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noporinさんのレビュー
いいね!された数694
  • 火花

    火花

    又吉直樹

    文春文庫

    芸人の私小説なんてとんでもない。センスあふれる抒情的表現に引き込まれる人間小説

    売れない後輩芸人と、借金まみれで破天荒ながら哲学的に後輩を導く天才肌の先輩芸人。その二人のやり取りを中心とした、ヒューマンストーリー。 誰かの生死がかかるとか、ドラマチックな駆け引きがあるとかいう起伏が激しいわけではなく、かといってつまらないわけでもなく、ただただ主人公・徳永に話をする、先輩芸人・神谷の言葉がいちいち心に刺さりまくって痛い。 二人の会話が何とも抒情的で、刺激的で、ウィットに富んでいて、読者が芸人の世界に興味があろうとなかろうと、誰の人生においても当てはまり、私も何でもないようなところで、何故か涙ぐんでしまったこともあった。 芸人・ピース又吉の人生観と、作家・又吉直樹の引き出しの深さと大きさが相まって、短い作品ながらも、これまでの読書の中で思わずブックマークやハイライトを付けた箇所が一番多かった作品。 以下私が一番印象に残った表現を引用する。 以下、本文引用 「誹謗中傷は・・・・・(中略)、他を落とすことによって、今の自分で安心するというやり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?(中略)俺な、あれ、ゆっくりな自殺に見えるねん」(引用終わり) ゆっくりな自殺・・・人として一番痛々しい末路かもしれない。 心に刺激ではなく、一筋の指針が欲しいとき、何度となく読み返したくなる一冊となった。

    30
    投稿日: 2015.07.16
  • 銀翼のイカロス

    銀翼のイカロス

    池井戸潤

    ダイヤモンド社

    悪を懲らしめるヒーローではなく、根深い社会の縮図と向き合う半沢

    これまでのシリーズで見られた半沢直樹の徹底した調査能力と判断力、仲間との連携によって悪を追い詰めていく痛快さを期待するなら、前作の「ロスジェネの逆襲」の方がスリリングだ。 何故なら、これまでは半沢が銀行と企業の未来を賭けて企業再生に取りくむと見せかけて、実は黒幕は銀行内にいて、派閥の足の引っ張り合いで、敵は単純で退治しやすい。倒せばスカッとする。 しかし、今作は、体質が違う銀行が合併することによる歪みと、それに乗じて利権をむさぼろうとする政治家と企業の思惑が絡まりすぎて、1人の行員が真実を暴いて解決できる問題ではなく、「正論が正義ではない」重厚で多角的なストーリー。途中から「帝国航空」の再生問題そっちのけで、政治汚職に比重が掛かりすぎるのがちょっと気になるところだが。 善悪が分かりにくいこともあるが、逆にいろんな立場に立って正義と真理を考えられるので、誰に共感するかによっては読後の感想は違ってくるだろう。あの金融庁・黒崎ですら、単なる敵でもない、複雑な立場で登場する。 今回の半沢直樹の活躍としては、自分自身で走り回るより、その人徳と人脈で情報が集まり、もう駄目だと思ったら、相手が自滅した・・という風に、若干能動的より受動的だ。 それでも、例の決め台詞も健在だし、相変わらず「最後はいいとこだけ持ってくなぁww」と、役割は果たしている。 決してハッピーエンドではないが、これからの明るい未来に期待したくなる終わり方だった。 もしドラマ化するなら、半沢だけでなく、是非頭取の葛藤と「男気」も中心に据えてほしい。

    10
    投稿日: 2014.08.04
  • 県庁おもてなし課

    県庁おもてなし課

    有川浩

    角川文庫

    単なる町興しストーリーじゃなくて自分興しとして読むべし。

    官民一体となって町興しってよく言うけど、どれだけ官と民がずれまくっているか、そのギャップにまず驚き、双方のかみ合わなさにやきもきし、掛水と多紀ちゃんのいじらしさと発展の遅さにももっとやきもきし(笑)、読者側は共感というより、いろんな感情が沸き起こってとても忙しい。つまり引き込まれるということだ。 確かに地方都市は東京みたいな大都会より話題性は乏しい。でも、そこにしかない魅力はそこに住んでいる人が発信すべきで、まずは自分たちが楽しまなきゃアピールもできない。 これって、町興しに奮闘する地方公務員の成長ストーリーではなく、自分自身の魅力に気付けって話なんじゃないかなぁ。 自分が自分を広報しなきゃいけない場面は人生いくらでもある。受験、就職、昇進、結婚・・・、どんな人が読んでもまずは「自分の魅力」を考えてみるいいきっかけの作品化もしれない。

