安いニッポン 「価格」が示す停滞
中藤 玲(著)
/日経プレミアシリーズ
作品情報
「日本の初任給はスイスの3分の1以下」「日本のディズニーの入園料は、世界でもっとも安い水準」「港区の平均所得1200万円はサンフランシスコでは『低所得』」「日本の30歳代IT人材の年収はアメリカの半額以下」 ・・・・・・物価も人材もいつしか「安い」国となりつつある日本の現状について、ダイソー、くら寿司、京都、ニセコ、西川口など、記者がその現場を取材。コロナ禍を経てこのまま少しずつ貧しい国になるしかないのか。脱却の出口はあるか。取材と調査から現状を伝え、識者の意見にその解決の糸口を探る。2019年末から2020年にかけて日経本紙および電子版で公開され、SNSで大きな話題をよんだ記事をベースに取材を重ね、大幅加筆のうえ新書化。
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商品情報
- シリーズ
- 安いニッポン 「価格」が示す停滞
- 著者
- 中藤 玲
- 出版社
- 日経BP
- 掲載誌・レーベル
- 日経プレミアシリーズ
- 書籍発売日
- 2021.03.10
- Reader Store発売日
- 2021.03.10
- ファイルサイズ
- 8.4MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (115件のレビュー)
-
【感想】
ダイソーが好きな連れと、韓国のソウルにある「ダイソー 明洞駅店」に行ったことがある。11階建ての建物全てがダイソーになっている超大型店舗だったが、そこに並べられていた商品は素材もディティール…も日本のものと似通っており、半分以上は3,000ウォン~5,000ウォン(300円~500円)であった。
つい、「う〜ん、この値段なら日本で買うな…」と思ってしまった。
ディズニーランドでも同じことがあった。
コロナの影響で入場制限がかかったディズニーランドは、開園以来最低レベルの混雑率。列を作らなくてもアトラクションに乗れたりグリーティングできたりしてしまう状況だった。
相当に快適であったが、同時に、「このぐらいの値段と快適さじゃないと、わざわざ来ないかなぁ」と感じてしまったのだ。
このエピソードの怖さは、「高い」と感じたことだけにあるのではない。「質が良くても、この値段なら買わない/行かないなぁ」と、自分の中で予算を線引きしてしまったことにある。
本来であれば、ダイソーが300円でも、ディズニーが1万5000円でも、質を考えれば相当にお買い得であると思う。しかし、日本の金銭感覚の中では、これらは分不相応に高く映ってしまう。デフレが続く社会の中で、いつの間にか「質が良くても安くなければダメ」という感覚が植え付けられてしまっているのだ。
本来ならば質と値段は比例するものであり、その中で特に質が高いものが「お値打ち品」として人気を博すのだが、まず最初に「値段の足切り」が存在してしまっている。安くて質のいいものに慣れきってしまった弊害が起こっているのだ。
安さは確かに正義かもしれない。特に最近では、商品にブランド料が反映されることを嫌い、「素材」「使いやすさ」「耐久性」といったエッセンシャルな部分のみにフォーカスを当てた商品が人気を集めている。
だが、安さの追求は、商品・体験を買うことで得られる「満足」「特別感」という、値段に反映されない「付加価値」の部分をゼロにする。
だれもかれもが価格を極限まで下げてしまうと、他社との差がつかなくなる。過当競争の中で抜きんでるためには、価格に反映されない「おもてなし」の部分を強化するしかなくなる。本来であればお金を払って受けるはずの特別なサービスが過剰に増えることで、顧客がその状態に慣れきってしまい、少しでも接客が悪ければ「サービス精神が無い」という理由で買い控えていく。結果的に販売者にかかる負担だけが膨れ上がり、生産性がどんどん落ちていく。
日本では「サービスは無料」だという考えが強い。それは安さを徹底的に追求するなかで商品の「付加価値」を蔑ろにし、純粋な原価しか目に見えなくなった結果なのではないだろうか。
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【本書のまとめ】
1 日本の購買力低下
日本のディズニーは世界でも最安水準。しかし、日本人の所得や生活水準からすると、世界で最も安いディズニーランド料金ですら割高に映るという。
同じく日本の物価の低さを物語る例が、100円均一ショップの「ダイソー」である。ダイソーは2021年2月末現在、24の国と地域に2,272店舗を出店しているが、日本を除く殆どの国で――先進国でなく新興国であっても――200円を超える価格がついている。
