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  • ニンギョウがニンギョウ

    ニンギョウがニンギョウ

    西尾維新

    講談社ノベルス

    西尾維新の神髄のうち、最もクレイジーな部分。

    西尾維新の「戯言」要素を最大限に暴れさせた、完全に読む人を選ぶ一冊。 内容に脈絡はない。とにかく作者が言葉と雰囲気で遊んで遊んで遊び倒した末に出来上がった、趣味の一冊なのだと思う。 誰になら勧められる? と訊かれれば、西尾維新の戯言が無条件に大好物な読者になら、と答えるしかない。試し読みで興味を持ってもらえる人がどれだけいるか。 しかしこの本の価値の半分は、残念ながらデータではなく「紙」の書籍にある。外箱入りで表紙は今や普通の本屋では見かけなくなった薄い油紙、そして印刷はなんと活版印刷なのである。 印字された部分がうっすら凹んでいる書籍なんて、我が家ではもうこれ以外には辞書しかないと思う。 だからたったの140ページでも当時1500円。こんなもの、本当の西尾維新フリークしか所有していないに違いない。 二重の意味で貴重な本として大事にしている。

    5
    投稿日: 2016.10.13
  • クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い

    クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い

    西尾維新

    講談社文庫

    西尾維新ことはじめ。

    2002年に第23回メフィスト賞を受賞、「京都の二十歳」と銘打ちデビューした作品。 一風変わった台詞回しと癖だらけのキャラクター、それにハートを射貫かれた読者はそこから延々シリーズを追いかけて厨二病の無期留年を強いられ、そうでない人は最初の3ページでそっと本を閉じて波風のない人生を踏み外さずに済む、そんな分岐点がこの表紙の青い髪だ。 主人公が体現する「一番平凡そうな奴が一番ヤバい」という危うい軸を中心に、様々な「天才」たちが彼の周りで世界を斬っては捨て、奇行に走る体で不意に真理をもぎとっていく。 描かれているのは事件で、主人公はそれを解決しようとしているけれど、これはシリーズを通して続く彼の単なる「地獄」の幕開けであるだけだ。 彼の作品における特徴のひとつとして私が好きなのは、大量に投入される登場人物のほぼ全てに奇抜な命名をする点だ。 個人的なお気に入りは七々見奈波(ななななみななみ)と西東天(さいとうたかし)。 ちゃんと読めて、漢字だけ見ると微妙にありそうな所が最高。 ライトノベルか? と聞かれれば、昨今の分類ではそうなるでしょう、と答えたい。 推理小説か? と聞かれれば、それを目指していた可能性もあります、と答えたい。 この後に続くいくつものシリーズが怒濤の勢いでアニメ化されコミカライズされて久しいが、ついにこの原点が電子化されたかと感慨深い。 西尾維新はここからどんどん尖っていく。 本書を準備運動と思えたなら、どうぞ続きを。

    7
    投稿日: 2016.05.07
  • そこをなんとか 1巻

    そこをなんとか 1巻

    麻生みこと

    メロディ

    こんな弁護士に頼みたい……か?

    (弁護士にしては)ゆるふわ系。でも仕事はきっちりかっちり……とも限らず、たまーに依頼人にしてやられたりポカミスで痛い目を見たりもする。 証言集めに東奔西走して弁護した少年の感謝の言葉に癒やされ(味を占め)、家族経営のお家騒動では顧問弁護士の席を狙いながらも空振りをする。 駆け込んできた依頼人の本当の気持ちを酌もうと頑張るけれど、先輩弁護士への自分の気持ちや、同期の弁護士からの気持ちには一向に気づかない日々。 成長速度もゆっくりめ、稼ぎも(たぶん)ゆっくりめの、非バリバリ弁護士ライフ。

    0
    投稿日: 2015.03.12
  • 異能バトルは日常系のなかで

    異能バトルは日常系のなかで

    望公太,029

    GA文庫

    二つ名、かっけー。

    今まさに厨二病まっさかりの青少年、かつて厨二病を患った大人、そして今もこっそり厨二病を保っている大人、その全ての臓腑をえぐる危険な作品。 平々凡々な学校生活の中、自分だけが特殊な能力を持ってたらと妄想したこと、あるよね? ごく一部の仲間といっしょに、世界を変えるようなとんでもない力があったらと妄想したこと、あるよね? 炎を操っちゃうとか、時間を止めちゃうとか、そこにはないものを作り出しちゃうとか、わくわくするよね? はい、ギクっとなったそこのあなた。年齢は聞かないでおいてあげるので、とりあえず1巻をポチるべし。 非日常より日常の比率が高いからこそ醸し出せるむずがゆさに、私といっしょに身もだえよう。 電子書籍なら表紙も恥ずかしくないよ!

