招かれた天敵――生物多様性が生んだ夢と罠
千葉聡(著)
/みすず書房
作品情報
『歌うカタツムリ』(毎日出版文化賞)などの著作で筆力に定評ある進化生物学者が、強力な「天敵」としての外来生物の研究史を通して、計り知れない複雑さをはらむ「自然」と、そこに介入せずには済まない人間と科学の業を描く。外来の天敵種は有害生物を制圧する救世主となりうる一方で、ときに最強の侵入者にもなりうる。それでも、生物多様性が秘める可能性に魅了された多くの生物研究者たちが、自ら「夢の」天敵種と信じる外来生物を招いてきた。本書が語るのは、そうした天敵導入をめぐる知的冒険、成功、そして、壊滅的な失敗の歴史だ。またその歴史は、産業革命の時代からグローバリゼーションの時代まで、時々の社会が奉じてきた自然観の驚くべき変転を映しだす鏡でもある。著者は、長く信じられてきた「自然のバランス」の実像や、生態系メカニズムの今日的な理解へと、読者を慎重に導いていく。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』に敬意を払いつつ、その自然観をアップデートする書でもある。終盤では、著者自身が小笠原の父島で経験した、ある天敵との死闘が語られる。生物多様性の魅惑と生態学の醍醐味が詰まった、渾身の書き下ろし。
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商品情報
- シリーズ
- 招かれた天敵――生物多様性が生んだ夢と罠
- 著者
- 千葉聡
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- みすず書房
- 書籍発売日
- 2023.03.14
- Reader Store発売日
- 2023.03.14
- ファイルサイズ
- 11.8MB
- ページ数
- 464ページ
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この作品のレビュー
平均 4.5 (6件のレビュー)
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「自然のバランス」なんて存在しない
評判通りの傑作。
各紙年末恒例の”今年(2023年)の1冊”でも、多くの書評家から選出されること間違いないだろう。
それでも読んでる最中は、どこに着地するのかよくわからなかった。
養老孟司氏…が本書の書評を書くのに難儀したと記してるように、最初は有害生物防除に携わった研究者を中心に、世界害虫・天敵攻防史が時代順に描かれるんだろうと思っていた。
しかし年代は前後し、巻き戻されることもしばしば。
思想的背景や理論が詳述されるのはよくわかるのだが、途中で日米友好の象徴の桜を焼却させた担当官の日本滞在記が、結構がっつり描かれていたりする。
面白いので全然OKだし、後から詳述の理由がわかるのだが、読むほどに複雑にもつれていく感じだった。
最後に"意図せざる結果"で、それまでのまとめにかかって、これで終わりかなと思っていると、次の章では小笠原での防除の攻防が微に入り細に入り描かれる。
すべて読み終わってみると、この最終章は壮大な"あとがき"で、本書の執筆の目的が記されているんだなと合点がいったが、読んでる間は”なに?なに?”と戸惑いを覚えた。
なんでこんな複雑な構成になっているのか、著者の執筆動機からしたら「してやったり」なのだろう。
繰り返し語られる歴史の重要性とともに、読者は頭に入れるべき問題点を共有して、知らず知らず著者らの防除チームのしんがりに組み入れられたような錯覚を覚える。
ただ、著者の考える今後の方向性には素直に同意できない部分もある。
そういう意味で、すべてを読み終え感じるのは、本書自体がもう一つの「意図せざる結果」になっているのではないかということ。
失敗の歴史を丁寧に検証することが大事と語り、導入リスクのない天敵導入はありえないし、化学的防除も同様。
リスクの大きさ、効果を天秤にかけても、責任を引き受ける勇気が持てるのか?
天敵の導入が引き起こした失敗の連鎖を読んでると怖じ気づきはしないか。
通算すれば成功率は30%程度。
有害生物を駆除するためにオーストラリアに持ち込まれたはずのオオヒキガエルは、自らが有害生物となって駆除対象になっている。
導入した天敵を防除するために、さらに天敵を導入する羽目に。
ヒキガエル導入は、生態系に不可逆的で、取り返しのつかない影響を与えた。
寄生生物の天敵も、宿主特異性が高いからその対象しか影響を受けないというが、新たに導入した方は天敵のいない楽園に放たれるのだから、増殖して問題を本当に起こさないかの懸念がつきまとう。
メリットとデメリットを比較考量してというが、材料となる知見は常に"現時点では"という留保がつく。
ベダリアテントウはイセリアカイガラムシしか捕食しない夢の天敵だと考えられていたが、実際には他も捕食してることが後からわかっている。
ネオニコチノイド系殺虫剤は、かつて安全な農薬だと信じられていた。
それに何が価値を持つかは時代とともに変わる。
天敵とした導入した外来生物も、うまくいこうが失敗しようが、絶滅してくれたらありがたいと考えが倫理的に許されるのか。
鉄砲玉のように連れてきて、命を無慈悲に散らさせるのは、OKか?