    3
    投稿日: 2014.06.29
  • 万能鑑定士Qの事件簿 I

    万能鑑定士Qの事件簿 I

    松岡圭祐

    角川文庫

    手に取ったら最後、シリーズ最後まで完走しないと止められない恐ろしい小説(笑)

    1巻の事件は、街に蔓延る謎のシールの作者と意図を探る雑誌記者・小笠原と、シールの鑑定を担当した万能鑑定士・莉子が調査するうちに意外な事件に巻き込まれ・・・という内容。 シーンがとても細かく区切られて、事件進行の合間に莉子の生い立ちと鑑定士になるまでの経緯を上手く差し込まれて、事件の謎とともに莉子の人物像にもぐいぐい引き込まれていきます。 そして意外な事件に巻き込まれていき、ひいては最初のシールがまさかこんなところでつながって・・・しかも日本国家存続の危機まで発展か?・・・それは2巻に続く・・・っておおーーーーーい! 私、単に映画化された巻(9巻)を読もうかと思ったものの、最低限の人物背景は知っとこかと1巻を買っただけなのに、「え!今後もこの調子で次巻に引っ張られたら途中でやめられないやん!」とぞっとしました(笑)。万能鑑定士Qシリーズって15巻以上ある・・・。 幸い、続きのエピソードがあるのは1・2巻だけで、他は原則1巻完結。 なので、先に映画化の9巻読んじゃったけど、やっぱり4~6巻のキャラクターがキーパーソンになってくることがあるので、結局最初から順番に読むのが一番この世界を楽しめる方法だと今は腹をくくり、現在6巻まで読了。結局、1巻ずつ完結したところで、次の鑑定を知りたくてたまらなくなるので、止められないのは同じだったというオチですが(笑) 莉子の万能鑑定ぶりは、美術品にとどまらず、食べ物・植物・科学・音楽・印刷・映画・・・・などあらゆるジャンルにわたり、シリーズ通して読めば、何か一つ自分の琴線がピクっとなる鑑定があるかもしれません。 高校時代が超絶バカでも、何が役立つかわからないから、関心があることはとことんつきつめてみなよ!と過去の私に読ませてあげたい。これからシリーズ読破するのが楽しみです。

    35
    投稿日: 2014.06.13
  • 舟を編む

    舟を編む

    三浦しをん

    光文社文庫

    「辞書編纂」の「編」は、「言葉を編む」こと

    『記憶は言葉で作られている』 「舟を編む」に出てきた中で、一番印象的な一文です。 言葉の意味を知るために辞書を引くと、それを説明するためにまた違う言葉が並び、その言い換えた言葉にもまた意味がある。意味だけでなく歴史もある。「~へ」「~の」という助詞にさえ、幾通りの意味もニュアンスもある。 この本を読むまで、そんな風に考えて辞書を使ったことなど今までありませんでした。そして、時代の流れと共に変わりゆく言語を終わりなく追いかけている人たちのことも。 よく「この気持ちはどんな言葉でも言い表せない」という表現をしますが、それでも、他の人に伝えるにはやっぱり言葉がいる。この本の感想も同じです。何て書いていいのかさっぱりわからないけど、この「ほわっとした幸福感」は何としても伝えたいという衝動がこのレビューを書かせています(でも拙すぎて・・・ww) 編み物を一目一目編むように、つたない言葉からはじまっても、言葉が一つずつつながって、自分の想いや記憶が大きなカタチになった時、きっと相手に伝わるるし、きっと素敵な人生になる。 だから一語一語、大事にしたいと気づいた作品でした。

    10
    投稿日: 2014.05.06
  • さよならタマちゃん

    さよならタマちゃん

    武田一義

    イブニング

    笑って、震えて、ちょっと泣けて、そして生きようと思える作品

    マンガ大賞ノミネート作品として軽い気持ちで読みはじめましたが、これはすごい作品。 精巣腫瘍(睾丸の癌)を克服したとはいえ、「さよならタマちゃん」とライトなタッチのタイトルからはおよそかけ離れた壮絶な闘病記。戦うのは患者本人だけじゃなく、家族、医師、看護スタッフ、同僚、同室の患者・・それぞれがどう病気と向き合うのか、どれだけ絆が大事なのか、医療の進歩だけでは病気は治りはしないんだなと思いました。 それと、検査も大事だけど、家族の「触れ合い」も大事なんだなとしみじみ。 書いてあることはかなり深刻なのに、声をあげて笑ったり、こみあげるものを抑えきれなかったり、すごく忙しいマンガですので、電車の中で読むと危険人物になるかも(笑)? 最後に、武田先生と他の患者さんの再発がありませんように・・・と心から願います。