    3
    投稿日: 2015.03.12
  • 掟上今日子の備忘録(単行本版)

    掟上今日子の備忘録(単行本版)

    西尾維新,VOFAN

    講談社

    犯人が登場するヒマもない。

    忘却探偵・掟上今日子さんは、眠ったらそれまでのことは全て忘れてしまう。 だから「では明日、皆をここへ集めてください。謎解きをして犯人を明かしましょう」という訳にはいかない。メモなどを残すことはできても、基本的には明日になったら「初めまして、掟上今日子です」から再スタートなのだ。 ではどうするか。ぜんぶ今日中にやるのである。 濡れ衣役兼助手担当である隠舘くんのドン臭さが今日子さんの電光石火っぷりを際立たせる中、事情聴取から推理から解明まで、いっさいがっさいを今日子さんは今日中に終わらせる。その速さは犯人の登場と言い訳が省略されるほどに1日以内である。 ただし時間延長の奥の手はある。徹夜だ。 「物語シリーズ」で一世を風靡した西尾維新、初の電子化1作目。ファンとしては嬉しい限りである。 相変わらず読み手を選びそう――と思いきや、物語シリーズの大ブレークに揉まれて角が取れたのか、ほどよく西尾維新といった風味になっている気がする。いい機会なので、初見の方にも手にとって頂ければと思う。 シリーズ情報には「全1冊 完結」とあるけれどご安心を。あとがきにてシリーズ予告あり。 そうでなければ困る。提示された全ての謎はきっちり解かれたけど、なにしろ他ならぬ今日子さんの寝室の秘密がまだ残されているのだから。

    42
    投稿日: 2014.10.16
  • ちょびっツ(1)

    ちょびっツ(1)

    CLAMP

    ヤングマガジン

    これはロマンだ。

    パソコンが可愛い女の子。メールが来たら教えてくれる。検索してくれる。道案内してくれる。 ノートパソコンは手のひらサイズの女の子。呼べばカバンから出てくる。 朝は起こしてくれるし、雑談だってしてくれる。 あ、電源ボタンがどこにあるかなんて勿論ナイショですよ。 ええい、これがロマンでなくて何だと言うのか!?

    2
    投稿日: 2014.09.11
  • ヨコハマ買い出し紀行(1)

    ヨコハマ買い出し紀行(1)

    芦奈野ひとし

    アフタヌーン

    「時間」を描く。

    人とモノゴトが溢れる時代において、「時間」はそれらの底に流れるだけの存在でしかない。 けれどその喧噪が押し流されてしまうと、むきだしになった「時間」そのものが主役に取って代わる。 たくさんのものが失われた後の地。朽ちることのないロボット達が、そこで滅びゆく人間達と一緒に「時間」を見つめてくれる物語。 間違いなく哀しいのに、すごく落ち着いた気持ちになれるのが不思議。 これは「過去」をたくさん持っている大人によく効くマンガだ。

    5
    投稿日: 2014.03.10
  • 娚の一生(1)

    娚の一生(1)

    西炯子

    月刊flowers

    おっさんの色気。

    51歳、独身、哲学教授。亡くなった恩師の孫娘に恋をした。 雨の中、彼女がなくしてきたネックレスをスーツも脱がずに飄々と探しに行く。ずぶ濡れで戻って彼女にネックレスをつけ、タバコをくわえて一言「きれいやで」。 この色気にピンときたら以下略。

    0
    投稿日: 2014.02.19
  • エマ 1巻

    エマ 1巻

    森薫

    月刊コミックビーム

    開けば、英国。

    「英国はひとつだが、中にはふたつの国が在るのだよ。すなわち上流階級(ジェントリ)以上とそうでないもの――」 元孤児でメイドのエマと、貴族の長男ウィリアムの物語。いわゆる身分違いの恋というやつである。 奥ゆかしいエマが時折見せる大胆な一面や、二人の間に立ちはだかる身分の壁にウィリアムが挑んでいく様はロマンスの王道を見せつけてくれるが、しかしこのマンガの何よりの見所は「絵」ではなかろうか。 表紙をざっと眺めてもらえば判るように、巻を重ねるにつれ画力がめきめきと上がっていくのだ。自称英国フェチの作者が、山ほど読み込んだのであろう資料や現地取材の結果をもとに、フリルを、レースを、調度を、人を、世界を、これでもかとばかりに描き込んでいる。 その中で主人公らをはじめとした登場人物が、当時の英国の雰囲気をまとって実に生き生きと動く。ふわりと広がるスカートや流れる髪の筋、布や光の質感。そこかしこに宿る繊細さが、ファンタジーではなくリアルを彩る。 表紙から醸し出される雰囲気がお気に召すならば、ぜひともお勧めしたい作品だ。 (本当の本音を言えば、絵のために紙媒体で読んでもらいたいと思っている、ことは内緒)

    9
    投稿日: 2014.02.14
  • “文学少女”と死にたがりの道化【ピエロ】

    “文学少女”と死にたがりの道化【ピエロ】

    野村美月,竹岡美穂

    ファミ通文庫

    ラノベ発、ミステリ経由、古典行き。

    ヒロインは“自称”文学少女。しかしてその正体は、物語の書かれた本(紙)を主食とする可愛い妖怪だ。 何しろ彼女にとって物語は食べ物なのだから、我々がグルメ批評をするように、彼女は物語を批評する。 泉鏡花は甘い。太宰治は苦い。かつてこんなレビューがあっただろうか。 そして、彼女を取り巻き起こる事件もまた、それ自体が古典作品をモチーフとしている。 第一巻は太宰治の「人間失格」。 これを読んで原作に興味がわいた方は、それを古典への入り口とすればよい。 ヒロインの遠子先輩もきっとそれを喜ぶだろう。 ラノベや小説は読むけれど、そう言えばいわゆる古典はちゃんと読まないまま来てしまったなあ。でも今更どれを読んだものか。そんなあなたに指標をくれる作品だ。

    5
    投稿日: 2014.02.11