病害虫対策は、現場に則した適切な理論を構築して、生物的防除も化学的防除も含め、総合的におこなうべきというのが本書の主張だが、これも理想論で時間がかかる。
生物的防除は成功率がよくて30%程度で、失敗すれば新たな危険を呼び込むし、化学的防除は利けば有効だが、耐性が進んだり、環境に深刻なダメージも。
この他に第三の道、バイオ的防除もあるが、不妊化や遺伝子操作もコストの面から採用されていない。
意思決定に関わるのは専門家だけではない。
住民からの苦情が続けば、とにかく早く何かをしてみせる必要が行政に生まれるだろう。
「自然を利用した技術がつねに、人工のものより良いとは限らない。有害か有益かは、時と場合によって異なる。成功が技術の多様性を奪い、害を及ぼすリスクを高める」
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
幸運の成功、必然の失敗を肝に銘じるべき。
アフリカマイマイの自然減を、ヤマヒタチオビの効果と思いこんだのもそうだが、本書では繰り返し、天敵の有効性が錯覚だった事例が紹介される。
この天敵は有害だと口を酸っぱく訴えても、たまたま有害生物が減ったのを証拠に危険生物がさらに野に放たれる。続きを読む投稿日:2023.11.29
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世の中には部屋の中でもアトラクション気分を味わえる本ってのがたくさんありますよね。
これもそんな本。内容は決して簡単ではないけれど書き手の知識とストーリテラーとしての能力で読ませるんだなぁ。
まずタ…イトルからしていい。偶然動植物やコンテナについて来ましたよーではなく、人間が「故意に」「良かれと思って」「よりによって」導入した外来種の罠(当初夢見た物語と隠れた罠という方が正しいですかね)を冷静かつドラマチックに紹介していく。
メインから外れた小さなエピソードながら心にチクっと刺したものがある。第4章「夢よふたたび」の中のものだ。オーストラリアでの毒蛇対策として、またネズミ対策として持ち込まれたアナウサギが増殖しすぎたため、大量のマングースが放たれた。外来天敵を駆逐するためにまた大量の外来天敵を。。ということでオーストラリアの生態系に深刻なダメージを与えそうなものだが、オーストラリアの気候がマングースの生育にマッチしなかったことに加え、アナウサギの捕獲と駆除を請け負っていた業者が自身の雇用保全のためにマングースを放った側から駆除したためとのこと。
(10章のアフリカマイマイも似た話)
まさに第4章冒頭で紹介される「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」だ。
成功は時に他人の悪意が功を奏した偶然の結果だったり。そうよね。てかそうなの。世の中。人生。
また第6章、英国からハワイに学術調査のため派遣されたナチュラリストの昆虫学者は、自身の名を冠した昆虫がオーストラリアからハワイに輸入されたサトウキビについて被害を出していたため、害虫駆除の任を得る。
ここも巡り合わせの不思議。人生。
物語が展開する場所的にも割かれたページボリューム的にもここが山場か。第7章「ワシントンの桜」米国農務省昆虫学者チャールズマーラット(1863-1954)とスタンフォード大昆虫学者桑名とのナシマルカイガラムシの原産バトル、米国農務省植物学者デヴィッドフェアチャイルド(1868-1954)の2000本桜、国務長官と日本政府のやりとり、東京市長のジョークなど「直接聞いた?」的に実に生き生きと描かれている。
特にマーラットの半年に及ぶ日本各地の調査記録は瑞々しい表現力で、当時の一般の日本人の姿が差別なく描かれていて読んでて楽しい。(と、何も考えないパッパラパーの日本人の私は自慰感覚で読めます。がしかし。後半で作者はこれらの描写を「当時の米国上流階級のロマン主義的な影響を割り引くべきだし、これらの自然な姿は安価な労働力と膨大な作業量に支えられており、自然と調和した美しい景観は貧困、過酷、疫病、危険と一体である」としている。)
幸運による成功も賞賛すべき。但しそこから何かを学ぶのは控えめに。我々が学ぶべきところな必然の失敗である。
第10章11章は著者自身の小笠原諸島で経験した固有種を絶滅に追いやる天敵との死闘を詳細かつドラマチックに書く。
「天敵導入(もしくは駆除)の壊滅的な失敗の歴史」を通じて生態系への理解の変遷を教えてくれるとともに「自然のバランスなんて便利なもんはねぇ」と結論。
毎度毎度これを結論に書いて申し訳ないがこの本も中高生に是非読んで欲しい。
「自然のバランスなんてないよね(あるかも知れないけれど人間になんて分からない→絶対に理解できないならないも同然では)」「ルール無用、生態系の複雑極まるメカニズム」「20世紀後半であっても驚くスピードでの絶滅(人間加担)」これだけでも十分ですがもっと具体的かつ細かいことでは、小笠原諸島でのニューギニアヤリガタリクウズムシが防護壁に流れている電流で胴体が焼かれた際、頭が胴体を食い引きちぎって頭だけ柵の向こう側に落ちて身体を再生&繁殖って読んだだけで、この世はルールや計画なんてなさそうだなーなんでもありの無差別試合だなーと少なくとも一神教の訳の分からないものに不必要に傾倒するリスクを軽減出来るのでは。(カタツムリの生態を落ち着いて考えても似たような感想ですねどね)
続きを読む投稿日:2024.03.06
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