復興の道なかばで――阪神淡路大震災一年の記録
中井久夫(著)
/みすず書房
作品情報
〈あの震災から150日が経った。今神戸はふしぎなほど静かである。神戸を埋めつくしていた救援の人たちはおおむね去った。活動を続けているボランティアは地元の人たちか、敢えて残留した少数である…会う人の多くは疲労をにじませている。震災以来働きつづけた人たちである。警察や消防や教員。一般行政の人もある。被災企業の人たちの再建の努力。渋滞の中で何度も夜を明かした運輸の人。求めに応じて無理を重ねた物資輸送に携わる人、報道の人もそうだ。自宅の修理に、店の、工場の再開のために夜間や休日を費やした人たちももちろんだ。休暇をとって欲も得もなく眠りたいという内心のささやきを感じている人が少なくなかろう。神戸全体がいっせいに休む休暇週間を提唱したいくらいだ。実際、われわれはよく働いたではないか。そういう自分をそっとほめてやりたいと思っても自然だろう〉(「震災後150日」)誰もが被災地に眼をそそいでいた大震災から一年。避難所で生活していた人たちは、ボランティアはどうなったのだろう。被災中心部のように光が当てられなかった辺縁地域は、重荷を背負っていないだろうか。被災民への補償は、今後の地震対策は、町の復興は? こころに傷を負った人たちへのアプローチは、進んでいるのだろうか。阪神淡路大震災から一年の記録を収めた『昨日のごとく』(1996年刊)より、中井久夫の文章9篇を中心に編集。歴史に学ぶ・「神戸」から考える――こころのケアを中心に、精神科医が関与観察した震災後一年間の記録。
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商品情報
- 著者
- 中井久夫
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- みすず書房
- 書籍発売日
- 2011.05.10
- Reader Store発売日
- 2015.04.27
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 184ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (5件のレビュー)
-
「世の初めから隠されていること」という、タイトルがとても印象的な本がある。残念ながら僕にはその内容はやや難解すぎて「読めた」とは言えない本なのだが、たしかに僕たちの生きている世界には、注意深く「隠され…ていること」が多くあり、その「隠されている」こと自体が「暴力」なのだろう。そんなことを示唆するタイトルだ。
中井久夫「復興の道なかばで」は、その言葉を思い起こさせる本だった。これは、阪神淡路大震災(1995年1月)後の一年の記録をまとめた「昨日のごとく」(1996年9月刊)から複数のエッセイを抄録した本である。阪神淡路大震災の後、一年を経て、どれだけ当時の僕が神戸のことを忘れ、「自分の目に見えない場所」に隠そうとしていたか、この本を読むと痛感させられる。
個人的なことを言えば、ちょうどあの時の僕は、東京に住む高校生だった。地震の翌日は刻一刻と死者数が増えて行くテレビのテロップを息を殺す思いで見て、その後も新聞記事にも注意深く目を通し、自分に何ができるかを考えていたが、次第にその関心は薄れていった。ちょうどオウム真理教の地下鉄サリン事件という、地震以上に「劇的な」事件が起きたせいもある。少なくとも東京圏の人々の関心は、僕と似たようなものだったのではないか。
その「関心が薄れて行った後」の神戸で、何が起きていたのか。精神科医という筆者の視点から書かれているのが本書である。さすがに名文家として知られる筆者によるものであり、文章は読みやすく、かつ情緒にも流れていない。震災直後から数カ月の期間での人々の心の動きが、丁寧に描かれている。それだけに、それらの出来事がまるで「ニュース」にならず、当時の僕の関心も惹かなかった点に衝撃を覚える。
思えば2011年3月の北関東・東北大震災とその後の原発問題ほど、僕に次のようなことを強く意識させる出来事はなかった。僕たちの社会は、少なくとも僕は、自分に都合の悪い/居心地の悪い問題を、遠い場所にいる他者に押しつけ、注意深く目につかないようにして成り立っている、と。恥ずかしながら、原発の東京と福島の不均衡な関係は、日々その電力を使っている僕にはまるで意識されていなかった。
おそらく僕だけでなく、東京の多くの人にとって、福島とはそういう他者なのではないか、とも思う。今や震災当初の衝撃と問題意識が薄れつつあり、放射能も含めて全て「なかったこと」にして、これまでどおりの快適で不安のない生活を維持したい。大義名分はいくらでもある――そんな意識が、少なくとも僕個人の中では芽生えつつあるのを感じる。あなたはどうだろう。
おそらく、阪神淡路大震災の時も、次第に当事者を除いた世間の関心は薄れていったのだろう。。この本の元となった「昨日のごとく」は阪神淡路大震災後一年を経て刊行されたものの「ほとんどと言ってよいくらい捌けなかった」そうであり、そのような事情が書かれた「あとがき」には、あわせて筆者の次のような言葉が書かれていた。
「「震災後」というものがありうるのか。ありうるとしてもかなり先であり…震災後といえないまま、そのうち、日々の暮らしのほうが優先されて、なしくずみに元の木阿彌に近づく時期がくるのかもしれない。」(p170)
それは「仕方ないこと」なのだろうか。確実に言えることは、僕たちがそういう言葉で自分を「納得」させ「満足」させている裏で、それによって「なかったことにされている現実の苦しみ」「目を背けられている被害」があることは間違いない、ということだ。続きを読む投稿日:2011.07.06
覚書
職務中に被災して勤務続けた者をもっともリスク高い者として交代休息
ほっと一息ついたときも心臓の危機 過労の直後に休むときが最も危ない 徐々に力を抜くべき
高齢者とともに被災救援者もハイリスク
災…害に弱かったのはアルコール症と薬物嗜癖
記憶は楽しい6割、悲しい1割、どちらでもない3割という比率で整理されるのが健康の条件
被災地周辺は被災地の負担を肩代わりせざるを得ない
米国では精神科の部長は患者をみずにスタッフの精神衛生をかんがえておればいい
情報は時遅れになる 補完するのは想像力
第一段階 とにかくそばにいてくれること
第二段階 体験のわかちあい
第三段階 生活再建
被災していない元気な人達が「いること」「いてくれること」続きを読む投稿日:2016.06.30
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