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先生の本棚さんのレビュー
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  • 空飛ぶタイヤ(下)

    空飛ぶタイヤ(下)

    池井戸潤

    講談社文庫

    かつて、その事件はありました。

     あくまで小説であり、こちらに描かれている企業や人々がデフォルメされていることは当然です。  本書で語られている事件は、「事実」ではありません。もちろん、描かれている人の思いも、悪意も、フィクションです。司馬遼太郎の描く幕末が、歴史の真の姿ではないように。  分かってはいるのですが、快哉を叫びたくなります。あの事件の顛末が、本当にこうであったらよいなと願ってしまう。誠実に生き、戦いをあきらめない人が報われる物語に、酔ってしまう。  社会的に大きく知られることとなった事件を題材としているところでは、『下町ロケット』や「半沢直樹」シリーズとはまた違った物語の作り方なのでしょう。が、池井戸さんの倫理観はぶれていないと感じます。  非常に面白い物語ですし、あの事件の存在が忘れ去られないで欲しいという点でも、おすすめしたい作品です。

    14
    投稿日: 2014.06.09
  • 三国志 1巻

    三国志 1巻

    吉川英治

    ゴマブックス

    学級文庫で大人気。

     吉川三国志。私の担任するクラスでは、学級文庫に必ず置きます。  宮城谷三国志はちょっと大人向けだし、北方三国志は、好きなんですが、ハードボイルドに偏りすぎていますし・・・。  一年で2,3冊は壊れます。壊れた巻は、ブックオフで買い直し。4月には必ず全冊そろっている状態にしておきます。また壊れますけど。  多くの生徒の心をつかむことができる小説です。また、心をつかまれた少年たちは、2度3度と読み直しているようです。とても貴重な体験ですよね。そういう稀有な力を持った小説は、そうそう多くありません。    間違いなく、名作です。

    140
    投稿日: 2014.06.04
  • 県庁おもてなし課

    県庁おもてなし課

    有川浩

    角川文庫

    公務員とは、国作り。

     シムシティなんかのシミュレーションゲームに憧れて、街を、国を、未来を創るという仕事に夢を持つ人も多かろう、と思います。  そんな人たちが選ぶ仕事とは何か。セキスイハウス?トヨタ?パナソニック?  いやいや、公務員でしょ、と言いたい。言いたくなる。  アイディアを広げて街にスポットを作る。技術を凝らして今まで無かったものを作る。人を集めてイベントを立ち上げる。    それ自体も、もちろん楽しくて、面白い仕事。だけどそれは、国作り、ではないんじゃないでしょうか。国を作る、創るということは、0から始めることではない。すでにあるものに目を向け、有機的に繋げ、人を呼び込み、送り出す。    そういう「編集」の力こそが、すぐれた為政者の仕事であるべきなのではないか。田中角栄が新幹線と道路を通し、東国原 英夫が宮崎の宣伝マンになったように。そして、シムシティの本質がそうであるように。  この仕事を担うのは、政治と行政。政治が決め、行政が行う。つまり公務員だ。  公務員は、面白い。そんなことを感じた一冊でした。

    4
    投稿日: 2014.02.28
  • クリムゾンの迷宮

    クリムゾンの迷宮

    貴志祐介

    角川ホラー文庫

    ダークゾーンよりずっと

    ホラーRPG小説とでも言うべきでしょうか。徐々に明かされていく謎、次第に狂気の度合いの深まる世界。荒唐無稽な話にリアリティを保つ作者のバランス感覚がすごい。  傾向としては、貴志祐介さんの最近の作品である『ダークゾーン』に似ているように思います。が、作品の質としてはこちらの方がずっと高いのではないでしょうか。 面白いです。

    2
    投稿日: 2014.02.28
  • 自由殺人

    自由殺人

    大石圭

    角川ホラー文庫

    熱い熱い、人間讃歌。

     悪魔のささやきによって掘り起こされた無意識と、様々な人々が、それぞれの方法で対峙する。卑屈さを、嫉妬を、恐怖を抱えながら。自己に眠る破壊衝動に襲いかかられたまま醜く懊悩する彼等の中でしかし、主人公の心に棲む獣は頭を垂れることを許さない。強く、気高く、走り抜くことを強要する。  ホラー小説で感動を覚えたのは初めてかも知れません。まぁ僕は感動屋なので、それほど参考になりませんが。

