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掟上今日子の備忘録(単行本版)
西尾維新, VOFAN / 講談社
犯人が登場するヒマもない。
42
忘却探偵・掟上今日子さんは、眠ったらそれまでのことは全て忘れてしまう。
だから「では明日、皆をここへ集めてください。謎解きをして犯人を明かしましょう」という訳にはいかない。メモなどを残すことはできても…、基本的には明日になったら「初めまして、掟上今日子です」から再スタートなのだ。
ではどうするか。ぜんぶ今日中にやるのである。
濡れ衣役兼助手担当である隠舘くんのドン臭さが今日子さんの電光石火っぷりを際立たせる中、事情聴取から推理から解明まで、いっさいがっさいを今日子さんは今日中に終わらせる。その速さは犯人の登場と言い訳が省略されるほどに1日以内である。
ただし時間延長の奥の手はある。徹夜だ。
「物語シリーズ」で一世を風靡した西尾維新、初の電子化1作目。ファンとしては嬉しい限りである。
相変わらず読み手を選びそう――と思いきや、物語シリーズの大ブレークに揉まれて角が取れたのか、ほどよく西尾維新といった風味になっている気がする。いい機会なので、初見の方にも手にとって頂ければと思う。
シリーズ情報には「全1冊 完結」とあるけれどご安心を。あとがきにてシリーズ予告あり。
そうでなければ困る。提示された全ての謎はきっちり解かれたけど、なにしろ他ならぬ今日子さんの寝室の秘密がまだ残されているのだから。 続きを読む投稿日:2014.10.16
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聲の形(1)
大今良時 / 週刊少年マガジン
読むつもりは無かった。
28
残酷でどうしようもない現実を切り貼りして最終的にはラブアンドピースに持って行くのが、障碍者を扱うこの手のマンガのセオリーだと思っていた。理不尽と希望の間でどろどろに汚れ、人間の暗部というやつをむき出し…にすることで感動を誘う。そのための装置に「障碍者」を採用しているのだと。
勿論このマンガにもその文法は使われている。そうだと思ったから、まぁわざわざ読む事はないかな、と考えて後回しにしていたことは認めよう。
しかしそんな先入観で読んでみたらば、これはちょっと硝子ちゃんが天使すぎるぞと、いろんな意味でうろたえるはめになった。
つまり何の事はない、これはただの甘酸っぱいボーイミーツガールなのだ。
泥水をぶっかけられようが、補聴器をぶっこわされようが、ケンカしてぶっとばされようが。
これは胸をわしづかみにされるような切ないボーイミーツガールなのだ。
現在2巻まで読んだが、主人公の二人が可愛くてしょうがない。
ちょっといびつで傷だらけなロミオとジュリエット。
最初はお腹に力を入れて読んで頂きたい。 続きを読む投稿日:2014.02.02
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エマ 1巻
森薫 / 月刊コミックビーム
開けば、英国。
9
「英国はひとつだが、中にはふたつの国が在るのだよ。すなわち上流階級(ジェントリ)以上とそうでないもの――」
元孤児でメイドのエマと、貴族の長男ウィリアムの物語。いわゆる身分違いの恋というやつである。…
奥ゆかしいエマが時折見せる大胆な一面や、二人の間に立ちはだかる身分の壁にウィリアムが挑んでいく様はロマンスの王道を見せつけてくれるが、しかしこのマンガの何よりの見所は「絵」ではなかろうか。
表紙をざっと眺めてもらえば判るように、巻を重ねるにつれ画力がめきめきと上がっていくのだ。自称英国フェチの作者が、山ほど読み込んだのであろう資料や現地取材の結果をもとに、フリルを、レースを、調度を、人を、世界を、これでもかとばかりに描き込んでいる。
その中で主人公らをはじめとした登場人物が、当時の英国の雰囲気をまとって実に生き生きと動く。ふわりと広がるスカートや流れる髪の筋、布や光の質感。そこかしこに宿る繊細さが、ファンタジーではなくリアルを彩る。
表紙から醸し出される雰囲気がお気に召すならば、ぜひともお勧めしたい作品だ。