    2
    投稿日: 2014.05.06
  • 新装版 不祥事

    新装版 不祥事

    池井戸潤

    講談社文庫

    エピソードのラストは余韻で

    典型的なダメ上司、横暴な先輩の謀略に真っ向勝負を挑み、スカっと暴いてくれる花崎舞に「いいぞ!もっとやれ!」と声を掛けたくなる。基本的には短編集なのでサクッと読めるし、気に入った話を繰り返し読みたくなる。 ドラマにはしやすい作品で、主役の杏さんもイメージぴったり。 ただ、各話のラストは悪事が暴かれた段階で「多分この人は処分されるんだろう」と匂わせるだけで終わるので、私のようにこてんぱんにやっつけられるところまで知りたい人にはちょっと物足りなさを感じたこともあった。 「こんなことが明るみになったんだからどんな末路かはわかるよね?」と、自由に想像して余韻を楽しんで・・ということか。

    2
    投稿日: 2014.05.01
  • ルーズヴェルト・ゲーム

    ルーズヴェルト・ゲーム

    池井戸潤

    講談社文庫

    野球好き、カメラ好きが読んで楽しい経済小説

    「半沢直樹」シリーズに代表される多くの池井戸作品は、「カネと企業と銀行」の激しい攻防が魅力で、登場人物は経営陣と経理担当者が主だが、この作品はもっと多様で経済以外の人間ドラマとして十分楽しめる。 廃部を迫られる社会人野球チームは、新監督就任で強くなっていくチーム戦略やチームメートの絆も感動するし、会社経営の悪化に焦る株主たちの心理戦駆け引きも熱い。 そして、会社再建の要となるのは新製品の開発。メインの商品はカメラのイメージセンサーで、エンジニアがどんなことにこだわって開発し、営業がどんな戦略で売り込むのか、カメラ好きには別の立場で興味津々だった。 「これって、どことどこが仮想モデルだろうー(笑)?」とか。 経済小説が苦手だけど、青春小説が好き!という人でも、十分熱くなれる作品。

    564
    投稿日: 2014.05.01
  • 白ゆき姫殺人事件

    白ゆき姫殺人事件

    湊かなえ

    集英社文庫

    本編に騙されるな!関連資料で二度おいしい

    自分の彼女が勤める化粧品会社の同僚OLが殺害され、真相を追うルポライター。やがて被疑者が特定されるが、被疑者周辺を取材するうち、意外な人間関係と人物像が浮かび上がり・・と、ここまではよくあるミステリー小説。 この作品が面白いのは、巻末についている「関連資料」です。 本編は取材対象の証言で構成されていますが、関連資料はその取材や事件報道時期の「ネットの反応」と、事件後の新聞・雑誌の検証記事が載っています。 ライターがSNSで他人の意見・推理を収集していたり、そのスレに思わぬ関係者が行きついて意味深な発言をしたり、取材対象者も自分のページで意外な本性を現していたり・・・。 最終的には犯行にいたる心情が書かれた犯人のブログも! 本編では語られなかった細部の状況が明らかになるだけでなく、証言者がリアルの取材で語ったことと、ネットでの匿名世界で語る別人格とのギャップが、よりストーリーを複雑にさせ、現代のネット社会の闇の深さを考えさせられます。 本編後に関連資料を読んで、もう一度本編を読むとセリフの意味が全く違うように思えて、一粒で二度おいしいみたいなww 電子書籍上では、各章の終わりに関連資料へのリンクがあり、いつでも本編と資料と行き来できるし、本編を全部読み切ったあと資料一気読みでもいいし、読み方を選べるのが、電子書籍ならではですね。 それにしても、リアルはどうなのかは別として、週刊誌の大衆記事はこうして盛られていくのか!としみじみ。一つ一つの取材ソースは間違った情報でもないのに、組合せと表現方法でここまで真実とかけ離れるイメージを与えられているのかと思うと、現実社会はどこまで真実が報道されているのかちょっと怖くなる作品です。

    24
    投稿日: 2014.03.11
  • クララ白書I

    クララ白書I

    氷室冴子

    集英社コバルト文庫

    多分、私の活字好きの原点

    コバルト文庫全盛期、私は新井素子派より氷室冴子派でしたなぁ。 これが多分、学級文庫的な本以外に、小説にはまった最初の作品じゃないかと思います。 これが電子書籍で読める時代が来るなんて!と思わず買ってしまいました。 大人になって読んでも全然面白いなぁ、コレ。女子校寄宿舎という知られざる世界も興味深かったけど、一人一人のキャラ描写が面白く、誰のどんなエピソードが起こってもクオリティが変わらず楽しめました。 クララ白書2冊とアグネス白書2冊で中等部から高等部にかけての学生生活が描かれるので、身内の成長を見届けるがごとく次の本を買わずにはいられなかったのを思い出します。

    0
    投稿日: 2013.11.14