    1
    投稿日: 2014.02.28
  • 神々の山嶺(上)

    神々の山嶺(上)

    夢枕獏

    集英社文庫

    筋肉と退廃の山岳小説

     筋肉と退廃をこよなく愛する夢枕獏が、本気になって情熱をたたきこんだ山岳小説。  熱い。孤独で熱い。  目を前に向けよ、孤独を恐れず、命をかけてその一歩を踏みだせ。  そうでなければ生きている価値が無い。    そんな感じの小説です。熱かった。

    5
    投稿日: 2013.10.07
  • 魔女たちの長い眠り

    魔女たちの長い眠り

    赤川次郎

    角川文庫

    ホラー作家としての赤川次郎

     赤川次郎はほんとに多作ですよね。読んだ数も40や50じゃきかないと思うんですけど、それでも知らないタイトルがわんさかある。天才だなあ。  赤川さんは、ポップでキッチュな、何て言う言葉がまだ死語でなかったころに、そう評価されていた作家さん。現代のライトノベル読者層になりうる人たちが、はまっていたのかも知れません。    そんな時代から書いていて、それでいて三毛猫ホームズシリーズとか『セーラー服と機関銃』なんて、いまだに多くの人が知っている。すごいなあ。  で、ミステリが主なんだけど、なかなか良質なホラー小説も書いていらっしゃる。その中でも私が好きな作品が、『魔女たちのたそがれ』と『魔女たちの長い眠り』。読みやすくて、面白くて、何だか悲しかったです。読んでもホラーファンとしてえばれるわけじゃないけれど、おすすめですよ。

    1
    投稿日: 2013.10.03
  • 死ぬことと見つけたり(上)

    死ぬことと見つけたり(上)

    隆慶一郎

    新潮社

    隆さん哲学の結晶のような・・・。

     私にとっての隆慶一郎は、週刊少年ジャンプで好きだった『花の慶次』の原作として『一夢庵風流記』を読んだところから始まりました。たぶん隆慶一郎の入り口としては、『一夢庵風流記』がおすすめです。面白いし、お話がでっかいし。  ただNo.1はコレだと思うんです。隆慶一郎が描き出す、ただひたすらに格好良い男が。隆さんが消化した『葉隠』哲学の結晶として。  ニートですけどね。  なんせ、毎朝死んでるから、仕事なんてできないんです。爆笑しながら読みました。でも恰好良い。こうありたい。良いなあ、隆慶一郎。

    1
    投稿日: 2013.10.03
  • 蟲師(1)

    蟲師(1)

    漆原友紀

    アフタヌーン

    他なる存在への愛

     目には見えず、存在しているともいいがたく、それでもそこに在るムシ達を描いています。  妖怪物のようなものですが、戦い退治するというより、人の側からのつき合い方を見出していくような感じです。おぞましいものもあるし、荒々しいものもあるけれど、何だか優しい世界。10巻で完結してますが、もっと書いて欲しかったなあ。  クチナワの話が好き。

    3
    投稿日: 2013.09.30
  • クラインの壷

    クラインの壷

    岡嶋二人

    講談社文庫

    知ってる人は知ってるよね、な本の一つ。

      「世界が存在していると言うことを証明するのは不可能である」という命題を基にしているホラー小説です。ちょっと前には小林泰三さんなんかを中心として「シュレーディンガーの猫」ものが流行っていますが、その更に前、これも大流行してました。『マトリックス』シリーズはその最後の輝きかな・・・。  文章力とミステリ的な仕掛けの面白さも秀逸。ホラーやミステリを求めて読書を進めている人は、必ずどこかで出会うことでしょう。  推奨は高校生以上。本好きであれば中学生も。

    1
    投稿日: 2013.09.28