(本当の本音を言えば、絵のために紙媒体で読んでもらいたいと思っている、ことは内緒) 続きを読む投稿日:2014.02.14
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クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い
西尾維新 / 講談社文庫
西尾維新ことはじめ。
7
2002年に第23回メフィスト賞を受賞、「京都の二十歳」と銘打ちデビューした作品。
一風変わった台詞回しと癖だらけのキャラクター、それにハートを射貫かれた読者はそこから延々シリーズを追いかけて厨二病の…無期留年を強いられ、そうでない人は最初の3ページでそっと本を閉じて波風のない人生を踏み外さずに済む、そんな分岐点がこの表紙の青い髪だ。
主人公が体現する「一番平凡そうな奴が一番ヤバい」という危うい軸を中心に、様々な「天才」たちが彼の周りで世界を斬っては捨て、奇行に走る体で不意に真理をもぎとっていく。
描かれているのは事件で、主人公はそれを解決しようとしているけれど、これはシリーズを通して続く彼の単なる「地獄」の幕開けであるだけだ。
彼の作品における特徴のひとつとして私が好きなのは、大量に投入される登場人物のほぼ全てに奇抜な命名をする点だ。
個人的なお気に入りは七々見奈波(ななななみななみ)と西東天(さいとうたかし)。
ちゃんと読めて、漢字だけ見ると微妙にありそうな所が最高。
ライトノベルか? と聞かれれば、昨今の分類ではそうなるでしょう、と答えたい。
推理小説か? と聞かれれば、それを目指していた可能性もあります、と答えたい。
この後に続くいくつものシリーズが怒濤の勢いでアニメ化されコミカライズされて久しいが、ついにこの原点が電子化されたかと感慨深い。
西尾維新はここからどんどん尖っていく。
本書を準備運動と思えたなら、どうぞ続きを。 続きを読む投稿日:2016.05.07
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ニンギョウがニンギョウ
西尾維新 / 講談社ノベルス
西尾維新の神髄のうち、最もクレイジーな部分。
5
西尾維新の「戯言」要素を最大限に暴れさせた、完全に読む人を選ぶ一冊。
内容に脈絡はない。とにかく作者が言葉と雰囲気で遊んで遊んで遊び倒した末に出来上がった、趣味の一冊なのだと思う。
誰になら勧められる…? と訊かれれば、西尾維新の戯言が無条件に大好物な読者になら、と答えるしかない。試し読みで興味を持ってもらえる人がどれだけいるか。
しかしこの本の価値の半分は、残念ながらデータではなく「紙」の書籍にある。外箱入りで表紙は今や普通の本屋では見かけなくなった薄い油紙、そして印刷はなんと活版印刷なのである。
印字された部分がうっすら凹んでいる書籍なんて、我が家ではもうこれ以外には辞書しかないと思う。
だからたったの140ページでも当時1500円。こんなもの、本当の西尾維新フリークしか所有していないに違いない。
二重の意味で貴重な本として大事にしている。 続きを読む投稿日:2016.10.13
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“文学少女”と死にたがりの道化【ピエロ】
野村美月, 竹岡美穂 / ファミ通文庫
ラノベ発、ミステリ経由、古典行き。
5
ヒロインは“自称”文学少女。しかしてその正体は、物語の書かれた本(紙)を主食とする可愛い妖怪だ。
何しろ彼女にとって物語は食べ物なのだから、我々がグルメ批評をするように、彼女は物語を批評する。
泉鏡…花は甘い。太宰治は苦い。かつてこんなレビューがあっただろうか。
そして、彼女を取り巻き起こる事件もまた、それ自体が古典作品をモチーフとしている。
第一巻は太宰治の「人間失格」。
これを読んで原作に興味がわいた方は、それを古典への入り口とすればよい。
ヒロインの遠子先輩もきっとそれを喜ぶだろう。
ラノベや小説は読むけれど、そう言えばいわゆる古典はちゃんと読まないまま来てしまったなあ。でも今更どれを読んだものか。そんなあなたに指標をくれる作品だ。 続きを読む投稿日:2014.02.11