。この人の作品は読めば読むほど人間不信になってしまいそう。それを自分が正視できるかどうか。それでも読みたくなる魅力がある。
    それにしても某大学や某商社なんか実名で出していいのかな?しかもプロフィールを見て驚いたのだけど、被害者の一人のプロフィールは作者ご本人に酷似。道理で大学の話やらリアリティがあるはず。
    続きを読む

    投稿日:2019.01.09

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