ダイソーが外国で割高の理由は、物流費ではなく現地の人件費が高いからだ。いま進出している国や地域の全てで人件費、賃料、物価、そして所得が向上している。20年前ならいくら高品質でも「新興国で200円前後」なんて売れなかったが、現在は現地の購買力が上がったため成り立っている。タイでは210円するが、現地の中間層に大人気だ。
デフレが生み出したビジネスモデルが、価格を下げ止まりさせている。人手不足が続いても賃金が上がらないため働く人の消費意欲が高まらず、物価低迷が続いて景気も盛り上がらない。この「負の循環」が、日本の購買力を落ち込ませたのだ。
2 年収1400万円は低所得
港区の年平均所得1200万円は、サンフランシスコでは低所得に分類されるという調査結果が発表された。
アメリカで高く、日本で安いのは家賃や食事だけではない。サブスクなどの、グローバルサービスの年会費も日本が最安値なのだ。
モノやサービスの価格と賃金は密接に結びついている。日本の賃金はこの30年間全く成長しておらず、賃金がどんどん上がるアメリカなどに比べて、日本は相対的にどんどん安くなってしまった。
●賃金低迷の原因
①生産性の低下(賃金の低迷により生産性の低下が起こっているという説もあるため、一概にどちらが原因とはいえない)
②中高年男性の賃金の下げ止まり
③初任給が低い(アメリカの30歳代IT人材の年収は、日本の2倍以上)
これらの原因からくる「給与の壁」が、人材獲得のネックになっている。諸外国と比べても給与が安いため、日本企業は世界で戦うグローバル人材が獲得できない。物価も賃金も上がっていない国に魅力はないのである。
優秀な人材に高額報酬を提示できない理由は、日本特有の雇用制度、つまり
①賃金交渉のメカニズムがなく、給料が年功序列の横並びであること
②雇用が流動化していないため、他社に比べて自分の賃金が高いか低いかわからないこと
が原因と言われている。
ジョブ型雇用の導入でこのような問題がすべて解決するかというと、一概にそうではない。
ジョブ型を取り入れたにもかかわらず、その日本企業に年功序列や年次主義といった不透明な評価基準が残ってしまうと、グローバルの転職市場で日本企業は不利なままだ。
形だけジョブ型にするのではなく、企業と従業員がフェアな関係になるような、透明性の高い人事制度の構築が不可欠になる。
3 買われるニッポン
外から見た日本の安さは、豊富な資金を持つ海外勢から格好のターゲットになっている。
北海道のニセコ地域は、地価上昇率が4年連続日本トップだ。外国人観光客を相手にしたい外資系企業が、こぞってニセコに高級ホテルやコンドミニアムを建築した結果、周辺地域のアパートの家賃が上昇しているのだ。
恐れるべきは、買い負けだけでなく「人材の流出」にもある。
中国ではアニメ人気が高まる一方で、海外のネットコンテンツの流通規制が強化されており、2018年頃から日本アニメの買い控えが始まった。そこで、ビリビリなどの動画配信企業が、日本に拠点を作って日本人アニメーターを抱え込もうとしている。
市場が拡大する中国にとって、日本のアニメーターはお買い得。日本の年収の3倍でも軽く出せる。
中国は豊富な資金力でデジタル作画の設備が揃い、アニメの質が格段に向上している。日本のアニメ業界の待遇の悪さは質の低下、最終的には業界の停滞に繋がりかねない。
今や日本が中国の下請けになっているのだ。
4 日本人はターゲットにされなくなる
日本への訪日外国人が増え続けた理由は、ひとえに日本がものすごく安いからだ。
東京では、外国人富裕層向けの高級ホテルと、日本人向けの低価格ホテルという「二重価格」が当たり前になっている。
食材については買い負けの危機が起こっている。欧米やアジアで健康志向が高まった結果、和食ブームで高級食材としての魚の需要が急増。水産物が高値で取引されるようになり、同水準の価格を出せない日本の業者が買い付け競争に破れて、思うように魚を調達できなくなっていた。
今でもサーモン、タコ、ロブスターは高騰の一途を辿っている。そのうち、日本で取れる魚が海外に優先的に出荷され、日本人が和食にありつけないことが起きるかもしれない。続きを読む投稿日:2021.06.13
今の日本が置かれた状況を、多数の専門家を交えて多角的に捉えた良書。マクロ経済的な視点が多く、私には難解な表現が散見されたが、全体として身近な話題(ダイソー・ニセコ等)を使って帰納的に説明されているので…飽きずに読み進められた。続きを読む
投稿日:2024.03.24
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